28 / 67
新型機受領
しおりを挟む
紫電改を信濃が受領したのは1943年の12月27日だった。
信濃の甲板には整備員や搭乗員が集まっていた。
「これが例の新型か。」
坂井が自らの機体に触れていた。
「零戦を全ての性能で超えています。」
柳谷が補足した。
「今日が初飛行か。できるか?柳谷。」
坂井が意地悪く笑った。
「もちろんですよ。隊長こそ零戦に慣れすぎて発艦できないんじゃないですか?」
柳谷も意趣を返した。
「まあいい。そろそろだ。」
ブザーが鳴り、搭乗員たちが操縦席に乗り込む。
『1番機発艦始め。』
その号令と共に坂井の機体がプロペラの回転数を上げていく。
そして大空に舞い上がり機体の確認を行う。
速度は十分だ。
では旋回はどうだ?
操縦桿を右に倒す。
零戦ほどではないがそこそこいい。
柳谷も上がってきた。
「どうだ柳谷。使いやすいか?」
『かなり使いやすいです。これで一撃離脱も行えるというものです。』
その時だった。
『!?なんだこれ!』
柳谷の声に坂井は彼の機体を見る。
エンジンから黒煙を噴いていた。
「おい!緊急着艦だ!」
「黒煙を噴いています!」
中曽根が心配そうに叫ぶ。
「着艦スペースを空けろ!発艦作業は中止だ!」
阿部はすぐに命令した。
すぐに機体が避けられていく。
柳谷の機体が甲板を捉えた。
「着艦成功!」
その報告に阿部は胸を下ろしたのとこの機体を使っていけるのかという心配に襲われた。
「どういうことだ!」
坂井が整備員の胸倉を掴む。
「潤滑油が…悪いんです。国産のは特に…。工業製品の品質の低下も…深刻です。」
整備員がそう言うと坂井を手を離した。
「すまんかった。ついかっとなった。」
もう、仲間を失うのは御免だ!
「司令、坂井中隊長から『機体の安全性がある程度まで我が隊はこの機体を扱えない』という意見書が出ています。他の隊も連名で。」
中曽根の言葉は阿部を大いに悩ませた。
今回の事はおそらく潤滑油が問題だろう。
その潤滑油さえ高品質なものが手に入ったらよいのだが…。
それが出来ないから今こうなってしまっている。
どうしたものか…。
「司令、私に一つ考えがあります。」
中曽根が阿部の心を読んだように言ってきた。
「陸軍の疾風は平均稼働率が紫電改よりも悪いものがあります。ですが、一部の部隊では87から100の稼働率を維持しています。」
それには阿部はとても驚いた。
「なにをやったらそんな稼働率が叩きだせるんだ?」
「飛行時間の管理や定期的なオーバーホールなど徹底的な整備を施した結果だそうです。」
「なるほど。定期的な交換か。ただそうすると部品の消費量が増えるだろう。」
そう言うと中曽根は阿部を正面に見据えた。
「部品など、作れば事足ります。ですが、人間はその一人一人に家族や友人が居ります。また航空機を動かすのは人間です。」
「…確かに君の言うとおりだ。ありがとう。私は人の道を踏む外さずに済んだよ。」
翌日から徹底的な整備が行われ、徐々に稼働率が上がっていきついに坂井は紫電改で信濃の上空を飛んだ。
信濃の甲板には整備員や搭乗員が集まっていた。
「これが例の新型か。」
坂井が自らの機体に触れていた。
「零戦を全ての性能で超えています。」
柳谷が補足した。
「今日が初飛行か。できるか?柳谷。」
坂井が意地悪く笑った。
「もちろんですよ。隊長こそ零戦に慣れすぎて発艦できないんじゃないですか?」
柳谷も意趣を返した。
「まあいい。そろそろだ。」
ブザーが鳴り、搭乗員たちが操縦席に乗り込む。
『1番機発艦始め。』
その号令と共に坂井の機体がプロペラの回転数を上げていく。
そして大空に舞い上がり機体の確認を行う。
速度は十分だ。
では旋回はどうだ?
操縦桿を右に倒す。
零戦ほどではないがそこそこいい。
柳谷も上がってきた。
「どうだ柳谷。使いやすいか?」
『かなり使いやすいです。これで一撃離脱も行えるというものです。』
その時だった。
『!?なんだこれ!』
柳谷の声に坂井は彼の機体を見る。
エンジンから黒煙を噴いていた。
「おい!緊急着艦だ!」
「黒煙を噴いています!」
中曽根が心配そうに叫ぶ。
「着艦スペースを空けろ!発艦作業は中止だ!」
阿部はすぐに命令した。
すぐに機体が避けられていく。
柳谷の機体が甲板を捉えた。
「着艦成功!」
その報告に阿部は胸を下ろしたのとこの機体を使っていけるのかという心配に襲われた。
「どういうことだ!」
坂井が整備員の胸倉を掴む。
「潤滑油が…悪いんです。国産のは特に…。工業製品の品質の低下も…深刻です。」
整備員がそう言うと坂井を手を離した。
「すまんかった。ついかっとなった。」
もう、仲間を失うのは御免だ!
「司令、坂井中隊長から『機体の安全性がある程度まで我が隊はこの機体を扱えない』という意見書が出ています。他の隊も連名で。」
中曽根の言葉は阿部を大いに悩ませた。
今回の事はおそらく潤滑油が問題だろう。
その潤滑油さえ高品質なものが手に入ったらよいのだが…。
それが出来ないから今こうなってしまっている。
どうしたものか…。
「司令、私に一つ考えがあります。」
中曽根が阿部の心を読んだように言ってきた。
「陸軍の疾風は平均稼働率が紫電改よりも悪いものがあります。ですが、一部の部隊では87から100の稼働率を維持しています。」
それには阿部はとても驚いた。
「なにをやったらそんな稼働率が叩きだせるんだ?」
「飛行時間の管理や定期的なオーバーホールなど徹底的な整備を施した結果だそうです。」
「なるほど。定期的な交換か。ただそうすると部品の消費量が増えるだろう。」
そう言うと中曽根は阿部を正面に見据えた。
「部品など、作れば事足ります。ですが、人間はその一人一人に家族や友人が居ります。また航空機を動かすのは人間です。」
「…確かに君の言うとおりだ。ありがとう。私は人の道を踏む外さずに済んだよ。」
翌日から徹底的な整備が行われ、徐々に稼働率が上がっていきついに坂井は紫電改で信濃の上空を飛んだ。
1
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです
風を翔る
ypaaaaaaa
歴史・時代
彼の大戦争から80年近くが経ち、ミニオタであった高萩蒼(たかはぎ あおい)はある戦闘機について興味本位で調べることになる。二式艦上戦闘機、またの名を風翔。調べていく過程で、当時の凄惨な戦争についても知り高萩は現状を深く考えていくことになる。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる