111 / 238
【第3部 チェンジ】第七話 乱闘
67-1、立食パーティ ②
しおりを挟む
「お兄さま、アンジュ殿を独り占めしたら駄目ですよ!」
パーティー会場では、ロゼリアとジルコンの近くへ、黒髪を見事に巻いたジュリアが寄っていた。
手にしている皿には、大皿を切り取ったかのように見事に美味しそうに料理が盛られている。
「アンジュを独り占めだって?」
ジルコンは目を丸くする。
「あら?アデールの王子さまは、女性にも人気ですよ?いつもご一緒のベラが羨ましく思われるぐらいに」
ジュリアが後ろを振り返ると、普段の授業の時よりもパーティー仕様に着飾っている娘たちがそれを合図にジルコンとロゼリアに群がった。
普段は話をしたくてもできなかったロゼリアとジルコンに、この機会にお近づきになろうと期待している娘たちだった。パーティーは交流のない者たちとも気軽に話せる場でもある。
ロゼリアとジルコンの二人だけだと遠慮していたベルも、彼女たちの中に紛れて思い切って合流する。
「ご一緒できてうれしいです!あのジュリアさまのスカーフと本当は同じのがいいのですけど、恐れ多いので別の柄でも嬉しいので、ベラと一緒に作ったと聞いたので、わたしとも一緒に作ってもらっていいですか!?」
「それは、わたしだって自分用に機会があれば作りたいと思っているの」
負けずにベラも参加している。
女子たちは今はもうベラを仲間として受け入れている。
「では、次の休みの日に皆で一緒に教えていただき、何かに染めてみるというのはいかが?ハンカチとかスカーフとか持ち寄って」
一人が提案し、賛同を集めている。
日程までこの場で染色体験講座が決まりそうな勢いである。
「わたしもぜひ!あの赤はアデールの門外不出の赤ですよね。その謎は、わたしだけに教えていただけませんか?」
積極的な女子たちに、ロゼリアは引き気味である。
修復したジュリアの白いスカーフは、ジュリアが良く身につけているために、女子たちの最大の関心事になっていた。
「アデールの赤の秘密は実はわたしも知らないんだ。精製後の材料は少し持ってきてはいるんだけど。希望者全員分を染めるだけの染料が残っているかも怪しいと思う」
やんわりと断って逃れようとしても、女子たちは小さなハンカチでいいですから、とかなんとか逃げ切れなさそうであった。
みかねてジュリアが娘たちとロゼリアの間に割って入る。
「お辞めなさい、アンジュさまは困っておりますよ?秘密を聞き出そうとするのはもう少し個人的に親しくなってからではないですか?それに誰かの秘密を知ろうと思えば、あなたの秘密も差し出さねばならなくなりますよ?それでもいいのですか?」
キャーと悲鳴に似た歓声があがる。
「自分の秘密を男に差し出すとは、いったい我が妹は何を言い出すんだ。アンジュ、ジュリアの言うことをきくんじゃないいぞ」
ジルコンもロゼリア以上に腰が引けている。
本当に、彼女は自分と同じ年なのだろうか?と思うほどジュリアは惚れ惚れするほど、しっかりしている。
ずいと、ジュリアはジルコンに体を寄せ、扇子で口元を隠した。
縁を水鳥の胸毛で優雅に縁取ったふわふわの羽の扇子は、D国から取り寄せたものである。
「姫たちが個人的にアンジュ殿にお近づきになろうとするのを邪魔するのですか?まったく、アンジュに対するお兄さんの寵愛ぶりは心配になるわ!お兄さまは、今まで特にお気に入りを作るタイプではなかった分、彼に注目を集めてしまっているわよ?」
「彼は、俺の婚約者の兄だからだろ。いずれ身内になるものを傍においてもおかしくはないだろう」
「王都でのマーケットで二人で護衛を巻き、お忍びデートをされていた噂も聞きましたよ。デートといえば、パジャンのラシャール殿も、劇場を男性と二人で見られたとかで、男性が趣味だとかそういう噂も耳にしましたけれども」
