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第十六話 父のとりなし
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「ん? シャル……寒いよ、もう少しこちらに」
そんな睦言を呟いて、胸に抱く柔らかな存在を抱き寄せたところで、
アルバートの意識が覚醒する。
(胸に抱く、柔らかな存在……???)
シーツの海の中で自分と絡み合っているのは……。
「シャ……シャルロット???」
アルバートが絶叫する。
なに? なんなんだ? この状況は一体……???
一糸まとわぬ男女が、ひとつ寝台の上で絡み合っているのである。
想定されることはひとつだろう……。
「ご……ごめん。こうなったからには、責任は取るつもりだ」
アルバートはがばりと起き上がり、シャルロットに土下座する。
「あっ……あのね、アルバート、それは誤解よ」
シャルロットがシーツで胸を隠してアルバートに向き合う。
「こ……こんな格好をしているから、
誤解してしてしまうのも無理はないのだけれど、
あなた昨夜、低体温症でとても危険な状態だったの。
それでわたくしが、一晩中あなたを温めていたのよ。
だからこれはただの人命救助で、
本当にわたくしたちの間にやましいことはなかったっていうか……
そもそも低体温症で死にかけている人が何かできるわけがないじゃない」
シャルロットが顔を赤らめて、しどろもどろに説明する。
「いや、あの、君にこういう恰好させている時点で、やっぱり僕は責任を取るべきだと思う。
っていうか、むしろ取らせて欲しいというか……」
アルバートもシャルロットに負けず劣らず顔を赤らめて、
ぎこちなく言葉を紡ぐ。
「わ……わたくしも、あなたが死ぬかもしれないと聞かされて、
少し正気を失っていたところがあって……」
シャルロットも自身の取った行動に、少し戸惑っているようだった。
「それでも……あなた以外の人に、こんなことは……できなかったと思う」
蚊の鳴くような小さな声でそう言うと、
そんな自分を恥じ入って、下を向く。
「うっ……うん……。ありがとう」
アルバートが、意を決したように言葉を紡ぐ。
「こ……こういうことになってしまったんだから、仕方ないよ、
幸い僕たちの婚約は、法的にはまだ有効なわけだし……だから……
そのっ、シャル……あの……」
アルバートが酸欠の金魚のように口をパクパクを開けている。
「僕との結婚を真剣に考えてみてくれないか!」
勢いづいて、シャルロットに詰め寄ると、
「そ……そう……ね。わ……わたくしも、やっぱりあなた以外は……嫌っていうか、
わたくしもあなたじゃなきゃダメみたい!」
最初は口ごもりつつも、後半は半ば怒鳴る様に、
シャルロットが言葉を吐き出した。
アルバートがその言葉に撃沈する。
「ねえ、アルバート……ひょっとして迷惑だった?」
シャルロットが恐る恐るアルバートを伺うと、
「そんなわけはない。僕は今世界一幸せかもしれない」
アルバートは次の言葉を紡ぐことができない。
ただ自身の思いのすべてを込めて、きつくきつくシャルロットを抱きしめる。
「シャルロット……好き……です」
ようやくのことでその言葉を紡ぐと、
シャルロットが呆けたようにアルバートを見つめ
「わたくしもよ、アルバート」
シャルロットがとびきりの笑顔を見せた。
◇◇◇
体力の回復のために、アルバートはその日は学園を休むことになった。
登校するシャルロットを見送りに、エントランスに出ていくと、
「アルバート様……」
使用人一同が、元気を取り戻したアルバートに涙ぐむ。
「いや……あの……心配かけてごめんね」
そんな使用人たちの自分に向けられた純粋な愛情に、
アルバートの胸が熱くなる。
『だけど気が付いたら、主だとか使用人だとかそんなの関係なく、家族になっていた』
この間シャルロットが言っていた言葉を思い出す。
母を失ってから自分はずっとひとりぼっちなのだと思っていた。
名門のクラウディア家に生まれながら、その母親の出自のことで、
誰からも否定される存在の自分を、
この人たちは見捨てず、こうして愛情を注ぎ続けてくれたのだ。
「それと……みんな、ここに居てくれて、ありがとう……」
アルバートの頬に涙が伝うと、その場の誰しもの目が赤くなる。
不意に、呼び鈴が鳴り、
執事長のヨーゼフがエントランスの扉を開けると、
アルバートの父であるハリスがそこに立っていた。
「アルバート! お前、身体は無事なのか?」
眦に涙をためて、ハリスはきつくアルバートを抱きしめる。
「心配をかけてごめんなさい、お父さん」
ハリスの胸の中で、アルバートが呟くと、
「何を言っているんだ、アルバート。
親は子を心配するのが仕事なんだぞ?
