神速艦隊

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海軍のデッドレース

航空機会社への投資

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1923年10月3日。
伏見宮は轟轟と雪が吹きすさぶ中東北の中島の工場に居た。
ユンカースの工場から技術供与を受ける都合上各社のの航空機工場が東北にあり中島飛行機のその1つだった。
「首相が航空会社に投資すると決まったそうだよ。中島君」
工場の待合室であたたかな茶をすすりながら伏見宮が話すのは中島知久平。
中島知久平はその名の通り中島航空機の創設者であり、また海軍の人間でありながら山本権兵衛と同じく航空機の可能性をかなり早い段階で感じ取っていた。
ただ彼は数年の間冷や飯を食わされ続け中島航空機を設立したのだ。
「それはそれは…ですが大丈夫なのですか?関東はかなりひどくやられたと聞いておりますが」
先月の1日に関東大震災が発生し関東一帯は灰燼に帰した。
「あぁ問題ない。何しろ我々海軍は26年までとは言わず28年まで大型艦の建造を中止したからな。それに今の財務大臣である高橋さんは軍需への投資は反発するが民間企業への投資は逆に強く押してくれた」
海軍は関東大震災の大惨事を見て”当分の大型艦建造は不可能”と判断。
それは復興にも金が掛かるからだが流石にただでは認めなかった。
海軍、というよりは伏見宮のが航空機会社への投資を政府に求めたのだ。
この時の内閣総理大臣は山本権兵衛でありこの求めはすぐに了承された。
「なるほどです。ですが今日はこのことを言いに来られたわけではないでしょう?」
中島の問いに伏見宮は頭を掻きながら言った。
「やはり中島君には敵わないな。実は折り入って頼みがあるのだ」
「その頼みとは?」
「液冷エンジンを積んだ航空機を開発してほしい」
この言葉に中島は驚きを隠せない。
「我が国の技術水準が欧米に比べて劣っているのは中将も分かっていらっしゃるでしょう。そんな我が国に空冷エンジンより技術的難易度が高い液冷エンジンを運用できるとは到底思えません」
中島はあくまで生産は可能であろうと考えていた。
だが生産して不具合が多発したならばそれは鉄屑以外に何物にもならないのだ。
「それは重々承知だ。だが今私が言っているのはあくまで開発だ。これを正式化して大量生産しようとは全く考えていない。君達航空機会社には失敗を積んでもらう。そしていつか満足のいく液冷機を生産できるようにしてもらう」
伏見宮は航空機は必ず速度が重要になると踏んでいた。
これは天城型巡洋戦艦と同じ発想である。
そのため速度が出る液冷エンジンの開発を要請したのだ。
「…そういうことでしたか。分かりました。ですがこちらからも条件を出させていただきます」
「ほう」
「ずばり工業製品の規格化です。統一された工業製品が無ければ安定した液冷エンジンなど夢のまた夢でしょう」
この言葉は東京へ戻る列車の中でも伏見宮に重くのしかかった。
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