「ラシャールがそういう趣味だって!?」
ジルコンは、口にしたものを噴出しかける。
ひそひそ話のはずが、ジルコンの声は大きい。
端で談笑していたラシャールに一斉に視線が向けられた。
娘たちの視線に気が付いたラシャールがわけがわからないまでも、いつも行動を共にしているアリシャンと共に、笑顔を返す。それを見て、ふたたびキャーと悲鳴に似た歓声があがったのであった。
ひとしきり兄の反応を楽しむと、ジュリアは体を離した。
ぐるりと会場全体へ、ジルコンとよく似たアーモンドのようなくっきりとした目を走らせた。
「ところで、ウォラスは?最近話をしてくれなくなって、今日こそはと思ったのだけど会場にはいなさそうだわ?さきほどまで説明してくださっていたのに」
会場にはホストのウォラスの姿は既にない。
さらに女官も一人いなかったのだが。
「ジュリア、ウォラスに関心をもつのはもう辞めておけよ?最近、あいつは少々乱れているからな」
そういわれて、ジュリアは表情を曇らせた。
兄妹同士では、自分では直視したくないことを、直截に指摘し合えた。
「噂は、噂にすぎないわ」
「だが、火のないところにけむりは立たないというからな。誤解されるようなことをウォラスはしているのだろう」
「ウォラスは昔は真面目な方だったのに……」
ジュリアはそうため息とともにつぶやくと、ロゼリアを見た。
「ウォラスの次のターゲットはあなたという噂ですから、ご身辺にお気を付けてね」
ロゼリアのよくわからないという顔をみて、ジルコンが付けたす。
「大人の宮廷遊びに巻き込まれるな、ということだ。そんな遊びにここにいる姫や王子たちを巻き込むほど馬鹿ではないと信じてはいるが……」
「ウォラスさまになら巻き込まれたいです」
そう顔をあからめていう娘もいる。
「ウォラスさまにならわたしだって」
つぎつぎ名乗りが上がっていく。
今夜は酒が振舞われている。
姫たちの舌も緩くなっているようだった。
パーティー会場では、ロゼリアとジルコンの近くへ、黒髪を見事に巻いたジュリアが寄っていた。
手にしている皿には、大皿を切り取ったかのように見事に美味しそうに料理が盛られている。
「アンジュを独り占めだって?」
ジルコンは目を丸くする。
「あら?アデールの王子さまは、女性にも人気ですよ?いつもご一緒のベラが羨ましく思われるぐらいに」
ジュリアが後ろを振り返ると、普段の授業の時よりもパーティー仕様に着飾っている娘たちがそれを合図にジルコンとロゼリアに群がった。
普段は話をしたくてもできなかったロゼリアとジルコンに、この機会にお近づきになろうと期待している娘たちだった。パーティーは交流のない者たちとも気軽に話せる場でもある。
ロゼリアとジルコンの二人だけだと遠慮していたベルも、彼女たちの中に紛れて思い切って合流する。
「ご一緒できてうれしいです!あのジュリアさまのスカーフと本当は同じのがいいのですけど、恐れ多いので別の柄でも嬉しいので、ベラと一緒に作ったと聞いたので、わたしとも一緒に作ってもらっていいですか!?」
「それは、わたしだって自分用に機会があれば作りたいと思っているの」
負けずにベラも参加している。
女子たちは今はもうベラを仲間として受け入れている。
「では、次の休みの日に皆で一緒に教えていただき、何かに染めてみるというのはいかが?ハンカチとかスカーフとか持ち寄って」
一人が提案し、賛同を集めている。
日程までこの場で染色体験講座が決まりそうな勢いである。
「わたしもぜひ!あの赤はアデールの門外不出の赤ですよね。その謎は、わたしだけに教えていただけませんか?」
積極的な女子たちに、ロゼリアは引き気味である。
修復したジュリアの白いスカーフは、ジュリアが良く身につけているために、女子たちの最大の関心事になっていた。
