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プロローグ 侵略者と傍観者
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プロローグ 侵略者と傍観者
宇宙暦44002.3 ウルフ359星系 …
「我々はボーグ。シールドを下ろし降伏せよ。お前たちの生物的特徴と技術的特性は我々に同化される。お前たちの文明は我々の一部となる。抵抗は無意味だ」 ボーグキューブはニューオリンズ級宇宙艦キュウシュウに「興味」を持つ。
ロキュータスの視線が宇宙艦に注がれると連動して、キューブからスキャンビームが放出される。このままスキャンが終了すれば、直後にシールドの無効化、攻撃、そして同化だ。ダニエル艦長はスキャンが完了する前に、攻撃を命令した。
「オルソン大尉、光子魚雷発射だ」 3発の光子魚雷がボーグキューブに命中するが、緑色の光が飛び散りバリアが姿を見せるだけで本体は無傷だ。すでにボーグは光子魚雷の能力を学習しているのだ。
「艦長 光子魚雷が全く効いていません」オルソン大尉は報告するが、その声は恐怖に満ちていた。死、自我の消失が怖いのだ。
「艦長 シールドダウン」オルソン大尉は悲鳴のように艦長へ報告した。
「ソレク少尉、ワープ8 全出力で離脱しろ」ダニエル艦長は船を操縦するヴァルカン人士官に指示を出す。 少尉がパネルに触れている手を前に動かすと、ワープコア内で「物質/反物質反応」が起こりワープ航行が開始された。しかしその加速はすぐに停止させられた。大きな振動が船内に生じてクルーは倒れてしまう。
「艦長、トラクタービームです。離脱できません」感情をコントロールしているヴァルカン人ですら、迫りくる力に恐怖した。 ボーグは540.7メートルの船体を網にかけた魚のように捕られ。そしてゆっくりと確実にキューブへとたぐり寄せていく。
「全クルーに告げる。この船はもう動かない。船内にボーグドローンが現れるのも時間の問題だ。レヴィア副長、ブリッジから船内へ繋がるリンクを全て切ろ 全員脱出だ」
ダニエル艦長はターボリフトを指さして、アンドリア人副長へ指示を出した。しかしダニエル艦長は席に座ったままだ。レヴィア副長は無言で艦長の目を見た。 「私は残る。副長、君がクルーの脱出を指揮するのだ。頼んだぞ」 ダニエル艦長の揺るがない決意を感じ、レヴィア副長はブリッジのクルーをターボリフトに誘導する。クルーが走っていく空間が歪みはじめる。ボーグドローン達が転送されてきたのだ。 ターボリフトの扉が閉まり副長がリフトを動かした時、ボーグドローン達が完全に姿を現した。ダニエル艦長を囲んでいる。ドローン達は無言で艦長に近づくが、ドローンの一人は別の方向へ歩いていく。艦のコントロールを奪うために、アサミリレーション・チューブを突き出し操作パネルを狙っているのだ。艦の各ブロックへのリンクは切ってあるが、彼らの技術なら直ぐにリンクを繋いでしまうだろう。クルーの脱出時間を稼ぐため、ダニエル艦長は腰のハンドフェイザーを右手に持った。光線を撃つためではない。フェイザー出力を最大限に上げて暴発させた。 その衝撃は移動中のターボリフトを揺らし、ブリッジのクルー達の足元はバランスを崩した。
皆は壁に寄りかかりながらも何とか立っていた。艦長の死を悲しむ時間はない。心を落ち着かせてアンドリア人副長のレヴィアは胸にあるコミュニケーターを叩くが、自分が口を開く前にクルー達の悲鳴が耳に入ってきた。
「艦長、ドローンが転送されています。フェイザーが効かない... このままでは...」 「これは... これでは全員... 同化されてしまう」
「針だ、針を刺してきた あっ…」
