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第十八話 ジークフリートの秘めたる恋
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クラウディア家の車がアモーゼ学園のエントランスに横づけされると、
アルバートがシャルロットの手を取ってエスコートする。
「ごきげんよう、アルバート様、シャルロット様」
メイサ・ルイーズがその背後に貴族院の主だったメンバーを従えて、
二人を出迎えた。
メイサが艶やかに微笑んで、二人に恭順の意を示すと、
貴族院のメンバーがそれに従う。
アルバートとシャルロットも会釈を返す。
「じゃあ、またあとでね、シャル」
教室の前でアルバートが軽く手を振ってシャルロットと別れると、
「なによ、アルバート様はメイサ様の婚約者なのでしょう?
あの横恋慕女」
「そうよ、そうよ! どれだけ面の皮が厚いのかしら。
この泥棒猫!」
貴族院のメイサのとりまきたちが、
シャルロットの背後から聞こえよがしに、悪口を放って寄こす。
それを耳にしたシャルロットの友人たちが、メイサのとりまきを睨みつける。
一触即発の状況の中、シャルロットはメイサのとりまきに
大輪の薔薇の笑みを浮かべる。
「ごきげんよう、皆さま」
そしてやんわりと自身の友人たちを制して、
悠々と廊下を歩いていく。
◇◇◇
しかしメイサと貴族院のメンバーが、シャルロットに本格的に仕掛けてきたのは、
昼休みのカフェテリアだった。
「あ~お腹空いた~、シャルロット様は今日のお昼は何になさいます?」
シャルロットの友人の一人がそう言ってシャルロットのメニュー表を覗き込む。
「うん~と、そうねぇ」
シャルロットが思案していると、
「ごきげんよう、シャルロット様」
メイサ・ルイーズがシャルロットたちのテーブルの前に立った。
「ごきげんよう、メイサ様」
シャルロットも挨拶を返す。
「ねえ、シャルロット様、実はわたくしたちもその席を気に入ってしまったんですの。
譲って下さらない?」
メイサが挑発的に笑って見せる。
突然のメイサの言葉に、シャルロットの友人たちがいきり立つ。
「あら、そこはいつもシャルロット様がお座りになる場所ですわ。
その場所を譲れだなんて、失礼ではなくて? ルイーズ様
シャルロット様は御三家の令嬢で身分はあなたより上よ?」
友人たちを制して口火を切ったのは、セリア・マークスだった。
「あら、わたくしも御三家のひとつ、クラウディア家の妻となる身よ?
あなたに見下されるいわれはないわ、ねえシャルロット様」
セリアの言葉に、メイサがさらりとそう言ってのけると、
「全然相手にされていないくせに」
セリアが冷静な口調でメイサに切り返す。
メイサは顔を真っ赤にして、息巻く。
「なんですって?」
そして口調を変える。
「あら、あなた知らないのね?
クラウディア家の正妻は我がルイーズ公爵家の出なのですわ。
わたくしの叔母よ。
そしてわたくしはその叔母の大のお気に入りなの」
メイサはちらりとシャルロットに挑発するような視線を送る。
「この婚姻はその叔母が取り持ったものなのよ」
メイサが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「え? クラウディア家の正妻って……? アルバート様のお母様?」
シャルロットの友人のエルザ・ウィルトンが首を傾げると、
シャルロットは席を立つ。
「いいわ、メイサ様、席をお譲りいたします。
わたくしは用事を思い出したので、ここで失礼いたしますわ」
シャルロットは踵を返して、その場を立ち去った。
◇◇◇
シャルロットは購買部でパンとコーヒーを買って、
最上階に向かう。
御三家の者にしか立ち入るをことを許されない貴賓室で、
シャルロットは購買で買ったクリームパンを頬張る。
甘いはずのクリームパンが、少し苦いような気がして、
ちっとも美味しくない。
やっぱり胸がモヤモヤする。
メイサ・ルイーズに言いたいことはいろいろある。
彼女を言い負かすだけの口は持っている。
だが、
『え? クラウディア家の正妻って……? アルバート様のお母様?』
きょとんとしていた、友人のエルザ・ウィルトンを思い出す。
もし自分が口を開けば、アルバートを貶めることになる。
シャルロットは口を閉ざして、メイサの要求を呑むしかなかった。
シャルロットは重い溜息を吐いて、ソファーに身体を預ける。
「さて、どうしようか……」
そう呟いて目を閉じると、
いつの間にか微睡の中に落ちてしまった。
「おっ? シャルいたのか」
そう言って部屋に入ってきたジークフリート・レイランドが、
慌てて口を噤む。
シャルロットがうつらうつらと船をこいでいるのである。
「疲れているんだな、お前……」
ジークはそんなシャルロットを覗き込み、
自身が着ていた上着をシャルロットに着せかけてやる。
その瞬間に、シャルロットの眦に薄っすらと涙が滲んでいるのを
目敏く見つけてしまった。
「アルバート、あれだけ言ったのに、シャルを泣かせやがったな?」
ジークが眉間に皺を寄せる。
「なあ、シャル、なんでアルバートなんだ?
俺だったら絶対にお前を泣かせたりしないのに」
ジークが眠っているシャルの眦の涙を、優しく指の腹で拭ってやる。
「勝手に触らないでくれる?」
いつの間にか部屋に入ってきたアルバートが、
ジークに剣呑な眼差しを向ける。
「おお怖っ!」
君子危うきに近寄らずと、ジークは慌ててシャルロットから手を放す。
「この僕の命も忠誠心も君のものだ、ジークフリート。
だが、シャルロットだけはいくら相手が君であっても絶対に渡さない」
アルバートの顔には微塵も笑みがない。
「だったら、なんでそんな大事な女、泣かせてんの?」
ジークの顔からも、すっと笑みが引く。
「え? シャル……泣いて?」
ジークが目を見開く。
「俺も相手がお前だったからシャルを譲ったんだ。
この俺が好きでもない女との見合い話を甘んじて受けているのも、
すべてはシャルの笑顔を守るためだ。
お前はそんなこの俺の純愛を踏みにじるのか?」
ジークが挑発的な笑みをアルバートに向ける。
アルバートがシャルロットの手を取ってエスコートする。
「ごきげんよう、アルバート様、シャルロット様」
メイサ・ルイーズがその背後に貴族院の主だったメンバーを従えて、
二人を出迎えた。
メイサが艶やかに微笑んで、二人に恭順の意を示すと、
貴族院のメンバーがそれに従う。
アルバートとシャルロットも会釈を返す。
「じゃあ、またあとでね、シャル」
教室の前でアルバートが軽く手を振ってシャルロットと別れると、
「なによ、アルバート様はメイサ様の婚約者なのでしょう?
あの横恋慕女」
「そうよ、そうよ! どれだけ面の皮が厚いのかしら。
この泥棒猫!」
貴族院のメイサのとりまきたちが、
シャルロットの背後から聞こえよがしに、悪口を放って寄こす。
それを耳にしたシャルロットの友人たちが、メイサのとりまきを睨みつける。
一触即発の状況の中、シャルロットはメイサのとりまきに
大輪の薔薇の笑みを浮かべる。
「ごきげんよう、皆さま」
そしてやんわりと自身の友人たちを制して、
悠々と廊下を歩いていく。
◇◇◇
しかしメイサと貴族院のメンバーが、シャルロットに本格的に仕掛けてきたのは、
昼休みのカフェテリアだった。
「あ~お腹空いた~、シャルロット様は今日のお昼は何になさいます?」
シャルロットの友人の一人がそう言ってシャルロットのメニュー表を覗き込む。
「うん~と、そうねぇ」
シャルロットが思案していると、
「ごきげんよう、シャルロット様」
メイサ・ルイーズがシャルロットたちのテーブルの前に立った。
「ごきげんよう、メイサ様」
シャルロットも挨拶を返す。
「ねえ、シャルロット様、実はわたくしたちもその席を気に入ってしまったんですの。
譲って下さらない?」
メイサが挑発的に笑って見せる。
突然のメイサの言葉に、シャルロットの友人たちがいきり立つ。
「あら、そこはいつもシャルロット様がお座りになる場所ですわ。
その場所を譲れだなんて、失礼ではなくて? ルイーズ様
シャルロット様は御三家の令嬢で身分はあなたより上よ?」
友人たちを制して口火を切ったのは、セリア・マークスだった。
「あら、わたくしも御三家のひとつ、クラウディア家の妻となる身よ?