それよりも身体に障ってはいけない、お前の部屋に行こう。
ベッドに横になっていなさい」
ハリスはアルバートを部屋に連れていく。
「昨日のことは、本当に済まない。
イライザの非礼は、この私が代わりに詫びよう」
そう言って、ハリスはアルバートの前に頭を下げた。
「頭を上げて下さい、お父さん」
アルバートが慌てて、父を窘める。
「それと、もうひとつお前に謝らなければならないことがあるんだ」
ハリスの顔が曇る。
「イライザがお前の婚約者のことで妙に張り切り出してしまって……」
ハリスは言いにくそうに言葉を濁す。
「シャルロット嬢との件がもしうまくいっていないのなら、どうだろう?
イライザの実家であるルイーズ公爵家の令嬢との話を進めても……」
ハリスの言葉に、アルバートが顔色を変える。
「僕は! っていうか、僕たちは愛し合っています。
彼女も僕の事情を知った上で婚約を了承してくれたんです。
シャルロット以外の女性は考えられません」
アルバートの言葉に、ハリスが気まずい顔をする。
「そ……そうか。ならば、イライザのほうを説き伏さなけばならないな」
ハリスが重い溜息を吐いた。
「少し、時間をくれないか? アルバート。
イライザが色々いってくるかもしれないが、
この私が責任をもって、言い聞かせるから」
弱腰のハリスに、アルバートがかすかに目を細めた。
そんな睦言を呟いて、胸に抱く柔らかな存在を抱き寄せたところで、
アルバートの意識が覚醒する。
(胸に抱く、柔らかな存在……???)
シーツの海の中で自分と絡み合っているのは……。
「シャ……シャルロット???」
アルバートが絶叫する。
なに? なんなんだ? この状況は一体……???
一糸まとわぬ男女が、ひとつ寝台の上で絡み合っているのである。
想定されることはひとつだろう……。
「ご……ごめん。こうなったからには、責任は取るつもりだ」
アルバートはがばりと起き上がり、シャルロットに土下座する。
「あっ……あのね、アルバート、それは誤解よ」
シャルロットがシーツで胸を隠してアルバートに向き合う。
「こ……こんな格好をしているから、
誤解してしてしまうのも無理はないのだけれど、
あなた昨夜、低体温症でとても危険な状態だったの。
それでわたくしが、一晩中あなたを温めていたのよ。
だからこれはただの人命救助で、
本当にわたくしたちの間にやましいことはなかったっていうか……
そもそも低体温症で死にかけている人が何かできるわけがないじゃない」
シャルロットが顔を赤らめて、しどろもどろに説明する。
「いや、あの、君にこういう恰好させている時点で、やっぱり僕は責任を取るべきだと思う。
っていうか、むしろ取らせて欲しいというか……」
アルバートもシャルロットに負けず劣らず顔を赤らめて、
ぎこちなく言葉を紡ぐ。
「わ……わたくしも、あなたが死ぬかもしれないと聞かされて、
少し正気を失っていたところがあって……」
シャルロットも自身の取った行動に、少し戸惑っているようだった。
「それでも……あなた以外の人に、こんなことは……できなかったと思う」
蚊の鳴くような小さな声でそう言うと、
そんな自分を恥じ入って、下を向く。
「うっ……うん……。ありがとう」
アルバートが、意を決したように言葉を紡ぐ。
「こ……こういうことになってしまったんだから、仕方ないよ、
幸い僕たちの婚約は、法的にはまだ有効なわけだし……だから……
そのっ、シャル……あの……」
アルバートが酸欠の金魚のように口をパクパクを開けている。
「僕との結婚を真剣に考えてみてくれないか!」
勢いづいて、シャルロットに詰め寄ると、
