90 / 101
第5夜 鳳の羽
39、暴露
しおりを挟む
「俺が若にお前を譲ったのも、お前のことを大事にしてくれるだろうと思ったんだが、こんな危険な場所に閉じ込め、アヤハのような女に見くびられている。幽閉されたような牢獄から飛び出して俺のところに来るか?……いや、若は俺がほしがれば奪いたがる。昔からそうだったな。お前がホオノキから落ちたとき、俺が慌てて助けに行かなければ、若も、お前を思い出すこともなかっただろう。若は、いやお前は、お前が作る桜羽布と同じなんだろう。見れば欲しくなる」
「……助けたのは自分だとダイゴは言っていたわ」
「あいつは、おいしいところどを横取りしていくヤツだっただろう?他にも兄弟がいるにも関わらず、族長に納まっているところからしても、うまくとりなすのが上手だということだ」
ヒロが、ダイゴをあしざまにいうのを聞くのは初めてだった。
世渡りが下手な自分とは違うと言わんばかりの苦々しさがヒロの言葉ににじみ出る。
「とにかく、都の太閤さまは桃山に大鳥の職人を連れてこいと必死になっている。何人か密かに送り込んだという者たちは失敗しているからな。連れてきたもの、連れてこられたもの、双方に身体の目方と同じだけの金をくださるそうだ」
「わたしを拐かすつもり?」
ヒロはどこまで本気なのかにやりと笑い、首をかしげて思案してみせた。
「いや、それだと道中が、なだめたりすかしたり縛ったりしなくてはならなくてやっかいだろ。どうせなら自ら望んだほうがいいな」
「いったいどこまで本気なのよ」
わたしが笑っても、ヒロは眼の奥を闇に沈ませた。
わたしは遠くを眺めては翼をはためかせる想像はしても、実際に出て行こうと思ったことがないことに気が付いた。
「病気の母を残していけないわ」
「それもそうだろうな。娘をよろしくと言っていたよ」
「見舞ってくれたの?」
「俺たちは夫婦も同然の関係だったし、ミイナの母だろ。俺も世話になった。何も今すぐとはいわない。お前の母が落ち着いたら、もう一度同じことを聞いてやる」
「でも、わたしは……」
ヒロは手を伸ばしてわたしの頬に触れたが、すぐさま足元に置いていた風呂敷の荷物をぶっきらぼうにわたしの胸に押しつけた。
見た目ほど重くはないが、黒羽の束だとわかれば、相当重い。
「これは……?」
「土産。抜け落ちるのを拾い集めていた。紡ぐなり、捨てるなりなんなりしてくれ」
「こんな、貴重な……」
胸に熱い塊がこみ上げてくるのをとどめる最後の防波堤が崩れていく。
涙があふれだし、鼻水をすすり上げた。
「ヒロ、わたしは一緒にいけない。太閤さまが欲しがる桜羽布の原料の染色技術は教えることはできないから。だって、それは染めているわけじゃないのよ」
「染めてないとはどういうことだ?」
答えの代わりに背中から大きな淡く輝く大きな翼を広げるイメージを膨らませた。
背中に軽い痛みが走ったかと思うと、わたしの秘密がその場にやわらかく広がった。
「……まさか。成ったのか?なんて美しい桜の花の吹雪の中にいるようだ……」
ヒロは興奮を隠しきれなかった。
ヒロもわたしの本来の姿に呼応するように身体をぶるりと震わせ黒羽を闇夜に突き刺すように伸ばした。
「これで作っていたのか。これじゃあ教えることもできないな。桜羽布はお前だけのものだ」
ようやく合点がいったようだった。
「気持ち悪いでしょう」
「はあ?確かに珍しい色味だがありえないわけじゃないだろ?ミイナは眼も我らと違って夜明けを待つ空の色。髪は太陽の元では黄金のように煌めく」
手のひらがわたしの頬を支えた。
「……助けたのは自分だとダイゴは言っていたわ」
「あいつは、おいしいところどを横取りしていくヤツだっただろう?他にも兄弟がいるにも関わらず、族長に納まっているところからしても、うまくとりなすのが上手だということだ」
ヒロが、ダイゴをあしざまにいうのを聞くのは初めてだった。
世渡りが下手な自分とは違うと言わんばかりの苦々しさがヒロの言葉ににじみ出る。
「とにかく、都の太閤さまは桃山に大鳥の職人を連れてこいと必死になっている。何人か密かに送り込んだという者たちは失敗しているからな。連れてきたもの、連れてこられたもの、双方に身体の目方と同じだけの金をくださるそうだ」
「わたしを拐かすつもり?」
ヒロはどこまで本気なのかにやりと笑い、首をかしげて思案してみせた。
「いや、それだと道中が、なだめたりすかしたり縛ったりしなくてはならなくてやっかいだろ。どうせなら自ら望んだほうがいいな」
「いったいどこまで本気なのよ」
わたしが笑っても、ヒロは眼の奥を闇に沈ませた。
わたしは遠くを眺めては翼をはためかせる想像はしても、実際に出て行こうと思ったことがないことに気が付いた。
「病気の母を残していけないわ」
「それもそうだろうな。娘をよろしくと言っていたよ」
「見舞ってくれたの?」
「俺たちは夫婦も同然の関係だったし、ミイナの母だろ。俺も世話になった。何も今すぐとはいわない。お前の母が落ち着いたら、もう一度同じことを聞いてやる」
「でも、わたしは……」
ヒロは手を伸ばしてわたしの頬に触れたが、すぐさま足元に置いていた風呂敷の荷物をぶっきらぼうにわたしの胸に押しつけた。
見た目ほど重くはないが、黒羽の束だとわかれば、相当重い。
「これは……?」
「土産。抜け落ちるのを拾い集めていた。紡ぐなり、捨てるなりなんなりしてくれ」
「こんな、貴重な……」
胸に熱い塊がこみ上げてくるのをとどめる最後の防波堤が崩れていく。
涙があふれだし、鼻水をすすり上げた。
「ヒロ、わたしは一緒にいけない。太閤さまが欲しがる桜羽布の原料の染色技術は教えることはできないから。だって、それは染めているわけじゃないのよ」
「染めてないとはどういうことだ?」
答えの代わりに背中から大きな淡く輝く大きな翼を広げるイメージを膨らませた。
背中に軽い痛みが走ったかと思うと、わたしの秘密がその場にやわらかく広がった。
「……まさか。成ったのか?なんて美しい桜の花の吹雪の中にいるようだ……」
ヒロは興奮を隠しきれなかった。
ヒロもわたしの本来の姿に呼応するように身体をぶるりと震わせ黒羽を闇夜に突き刺すように伸ばした。
「これで作っていたのか。これじゃあ教えることもできないな。桜羽布はお前だけのものだ」
ようやく合点がいったようだった。
「気持ち悪いでしょう」
「はあ?確かに珍しい色味だがありえないわけじゃないだろ?ミイナは眼も我らと違って夜明けを待つ空の色。髪は太陽の元では黄金のように煌めく」
手のひらがわたしの頬を支えた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
心を失った彼女は、もう婚約者を見ない
基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。
寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。
「こりゃあすごい」
解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。
「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」
王太子には思い当たる節はない。
相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。
「こりゃあ対価は大きいよ?」
金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。
「なら、その娘の心を対価にどうだい」
魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。
家路を飾るは竜胆の花
石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。
夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。
ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。
作者的にはハッピーエンドです。
表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
(小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる