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呪術の森

20、リヒター王の呪い

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街の三つの一族の長とその補佐、そして長老たちが集まっている。

街の最高意志決定会議だった。
森の民とのトラブルをどう納めたら良いかの話し合いだった。
彼らの前には、5人の荒くれものが引き出されていた。
彼らが森の民の、完全体を残す子供たちをさらった者たちだった。
拐い、犯して、凌辱したのは確実だった。

遺体として森に帰った子供たちの他にも、あと10名ほどさらわれている、速やかに返せと森の民は主張していた。

ルシルの父はため息をつく。
「我らの一族にはそんなことをするものがいるとは信じたくはなかったのだがな!
それで、そのさらった子供たちはどこにいるのか?」

荒くれものたちは、さらに別の街の一族に子供たちを売り渡したという。
おぞましいことを彼らは意気揚々といっていた。

古き種族の両性具有体とのまぐわいは、自分達の疲労や不調をたちどころに直してくれるという。
かれらは、両性具有、もしくは未分化の体を持ったもののことをプロトタイプと呼んでいた。

「彼らは高く売れる!我々は金の鉱脈を見つけたようなものだ!
ほら、内臓が悪くて黒かった顔が、普通の肌色に戻っている!!」
荒くれものたちは嬉々として主張する。

彼らは街の会議で満場一致で最高刑が言い渡される。
公開縛首刑だった。
森との境で速やかに行われた。


これで子供の完全体がさらわれる事件は終焉したかと思われた。
だが、さらわれた子供たちは依然として戻ってこない。


プロトタイプは、

  不調を直す。

  高く売れる。

  金の鉱脈。



会議で叫ばれた荒くれものの叫んだ言葉は、貪欲に利益を追い求める不完全体のものたちの耳の奥で、何度も繰り返し響いたのであった。


一見、森の民は平和を取り戻していた。
子供たちは森の奥に隠された。

だが、森に侵入するものは跡をたたない。
森の民も学習する。
人間達の衣服の特徴や身に付ける装飾品で、どこの村のものかがわかるようになっていた。

遠方からの侵入者も多い。
ロボット兵以外にも配置された警備の男たちは、森に入り込んできたものの首をかききりつつ、彼らの身に付けた特徴的なものを採集する。

「王よ。益々侵入者が増えるばかり。
きりがありません。おそらく昨年から50以上の部族から」

そしてとうとう、ギリギリの攻防ラインが破られてしまう。
またひとり、二人とさらわれる。大人数での襲撃だった。


リシュアは美しく成長していた。
その体は依然として、完全体のまま。
リヒター王のたっての願いで、二人の優秀な血脈を残すために、リシュアは衰退の国の王妃の一人となっていた。

ルシルとは、あの夜以来会っていない。
もう会うこともないだろうと思っていた。

既に、新しい人々の優勢と森の王国の終焉は、誰の目にも隠しきれないほど明らかだった。


リヒター王は、リシュアが眠る寝室をぬけだし、毎晩森を歩く。

彼は最後の王にして、傑出した最強の加護の持主だった。
彼は森に存在する精霊の力を巧みにほどき、彼の望むように結び直していく。

あるがままの自然を、意図的に組み換えて、さらに時間の経過と共に霧散しないように、数百年は動かない岩に、大地の奥の例え動いても緩やかなものに、しっかりと結びつけていく。

王は、森自体を彼らの守りに利用しようとしていた。

その結び付きをより強固なものにするために、亡くなって無惨な姿で見つかった森の子供たちの、その体を利用することさえ厭わない。

血液、髪、切り刻まれた指であっても、リヒター王は森の守りの呪術に利用した。

森の物は森に還る。

その還っていく課程に、リヒター王は願いをこめる。
無惨に殺された精霊の加護をもつ子供たちは死してもなお、精霊の力が宿る。

森の民の森自体が、彼らを守る防御壁になる。
外からの侵入者を排除する。
それは同時に、森の民にも反ってくる。
かれらは森から外にはでられなくなるだろう。

願いというよりも、呪いかもしれない、とリヒター王は思う。
それでも最後の王として、残された者を守る義務があった。
狩られ、生きている間中、尊厳を踏みにじられてなぶられるぐらいなら、森のなかで静かに終わっていくのも良いのではないか?

その呪いもあと少しで完成する。
必要なのは最後のピース。
一番の要になるものだった。



「リシュア、、」

王は彼のベッドで眠る、黒髪の最愛の妻を見る。
彼の新妻は、ぬばたまの黒髪、黒曜石のような目の美しい完全体で、女性寄りの優しい体つきをしていた。

愛されるために生まれてきたような、とリヒターは思う。

リシュアとの愛の行為は、リヒターの味わったことのないものだった。
お互いの唇が触れるところで、さまざまな加護紋様がはじけ飛び、重なり霧散する。

精霊の加護五つと神の愛で六つ。

六種類の加護紋様だと長くいわれていたが、リヒター王とリシュアの間には、それどころではなく、見慣れぬ紋様が現れれていた。
リシュアもそれに気がついていた。

この世界の構成要素、空、風、火、水、土の五つに加えて神の愛というのが、森の民の常識だったが、もっと別の違う次元の要素があるのかも知れなかった。

(解明するには私たちには時間がない)

リヒター王とリシュアは、まぐわいの時に数えていく。
いつも最後は欲望と快楽に理性が押しやられて、数えられなくなってしまう。
だから、先祖たちは六つまでしか数えられなかったのだと思った。


リヒターとの愛の行為の最中でも、リシュアの心の欠片は森の外にあった。
金茶の髪の、紺碧の瞳のルシル。
二人はきちんと別れを交わしていない。
リヒターに愛され、彼を愛していると思っていても、リシュアの欠片はルシルを愛することを止められなかった。


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