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第5夜 鳳の羽

39、暴露

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「俺が若にお前を譲ったのも、お前のことを大事にしてくれるだろうと思ったんだが、こんな危険な場所に閉じ込め、アヤハのような女に見くびられている。幽閉されたような牢獄から飛び出して俺のところに来るか?……いや、若は俺がほしがれば奪いたがる。昔からそうだったな。お前がホオノキから落ちたとき、俺が慌てて助けに行かなければ、若も、お前を思い出すこともなかっただろう。若は、いやお前は、お前が作る桜羽布と同じなんだろう。見れば欲しくなる」
「……助けたのは自分だとダイゴは言っていたわ」
「あいつは、おいしいところどを横取りしていくヤツだっただろう?他にも兄弟がいるにも関わらず、族長に納まっているところからしても、うまくとりなすのが上手だということだ」

 ヒロが、ダイゴをあしざまにいうのを聞くのは初めてだった。
 世渡りが下手な自分とは違うと言わんばかりの苦々しさがヒロの言葉ににじみ出る。

「とにかく、都の太閤さまは桃山に大鳥の職人を連れてこいと必死になっている。何人か密かに送り込んだという者たちは失敗しているからな。連れてきたもの、連れてこられたもの、双方に身体の目方と同じだけの金をくださるそうだ」
「わたしを拐かすつもり?」

 ヒロはどこまで本気なのかにやりと笑い、首をかしげて思案してみせた。

「いや、それだと道中が、なだめたりすかしたり縛ったりしなくてはならなくてやっかいだろ。どうせなら自ら望んだほうがいいな」
「いったいどこまで本気なのよ」

 わたしが笑っても、ヒロは眼の奥を闇に沈ませた。
 わたしは遠くを眺めては翼をはためかせる想像はしても、実際に出て行こうと思ったことがないことに気が付いた。

「病気の母を残していけないわ」
「それもそうだろうな。娘をよろしくと言っていたよ」
「見舞ってくれたの?」
「俺たちは夫婦も同然の関係だったし、ミイナの母だろ。俺も世話になった。何も今すぐとはいわない。お前の母が落ち着いたら、もう一度同じことを聞いてやる」
「でも、わたしは……」

 ヒロは手を伸ばしてわたしの頬に触れたが、すぐさま足元に置いていた風呂敷の荷物をぶっきらぼうにわたしの胸に押しつけた。
 見た目ほど重くはないが、黒羽の束だとわかれば、相当重い。

「これは……?」
「土産。抜け落ちるのを拾い集めていた。紡ぐなり、捨てるなりなんなりしてくれ」
「こんな、貴重な……」

 胸に熱い塊がこみ上げてくるのをとどめる最後の防波堤が崩れていく。
 涙があふれだし、鼻水をすすり上げた。

「ヒロ、わたしは一緒にいけない。太閤さまが欲しがる桜羽布の原料の染色技術は教えることはできないから。だって、それは染めているわけじゃないのよ」
「染めてないとはどういうことだ?」

 答えの代わりに背中から大きな淡く輝く大きな翼を広げるイメージを膨らませた。
 背中に軽い痛みが走ったかと思うと、わたしの秘密がその場にやわらかく広がった。

「……まさか。成ったのか?なんて美しい桜の花の吹雪の中にいるようだ……」

 ヒロは興奮を隠しきれなかった。
 ヒロもわたしの本来の姿に呼応するように身体をぶるりと震わせ黒羽を闇夜に突き刺すように伸ばした。

「これで作っていたのか。これじゃあ教えることもできないな。桜羽布はお前だけのものだ」
 ようやく合点がいったようだった。

「気持ち悪いでしょう」
「はあ?確かに珍しい色味だがありえないわけじゃないだろ?ミイナは眼も我らと違って夜明けを待つ空の色。髪は太陽の元では黄金のように煌めく」

 手のひらがわたしの頬を支えた。

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