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戦間期
国葬
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④計画が始動する少し前の1934年5月30日。
東郷は死んだ。
かねてより多種多少な病気に蝕まれながらも86歳という長寿を全うした。
死地は故郷である鹿児島県鹿児島市だった。
東郷は最期に”この国を憂うことなく死ねる”と穏やかな顔で言ったという。
山本権兵衛はすでに昨年の12月に天に昇っており新・八八艦隊を計画した者は須らくこの世に居なくなってしまった。
「閣下が…亡くなったか」
伏見宮は残念そうに天を仰ぐ。
「すでに内閣では国葬の話も出ているようです」
堀の言葉に伏見宮はすぐに返した。
「日清、日露と我が国を勝利に導き、それでいて我々に航空機という新たな道を示してくれた御仁だ。最期は盛大に送り出すぞ」
「はっ」
堀は第2部の部長室に戻る途中、東郷に会った時のことを思い出した。
東郷は全てを話終えた時私を見て満足げに頷いていた。
今考えると自分の死期をさっとていたからではないのか。
自らの後を行く者たちを見て安心したからこそ満足げに頷いたのではないか。
ただ事の真相を知ることは出来ない。
「そうであってほしいな」
堀は部長室の椅子に座りそうつぶやいた。
国葬は6月5日に執り行われた。
海軍艦艇は半旗を掲げ弔砲を撃った。
またイギリスや対立中のアメリカなどからも艦艇が参加した。
誰もが東郷の死を悼み沈痛な空気が漂った。
国葬は滞りなく行われ日露戦争の表の英雄はあの世へ送られた。
裏の英雄は東郷は連合艦隊司令長官に急遽任命した山本権兵衛である。
伏見宮は東郷の死を”世代交代の号砲”と捉え自分も身を引くことを密かに決意していた。
ただ後任をどうするかが問題だった。
出来れば堀にしたいと思っていたが流石に年齢や階級の面から叶わなかった。
そして次に考えたのが永野修身だった。
永野は去年付で大将に昇進しておりまた軍令部次長の勤務経験もあった。
そして何より航空主兵への理解も高かった。
ただ永野は海軍兵学校の校長を現在務めており抜本的な改革の途上だった。
具体的に言うと体罰の禁止や自主性を重んじる教育への変革であった。
この教育方法には伏見宮は懐疑的であったががここで永野が軍令部総長に転出し校長を辞め、再び教育方法を戻すというのは如何にも中途半端であった。
そこで伏見宮は永野を軍令部に呼び出し、内々に軍令部総長の就任と海軍兵学校の次期校長としてふさわしい人材を連れてくるように言いつけた。
そして永野は伊藤誠一少将を推挙し伏見宮は大きく頷いた。
そして1934年7月4日。
伏見宮は軍令部総長を辞職し永野がその職を受け継いだ。
東郷は死んだ。
かねてより多種多少な病気に蝕まれながらも86歳という長寿を全うした。
死地は故郷である鹿児島県鹿児島市だった。
東郷は最期に”この国を憂うことなく死ねる”と穏やかな顔で言ったという。
山本権兵衛はすでに昨年の12月に天に昇っており新・八八艦隊を計画した者は須らくこの世に居なくなってしまった。
「閣下が…亡くなったか」
伏見宮は残念そうに天を仰ぐ。
「すでに内閣では国葬の話も出ているようです」
堀の言葉に伏見宮はすぐに返した。
「日清、日露と我が国を勝利に導き、それでいて我々に航空機という新たな道を示してくれた御仁だ。最期は盛大に送り出すぞ」
「はっ」
堀は第2部の部長室に戻る途中、東郷に会った時のことを思い出した。
東郷は全てを話終えた時私を見て満足げに頷いていた。
今考えると自分の死期をさっとていたからではないのか。
自らの後を行く者たちを見て安心したからこそ満足げに頷いたのではないか。
ただ事の真相を知ることは出来ない。
「そうであってほしいな」
堀は部長室の椅子に座りそうつぶやいた。
国葬は6月5日に執り行われた。
海軍艦艇は半旗を掲げ弔砲を撃った。
またイギリスや対立中のアメリカなどからも艦艇が参加した。
誰もが東郷の死を悼み沈痛な空気が漂った。
国葬は滞りなく行われ日露戦争の表の英雄はあの世へ送られた。
裏の英雄は東郷は連合艦隊司令長官に急遽任命した山本権兵衛である。
伏見宮は東郷の死を”世代交代の号砲”と捉え自分も身を引くことを密かに決意していた。
ただ後任をどうするかが問題だった。
出来れば堀にしたいと思っていたが流石に年齢や階級の面から叶わなかった。
そして次に考えたのが永野修身だった。
永野は去年付で大将に昇進しておりまた軍令部次長の勤務経験もあった。
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具体的に言うと体罰の禁止や自主性を重んじる教育への変革であった。
この教育方法には伏見宮は懐疑的であったががここで永野が軍令部総長に転出し校長を辞め、再び教育方法を戻すというのは如何にも中途半端であった。
そこで伏見宮は永野を軍令部に呼び出し、内々に軍令部総長の就任と海軍兵学校の次期校長としてふさわしい人材を連れてくるように言いつけた。
そして永野は伊藤誠一少将を推挙し伏見宮は大きく頷いた。
そして1934年7月4日。
伏見宮は軍令部総長を辞職し永野がその職を受け継いだ。
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