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第3話 真珠を得る者
37、ラブラドのふた粒真珠
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ダンスの時間だった。
エドが用意した華やかな者たちが三組ほど現れ、男性のエスコートで体も露な美人が会場に現れる。一礼をすると楽団の娘たちの音楽でダンスを始める。スタイルも抜群で、切れがあり華やかな魅せるプロのダンサー達であった。
一曲終えると彼らは散り散りとなり客の手をとりダンスの輪に引き込んだ。
ラズもそのタイミングでダンスの輪に入る段取りである。
いずれの女性客を一番に誘おうかと思い、数歩進めた時には、うさぎ耳のボリビアの王弟に横から腕を捕まれていた。
「わたしと踊ってもらえないか?」
有無を言わさず強引に軌道を変えられてダンスの輪に引き込まれた。
ボリビアの王弟はしっかりラズの腰を引き寄せてリードする。ラズは逆らおうと少し試みるがすぐに無駄だと諦める。
うさぎ耳がシディとどういう関係かはわからないが、ボリビアの王族だろうと思う。
戦士の手をした王族。
シディも戦場に出たことがあると寝物語に聞いたことがある。ボリビアの大多数の国民は真面目で実直。
国民性そのままの戦い方は猪突猛進で堅実であるが、そこに戦略に長けた王弟ザラとぶっとんだオーガイト王という二柱の鬼神が加わることにより、戦場にでれば無敗を続けているという。
この戦士の手をした男は、ザラ王弟か、はたまた王その人か。
笑みを浮かべる薄い口もとと対照的な、仮面の奥の、心を見透かすような目にラズは生唾を飲み緊張する。
強引なリードの前にラズは、自然と女性のパートを踊ることになった。
男同士のダンスであるが、屈強なうさぎ耳と茶トラのラズが金の髪をふわりとなびかせて優雅に踊るので、不思議な艶があるダンスになる。
「あなたはたおやかで美しいな!ははっ、男への誉め言葉ではないか!」
ザラ王弟は自分の発言に自嘲気味に笑う。とはいえ、腰を引き寄せて耳に口を寄せた。
ダンスは誰にも聞かれない話ができる。
「あいつはどこであなたと知り合った?ラブラドの楽器屋の息子と甥が知り合うとは思えん」
ラズは答えあぐねる。シディがどこまで話しているかわからないからだ。
シディを甥だということは、この男はザラ王弟だと知る。
「ラブラドの収穫祭で意気投合しました。歌と花とダンスで溢れ、老いも若きも参加して、若者たちはうたかたの恋に酔しれます。
そのラブラドの祭りの時期に毎年会っておりました。
その時はまだわたしも幼くて、彼が異国人だということだけしかわかりませんでした」
慎重に答えた。
「毎年、西に出ていたがお前に会いにいっていたのか?あいつは異性愛者だと思っていたが、ボリビアの王族の色好みはオーガイトからきちんと引き継いでいるようだな!」
「出会ったときは、わたしは女装しておりましたので」
「は?」
ザラ王弟はまじまじとラズを見る。
「女装で潜入していたボリビアの王子をお前は落したのか!」
「ボリビアの王子とは思いもしませんでしたので、、、」
こっそり話していたことを忘れ、ザラは身をのけぞらして笑った。
あっけらかんとした豪快さにラズは好感を持ってしまう。
ひとしきを笑うと、再び耳元に口をよせ悪巧みをささやくようにいった。
「ほら、あそこの金のきつね。あなたと踊っているわたしを怒りを抑えて見ている我が若輩ものの甥と対になるかのように、物騒な妖気を脳天から立ち登らせているぞ!甥には言わないから教えてくれ。
金のきつねはお前のかつての情夫か?」
ラズもそのつき刺すようなジュードの視線を感じている。