USSキュウシュウブリッジ… ダニエル艦長の命を犠牲にし、艦のブリッジは火の海になっていた。しかし倒れたドローンは直ぐに起き上がると、損壊された電子機器の再接続をはじめ、艦のコントロールをブロックごとに一つずつ奪い始めた。ボーグの脅威は終わらない。 ブリッジのクルーを乗せたターボリフトの照明が消えて移動が停止した。ボーグが船を完全に掌握したのだ。そしてターボリフトのドアが硬い金属音を立ててねじ曲がると、ボーグの腕が伸びてきた。ボーグの手はそのままオルソン大尉の腕を握った。筋肉のない腕だがその力は訓練を重ねて鍛えられたオルソン大尉の腕力を上回り、アサミリレーション・チューブを大尉の腕に突き刺す。大尉の体内にナノプローブが注ぎ込まれて、体色はグレーに染まる。
場所が特定されていないエリア…
そこにはワームホールがある。その入口に一隻のロミュラン船が留まっていた。巨大な船体を持つディデリデクス級ロミュランウォーバードは、ウルフ359の戦いを静かに観察していたのだ。
「提督、USSキュウシュウが活動停止しました」淡々とした口調の男の声が聞こえた。
「現在活動中の宇宙艦は?」冷たい口調で話す女が質問した。
「現在28隻の連邦宇宙艦がボーグキューブを攻撃中です」淡々とした口調のまま、男は答えた。
「少佐、ゲート封鎖だ」冷たい口調の女は少佐と呼ばれる女に命令した。
「しかし、まだ戦闘は継続しています」少佐と呼ばれる女は、命令の公正さを確認する。しかしその言葉を遮るように 「閉鎖だ‼」冷たい女の声が強い口調に変わり言った。 ディデリデクス級のロミュランウォーバードはブラックホールを動力源とし活動する。ロミュラン船は惑星連邦の艦隊とボーグキューブの観察を終了し、ワームホール内へと入っていく。ワームホールの中心を通る限り、船内は安定する。しかしこのロミュラン船が持つブラックホールが、急にジェット流を起こし大エネルギーを発しながら暴走した。 その衝撃によりワームホール内の空間が歪み、穴は縮小されて宇宙空間から消えてしまった。
宇宙暦44002.3 ウルフ359星系 …
「我々はボーグ。シールドを下ろし降伏せよ。お前たちの生物的特徴と技術的特性は我々に同化される。お前たちの文明は我々の一部となる。抵抗は無意味だ」 ボーグキューブはニューオリンズ級宇宙艦キュウシュウに「興味」を持つ。
ロキュータスの視線が宇宙艦に注がれると連動して、キューブからスキャンビームが放出される。このままスキャンが終了すれば、直後にシールドの無効化、攻撃、そして同化だ。ダニエル艦長はスキャンが完了する前に、攻撃を命令した。
「オルソン大尉、光子魚雷発射だ」 3発の光子魚雷がボーグキューブに命中するが、緑色の光が飛び散りバリアが姿を見せるだけで本体は無傷だ。すでにボーグは光子魚雷の能力を学習しているのだ。
「艦長 光子魚雷が全く効いていません」オルソン大尉は報告するが、その声は恐怖に満ちていた。死、自我の消失が怖いのだ。
「艦長 シールドダウン」オルソン大尉は悲鳴のように艦長へ報告した。
「ソレク少尉、ワープ8 全出力で離脱しろ」ダニエル艦長は船を操縦するヴァルカン人士官に指示を出す。 少尉がパネルに触れている手を前に動かすと、ワープコア内で「物質/反物質反応」が起こりワープ航行が開始された。しかしその加速はすぐに停止させられた。大きな振動が船内に生じてクルーは倒れてしまう。
「艦長、トラクタービームです。離脱できません」感情をコントロールしているヴァルカン人ですら、迫りくる力に恐怖した。 ボーグは540.7メートルの船体を網にかけた魚のように捕られ。そしてゆっくりと確実にキューブへとたぐり寄せていく。
「全クルーに告げる。この船はもう動かない。船内にボーグドローンが現れるのも時間の問題だ。レヴィア副長、ブリッジから船内へ繋がるリンクを全て切ろ 全員脱出だ」
ダニエル艦長はターボリフトを指さして、アンドリア人副長へ指示を出した。しかしダニエル艦長は席に座ったままだ。レヴィア副長は無言で艦長の目を見た。 「私は残る。副長、君がクルーの脱出を指揮するのだ。頼んだぞ」 ダニエル艦長の揺るがない決意を感じ、レヴィア副長はブリッジのクルーをターボリフトに誘導する。クルーが走っていく空間が歪みはじめる。ボーグドローン達が転送されてきたのだ。 ターボリフトの扉が閉まり副長がリフトを動かした時、ボーグドローン達が完全に姿を現した。ダニエル艦長を囲んでいる。ドローン達は無言で艦長に近づくが、ドローンの一人は別の方向へ歩いていく。艦のコントロールを奪うために、アサミリレーション・チューブを突き出し操作パネルを狙っているのだ。艦の各ブロックへのリンクは切ってあるが、彼らの技術なら直ぐにリンクを繋いでしまうだろう。クルーの脱出時間を稼ぐため、ダニエル艦長は腰のハンドフェイザーを右手に持った。光線を撃つためではない。フェイザー出力を最大限に上げて暴発させた。 その衝撃は移動中のターボリフトを揺らし、ブリッジのクルー達の足元はバランスを崩した。
皆は壁に寄りかかりながらも何とか立っていた。艦長の死を悲しむ時間はない。心を落ち着かせてアンドリア人副長のレヴィアは胸にあるコミュニケーターを叩くが、自分が口を開く前にクルー達の悲鳴が耳に入ってきた。
「艦長、ドローンが転送されています。フェイザーが効かない... このままでは...」 「これは... これでは全員... 同化されてしまう」
「針だ、針を刺してきた あっ…」
USSキュウシュウブリッジ… ダニエル艦長の命を犠牲にし、艦のブリッジは火の海になっていた。しかし倒れたドローンは直ぐに起き上がると、損壊された電子機器の再接続をはじめ、艦のコントロールをブロックごとに一つずつ奪い始めた。ボーグの脅威は終わらない。 ブリッジのクルーを乗せたターボリフトの照明が消えて移動が停止した。ボーグが船を完全に掌握したのだ。そしてターボリフトのドアが硬い金属音を立ててねじ曲がると、ボーグの腕が伸びてきた。ボーグの手はそのままオルソン大尉の腕を握った。筋肉のない腕だがその力は訓練を重ねて鍛えられたオルソン大尉の腕力を上回り、アサミリレーション・チューブを大尉の腕に突き刺す。大尉の体内にナノプローブが注ぎ込まれて、体色はグレーに染まる。
場所が特定されていないエリア…
そこにはワームホールがある。その入口に一隻のロミュラン船が留まっていた。巨大な船体を持つディデリデクス級ロミュランウォーバードは、ウルフ359の戦いを静かに観察していたのだ。
「提督、USSキュウシュウが活動停止しました」淡々とした口調の男の声が聞こえた。
「現在活動中の宇宙艦は?」冷たい口調で話す女が質問した。
「現在28隻の連邦宇宙艦がボーグキューブを攻撃中です」淡々とした口調のまま、男は答えた。
「少佐、ゲート封鎖だ」冷たい口調の女は少佐と呼ばれる女に命令した。
「しかし、まだ戦闘は継続しています」少佐と呼ばれる女は、命令の公正さを確認する。しかしその言葉を遮るように 「閉鎖だ‼」冷たい女の声が強い口調に変わり言った。 ディデリデクス級のロミュランウォーバードはブラックホールを動力源とし活動する。ロミュラン船は惑星連邦の艦隊とボーグキューブの観察を終了し、ワームホール内へと入っていく。ワームホールの中心を通る限り、船内は安定する。しかしこのロミュラン船が持つブラックホールが、急にジェット流を起こし大エネルギーを発しながら暴走した。 その衝撃によりワームホール内の空間が歪み、穴は縮小されて宇宙空間から消えてしまった。
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