65 / 72
第六十五話影武者の言い分『エルダートンの野望』
しおりを挟む
イリオスが暫くの間呆けていました。
なんだか、色々と恐ろしいことを
聞いてしまったような気がします。
イリオスは一応表向きは、エルダートンの息子であるハリスの養子に
入っているのですが、その実はエルダートンが
年の離れた愛妾に産ませた子供であるというのが
ライネル公国の周知の事実です。
ちなみにその愛妾が私たちの叔母にあたるサナ様であるというのは、
サイファリアの重臣たちのみが知るマル秘重要事項です。
先程エルダートンは確かにイリオスにこう言いました。
『お前こそがこの私の血を引く、この国の正当後継者なのだ』と。
いやいやいや……。
ミシェル様がいるでしょう。
ロザリア女王の一人息子であるミシェル様が。
そう思う反面、確かにエルダートンは前国王の弟であり、
ミシェル様に次いで皇位継承権第二位に位置しています。
もしエルダートンがイリオスを要して、
反旗を翻したならば、母国サイファリアの重臣たちは、
きっとミシェル様ではなくて、サナ様の血を引くイリオスに協力するでしょう。
仮にイリオスがライネル公国を制し、
サイファリア国王の娘である私をその妻としたならば、
サイファリアは確実にイリオスにつくと思います。
そうすれば先ほどエルダートンが言ったように、
この二国の国力を持って、この大陸を制圧することも可能であると。
そこまで考えて、鳥肌が立ちました。
全く意図しないところで、
自分たちの婚姻が国の将来を決定づけてしまうほどの
力をもってしまうことを、身を持って考えさせられてしまったのです。
「お前の無事も確認したことだし、私は王都に戻るとしよう」
エルダートンはお茶を飲み終えると、そう言って立ち上がりました。
私たちはエルダートンを見送りにエントランスへと歩いて行きました。
「イリオス。お前はまだ傷も癒えてはいない。
暫くの間はこの場所で充分に静養するがいい」
そう言って意味ありげな視線を、私たちにくれました。
「次に会うときには、吉報を期待しているぞ」
エルダートンの言葉に私の顔が引きつります。
吉報って何?
そんな国家の転覆がからんだ期待をされても、とっても困ります。
私は今、ストレスから物凄い勢いで瞬きをしています。
エルダートンが乗った車が走り去ると、
イリオスが小さなため息を吐きました。
「んな不細工な顔すんなよな。
俺はちゃんとお前との縁談は断ったぞ?」
イリオスが小さく舌打ちをしています。
「そのことについては本当に感謝しているわ。ありがとう」
まあ、イリオスのおかげでエルダートンの手先にならずにすんだのは
とても助かったので、私は心からのお礼を言いました。
「はあ?」
イリオスのこの美貌からは想像もつかない、
鬼の形相で言われてしまいました。
なんでそこで腹のそこから紡ぎだす
不機嫌の疑問形を繰り出すかな?
意味がわかりません。
私は目を瞬かせました。
「この俺がお前との縁談を断ったのは、政治的なしがらみにお前を
巻き込みたくなかったからだ」
イリオスの目が座っています。
だからなんでそこで不機嫌になっちゃうかなぁ。
つられて私の眉間にも縦皺が寄ってしまいます。
「そう、ありがとう」
何でイリオスが怒っているのかが理解できずに、
私は素でイリオスのお礼を言いました。
「お前っ……」
なぜだかイリオスが真っ赤になって絶句しています。
そして小さくため息を吐きました。
「いや……今はよそう」
そう言ってイリオスはその長い睫毛を伏せました。
そんな何気ない表情にすら、うっかり見惚れてしまう程の美形なのに、
なんだかこの人も残念なオーラを放っているような気がします。
「そう、じゃあね。
私は帰るわ」
そう言って私はイリオスにひらひらと手を振りました。
そんな私に更にイリオスの目が座ります。
なんなんだ? この人は。
失血がひどくて鉄分が足りていないのでしょうか?
「セシリア!!メシ付き合え!!!」
はあ? この至近距離で叫ばなきゃならないこと?
こっちもちょっとイラっとします。
「表通りのフレンチ、今から予約するから」
ちょっと赤面してそう叫んでいますが、
このバカは一体何をかんがえているのでしょうかね。
「バカなの? その傷で無理をして、
傷が開いたらどうするつもり?
