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【第3部 チェンジ】第七話 乱闘
73、告白 ②
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「熱い」
ロゼリアの手を今度はジルコンから求められる。
頬が手のひらに押し付けられた。先ほどよりも熱を帯びていた。
「あなたが他人がどう思っているかわかるというのなら、俺があなたのことをどう思っているのかわかるというのか?」
「ロゼリアの、兄……世間知らずで馬鹿で。あなたは僕を連れて来たから責任を感じてあれこれ気を配ってくれる。それをみんなは気に入られていると思っていて、僕もそれは嫌な気持ちではなくて……」
「世間知らずの馬鹿はその通り。狩りの時、鶏を追いかけ森に飛び込んだのは、本当に馬鹿で無鉄砲なヤツだと思った。あなたの言動から目がはなせなくなる。軋轢を生みだし、ウォラスの悪癖を刺激し悪さをしかけたくなるヤツ……。だけど俺の気持ちはそれだけではない」
手の平は頬からジルコンの口元へ押し付けられる。
熱した焼き印を押し付けられたかのように熱い唇だった。
ロゼリアは驚き手を引こうとしたが、かえって強く囚われただけ。
ジルコンはいまや体をよじりロゼリアを正面から見ていた。
「ノルやラドーやフィンやバルドはあなたに何をした?」
「威嚇し泉へ僕を追い立てた。バルドは僕の身体の自由を奪った」
「ウォラスは、あなたに何をした?」
「彼は、キスし、胸元のボタンを外して首筋にキスをした」
ジルコンは悪態をつくと、ロゼリアを自分の方へ強く引いた。
ロゼリアを逃がさないように頭を押さえて、熱い唇を押し付けた。
ロゼリアは溶けかけたアイスクリームでもむしゃぶりつかれるかのように、食われた。
強引で乱暴な、頭の奥がしびれるような熱いキスだった。
そのまま、ベッドにロゼリアは押し倒される。
耳の上から金の髪を何度もすかし、かき揚げられる。
しまいに、既に乱れていた三つ編みはほどかれてしまっていた。
ジルコンの指はその感触を味わう。
唇に、頬に、耳に向けられていく男のまなざしが、ロゼリアを震わせた。
黒髪がロゼリアの顔にかかる。
首筋に熱い唇が押し付けられていた。ロゼリアはあっといい、息を吸う。
ジルコンから発散される男の匂いがロゼリアの理性を揺らがせる。
目が開けていられない。囚われたままの左手はベッドに押し付けられていた。
ジルコンの夜着は薄く自由な方の右手はジルコンの胸を押し返そうとするが、激しく打つ鼓動に驚いただけ。
自分に向かう身体の熱に、ロゼリアは喘ぎ、さらに熱を吸い込んでしまう。
その熱は男の欲望とでもいうもの。
「ウォラスはそれからどうした?」
「……ウォラスのしたことはそこまでだった。彼は自分の行いが間違っていることに気がつき、やめた。そのためにウォラスは僕の代わりに……」
ジルコンの手がロゼリアのボタンを性急に外す。
ひとつ二つ三つ。冷静にボタンを外したのはそこまで。
ジルコンの身体の重しが離れ解放されたと思ったのは偽りの猶予。ジルコンは一息にロゼリアの服を引き裂いた。
上着は破かれ真白な肌着が現れる。
ロゼリアの胸は晒がまかれている。肌着の下に手を入れれば、もしくは上着のように引き裂けば、ロゼリアの秘密はジルコンの知るところになるだろう。
「俺が上書きをしてやる。ウォラスに奪われるぐらいなら。ラシャールにあなたが通じているのなら、ラシャールを忘れるぐらい激しく愛してやる」
銀の星の散る青いジルコンの目は、ロゼリアを射すくめた。
ジルコンはロゼリアの両脚を掬い、ベッドの真ん中へ上げると本能的に抵抗しようとしたロゼリアの脚の上に跨ぎ体重をかけて動きを封じた。
ロゼリアは覚悟する。
このように、ジルコンが激情し、我を忘れ、自分を襲うようにして秘密が暴かれることになるかもしれないことなど思いもしなかったことだった。
秘密も体も暴かれる恐怖。
同時に、今この場でジルコンを女として愛し受け入れ、その激情の波に翻弄されたいという欲望。
ひとつの方向へ突き進むその激情こそ、女であるロゼリアが持ちえないものだった。
ロゼリアは手を伸ばした。身体の自由はなかったが両手だけは自由だった。
ジルコンはロゼリアの腕の中に吸い込まれていく。
ロゼリアは開いた唇にジルコンの舌を受け入れた。
柔らかく熱くうねり絡み合う。ジルコンの熱い息だけを吸う。
レオの熱をさました泉の水は、ジルコンの髪を濡らしているが、もう熱い欲望を覚ますよすがにはならない。
「ああ、アンジュ……」
つぶやきがロゼリアの頬から耳もとへささやかれる。
「アデールの王の前で俺に啖呵を切ったあなたを、強い感情をその眼にほとばしらせるあなたを、広い世界へ連れて行きたいと思った。だがそれは間違いだった。世界は広くても、俺の中心が決まってしまった。こんなにあなたに惹かれるとは思わなかった。父の世界の中心が母であるように……」
ジルコンの唇は、ロゼリアの首筋に彼の熱い印を残していく。
ジルコンの告白に、ロゼリアは歓喜に震えた。
ロゼリアが己の嘘を告白するのは今しかなかった。
「あなたを愛することを許して欲しい。男と男で、王子と王子で、様々な禁忌を破り、たとえ100万の民から後ろ指を指されそしられようとも……」
ジルコンは告白し続ける。
ロゼリアは、焦った。ジルコンはロゼリアを男として関係しようとしている。
このままでは、ロゼリアの秘密をジルコン自ら暴き、衝撃を受けることは間違いがなかった。
「ジルコン、待って、言わなくてはならないことが」
キスは胸元に隠されていた金の鎖につながれた真珠を探り当てた。
それは、ロゼリアの宝物。
ジルコンにとってのそれは、ふたりで過ごした楽しい思い出の記念。
妹の婚約祝いの贈答品に高価で豪奢なものに惹かれないアデールの王子のために、無償で手に入れたものを職人の卵に安値で加工してもらった、この世にただ一つのもの。
「実は、僕は、あなたを騙していた。今から告白しなければならないことがある。ジルコンが衝撃を受ける前に。だから、僕を許してくれることを約束して欲しい」
ロゼリアは必死にいう。
ジルコンの唇から鎖が落ち、真珠が落ちた。
「僕が許さなければならないことか?」
熱に浮かされた顔は、ロゼリアの言葉に苦悩に歪んだ。
ジルコンが許さなければないことは、ジルコンの勢いをそぐのに十分だった。
「あなたは、俺が聞きたくないことを言おうとしているのか。そうだな、アンは俺の婚約者の双子の兄なのだから当然……」
「そうじゃなくて、実は、僕はその……」
ロゼリアが言いたいのは、自分がその婚約者なのだから、ジルコンが思い悩むことは何もないということ。
今まで男装して、アンジュの振りをして騙して心より謝罪するということ。
だから、アンジュである自分に惹かれたことは、自分の人となりを好いてくれているようで、とても嬉しいということ。
だが、ロゼリアは最後まで言えなかった。
なぜなら、身体を押さえつけていた熱い身体が不意に離れたからだ。
ジルコンはベッドから降りていた。
「こんなことをするつもりではなかった。アンジュ、許して欲しい。ラシャールとやりあった暴力の興奮が、危うくあなたに向かうところだった。暴力が欲望を掻き立てるのは、男の性だからあなたにもわかるだろう?ロゼリア姫に申し訳が立たなくなるところだった。ロゼリア姫は俺の、形だけでも婚約者なのだから。あなたと進むにしろ、そうでないにしろ、俺は、少し頭を冷やした方がよさそうだ。今日は、大変な一日だったのに、そんなあなたに俺は、なんてことを……」
ジルコンの顔がわからない。
その声は喉にからまりかすれている。
ロゼリアは引きとどめなければならなかった。
いうべきことは全く言えていない。
ジルコンをとめたのは、先に進むためなのにジルコンは完全に誤解していた。
ジルコンが離れただけで、急激にロゼリアの心と身体は凍えていく。
凍えすぎて頭が回らない。
袖の破れた上着を残して、ジルコンは去ってしまった。
突然の終幕に、身体の力が抜け落ちた。追いかける気力もない。
窓の外は日が落ちている。
世界から色も音も失ったように思われた。
ロゼリアはベッドに突っ伏した。
倒れ込んだというのが正しかったかもしれない。
「形だけの婚約者……」
ジルコンが残した言葉がロゼリアの胸をえぐった。
ロゼリアの手を今度はジルコンから求められる。
頬が手のひらに押し付けられた。先ほどよりも熱を帯びていた。
「あなたが他人がどう思っているかわかるというのなら、俺があなたのことをどう思っているのかわかるというのか?」
「ロゼリアの、兄……世間知らずで馬鹿で。あなたは僕を連れて来たから責任を感じてあれこれ気を配ってくれる。それをみんなは気に入られていると思っていて、僕もそれは嫌な気持ちではなくて……」
「世間知らずの馬鹿はその通り。狩りの時、鶏を追いかけ森に飛び込んだのは、本当に馬鹿で無鉄砲なヤツだと思った。あなたの言動から目がはなせなくなる。軋轢を生みだし、ウォラスの悪癖を刺激し悪さをしかけたくなるヤツ……。だけど俺の気持ちはそれだけではない」
手の平は頬からジルコンの口元へ押し付けられる。
熱した焼き印を押し付けられたかのように熱い唇だった。
ロゼリアは驚き手を引こうとしたが、かえって強く囚われただけ。
ジルコンはいまや体をよじりロゼリアを正面から見ていた。
「ノルやラドーやフィンやバルドはあなたに何をした?」
「威嚇し泉へ僕を追い立てた。バルドは僕の身体の自由を奪った」
「ウォラスは、あなたに何をした?」
「彼は、キスし、胸元のボタンを外して首筋にキスをした」
ジルコンは悪態をつくと、ロゼリアを自分の方へ強く引いた。
ロゼリアを逃がさないように頭を押さえて、熱い唇を押し付けた。
ロゼリアは溶けかけたアイスクリームでもむしゃぶりつかれるかのように、食われた。
強引で乱暴な、頭の奥がしびれるような熱いキスだった。
そのまま、ベッドにロゼリアは押し倒される。
耳の上から金の髪を何度もすかし、かき揚げられる。
しまいに、既に乱れていた三つ編みはほどかれてしまっていた。
ジルコンの指はその感触を味わう。
唇に、頬に、耳に向けられていく男のまなざしが、ロゼリアを震わせた。
黒髪がロゼリアの顔にかかる。
首筋に熱い唇が押し付けられていた。ロゼリアはあっといい、息を吸う。
ジルコンから発散される男の匂いがロゼリアの理性を揺らがせる。
目が開けていられない。囚われたままの左手はベッドに押し付けられていた。
ジルコンの夜着は薄く自由な方の右手はジルコンの胸を押し返そうとするが、激しく打つ鼓動に驚いただけ。
自分に向かう身体の熱に、ロゼリアは喘ぎ、さらに熱を吸い込んでしまう。
その熱は男の欲望とでもいうもの。
「ウォラスはそれからどうした?」
「……ウォラスのしたことはそこまでだった。彼は自分の行いが間違っていることに気がつき、やめた。そのためにウォラスは僕の代わりに……」
ジルコンの手がロゼリアのボタンを性急に外す。
ひとつ二つ三つ。冷静にボタンを外したのはそこまで。
ジルコンの身体の重しが離れ解放されたと思ったのは偽りの猶予。ジルコンは一息にロゼリアの服を引き裂いた。
上着は破かれ真白な肌着が現れる。
ロゼリアの胸は晒がまかれている。肌着の下に手を入れれば、もしくは上着のように引き裂けば、ロゼリアの秘密はジルコンの知るところになるだろう。
「俺が上書きをしてやる。ウォラスに奪われるぐらいなら。ラシャールにあなたが通じているのなら、ラシャールを忘れるぐらい激しく愛してやる」
銀の星の散る青いジルコンの目は、ロゼリアを射すくめた。
ジルコンはロゼリアの両脚を掬い、ベッドの真ん中へ上げると本能的に抵抗しようとしたロゼリアの脚の上に跨ぎ体重をかけて動きを封じた。
ロゼリアは覚悟する。
このように、ジルコンが激情し、我を忘れ、自分を襲うようにして秘密が暴かれることになるかもしれないことなど思いもしなかったことだった。
秘密も体も暴かれる恐怖。
同時に、今この場でジルコンを女として愛し受け入れ、その激情の波に翻弄されたいという欲望。
ひとつの方向へ突き進むその激情こそ、女であるロゼリアが持ちえないものだった。
ロゼリアは手を伸ばした。身体の自由はなかったが両手だけは自由だった。
ジルコンはロゼリアの腕の中に吸い込まれていく。
ロゼリアは開いた唇にジルコンの舌を受け入れた。
柔らかく熱くうねり絡み合う。ジルコンの熱い息だけを吸う。
レオの熱をさました泉の水は、ジルコンの髪を濡らしているが、もう熱い欲望を覚ますよすがにはならない。
「ああ、アンジュ……」
つぶやきがロゼリアの頬から耳もとへささやかれる。
「アデールの王の前で俺に啖呵を切ったあなたを、強い感情をその眼にほとばしらせるあなたを、広い世界へ連れて行きたいと思った。だがそれは間違いだった。世界は広くても、俺の中心が決まってしまった。こんなにあなたに惹かれるとは思わなかった。父の世界の中心が母であるように……」
ジルコンの唇は、ロゼリアの首筋に彼の熱い印を残していく。
ジルコンの告白に、ロゼリアは歓喜に震えた。
ロゼリアが己の嘘を告白するのは今しかなかった。
「あなたを愛することを許して欲しい。男と男で、王子と王子で、様々な禁忌を破り、たとえ100万の民から後ろ指を指されそしられようとも……」
ジルコンは告白し続ける。
ロゼリアは、焦った。ジルコンはロゼリアを男として関係しようとしている。
このままでは、ロゼリアの秘密をジルコン自ら暴き、衝撃を受けることは間違いがなかった。
「ジルコン、待って、言わなくてはならないことが」
キスは胸元に隠されていた金の鎖につながれた真珠を探り当てた。
それは、ロゼリアの宝物。
ジルコンにとってのそれは、ふたりで過ごした楽しい思い出の記念。
妹の婚約祝いの贈答品に高価で豪奢なものに惹かれないアデールの王子のために、無償で手に入れたものを職人の卵に安値で加工してもらった、この世にただ一つのもの。
「実は、僕は、あなたを騙していた。今から告白しなければならないことがある。ジルコンが衝撃を受ける前に。だから、僕を許してくれることを約束して欲しい」
ロゼリアは必死にいう。
ジルコンの唇から鎖が落ち、真珠が落ちた。
「僕が許さなければならないことか?」
熱に浮かされた顔は、ロゼリアの言葉に苦悩に歪んだ。
ジルコンが許さなければないことは、ジルコンの勢いをそぐのに十分だった。
「あなたは、俺が聞きたくないことを言おうとしているのか。そうだな、アンは俺の婚約者の双子の兄なのだから当然……」
「そうじゃなくて、実は、僕はその……」
ロゼリアが言いたいのは、自分がその婚約者なのだから、ジルコンが思い悩むことは何もないということ。
今まで男装して、アンジュの振りをして騙して心より謝罪するということ。
だから、アンジュである自分に惹かれたことは、自分の人となりを好いてくれているようで、とても嬉しいということ。
だが、ロゼリアは最後まで言えなかった。
なぜなら、身体を押さえつけていた熱い身体が不意に離れたからだ。
ジルコンはベッドから降りていた。
「こんなことをするつもりではなかった。アンジュ、許して欲しい。ラシャールとやりあった暴力の興奮が、危うくあなたに向かうところだった。暴力が欲望を掻き立てるのは、男の性だからあなたにもわかるだろう?ロゼリア姫に申し訳が立たなくなるところだった。ロゼリア姫は俺の、形だけでも婚約者なのだから。あなたと進むにしろ、そうでないにしろ、俺は、少し頭を冷やした方がよさそうだ。今日は、大変な一日だったのに、そんなあなたに俺は、なんてことを……」
ジルコンの顔がわからない。
その声は喉にからまりかすれている。
ロゼリアは引きとどめなければならなかった。
いうべきことは全く言えていない。
ジルコンをとめたのは、先に進むためなのにジルコンは完全に誤解していた。
ジルコンが離れただけで、急激にロゼリアの心と身体は凍えていく。
凍えすぎて頭が回らない。
袖の破れた上着を残して、ジルコンは去ってしまった。
突然の終幕に、身体の力が抜け落ちた。追いかける気力もない。
窓の外は日が落ちている。
世界から色も音も失ったように思われた。
ロゼリアはベッドに突っ伏した。
倒れ込んだというのが正しかったかもしれない。
「形だけの婚約者……」
ジルコンが残した言葉がロゼリアの胸をえぐった。
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