59 / 238
【第2部 スクール編】第四話 百花繚乱
36、絢爛な王子たち①
しおりを挟む
早めの朝食を終えた者たちが会場入りしている。
隙のない絢爛な衣装に完璧な笑顔で彼らは再会と健勝を喜び合う。
固い握手が交わされる。
ジルコンは、握手をする者事に彼らの国の天候のことや、作物の出来、彼らの親兄弟のことなどをきく。
そうしているうちに、後から入ってきた者たちもその輪に加わり、社交場と化す。
彼らは10代でありながら、礼節をわきまえて、衣装だけでなくその挙措動作は整っていた。
利発に目をくりくりさせる小柄な王子が軽やかにジルコンに近づいた。
ディーンのように真っ赤に燃え上がるような髪をした大柄な王子もいる。
彼は体だけではなく顔の造作も大きく手も大きい。
ロゼリアの師匠のディーンの出身国はもしかして彼の国なのかもしれないとロゼリアは思う。
淡水パールのイヤリングに金の鎖を垂らし、貝殻の螺鈿で装飾し淡く輝く白いベルトを締める王子もいる。
何かしら彼らにはその身を飾る目を引く特徴があった。
たちまちジルコンの周りには輪ができた。
そして、その中に入ろうとしてはいれないおっとりとして気弱げな表情を浮かべる王子もいる。
くっりとした目の小柄な王子はフィン。
彼の腕には繊細な銀細工のブレスレットがある。
大柄な赤毛はバルド。
その腰に目を引く実戦的な太刀が下げられている。
淡水パールはラドー。
鮮やかな羽を編み込んだベストのエスト。
ロゼリアはジルコンが彼らと交わす会話の中で、彼らの出身国とその名前を頭に刻み込む。
ノルの国は上質なルービーを産出する。
フィンの国は銀を産出しその加工には定評がある。
バルドは質実剛健な戦士の国。
ラドーの国は淡水パールの養殖に成功させていた。
エストの国は、艶やかな鳥の育種を輸出し、闘鶏は貴族も嗜むという。
ジルコンの隣にロゼリアはいるが、彼らの会話にひとことも口を挟めない。
ロゼリアは完全に彼らの意識の外だった。
はじき飛ばされてもおかしくないような勢いである。
ジルコンを取り巻く彼らのなかでも知らない者もいるようで、彼ら同士の初見の挨拶が行われている。
そして、彼らが身に付けているものを指して、そこから何か会話が繋がっている者たちもいる。
ふわっと濃厚な、バラの香りがロゼリアの鼻をくすぐった。
息を吐いても鼻の奥に絡みつく麝香の淫靡な香り。
「ねえ、君はジルコンの新たな小姓かなにかなの?君も一緒に過ごすのかな?」
距離感なく顔を近づける男からロゼリアは身を引いた。
細かにうねる肩までの銀髪、整った顔立ち、涼し気な目元には特徴的なほくろがあり、香りから見た目から甘さを漂わせている男。
彼はロゼリアを小姓という。
ロゼリアは喉を詰まらせた。
ロゼリアは王子には見えないのだ。
それは田舎の王子だからというのではなくて。
アヤが、ロゼリアの初日の服をみて、それだけですか?と不満げに言った理由は、今まさにここにあった。
アヤが不満に思ったのは、ロゼリアの選んだ機能的でシンプルな服装が、絢爛豪華な王子たちのなかにおいて見劣りするからとか、砕けすぎではないかというところではないのだ。
これでは、アデールの王子として足りてないのだ。
エールで仕立てた服にはアデール国の特徴がない。
従者や小姓と間違われるのも当然なのだと思い知る。
彼らは、自国を表す象徴的なものを身に付けていた。
学びに来るのに、腕に重い銀細工の腕輪をつける必要などない。
ぶつけたりひっかけたり、じゃまなだけな大きなルビーの指輪をこれ見よがし好んでつける者はいない。
ロゼリアを小姓というこのうねる銀髪の美男子の国は、優れた蒸留技術や香料を持ち、香水を作る技術に優れているのだろう。
アデール国は貴重な赤の染料で知られているが、森と平野の国々の中には、その染料の鮮やかさの噂を聞いていても実際に見たことのない者もいるかもしれない。
なら、ロゼリアはアデールの赤で染めた何かを身に付け、その美しさを誇示するべきであったのだった。
田舎者云々よりも、自国を代表する一人として、ここに参加することの自覚の欠如とでもいうものだった。
ロゼリアは己の意識の低さを思い知る。
それは決定的な落ち度である。
初日から大失敗したのだった。
尚もロゼリアの顔をよく見ようとした甘いマスクの男を、ジルコンは遮りロゼリアから引き離した。
「ウォラス!相変わらず元気そうでなによりだな!みんなにも紹介する。彼は、アデール国のアンジュだ。今回から参加することになった。いろいろ教えてやってくれ!」
その場にいた全員の視線がロゼリアに集まった。
完璧な笑顔であるにも関わらず彼らの目は全く笑っていない。
底光る、値踏みをする目である。
そしてロゼリアにくだされた評価は無残なほど低いのだ。
思わずひゅっと首をすくめたくなる。
ロゼリアは握手を交わしていく。
笑顔が引きつっていないことを祈りながら。
ロゼリアの手は恥ずかしいほど汗をかき冷たかった。
隙のない絢爛な衣装に完璧な笑顔で彼らは再会と健勝を喜び合う。
固い握手が交わされる。
ジルコンは、握手をする者事に彼らの国の天候のことや、作物の出来、彼らの親兄弟のことなどをきく。
そうしているうちに、後から入ってきた者たちもその輪に加わり、社交場と化す。
彼らは10代でありながら、礼節をわきまえて、衣装だけでなくその挙措動作は整っていた。
利発に目をくりくりさせる小柄な王子が軽やかにジルコンに近づいた。
ディーンのように真っ赤に燃え上がるような髪をした大柄な王子もいる。
彼は体だけではなく顔の造作も大きく手も大きい。
ロゼリアの師匠のディーンの出身国はもしかして彼の国なのかもしれないとロゼリアは思う。
淡水パールのイヤリングに金の鎖を垂らし、貝殻の螺鈿で装飾し淡く輝く白いベルトを締める王子もいる。
何かしら彼らにはその身を飾る目を引く特徴があった。
たちまちジルコンの周りには輪ができた。
そして、その中に入ろうとしてはいれないおっとりとして気弱げな表情を浮かべる王子もいる。
くっりとした目の小柄な王子はフィン。
彼の腕には繊細な銀細工のブレスレットがある。
大柄な赤毛はバルド。
その腰に目を引く実戦的な太刀が下げられている。
淡水パールはラドー。
鮮やかな羽を編み込んだベストのエスト。
ロゼリアはジルコンが彼らと交わす会話の中で、彼らの出身国とその名前を頭に刻み込む。
ノルの国は上質なルービーを産出する。
フィンの国は銀を産出しその加工には定評がある。
バルドは質実剛健な戦士の国。
ラドーの国は淡水パールの養殖に成功させていた。
エストの国は、艶やかな鳥の育種を輸出し、闘鶏は貴族も嗜むという。
ジルコンの隣にロゼリアはいるが、彼らの会話にひとことも口を挟めない。
ロゼリアは完全に彼らの意識の外だった。
はじき飛ばされてもおかしくないような勢いである。
ジルコンを取り巻く彼らのなかでも知らない者もいるようで、彼ら同士の初見の挨拶が行われている。
そして、彼らが身に付けているものを指して、そこから何か会話が繋がっている者たちもいる。
ふわっと濃厚な、バラの香りがロゼリアの鼻をくすぐった。
息を吐いても鼻の奥に絡みつく麝香の淫靡な香り。
「ねえ、君はジルコンの新たな小姓かなにかなの?君も一緒に過ごすのかな?」
距離感なく顔を近づける男からロゼリアは身を引いた。
細かにうねる肩までの銀髪、整った顔立ち、涼し気な目元には特徴的なほくろがあり、香りから見た目から甘さを漂わせている男。
彼はロゼリアを小姓という。
ロゼリアは喉を詰まらせた。
ロゼリアは王子には見えないのだ。
それは田舎の王子だからというのではなくて。
アヤが、ロゼリアの初日の服をみて、それだけですか?と不満げに言った理由は、今まさにここにあった。
アヤが不満に思ったのは、ロゼリアの選んだ機能的でシンプルな服装が、絢爛豪華な王子たちのなかにおいて見劣りするからとか、砕けすぎではないかというところではないのだ。
これでは、アデールの王子として足りてないのだ。
エールで仕立てた服にはアデール国の特徴がない。
従者や小姓と間違われるのも当然なのだと思い知る。
彼らは、自国を表す象徴的なものを身に付けていた。
学びに来るのに、腕に重い銀細工の腕輪をつける必要などない。
ぶつけたりひっかけたり、じゃまなだけな大きなルビーの指輪をこれ見よがし好んでつける者はいない。
ロゼリアを小姓というこのうねる銀髪の美男子の国は、優れた蒸留技術や香料を持ち、香水を作る技術に優れているのだろう。
アデール国は貴重な赤の染料で知られているが、森と平野の国々の中には、その染料の鮮やかさの噂を聞いていても実際に見たことのない者もいるかもしれない。
なら、ロゼリアはアデールの赤で染めた何かを身に付け、その美しさを誇示するべきであったのだった。
田舎者云々よりも、自国を代表する一人として、ここに参加することの自覚の欠如とでもいうものだった。
ロゼリアは己の意識の低さを思い知る。
それは決定的な落ち度である。
初日から大失敗したのだった。
尚もロゼリアの顔をよく見ようとした甘いマスクの男を、ジルコンは遮りロゼリアから引き離した。
「ウォラス!相変わらず元気そうでなによりだな!みんなにも紹介する。彼は、アデール国のアンジュだ。今回から参加することになった。いろいろ教えてやってくれ!」
その場にいた全員の視線がロゼリアに集まった。
完璧な笑顔であるにも関わらず彼らの目は全く笑っていない。
底光る、値踏みをする目である。
そしてロゼリアにくだされた評価は無残なほど低いのだ。
思わずひゅっと首をすくめたくなる。
ロゼリアは握手を交わしていく。
笑顔が引きつっていないことを祈りながら。
ロゼリアの手は恥ずかしいほど汗をかき冷たかった。
0
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる