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呪術の森
22、帰還(呪術の森 完)
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ほどなくしてルシルはパリスの初代の王になる。
リシュアは後に、パリスの王妃になる。
ルシルが娶った妻はリシュアただ一人。
そして、パリスの王族には精霊の加護の力を持って生まれるもの、黒髪のものも数世代毎ぐらいに気まぐれに生まれることになる。
「王よ、そのものを王妃になさるおつもりですか?」
ルシルに、ルシルの兄の相談役のゲーレンが言う。
ゲーレンはいつの頃からか兄にとりいって、細々なことから大きなことまで、意見を言っているようだった。
表に出ようとせずに、裏で糸を引こうとするやり方がルシルは気に入らない。
学者肌で知性的ではあるが、彼は冷たい蛇のような眼をしていると感じる。
「何か問題があるか?」
ルシルはゲーレンが何を言い出すのか聞いてみる。
リシュアを否定する言葉なら全く聞くつもりはない。
「リシュアさまには何かがついていますね、払いましょうか?」
思いもかけない言葉にルシルは眉をあげる。
「森の民の死んだ者たちの霊のようなものか?」
ルシルは、それなら自分の方が多くの者を犠牲にしてきたと思う。
「それとは違うようですが、、?」
ゲーレンはリシュアに同化している影に向かう。
この影は非常にリシュアに似ていながらも、どこか異なっていた。
影なのに、きらきらとした輝きを持っている。
だからこそ、ゲーレンは気がついたのだ。
ゲーレンは呼び掛ける。
「あなたは何ものだ?我々の時間軸の者ではないような?いつからそこにいる?
元に戻るころではないか?
過去からか?未来からか?それとも並行世界からか?
あなたの名前は何て言う?リシュアさまは今のあなたではないぞ、、」
(ぼ、僕の名前は、、、リリアス)
自分に向けられたゲーレンの呼掛けに、リリアスの意識はリリアス自身を取り戻そうとしていた。
数年ぶりのことだった。
リシュアにぴったりと重なり同化していたところから、まるでおんなじ皿を分けるように、二つに分かれていく。
(僕はリリアス。リシュアは僕の前の人生だった)
ルージュは、パリスの建国の王になるルシだった。
リリアスは、森の王リヒターの妻であり、その後約定の宝石として奪われ、後にルシルの妻になるリシュアだった。
リリアスはリシュアから完全に分離する。
リリアスは自分を取り戻す。
頬をなめるざらついた舌。
記憶が混乱する。
「ズイン、、?」
手を伸ばして艶々の毛皮を押し退けた。
トパーズの煌めく瞳が間近にあった。
「彼があなたを見つけてくれたんだ」
ズインは言う。
リリアスの頬をなめていたのはシャーだった。
知性の宿る慈愛に満ちた眼をしてリリアスを見ている。
(あ、、現実の時間に戻ってきた、、。僕はもう何年もリシュアとして生きていた、、)
リシュアの喜びも悲しみも、全てリリアスのものだった。
「おい、大丈夫か?」
ズインはリリアスの涙をみて、慌てる。
リリアスを一人にして、一時間ぐらいだっただろうか?
よっぽど怖い思いをさせたのかも知れなかった。
リリアスの黒曜石の瞳からは、我知らず止めどなく涙が溢れでていた。
ルシルとリシュアが一緒になれて良かったと心より思う。
戻ってきた今は、以前なら感じられなかった、樹海の森に縫い込まれた森の民の最後の王、リヒターの想いも感じることができる。
樹海の森のリヒター王の呪術は、リシュアへの愛を、300年の間変わることなく縫い留めていた。
「本当に大丈夫か?」
ズインはリリアスを起こす。
リリアスは裸の指をみて少し驚く。
リシュアはリヒターの王妃となってからは、欠かすことなくきれいに爪に装飾を施していたからだ。
リヒターは綺麗な指が好きだった。
いつも指先にキスをする。
「、、、僕はいくつだ?」
声がかすれる。
自分の声に馴染みを感じられないという不思議な感覚。
「17だろ?もうじき18だ」
まじまじとズインはリリアスを見直す。
「18、、若いな」
18才は丁度リヒターと結婚したころだった。
そして、約定がなされ、ルシルに奪われるように森からさらわれたのは23の頃。
いぶかしげなズインを残して独り言のようにいう。
「僕は、樹海の呪術にとらわれてパリスの建国と樹海の森の民との約定の成立に立ち会ったんだ。7年もいきた。
僕はリシュアとして、300年前を生きていた」
「そんなことがあるのか?」
ズインはリリアスが夢でも見たのではないかと思う。
300年前よりも、今の方が重要ではないか?
「それにしても、これからどうする?こう迷ってもな、、」
「大丈夫だよ。もう森から出よう。長居をしてしまった」
「親に会わなくてもいいのかよ?」
ズインは混乱する。
それでは樹海まできた目的を達してはいないではないか?
「いろいろ受け取ったからもう充分!