そんな暇があったら家であったかくして寝てなさいよ」
私はそういって、イリオスの鼻の頭に人差し指を突きつけました。
「お前に会えたの、何年ぶりだと思ってる?」
しごく冷静な口調でそう言われました。
何年振りだっけなあ。
まあ、すごく久しぶりだということは事実です。
「隣にいるじゃないのっ!」
これでも一応本人の体調を考慮しているですけどねぇ。
今は外出して無理をするべき時ではありません。
「お前っ、王都にはいつ戻るんだ?」
その言葉に、胸を突かれました。
そしてちょっと泣きそうになりました。
「わからない……わよ」
イリオスは私の首にかけられていた、ネックレスを手に取りました。
「ミシェルからの求愛の品か」
イリオスの言葉に私は目を見開いてしまいました。
「国元の審議待ちってとこか……」
イリオスの言葉に、私は小さく頷きました。
「だったら、余計にお前を一人にさせたくない。
いいから来い」
そういって私はイリオスに手を取られて、
再びエルダートンの屋敷に引っ張り込まれてしまいました。
なんだか、色々と恐ろしいことを
聞いてしまったような気がします。
イリオスは一応表向きは、エルダートンの息子であるハリスの養子に
入っているのですが、その実はエルダートンが
年の離れた愛妾に産ませた子供であるというのが
ライネル公国の周知の事実です。
ちなみにその愛妾が私たちの叔母にあたるサナ様であるというのは、
サイファリアの重臣たちのみが知るマル秘重要事項です。
先程エルダートンは確かにイリオスにこう言いました。
『お前こそがこの私の血を引く、この国の正当後継者なのだ』と。
いやいやいや……。
ミシェル様がいるでしょう。
ロザリア女王の一人息子であるミシェル様が。
そう思う反面、確かにエルダートンは前国王の弟であり、
ミシェル様に次いで皇位継承権第二位に位置しています。
もしエルダートンがイリオスを要して、
反旗を翻したならば、母国サイファリアの重臣たちは、
きっとミシェル様ではなくて、サナ様の血を引くイリオスに協力するでしょう。
仮にイリオスがライネル公国を制し、
サイファリア国王の娘である私をその妻としたならば、
サイファリアは確実にイリオスにつくと思います。
そうすれば先ほどエルダートンが言ったように、
この二国の国力を持って、この大陸を制圧することも可能であると。
そこまで考えて、鳥肌が立ちました。
全く意図しないところで、
自分たちの婚姻が国の将来を決定づけてしまうほどの
力をもってしまうことを、身を持って考えさせられてしまったのです。
「お前の無事も確認したことだし、私は王都に戻るとしよう」
エルダートンはお茶を飲み終えると、そう言って立ち上がりました。
私たちはエルダートンを見送りにエントランスへと歩いて行きました。
「イリオス。お前はまだ傷も癒えてはいない。
暫くの間はこの場所で充分に静養するがいい」
そう言って意味ありげな視線を、私たちにくれました。
「次に会うときには、吉報を期待しているぞ」
エルダートンの言葉に私の顔が引きつります。
吉報って何?
そんな国家の転覆がからんだ期待をされても、とっても困ります。
私は今、ストレスから物凄い勢いで瞬きをしています。
エルダートンが乗った車が走り去ると、
イリオスが小さなため息を吐きました。
「んな不細工な顔すんなよな。
俺はちゃんとお前との縁談は断ったぞ?」
イリオスが小さく舌打ちをしています。
「そのことについては本当に感謝しているわ。ありがとう」
まあ、イリオスのおかげでエルダートンの手先にならずにすんだのは
とても助かったので、私は心からのお礼を言いました。
「はあ?」
イリオスのこの美貌からは想像もつかない、
鬼の形相で言われてしまいました。
なんでそこで腹のそこから紡ぎだす
不機嫌の疑問形を繰り出すかな?
意味がわかりません。
私は目を瞬かせました。
「この俺がお前との縁談を断ったのは、政治的なしがらみにお前を
巻き込みたくなかったからだ」
イリオスの目が座っています。
だからなんでそこで不機嫌になっちゃうかなぁ。
つられて私の眉間にも縦皺が寄ってしまいます。
「そう、ありがとう」
何でイリオスが怒っているのかが理解できずに、
私は素でイリオスのお礼を言いました。
「お前っ……」
なぜだかイリオスが真っ赤になって絶句しています。
そして小さくため息を吐きました。
「いや……今はよそう」
そう言ってイリオスはその長い睫毛を伏せました。
そんな何気ない表情にすら、うっかり見惚れてしまう程の美形なのに、
なんだかこの人も残念なオーラを放っているような気がします。
「そう、じゃあね。
私は帰るわ」
そう言って私はイリオスにひらひらと手を振りました。
そんな私に更にイリオスの目が座ります。
なんなんだ? この人は。
失血がひどくて鉄分が足りていないのでしょうか?
「セシリア!!メシ付き合え!!!」
はあ? この至近距離で叫ばなきゃならないこと?
こっちもちょっとイラっとします。
「表通りのフレンチ、今から予約するから」
ちょっと赤面してそう叫んでいますが、
このバカは一体何をかんがえているのでしょうかね。
「バカなの? その傷で無理をして、
傷が開いたらどうするつもり?
そんな暇があったら家であったかくして寝てなさいよ」
私はそういって、イリオスの鼻の頭に人差し指を突きつけました。
「お前に会えたの、何年ぶりだと思ってる?」
しごく冷静な口調でそう言われました。
何年振りだっけなあ。
まあ、すごく久しぶりだということは事実です。
「隣にいるじゃないのっ!」
これでも一応本人の体調を考慮しているですけどねぇ。
今は外出して無理をするべき時ではありません。
「お前っ、王都にはいつ戻るんだ?」
その言葉に、胸を突かれました。
そしてちょっと泣きそうになりました。
「わからない……わよ」
イリオスは私の首にかけられていた、ネックレスを手に取りました。
「ミシェルからの求愛の品か」
イリオスの言葉に私は目を見開いてしまいました。
「国元の審議待ちってとこか……」
イリオスの言葉に、私は小さく頷きました。
「だったら、余計にお前を一人にさせたくない。
いいから来い」
そういって私はイリオスに手を取られて、
再びエルダートンの屋敷に引っ張り込まれてしまいました。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる