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第二話 金髪男
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(面影が似ている様な気がしたのだ)
金髪碧眼の男こと、水無月涼は高鳴る鼓動をおさめようと、
きゅっとワイシャツの胸のあたりをきつく握りしめた。
硬質な金色の髪に、
透き通るようなアクアブルー瞳の持ち主であるこの男は、
父を日本人、母をフランス人に持つハーフである。
(いや、まさか……そんなはずはない)
涼はふと脳裏に過った考えを、否定する。
いくら初恋といえど、15年も前に会ったきりの
少女の面影に、涼は確信を持つことが出来ない。
(それに今のは、明らかに男だった。
しかもうつむきがちの表情を、遠目にちらりと見ただけで……)
それでも胸がざわつく。
「あの……社長?」
受付嬢が訝し気な顔をする。
「あっいや、なんでもない。
それで彼は?」
涼はつとめて冷静を装った。
「飛び込みの営業の方です。
こちらの名刺を置いて行かれました」
受付嬢は一ノ瀬から受け取った名刺を、涼に渡した。
「和菓子の老舗『おかめ総本舗』営業 一ノ瀬瑞樹……か」
涼は感慨深げに名刺に書かれてあった彼の名を読み上げた。
「ところで君たち、彼に瓜二つの双子の姉妹が存在するという
情報は聞かなかったか?」
真顔でそう質問する涼に、受付嬢たちは気まずそうに視線を逸らせた。
君子危うきに近寄らず、である。
◇◇◇
「あ~あ、本当にどうしよう」
俺、一ノ瀬瑞樹は、自販機で缶コーヒーを買って、
公園のベンチに腰かけた。
入社したときには満開だった桜の花は、
とっくに散って、若葉萌え出づる新緑の眩しい季節へと移り、
スーツの上着を着ていると、少し汗ばむほどの陽気だ。
低木のさつきが、こんもりとした鮮やかな花を咲かせている。
「隣……いいですか?」
不意に頭上から声がして、
俺ははっと視線を上げた。
五月の木漏れ日の中に佇むのは、金髪の超絶イケメンで……。
俺は目を瞬かせた。
ベンチはあちこちに設置されているし、
この公園には、俺以外に人はほとんどいない。
(なぜ、隣に???)
そんな疑問符と警戒を、
顔面に浮かべつつ、
「えっと……あの……俺、もう行きますので、どうぞ」
席を譲る態で、その場を立ち去ろうとすると、
「ノー!」
金髪男が俺の上着をむんずと掴んだ。
「なっ……?」
俺はバランスを崩し、前につんのめった。
「ごっ……ごめんなさい。あなたと少し……お話がしたくて」
金髪男はそう言うと、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「えっと……あの……」
俺は目の前の金髪男を
頭のてっぺんからつま先まで、
くまなく観察した。
新緑の木漏れ日に輝く、きちんとセットされた硬質な金色の髪、
キリっと整った眉毛に
碧眼の瞳。
すっと通った鼻筋に、
薄く形の整った唇が、ひどく官能的で
不覚にも男相手に俺は少しドキッとしてしまった。
長身で均整のとれたボディーラインに纏うのは、
一目で高級品と分かる上質なスーツだ。
まあ、その手のことに疎い俺でも、
俺が着ているセール品とは一目で異なるということだけは、わかった。
「『おかめ総本舗』」
金髪が不意に口にした言葉に、
俺は目を見開いた。
「あなたはそこの営業の方なのですって?」
俺の反応を確かめる様に、金髪が注意深く言葉を紡ぐ。
「どうしてそれを? もしかしてあなた、水無月商事の方なのですか?」
俺がそう問うと、金髪は満足そうに笑みを浮かべた。
「ええ、そうですよ。先ほどは弊社の受付が失礼をいたしました。
お詫びとともに、あらためてあなたとビジネスのお話がしたいのですが」
俺は金髪の提案に飛びついた。
「本当ですかっ!
あのっ! 失礼を承知でお願いします。
もしよかったら一度弊社にいらしてもらえないでしょうか?
あなたにうちの商品を試食してもらいたいのです。
うちは確かに規模はそれほど大きくはない会社ですが、
製造している菓子の味は保証します。
あなたに後悔はさせません」
とにかく必死だった。
「ええ、いいですよ。喜んで伺います」
そんな俺の必死さが伝わったのか、金髪がにっこりと微笑んだ。
◇◇◇
「水無月商事……代表取締役社長……水無月……涼……」
その肩書に、うちの社長以下、総従業員が心の中でひれ伏した。
「いっ一ノ瀬君……一体どこでこんな大物を釣り上げたんや?」
社長が挙動不審気味に、小声で隣の俺に尋ねた。
「いえ、あの……釣り上げたっていうか、受付の方に名刺を渡したら、
追いかけてきてくださったんです」
俺がそう答えると、社長はちらりと俺の顔を盗み見た。
「こちらのお菓子も、美味しいですね。甘すぎずとても上品な味わいです」
金髪男、こと、水無月涼はそういって、出された和菓子をパクパクと平らげていく。
「ありがとうございます。それで、どうですやろ?
弊社の商品を何とか御社で取り扱ってもらえまへんやろか?」
おどおどとしながらも、社長が核心に切り込んだ。
「ええ、喜んで」
金髪がにっこりと微笑んだ。
そうしてこの日、俺がつとめる『おかめ総本舗』は、
総合商社『水無月商事』との仮契約にこぎつけることができたのだが、
帰り際にぽそりと金髪男が呟いた。
「あっと……つかぬことを伺いますが、
御社の営業の一ノ瀬君には、
瓜二つの双子の姉妹などはいらっしゃらないのでしょうか?」
金髪碧眼の男こと、水無月涼は高鳴る鼓動をおさめようと、
きゅっとワイシャツの胸のあたりをきつく握りしめた。
硬質な金色の髪に、
透き通るようなアクアブルー瞳の持ち主であるこの男は、
父を日本人、母をフランス人に持つハーフである。
(いや、まさか……そんなはずはない)
涼はふと脳裏に過った考えを、否定する。
いくら初恋といえど、15年も前に会ったきりの
少女の面影に、涼は確信を持つことが出来ない。
(それに今のは、明らかに男だった。
しかもうつむきがちの表情を、遠目にちらりと見ただけで……)
それでも胸がざわつく。
「あの……社長?」
受付嬢が訝し気な顔をする。
「あっいや、なんでもない。
それで彼は?」
涼はつとめて冷静を装った。
「飛び込みの営業の方です。
こちらの名刺を置いて行かれました」
受付嬢は一ノ瀬から受け取った名刺を、涼に渡した。
「和菓子の老舗『おかめ総本舗』営業 一ノ瀬瑞樹……か」
涼は感慨深げに名刺に書かれてあった彼の名を読み上げた。
「ところで君たち、彼に瓜二つの双子の姉妹が存在するという
情報は聞かなかったか?」
真顔でそう質問する涼に、受付嬢たちは気まずそうに視線を逸らせた。
君子危うきに近寄らず、である。
◇◇◇
「あ~あ、本当にどうしよう」
俺、一ノ瀬瑞樹は、自販機で缶コーヒーを買って、
公園のベンチに腰かけた。
入社したときには満開だった桜の花は、
とっくに散って、若葉萌え出づる新緑の眩しい季節へと移り、
スーツの上着を着ていると、少し汗ばむほどの陽気だ。
低木のさつきが、こんもりとした鮮やかな花を咲かせている。
「隣……いいですか?」
不意に頭上から声がして、
俺ははっと視線を上げた。
五月の木漏れ日の中に佇むのは、金髪の超絶イケメンで……。
俺は目を瞬かせた。
ベンチはあちこちに設置されているし、
この公園には、俺以外に人はほとんどいない。
(なぜ、隣に???)
そんな疑問符と警戒を、
顔面に浮かべつつ、
「えっと……あの……俺、もう行きますので、どうぞ」
席を譲る態で、その場を立ち去ろうとすると、
「ノー!」
金髪男が俺の上着をむんずと掴んだ。
「なっ……?」
俺はバランスを崩し、前につんのめった。
「ごっ……ごめんなさい。あなたと少し……お話がしたくて」
金髪男はそう言うと、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「えっと……あの……」
俺は目の前の金髪男を
頭のてっぺんからつま先まで、
くまなく観察した。
新緑の木漏れ日に輝く、きちんとセットされた硬質な金色の髪、
キリっと整った眉毛に
碧眼の瞳。
すっと通った鼻筋に、
薄く形の整った唇が、ひどく官能的で
不覚にも男相手に俺は少しドキッとしてしまった。
長身で均整のとれたボディーラインに纏うのは、
一目で高級品と分かる上質なスーツだ。
まあ、その手のことに疎い俺でも、
俺が着ているセール品とは一目で異なるということだけは、わかった。
「『おかめ総本舗』」
金髪が不意に口にした言葉に、
俺は目を見開いた。
「あなたはそこの営業の方なのですって?」
俺の反応を確かめる様に、金髪が注意深く言葉を紡ぐ。
「どうしてそれを? もしかしてあなた、水無月商事の方なのですか?」
俺がそう問うと、金髪は満足そうに笑みを浮かべた。
「ええ、そうですよ。先ほどは弊社の受付が失礼をいたしました。
お詫びとともに、あらためてあなたとビジネスのお話がしたいのですが」
俺は金髪の提案に飛びついた。
「本当ですかっ!
あのっ! 失礼を承知でお願いします。
もしよかったら一度弊社にいらしてもらえないでしょうか?
あなたにうちの商品を試食してもらいたいのです。
うちは確かに規模はそれほど大きくはない会社ですが、
製造している菓子の味は保証します。
あなたに後悔はさせません」
とにかく必死だった。
「ええ、いいですよ。喜んで伺います」
そんな俺の必死さが伝わったのか、金髪がにっこりと微笑んだ。
◇◇◇
「水無月商事……代表取締役社長……水無月……涼……」
その肩書に、うちの社長以下、総従業員が心の中でひれ伏した。
「いっ一ノ瀬君……一体どこでこんな大物を釣り上げたんや?」
社長が挙動不審気味に、小声で隣の俺に尋ねた。
「いえ、あの……釣り上げたっていうか、受付の方に名刺を渡したら、
追いかけてきてくださったんです」
俺がそう答えると、社長はちらりと俺の顔を盗み見た。
「こちらのお菓子も、美味しいですね。甘すぎずとても上品な味わいです」
金髪男、こと、水無月涼はそういって、出された和菓子をパクパクと平らげていく。
「ありがとうございます。それで、どうですやろ?
弊社の商品を何とか御社で取り扱ってもらえまへんやろか?」
おどおどとしながらも、社長が核心に切り込んだ。
「ええ、喜んで」
金髪がにっこりと微笑んだ。
そうしてこの日、俺がつとめる『おかめ総本舗』は、
総合商社『水無月商事』との仮契約にこぎつけることができたのだが、
帰り際にぽそりと金髪男が呟いた。
「あっと……つかぬことを伺いますが、
御社の営業の一ノ瀬君には、
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