知りたいこと全てがわかったような気がする」
リリアスは町の方角を見た。
既にリヒター王と過ごした町の中心部の塔は崩れて廃墟だ。
リリアスにはリヒターのかけた呪術は全て読み解けた。
彼とは夫婦でいろんな想いを共有していた。呪術の癖さえもわかってしまう。
途中で彼らを追って、迷って途方に暮れていたアルフとレッドに合流する。
森の際まで付き添ったシャーとお別れをして、樹海を出たのだった。
呪術の森(完)
リシュアは後に、パリスの王妃になる。
ルシルが娶った妻はリシュアただ一人。
そして、パリスの王族には精霊の加護の力を持って生まれるもの、黒髪のものも数世代毎ぐらいに気まぐれに生まれることになる。
「王よ、そのものを王妃になさるおつもりですか?」
ルシルに、ルシルの兄の相談役のゲーレンが言う。
ゲーレンはいつの頃からか兄にとりいって、細々なことから大きなことまで、意見を言っているようだった。
表に出ようとせずに、裏で糸を引こうとするやり方がルシルは気に入らない。
学者肌で知性的ではあるが、彼は冷たい蛇のような眼をしていると感じる。
「何か問題があるか?」
ルシルはゲーレンが何を言い出すのか聞いてみる。
リシュアを否定する言葉なら全く聞くつもりはない。
「リシュアさまには何かがついていますね、払いましょうか?」
思いもかけない言葉にルシルは眉をあげる。
「森の民の死んだ者たちの霊のようなものか?」
ルシルは、それなら自分の方が多くの者を犠牲にしてきたと思う。
「それとは違うようですが、、?」
ゲーレンはリシュアに同化している影に向かう。
この影は非常にリシュアに似ていながらも、どこか異なっていた。
影なのに、きらきらとした輝きを持っている。
だからこそ、ゲーレンは気がついたのだ。
ゲーレンは呼び掛ける。
「あなたは何ものだ?我々の時間軸の者ではないような?いつからそこにいる?
元に戻るころではないか?
過去からか?未来からか?それとも並行世界からか?
あなたの名前は何て言う?リシュアさまは今のあなたではないぞ、、」
(ぼ、僕の名前は、、、リリアス)
自分に向けられたゲーレンの呼掛けに、リリアスの意識はリリアス自身を取り戻そうとしていた。
数年ぶりのことだった。
リシュアにぴったりと重なり同化していたところから、まるでおんなじ皿を分けるように、二つに分かれていく。
(僕はリリアス。リシュアは僕の前の人生だった)
ルージュは、パリスの建国の王になるルシだった。
リリアスは、森の王リヒターの妻であり、その後約定の宝石として奪われ、後にルシルの妻になるリシュアだった。
リリアスはリシュアから完全に分離する。
リリアスは自分を取り戻す。
頬をなめるざらついた舌。
記憶が混乱する。
「ズイン、、?」
手を伸ばして艶々の毛皮を押し退けた。
トパーズの煌めく瞳が間近にあった。
「彼があなたを見つけてくれたんだ」
ズインは言う。
リリアスの頬をなめていたのはシャーだった。
知性の宿る慈愛に満ちた眼をしてリリアスを見ている。
(あ、、現実の時間に戻ってきた、、。僕はもう何年もリシュアとして生きていた、、)
リシュアの喜びも悲しみも、全てリリアスのものだった。
「おい、大丈夫か?」
ズインはリリアスの涙をみて、慌てる。
リリアスを一人にして、一時間ぐらいだっただろうか?
よっぽど怖い思いをさせたのかも知れなかった。
リリアスの黒曜石の瞳からは、我知らず止めどなく涙が溢れでていた。
ルシルとリシュアが一緒になれて良かったと心より思う。
戻ってきた今は、以前なら感じられなかった、樹海の森に縫い込まれた森の民の最後の王、リヒターの想いも感じることができる。
樹海の森のリヒター王の呪術は、リシュアへの愛を、300年の間変わることなく縫い留めていた。
「本当に大丈夫か?」
ズインはリリアスを起こす。
リリアスは裸の指をみて少し驚く。
リシュアはリヒターの王妃となってからは、欠かすことなくきれいに爪に装飾を施していたからだ。
リヒターは綺麗な指が好きだった。
いつも指先にキスをする。
「、、、僕はいくつだ?」
声がかすれる。
自分の声に馴染みを感じられないという不思議な感覚。
「17だろ?もうじき18だ」
まじまじとズインはリリアスを見直す。
「18、、若いな」
18才は丁度リヒターと結婚したころだった。
そして、約定がなされ、ルシルに奪われるように森からさらわれたのは23の頃。
いぶかしげなズインを残して独り言のようにいう。
「僕は、樹海の呪術にとらわれてパリスの建国と樹海の森の民との約定の成立に立ち会ったんだ。7年もいきた。
僕はリシュアとして、300年前を生きていた」
「そんなことがあるのか?」
ズインはリリアスが夢でも見たのではないかと思う。
300年前よりも、今の方が重要ではないか?
「それにしても、これからどうする?こう迷ってもな、、」
「大丈夫だよ。もう森から出よう。長居をしてしまった」
「親に会わなくてもいいのかよ?」
ズインは混乱する。
それでは樹海まできた目的を達してはいないではないか?
「いろいろ受け取ったからもう充分!
知りたいこと全てがわかったような気がする」
リリアスは町の方角を見た。
既にリヒター王と過ごした町の中心部の塔は崩れて廃墟だ。
リリアスにはリヒターのかけた呪術は全て読み解けた。
彼とは夫婦でいろんな想いを共有していた。呪術の癖さえもわかってしまう。
途中で彼らを追って、迷って途方に暮れていたアルフとレッドに合流する。
森の際まで付き添ったシャーとお別れをして、樹海を出たのだった。
呪術の森(完)
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