信濃の大空

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ビアク空襲

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5月31日、午前6時。
二航戦所属の三空母の甲板上では慌ただしく整備兵たちが艦載機の最終調整をしており、搭乗員たちは艦橋近くで飛行隊長からの作戦概要を聞いていた。
誰もが覚悟の決まった顔つきだった。
「艦長、全機発艦準備完了いたしました。」
副艦長が阿部に報告した。
阿部は瞑っていた目をゆっくりと開いて命令を下す。
「全機、発艦!」
その号令から少し間をおいて一番機が飛行甲板を滑るように進み、そして大空に舞っていく。
これを皮切りに2番機、3番機と発艦する。
他の2隻の空母も同様に次々と海鷲達が母艦を飛び出して敵地に飛んで行った。
阿部はその様子をただ静かに眺めていた。


ビアクはニューギニアに近い比較的大きな島だった。
この島には飛行場も存在しており、フィリピン解放を掲げる連合軍がここを狙うのは必然だった。
そのため、大本営は葛目直幸大佐率いるビアク支隊をはじめとするかなりの防衛兵力を配置していた。
少し時は戻って5月27日。
米軍を中核とする連合軍は25000を超える兵力でもって上陸を開始。
事前に行われた空襲や艦砲射撃によって現地兵士は日本軍の大半は消滅していると踏んでいた。
そして上陸が開始される。
「指揮官が大佐となれば敵の兵力は2000程だろう。そこに先ほどの事前攻撃が加わりもうすでに日本軍は抵抗戦力を失っているはずだ。長引いても1週間で落とせるな。」
アメリカ陸軍第41歩兵師団師団長のホレース・ヒュラー少将はそう豪語する。
彼の判断は情報局からもたらされた敵指揮官の情報と目前で行われている上陸戦での無抵抗さによって裏打ちされていた。
だが、次の瞬間飛行場制圧に向かっていた部隊で爆発が起こった。
「なんだ!?どうなっている?」
ヒュラーはそう通信兵に問うた。
「日本軍の攻撃により、第162歩兵連隊と第186歩兵連隊にて損害が発生しています!すでに先頭にいたM4戦車が一両撃破されました!」
「なんだと!?やつらのどこにそんな反撃能力が残っているというのか!」
ヒュラーはそう叫ぶだけで何もできなかった。
この後、戦線は膠着し31日となった。


『隊長!ビアクが見えました!』
山口義則一飛曹はその報告を聞いてすぐに命令を発す。
「酒樹率いる隼鷹、大鳳隊は上陸支援中の敵艦隊を。私と信濃隊は敵の上陸部隊を叩く」
そう言い終わると各機が各々の目標に向けて飛んでいく。
山口も自らが操る彗星を島の上空に到達。
対空砲火も少しはあるものの、ほぼ影響はなかった。
やがて山口は戦車に狙いを定めた。
機体が急降下していく。
そして爆弾を投下した。
機体を引き起こし高度を上げる。
「命中!敵戦車、および随伴の砲兵を撃破!」
後部座席の兵が嬉しそうに言う。
「そうか。見た感じ我が航空隊の損害は少ない。作戦目標は達成できそうだ。」


「くそ!早く撃ち落とせ!」
駆逐艦ホーエルに乗艦していたヒュラーは怒号交じりに檄を飛ばす。
「無理です!ただでさえ空母がいないのに対空火器も充実していません!」
そう言いあっていると重巡『オーストラリア』に急降下してくる機体が見えた。
「あぁ…そんな…。」
彼がそう言った直後、投下された爆弾によって『オーストラリア』は大爆発を起こした。
その爆発を契機に上陸していた米兵に動揺が広がり、日本軍はそれを見逃さず反撃を開始。
すでに空襲で重火器は失っていた米軍は日本の反撃に耐えることができず、ついにビアクから撤退した。
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