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水かけ祭
28、巫女と解呪2
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リリアスが水の中に飛び込んだのをみて、驚愕した二人がいた。
進行を知っているはずのパリスの王子ルージュと、貴賓席のバラモン国王弟ムハンマド。
考えるよりも前に、ふたりはほぼ同時に行動した!
帯刀できるのは護衛のみ。
ムハンマドは後ろに控えるバラーの剣をうばって舞台を縦断する。呆気に取られた参列者に構わず飛び込んだ!
ルージュは儀式用の懐刀を抜きその歯を確認する。
ギラリと研がれた両刃だった。
王子も水に飛び込んだ!
ふたつの水柱がたち、観衆は騒然とする。
今年の儀式は、始まりの噴き出された水しぶきの演出や、今回の儀式の王子が飛び込むなど、いつもよりも趣向が凝らされて面白いではないか!
唖然とした間の後に、歓声が沸き起こり手にした花々が投げ込まれた。
バラ、ガーベラ、スイトピー、カレンデュラ、ダリア、などの百花が水面をみるみると埋め尽くしていく。
中でも、矢車草、デルフィニウム、ブルースター、ニゲラなど青い花色も数多く混ざる。
青は次期王である、ルージュとカルサイトの目の色だ。
濃い青はルージュ、薄い青はカルサイト支持をしていると、政治的意図をもって表現しているのかもしれなかった。
水に様々な花の香りと色が溶け出していく。
水中では、
禍禍しくも美しく変質した黒い鱗の水の精霊に、リリアスはぱっくりと飲み込まれていた。
精霊は黒い髪の捧げ物に、歓喜していた。
黒髪はとても古くて懐かしい記憶に結び付く。
だがいつもと違って、この娘は精霊の体中で、意識を重ねてくる。
精霊の中には、取り込んだ何百もの生け贄の魂がその肉体を失ってもなおとらえられていた。
(あなたには必要のないものでしょう?)
手放すように娘は促した。
さらに、精霊をとらえる呪縛の呪文をひとつひとつ、ほどいていく。
(取り込んだ魂を解放しなさい。
その黒く虹色に輝く鱗の体も、あなたがみている長い夢のごとくに霧散させなさい、、)
娘がいう。
(あなたはもう命の、エネルギーの循環の輪に戻りなさい)
わ た し を 敬 い 愛 で て く れ た あ な た の よ う に 魂 に 印 を 持 っ た ち い さ き 人 へ の 想 い は 手 放 せ な い の だ
かつて水の精霊であった禍禍しくも哀れなそれは、巫女に伝える。
一方で、パリスの王子とバラモンの王弟は、水中で泡とともに沈み込みながら、にらみあった。
お互いに武器を手にしたまさかの水中での対決が始まろうとしていた。
ムハンマドは剣を抜き、鞘は手放す。
手放した鞘は重く水底に落ちていく。
ルージュは短剣を構える。
リリアスを助ける前に、彼らはこの水中で、積年のわだかまりにけりをつけることを選んだ!
数年前に、ルージュと、王子だったムハンマドはリリアスを取引の保証とした。
ルージュはリリアスをやむなくムハンマドの手元に残し、結局ムハンマドはリリアスを帰さなかった。
リリアスは死亡したとされたが、現に生きているではないか!
ルージュはリリアスの足取りをたどれない時期があったが、最近ムハンマドの愛人として学校に通っている話をつかんでいた。
水圧に抵抗しながらお互いを切り合う。
スローにかわす。
胸を狙う。そのまま服に飲み込まれる。
彼らの足元深くには黒く輝く巨大な変質した水の精霊がとぐろを巻いていた。
ぶはっとふたりは空気を求めて水中に顔を出した!
色とりどりの花で水面が見れないほど。
刻々と時間がたっている。
リリアスは上がってきていない。
今はもう積年の恨みより、優先事項ができた。
「勝負は後ほどだ!」
彼らの目的は同じだった。
ふたりはもう一度深く潜る。
水の中では水の王国で育ったルージュに歩があった。
先に深く潜ったルージュは黒い鱗の水の精霊の腹を裂く。
半ば実体を持ったそれは大きく裂けて、黒髪の巫女を吐き出した。
リリアスは水の中でもぱっちりと輝く目を開きルージュに向かって来た。
(剣を貸して!)
と短剣を握るルージュの手ごとつかんで、
自らの首元に突きつける。
(なにを!?)
ルージュは驚いて手を引こうとする。
リリアスは己の黒髪をざっくり切り落とした!
そして、それに云う。
(これをあなたに捧げる!
あなたが焦がれてやまない古き人の黒髪よ!
これで、循環の輪に戻りなさい!
縛めていた呪いは全て解かれた!)
黒髪を水中に放した。
ふわあっと広がる。
黒い鱗の精霊はそれに向かって体をくねらせた。
最後の仕上げだった。
(水は何処にでも流れるもの。
星の隅々まで行き渡るもの。
わたしの体にも、誰の体にも、植物にもあるもの。
循環して空に満ちるもの。
そしてまた水に戻るもの。
何処にでもあるもの。
、、、そうでしょう?
あなたはここにとどまることはできない!
水の精霊よ!本来の姿を取り戻しなさい!)
とうとう、それは解放される。
新しい爽やかなエネルギーが檻だった空間に流れ込んだ。
古き淀んだものは、分解され溶け込んだ。
あ り が と う 愛 し い 古 き 人 よ
千年の間、この地に縛りつけられていたものの最後の思念が、リリアスに触れる。
黒く輝く万の鱗が
夢のごとくに霧散する。
百花に溶けた。
進行を知っているはずのパリスの王子ルージュと、貴賓席のバラモン国王弟ムハンマド。
考えるよりも前に、ふたりはほぼ同時に行動した!
帯刀できるのは護衛のみ。
ムハンマドは後ろに控えるバラーの剣をうばって舞台を縦断する。呆気に取られた参列者に構わず飛び込んだ!
ルージュは儀式用の懐刀を抜きその歯を確認する。
ギラリと研がれた両刃だった。
王子も水に飛び込んだ!
ふたつの水柱がたち、観衆は騒然とする。
今年の儀式は、始まりの噴き出された水しぶきの演出や、今回の儀式の王子が飛び込むなど、いつもよりも趣向が凝らされて面白いではないか!
唖然とした間の後に、歓声が沸き起こり手にした花々が投げ込まれた。
バラ、ガーベラ、スイトピー、カレンデュラ、ダリア、などの百花が水面をみるみると埋め尽くしていく。
中でも、矢車草、デルフィニウム、ブルースター、ニゲラなど青い花色も数多く混ざる。
青は次期王である、ルージュとカルサイトの目の色だ。
濃い青はルージュ、薄い青はカルサイト支持をしていると、政治的意図をもって表現しているのかもしれなかった。
水に様々な花の香りと色が溶け出していく。
水中では、
禍禍しくも美しく変質した黒い鱗の水の精霊に、リリアスはぱっくりと飲み込まれていた。
精霊は黒い髪の捧げ物に、歓喜していた。
黒髪はとても古くて懐かしい記憶に結び付く。
だがいつもと違って、この娘は精霊の体中で、意識を重ねてくる。
精霊の中には、取り込んだ何百もの生け贄の魂がその肉体を失ってもなおとらえられていた。
(あなたには必要のないものでしょう?)
手放すように娘は促した。
さらに、精霊をとらえる呪縛の呪文をひとつひとつ、ほどいていく。
(取り込んだ魂を解放しなさい。
その黒く虹色に輝く鱗の体も、あなたがみている長い夢のごとくに霧散させなさい、、)
娘がいう。
(あなたはもう命の、エネルギーの循環の輪に戻りなさい)
わ た し を 敬 い 愛 で て く れ た あ な た の よ う に 魂 に 印 を 持 っ た ち い さ き 人 へ の 想 い は 手 放 せ な い の だ
かつて水の精霊であった禍禍しくも哀れなそれは、巫女に伝える。
一方で、パリスの王子とバラモンの王弟は、水中で泡とともに沈み込みながら、にらみあった。
お互いに武器を手にしたまさかの水中での対決が始まろうとしていた。
ムハンマドは剣を抜き、鞘は手放す。
手放した鞘は重く水底に落ちていく。
ルージュは短剣を構える。
リリアスを助ける前に、彼らはこの水中で、積年のわだかまりにけりをつけることを選んだ!
数年前に、ルージュと、王子だったムハンマドはリリアスを取引の保証とした。
ルージュはリリアスをやむなくムハンマドの手元に残し、結局ムハンマドはリリアスを帰さなかった。
リリアスは死亡したとされたが、現に生きているではないか!
ルージュはリリアスの足取りをたどれない時期があったが、最近ムハンマドの愛人として学校に通っている話をつかんでいた。
水圧に抵抗しながらお互いを切り合う。
スローにかわす。
胸を狙う。そのまま服に飲み込まれる。
彼らの足元深くには黒く輝く巨大な変質した水の精霊がとぐろを巻いていた。
ぶはっとふたりは空気を求めて水中に顔を出した!
色とりどりの花で水面が見れないほど。
刻々と時間がたっている。
リリアスは上がってきていない。
今はもう積年の恨みより、優先事項ができた。
「勝負は後ほどだ!」
彼らの目的は同じだった。
ふたりはもう一度深く潜る。
水の中では水の王国で育ったルージュに歩があった。
先に深く潜ったルージュは黒い鱗の水の精霊の腹を裂く。
半ば実体を持ったそれは大きく裂けて、黒髪の巫女を吐き出した。
リリアスは水の中でもぱっちりと輝く目を開きルージュに向かって来た。
(剣を貸して!)
と短剣を握るルージュの手ごとつかんで、
自らの首元に突きつける。
(なにを!?)
ルージュは驚いて手を引こうとする。
リリアスは己の黒髪をざっくり切り落とした!
そして、それに云う。
(これをあなたに捧げる!
あなたが焦がれてやまない古き人の黒髪よ!
これで、循環の輪に戻りなさい!
縛めていた呪いは全て解かれた!)
黒髪を水中に放した。
ふわあっと広がる。
黒い鱗の精霊はそれに向かって体をくねらせた。
最後の仕上げだった。
(水は何処にでも流れるもの。
星の隅々まで行き渡るもの。
わたしの体にも、誰の体にも、植物にもあるもの。
循環して空に満ちるもの。
そしてまた水に戻るもの。
何処にでもあるもの。
、、、そうでしょう?
あなたはここにとどまることはできない!
水の精霊よ!本来の姿を取り戻しなさい!)
とうとう、それは解放される。
新しい爽やかなエネルギーが檻だった空間に流れ込んだ。
古き淀んだものは、分解され溶け込んだ。
あ り が と う 愛 し い 古 き 人 よ
千年の間、この地に縛りつけられていたものの最後の思念が、リリアスに触れる。
黒く輝く万の鱗が
夢のごとくに霧散する。
百花に溶けた。
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