あなたに見下されるいわれはないわ、ねえシャルロット様」
セリアの言葉に、メイサがさらりとそう言ってのけると、
「全然相手にされていないくせに」
セリアが冷静な口調でメイサに切り返す。
メイサは顔を真っ赤にして、息巻く。
「なんですって?」
そして口調を変える。
「あら、あなた知らないのね?
クラウディア家の正妻は我がルイーズ公爵家の出なのですわ。
わたくしの叔母よ。
そしてわたくしはその叔母の大のお気に入りなの」
メイサはちらりとシャルロットに挑発するような視線を送る。
「この婚姻はその叔母が取り持ったものなのよ」
メイサが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「え? クラウディア家の正妻って……? アルバート様のお母様?」
シャルロットの友人のエルザ・ウィルトンが首を傾げると、
シャルロットは席を立つ。
「いいわ、メイサ様、席をお譲りいたします。
わたくしは用事を思い出したので、ここで失礼いたしますわ」
シャルロットは踵を返して、その場を立ち去った。
◇◇◇
シャルロットは購買部でパンとコーヒーを買って、
最上階に向かう。
御三家の者にしか立ち入るをことを許されない貴賓室で、
シャルロットは購買で買ったクリームパンを頬張る。
甘いはずのクリームパンが、少し苦いような気がして、
ちっとも美味しくない。
やっぱり胸がモヤモヤする。
メイサ・ルイーズに言いたいことはいろいろある。
彼女を言い負かすだけの口は持っている。
だが、
『え? クラウディア家の正妻って……? アルバート様のお母様?』
きょとんとしていた、友人のエルザ・ウィルトンを思い出す。
もし自分が口を開けば、アルバートを貶めることになる。
シャルロットは口を閉ざして、メイサの要求を呑むしかなかった。
シャルロットは重い溜息を吐いて、ソファーに身体を預ける。
「さて、どうしようか……」
そう呟いて目を閉じると、
いつの間にか微睡の中に落ちてしまった。
「おっ? シャルいたのか」
そう言って部屋に入ってきたジークフリート・レイランドが、
慌てて口を噤む。
シャルロットがうつらうつらと船をこいでいるのである。
「疲れているんだな、お前……」
ジークはそんなシャルロットを覗き込み、
自身が着ていた上着をシャルロットに着せかけてやる。
その瞬間に、シャルロットの眦に薄っすらと涙が滲んでいるのを
目敏く見つけてしまった。
「アルバート、あれだけ言ったのに、シャルを泣かせやがったな?」
ジークが眉間に皺を寄せる。
「なあ、シャル、なんでアルバートなんだ?
俺だったら絶対にお前を泣かせたりしないのに」
ジークが眠っているシャルの眦の涙を、優しく指の腹で拭ってやる。
「勝手に触らないでくれる?」
いつの間にか部屋に入ってきたアルバートが、
ジークに剣呑な眼差しを向ける。
「おお怖っ!」
君子危うきに近寄らずと、ジークは慌ててシャルロットから手を放す。
「この僕の命も忠誠心も君のものだ、ジークフリート。
だが、シャルロットだけはいくら相手が君であっても絶対に渡さない」
アルバートの顔には微塵も笑みがない。
「だったら、なんでそんな大事な女、泣かせてんの?」
ジークの顔からも、すっと笑みが引く。
「え? シャル……泣いて?」
ジークが目を見開く。
「俺も相手がお前だったからシャルを譲ったんだ。
この俺が好きでもない女との見合い話を甘んじて受けているのも、
すべてはシャルの笑顔を守るためだ。
お前はそんなこの俺の純愛を踏みにじるのか?」
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