「じ、情夫、、、。彼は知らない。誰かと勘違いしているのではないかと思う」
「誰と?」
ボリビアの男は間近でラズを愛でた。
二人の視線が息のかかる距離で探り合う。
強引に踊らされるダンスで、ラズの頬は上気し、まるで内側から発光する真珠のような玉の肌であった。
同じ男の肌とは思えない頬を擦り寄せたくなる肌である。
曲が終わった。
パートナーのチェンジに二人は離れる。
ラズはその問いに答えない代わりに王弟に言う。
「シディに僕を絶対に落札してって伝えて。僕の居場所はシディの横にしかない」
先程ザラが踊りながら会場の様子を見るに、このラブラドの若者を何がなんでも手にいれようと睨んでいるのは、シディと金のきつねの二人である。
二人ともが彼を得られる訳ではない。
シディは絶対に取り返すつもりのようだが、果たして金のきつねはどれだけの覚悟があるのか。
その金のきつねは曲が始まる前に、奪うようにラズの手を取る。
再びラズは女性パートになった。
ラズは諦めたのか大人しく踊る。
ボリビアの王弟はふとよぎった考えを反芻する。
第一王子である甥をシディと親しげに呼ぶものは、知る限り誰もいなかった。
甥が、そう呼ぶのを許すほどこの美しい奴隷に入れあげているのがわかった。
つい数か月前まで、オブシディアンはラブラド凋落に潜伏していた。
見事、奴隷を扇動して王族をボリビアの息のかかるものとすげ替えることに成功していたが、その最後はラブラドの王子の誅殺という血が流された後味の悪い幕引きだった。
その処刑された王子には双子の姫がいて、中原の美姫と誉れ高く、オーガイト王の食指も動いていた。
双子はラブラドのふた粒真珠とたとえられ、二人揃うと並ぶものなき美しさだったという。
オーガイト王も報告をきき、王子が死んだことを残念がっていたのだった。
ラブラドの真珠はふた粒真珠。
真珠のような肌をしたラブラドの若者。
「まさかな」
ザラ王弟は閃いた美しい商品の正体に総毛立ったのだった。
エドが用意した華やかな者たちが三組ほど現れ、男性のエスコートで体も露な美人が会場に現れる。一礼をすると楽団の娘たちの音楽でダンスを始める。スタイルも抜群で、切れがあり華やかな魅せるプロのダンサー達であった。
一曲終えると彼らは散り散りとなり客の手をとりダンスの輪に引き込んだ。
ラズもそのタイミングでダンスの輪に入る段取りである。
いずれの女性客を一番に誘おうかと思い、数歩進めた時には、うさぎ耳のボリビアの王弟に横から腕を捕まれていた。
「わたしと踊ってもらえないか?」
有無を言わさず強引に軌道を変えられてダンスの輪に引き込まれた。
ボリビアの王弟はしっかりラズの腰を引き寄せてリードする。ラズは逆らおうと少し試みるがすぐに無駄だと諦める。
うさぎ耳がシディとどういう関係かはわからないが、ボリビアの王族だろうと思う。
戦士の手をした王族。
シディも戦場に出たことがあると寝物語に聞いたことがある。ボリビアの大多数の国民は真面目で実直。
国民性そのままの戦い方は猪突猛進で堅実であるが、そこに戦略に長けた王弟ザラとぶっとんだオーガイト王という二柱の鬼神が加わることにより、戦場にでれば無敗を続けているという。
この戦士の手をした男は、ザラ王弟か、はたまた王その人か。
笑みを浮かべる薄い口もとと対照的な、仮面の奥の、心を見透かすような目にラズは生唾を飲み緊張する。
強引なリードの前にラズは、自然と女性のパートを踊ることになった。
男同士のダンスであるが、屈強なうさぎ耳と茶トラのラズが金の髪をふわりとなびかせて優雅に踊るので、不思議な艶があるダンスになる。
「あなたはたおやかで美しいな!ははっ、男への誉め言葉ではないか!」
ザラ王弟は自分の発言に自嘲気味に笑う。とはいえ、腰を引き寄せて耳に口を寄せた。
ダンスは誰にも聞かれない話ができる。
「あいつはどこであなたと知り合った?ラブラドの楽器屋の息子と甥が知り合うとは思えん」
ラズは答えあぐねる。シディがどこまで話しているかわからないからだ。
シディを甥だということは、この男はザラ王弟だと知る。
「ラブラドの収穫祭で意気投合しました。歌と花とダンスで溢れ、老いも若きも参加して、若者たちはうたかたの恋に酔しれます。
そのラブラドの祭りの時期に毎年会っておりました。
その時はまだわたしも幼くて、彼が異国人だということだけしかわかりませんでした」
慎重に答えた。
「毎年、西に出ていたがお前に会いにいっていたのか?あいつは異性愛者だと思っていたが、ボリビアの王族の色好みはオーガイトからきちんと引き継いでいるようだな!」
「出会ったときは、わたしは女装しておりましたので」
「は?」
ザラ王弟はまじまじとラズを見る。
「女装で潜入していたボリビアの王子をお前は落したのか!」
「ボリビアの王子とは思いもしませんでしたので、、、」
こっそり話していたことを忘れ、ザラは身をのけぞらして笑った。
あっけらかんとした豪快さにラズは好感を持ってしまう。
ひとしきを笑うと、再び耳元に口をよせ悪巧みをささやくようにいった。
「ほら、あそこの金のきつね。あなたと踊っているわたしを怒りを抑えて見ている我が若輩ものの甥と対になるかのように、物騒な妖気を脳天から立ち登らせているぞ!甥には言わないから教えてくれ。
金のきつねはお前のかつての情夫か?」
ラズもそのつき刺すようなジュードの視線を感じている。
「じ、情夫、、、。彼は知らない。誰かと勘違いしているのではないかと思う」
「誰と?」
ボリビアの男は間近でラズを愛でた。
二人の視線が息のかかる距離で探り合う。
強引に踊らされるダンスで、ラズの頬は上気し、まるで内側から発光する真珠のような玉の肌であった。
同じ男の肌とは思えない頬を擦り寄せたくなる肌である。
曲が終わった。
パートナーのチェンジに二人は離れる。
ラズはその問いに答えない代わりに王弟に言う。
「シディに僕を絶対に落札してって伝えて。僕の居場所はシディの横にしかない」
先程ザラが踊りながら会場の様子を見るに、このラブラドの若者を何がなんでも手にいれようと睨んでいるのは、シディと金のきつねの二人である。
二人ともが彼を得られる訳ではない。
シディは絶対に取り返すつもりのようだが、果たして金のきつねはどれだけの覚悟があるのか。
その金のきつねは曲が始まる前に、奪うようにラズの手を取る。
再びラズは女性パートになった。
ラズは諦めたのか大人しく踊る。
ボリビアの王弟はふとよぎった考えを反芻する。
第一王子である甥をシディと親しげに呼ぶものは、知る限り誰もいなかった。
甥が、そう呼ぶのを許すほどこの美しい奴隷に入れあげているのがわかった。
つい数か月前まで、オブシディアンはラブラド凋落に潜伏していた。
見事、奴隷を扇動して王族をボリビアの息のかかるものとすげ替えることに成功していたが、その最後はラブラドの王子の誅殺という血が流された後味の悪い幕引きだった。
その処刑された王子には双子の姫がいて、中原の美姫と誉れ高く、オーガイト王の食指も動いていた。
双子はラブラドのふた粒真珠とたとえられ、二人揃うと並ぶものなき美しさだったという。
オーガイト王も報告をきき、王子が死んだことを残念がっていたのだった。
ラブラドの真珠はふた粒真珠。
真珠のような肌をしたラブラドの若者。
「まさかな」
ザラ王弟は閃いた美しい商品の正体に総毛立ったのだった。
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