「アデールの赤の秘密は実はわたしも知らないんだ。精製後の材料は少し持ってきてはいるんだけど。希望者全員分を染めるだけの染料が残っているかも怪しいと思う」
やんわりと断って逃れようとしても、女子たちは小さなハンカチでいいですから、とかなんとか逃げ切れなさそうであった。
みかねてジュリアが娘たちとロゼリアの間に割って入る。
「お辞めなさい、アンジュさまは困っておりますよ?秘密を聞き出そうとするのはもう少し個人的に親しくなってからではないですか?それに誰かの秘密を知ろうと思えば、あなたの秘密も差し出さねばならなくなりますよ?それでもいいのですか?」
キャーと悲鳴に似た歓声があがる。
「自分の秘密を男に差し出すとは、いったい我が妹は何を言い出すんだ。アンジュ、ジュリアの言うことをきくんじゃないいぞ」
ジルコンもロゼリア以上に腰が引けている。
本当に、彼女は自分と同じ年なのだろうか?と思うほどジュリアは惚れ惚れするほど、しっかりしている。
ずいと、ジュリアはジルコンに体を寄せ、扇子で口元を隠した。
縁を水鳥の胸毛で優雅に縁取ったふわふわの羽の扇子は、D国から取り寄せたものである。
「姫たちが個人的にアンジュ殿にお近づきになろうとするのを邪魔するのですか?まったく、アンジュに対するお兄さんの寵愛ぶりは心配になるわ!お兄さまは、今まで特にお気に入りを作るタイプではなかった分、彼に注目を集めてしまっているわよ?」
「彼は、俺の婚約者の兄だからだろ。いずれ身内になるものを傍においてもおかしくはないだろう」
「王都でのマーケットで二人で護衛を巻き、お忍びデートをされていた噂も聞きましたよ。デートといえば、パジャンのラシャール殿も、劇場を男性と二人で見られたとかで、男性が趣味だとかそういう噂も耳にしましたけれども」
「ラシャールがそういう趣味だって!?」
ジルコンは、口にしたものを噴出しかける。
ひそひそ話のはずが、ジルコンの声は大きい。
端で談笑していたラシャールに一斉に視線が向けられた。
娘たちの視線に気が付いたラシャールがわけがわからないまでも、いつも行動を共にしているアリシャンと共に、笑顔を返す。それを見て、ふたたびキャーと悲鳴に似た歓声があがったのであった。
ひとしきり兄の反応を楽しむと、ジュリアは体を離した。
ぐるりと会場全体へ、ジルコンとよく似たアーモンドのようなくっきりとした目を走らせた。
「ところで、ウォラスは?最近話をしてくれなくなって、今日こそはと思ったのだけど会場にはいなさそうだわ?さきほどまで説明してくださっていたのに」
会場にはホストのウォラスの姿は既にない。
さらに女官も一人いなかったのだが。
「ジュリア、ウォラスに関心をもつのはもう辞めておけよ?最近、あいつは少々乱れているからな」
そういわれて、ジュリアは表情を曇らせた。
兄妹同士では、自分では直視したくないことを、直截に指摘し合えた。
「噂は、噂にすぎないわ」
「だが、火のないところにけむりは立たないというからな。誤解されるようなことをウォラスはしているのだろう」
「ウォラスは昔は真面目な方だったのに……」
ジュリアはそうため息とともにつぶやくと、ロゼリアを見た。
「ウォラスの次のターゲットはあなたという噂ですから、ご身辺にお気を付けてね」
ロゼリアのよくわからないという顔をみて、ジルコンが付けたす。
「大人の宮廷遊びに巻き込まれるな、ということだ。そんな遊びにここにいる姫や王子たちを巻き込むほど馬鹿ではないと信じてはいるが……」
「ウォラスさまになら巻き込まれたいです」
そう顔をあからめていう娘もいる。
「ウォラスさまにならわたしだって」
つぎつぎ名乗りが上がっていく。
今夜は酒が振舞われている。
姫たちの舌も緩くなっているようだった。
0
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる