連合艦隊司令長官、井上成美

建造と改装、そして開発

扶桑・伊勢型戦艦

扶桑・伊勢型戦艦は初の日本独自で設計された戦艦だった。
だが、建造からすでに20年が経過し旧式化が否めなかった。
そこで大砲屋の重鎮でもあった古賀峰一が扶桑・伊勢型の改装を海軍上層部に提案した。
これに軍令部総長の伏見宮は好意的に受け入れ改装が決まった。
この改装計画では扶桑・伊勢型を旧式艦から今日でも戦える艦とすることが目標とされた。
そして8月5日には計画の方向性が3つに絞られた。


扶桑・伊勢型改装案
甲案
基準排水量：32000トン
速力：26ノット
主砲：45口径41㎝連装砲4基
その他副砲類：40口径12.7㎝連装砲4基、50口径37㎜連装機関砲6基、25㎜3連装機銃8基（15㎝副砲は廃止）


乙案
基準排水量：31000トン
速力：26ノット
主砲：45口径41㎝連装砲3基
その他副砲類：40口径12.7㎝連装砲6基、50口径37㎜連装機関砲6基、25㎜3連装機銃12基（15㎝副砲は廃止）
射出甲板：煙突まで
艦載機数：20機から30機


丙案
基準排水量：32000トン
速力27ノット
対空兵装：40口径12.7㎝連装砲6基、50口径37㎜連装機関砲6基、25㎜3連装機銃8基
艦載機数：70機前後

甲案は順当に戦艦としての強化を、乙案は戦艦の砲火力を残しつつも航空機を運用する航空戦艦として、そして丙案は完全な空母として改装するものだった。
甲案を古賀が丙案を山本が支持しており、両者はどちらも一歩も引かない構えを見せた。
だがここで事態が一変する。
井上が乙案の支持を表明したのである。


「君は航空主兵主義者ではなかったかね？」
わざわざ長門まで出向いてきた山本が開口一番に井上に問う。
「無論、私は航空主兵主義者です。ですが、それは必ずしも空母という艦に偏重することを意味しません。」
「どういうことだ？」
「空母という艦種ははっきり言って脆弱です。」
山本が目を見開いたが井上は話を続ける。
「飛行甲板の下には戦艦で言う弾薬庫である格納庫があります。ここに爆弾が1つでも降ってきたらたちまち大爆発です。それに飛行甲板を破壊されれば空母はただの鉄の標的となります。」
山本は言葉に詰まる。
井上の指摘がかなり的を得ていると感じたからだ。
「ですから丙案を推したんです。丙案なら戦艦の強度と航空機の恩恵を同時に受けれますから。」
「…なるほど。確かにそうだ。」
「それに空母なら鷹型空母で十分でしょう。」
ここで山本は乙案の放棄を決めた。


9月には古賀との折り合いをつけ乙案での改装が始まった。
ブロック工法を導入しても1年ほどかかるが、これで41㎝砲搭載艦が一気に3倍に増えると考えると致し方なかった。