「そ……そう……ね。わ……わたくしも、やっぱりあなた以外は……嫌っていうか、
わたくしもあなたじゃなきゃダメみたい!」
最初は口ごもりつつも、後半は半ば怒鳴る様に、
シャルロットが言葉を吐き出した。
アルバートがその言葉に撃沈する。
「ねえ、アルバート……ひょっとして迷惑だった?」
シャルロットが恐る恐るアルバートを伺うと、
「そんなわけはない。僕は今世界一幸せかもしれない」
アルバートは次の言葉を紡ぐことができない。
ただ自身の思いのすべてを込めて、きつくきつくシャルロットを抱きしめる。
「シャルロット……好き……です」
ようやくのことでその言葉を紡ぐと、
シャルロットが呆けたようにアルバートを見つめ
「わたくしもよ、アルバート」
シャルロットがとびきりの笑顔を見せた。
◇◇◇
体力の回復のために、アルバートはその日は学園を休むことになった。
登校するシャルロットを見送りに、エントランスに出ていくと、
「アルバート様……」
使用人一同が、元気を取り戻したアルバートに涙ぐむ。
「いや……あの……心配かけてごめんね」
そんな使用人たちの自分に向けられた純粋な愛情に、
アルバートの胸が熱くなる。
『だけど気が付いたら、主だとか使用人だとかそんなの関係なく、家族になっていた』
この間シャルロットが言っていた言葉を思い出す。
母を失ってから自分はずっとひとりぼっちなのだと思っていた。
名門のクラウディア家に生まれながら、その母親の出自のことで、
誰からも否定される存在の自分を、
この人たちは見捨てず、こうして愛情を注ぎ続けてくれたのだ。
「それと……みんな、ここに居てくれて、ありがとう……」
アルバートの頬に涙が伝うと、その場の誰しもの目が赤くなる。
不意に、呼び鈴が鳴り、
執事長のヨーゼフがエントランスの扉を開けると、
アルバートの父であるハリスがそこに立っていた。
「アルバート! お前、身体は無事なのか?」
眦に涙をためて、ハリスはきつくアルバートを抱きしめる。
「心配をかけてごめんなさい、お父さん」
ハリスの胸の中で、アルバートが呟くと、
「何を言っているんだ、アルバート。
親は子を心配するのが仕事なんだぞ?
それよりも身体に障ってはいけない、お前の部屋に行こう。
ベッドに横になっていなさい」
ハリスはアルバートを部屋に連れていく。
「昨日のことは、本当に済まない。
イライザの非礼は、この私が代わりに詫びよう」
そう言って、ハリスはアルバートの前に頭を下げた。
「頭を上げて下さい、お父さん」
アルバートが慌てて、父を窘める。
「それと、もうひとつお前に謝らなければならないことがあるんだ」
ハリスの顔が曇る。
「イライザがお前の婚約者のことで妙に張り切り出してしまって……」
ハリスは言いにくそうに言葉を濁す。
「シャルロット嬢との件がもしうまくいっていないのなら、どうだろう?
イライザの実家であるルイーズ公爵家の令嬢との話を進めても……」
ハリスの言葉に、アルバートが顔色を変える。
「僕は! っていうか、僕たちは愛し合っています。
彼女も僕の事情を知った上で婚約を了承してくれたんです。
シャルロット以外の女性は考えられません」
アルバートの言葉に、ハリスが気まずい顔をする。
「そ……そうか。ならば、イライザのほうを説き伏さなけばならないな」
ハリスが重い溜息を吐いた。
「少し、時間をくれないか? アルバート。
イライザが色々いってくるかもしれないが、
この私が責任をもって、言い聞かせるから」
弱腰のハリスに、アルバートがかすかに目を細めた。
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