35 / 72
第三十五話影武者の言い分⑮『余興』
しおりを挟む
「ロザリア様~! ちゃんと飲んでますぅ~?
なんてったって今夜はロザリア様の帰還の祝いなんですからね、
ささっ、どうぞぉ」
メルさんはロザリア様のもとに、ワインボトルを抱えていきました。
ちらりとラベルが見えましたが、これはどこぞの国の希少ワインですね。
お高いですよぉ? 私は子供なので詳しくはわかりませんが。
え? メルさんってば、その希少ワインを
ロザリア陛下のワイングラスになみなみと注いでいます。
あれ? 幻覚なのかな。
私は目を擦りました。
こんなにキレイなお姉さんなのに、
なぜだかその背後に大衆居酒屋に通うひと昔前の親父が見えます。
グラスに希少ワインを注がれたロザリア様は、
最初は恥じらいながらも気に入ったのか
カパカパと気持ちよくグラスを開けていきます。
一杯目……二杯目……三杯目を超えたあたりから、
段々雲行きが怪しくなってきました。
「なんかぁ、わらひ、気分が良くなってきたわ~♪
誰か余興やんなさい、余興!」
グラスがまだるっこしくなったのか、
ロザリア陛下はすでにボトルキープで口飲みです。
(見なければよかった……)
心の涙が止まりません。
夢見た世界の虚飾が、がらがらと音を立てて崩れ落ちるの感じました。
サンタクロースの正体が親だったと知ったときくらいのショックです。
これがまさに大人の階段を上るということなのでしょうか。
「王族つったってなぁ、所詮人間なんだ。
過度な夢を見るな」
コーナーリングで真っ白になる矢吹ジョーのごとくに燃え尽きている
私の肩に、生温かい視線とともにミシェル様がポンと手を置きました。
「おやっさん……」
思わず呟いたら、ミシェル様が複雑な表情をなさいました。
あれ? なんで傷ついているんですか?
「だから~誰か~余興やりなさいよぉ~!
女王たる、このわらひを~楽しませなさ~い!」
ひぃぃぃぃぃ! ひな壇で酔っ払い女王、ロザリア陛下がご立腹されています。
嫌な予感しかしません。
「はいは~い! じゃあ私やります!」
そういってメルさんが勢いよく、手を上げました。
「私メル・シャルドがサイファリア王太子である、ゼノア・サイファリア君と
剣技で真剣勝負しま~す!」
メルさんの一声に、会場が沸きました。
注目を浴びて半泣きになっている私の前に、上着を脱いだミシェル様が立ちました。
「え?」
きょとんとしている私に、ミシェル様が上着を手渡しました。
「ちょっと持ってて」
そういってミシェル様はロザリア陛下の前に進み出ました。
「今宵は陛下のご帰還の祝い。
不肖の息子であるこの私も僭越ながら
陛下に余興なりとご披露したく思っております。
先程のメル・シャルド嬢のお申し出は
、東宮殿の客人、ゼノア・サイファリア氏を
剣技の相手として指名されましたが、
陛下がお許しくだされば、この私が代わりに
メル・シャルド嬢のお相手をしてもよろしいですか?」
そう言ってミシェル様は跪き、一輪の紅の薔薇をロザリア陛下に差し出しました。
ロザリア様は満足げにミシェル様から、薔薇を受け取られました。
その光景に、会場が一層沸きました。
(ロザリア様……全然酔ってないじゃん……)
ロザリア様は素面です。
その上でメルさんを泳がせましたね。
恐ろしい……。
ロザリア様が薔薇を受け取ったということは、
ミシェル様の言い分を受け入れたということです。
メルさんは果たして納得するのでしょうか?
「構いませんか? メル」
ロザリア様がそう問うと、
メルさんは少し面食らったような顔をしていましたが、
「はい、大丈夫です。ではミシェル様、よろしくお願いします」
そう言ってミシェル様の分の剣を渡しました。
会場が整えられると、即席の闘技場ができました。
中央で互いの剣を交わらせ、両者がお互いに少し離れたところで
女王陛下が開始の合図をされました。
ふむ、ミシェル様はフォム・ダッハの構えですね。
さすが一国の王太子、綺麗なフォルムです。
隙がありません。
剣を真っすぐに構え、左足を前にして肩幅に開いています。
ここから斜め下の強烈な切り下げが入ります。
スピードもあります。
そこをメルさんが辛うじてのところで躱しますが、
圧倒的にミシェル様が押しています。
これは王太子だからという理由での接待ではありません。
瞳孔の開いたミシェル様は、強いです。
魔王遺伝子が覚醒したのでしょうか。
シュランクフート、そこから水平切りが繰り出され、
小さく悲鳴をあげたメルさんが体制を崩しました。
どうやら足を挫いたようです。
振り翳されたミシェル様の剣の勢いがとまらない。
いけないっ!
とっさに私は予備の剣を手に取って、メルさんを背にかばい、
ミシェル様の剣を受け止めました。
(くっ、重いっ!)
思わず顔を顰めてしまいました。
ミシェル様が驚いた表情をされました。
野暮かとも思いますが、このままでは確実にメルさんが怪我をすると
思ったので割って入りました。
「既に勝負はありました。
剣をお納めください。ミシェル様」
そう言って微笑むと、なぜだか会場が沸きました。
そして『ミシェルvsゼノア』の試合を望むこえがあちこちから聞こえてきます。
もちろんそんなつもりは毛頭ありません。
墓穴掘ったか? 私……。
なんてったって今夜はロザリア様の帰還の祝いなんですからね、
ささっ、どうぞぉ」
メルさんはロザリア様のもとに、ワインボトルを抱えていきました。
ちらりとラベルが見えましたが、これはどこぞの国の希少ワインですね。
お高いですよぉ? 私は子供なので詳しくはわかりませんが。
え? メルさんってば、その希少ワインを
ロザリア陛下のワイングラスになみなみと注いでいます。
あれ? 幻覚なのかな。
私は目を擦りました。
こんなにキレイなお姉さんなのに、
なぜだかその背後に大衆居酒屋に通うひと昔前の親父が見えます。
グラスに希少ワインを注がれたロザリア様は、
最初は恥じらいながらも気に入ったのか
カパカパと気持ちよくグラスを開けていきます。
一杯目……二杯目……三杯目を超えたあたりから、
段々雲行きが怪しくなってきました。
「なんかぁ、わらひ、気分が良くなってきたわ~♪
誰か余興やんなさい、余興!」
グラスがまだるっこしくなったのか、
ロザリア陛下はすでにボトルキープで口飲みです。
(見なければよかった……)
心の涙が止まりません。
夢見た世界の虚飾が、がらがらと音を立てて崩れ落ちるの感じました。
サンタクロースの正体が親だったと知ったときくらいのショックです。
これがまさに大人の階段を上るということなのでしょうか。
「王族つったってなぁ、所詮人間なんだ。
過度な夢を見るな」
コーナーリングで真っ白になる矢吹ジョーのごとくに燃え尽きている
私の肩に、生温かい視線とともにミシェル様がポンと手を置きました。
「おやっさん……」
思わず呟いたら、ミシェル様が複雑な表情をなさいました。
あれ? なんで傷ついているんですか?
「だから~誰か~余興やりなさいよぉ~!
女王たる、このわらひを~楽しませなさ~い!」
ひぃぃぃぃぃ! ひな壇で酔っ払い女王、ロザリア陛下がご立腹されています。
嫌な予感しかしません。
「はいは~い! じゃあ私やります!」
そういってメルさんが勢いよく、手を上げました。
「私メル・シャルドがサイファリア王太子である、ゼノア・サイファリア君と
剣技で真剣勝負しま~す!」
メルさんの一声に、会場が沸きました。
注目を浴びて半泣きになっている私の前に、上着を脱いだミシェル様が立ちました。
「え?」
きょとんとしている私に、ミシェル様が上着を手渡しました。
「ちょっと持ってて」
そういってミシェル様はロザリア陛下の前に進み出ました。
「今宵は陛下のご帰還の祝い。
不肖の息子であるこの私も僭越ながら
陛下に余興なりとご披露したく思っております。
先程のメル・シャルド嬢のお申し出は
、東宮殿の客人、ゼノア・サイファリア氏を
剣技の相手として指名されましたが、
陛下がお許しくだされば、この私が代わりに
メル・シャルド嬢のお相手をしてもよろしいですか?」
そう言ってミシェル様は跪き、一輪の紅の薔薇をロザリア陛下に差し出しました。
ロザリア様は満足げにミシェル様から、薔薇を受け取られました。
その光景に、会場が一層沸きました。
(ロザリア様……全然酔ってないじゃん……)
ロザリア様は素面です。
その上でメルさんを泳がせましたね。
恐ろしい……。
ロザリア様が薔薇を受け取ったということは、
ミシェル様の言い分を受け入れたということです。
メルさんは果たして納得するのでしょうか?
「構いませんか? メル」
ロザリア様がそう問うと、
メルさんは少し面食らったような顔をしていましたが、
「はい、大丈夫です。ではミシェル様、よろしくお願いします」
そう言ってミシェル様の分の剣を渡しました。
会場が整えられると、即席の闘技場ができました。
中央で互いの剣を交わらせ、両者がお互いに少し離れたところで
女王陛下が開始の合図をされました。
ふむ、ミシェル様はフォム・ダッハの構えですね。
さすが一国の王太子、綺麗なフォルムです。
隙がありません。
剣を真っすぐに構え、左足を前にして肩幅に開いています。
ここから斜め下の強烈な切り下げが入ります。
スピードもあります。
そこをメルさんが辛うじてのところで躱しますが、
圧倒的にミシェル様が押しています。
これは王太子だからという理由での接待ではありません。
瞳孔の開いたミシェル様は、強いです。
魔王遺伝子が覚醒したのでしょうか。
シュランクフート、そこから水平切りが繰り出され、
小さく悲鳴をあげたメルさんが体制を崩しました。
どうやら足を挫いたようです。
振り翳されたミシェル様の剣の勢いがとまらない。
いけないっ!
とっさに私は予備の剣を手に取って、メルさんを背にかばい、
ミシェル様の剣を受け止めました。
(くっ、重いっ!)
思わず顔を顰めてしまいました。
ミシェル様が驚いた表情をされました。
野暮かとも思いますが、このままでは確実にメルさんが怪我をすると
思ったので割って入りました。
「既に勝負はありました。
剣をお納めください。ミシェル様」
そう言って微笑むと、なぜだか会場が沸きました。
そして『ミシェルvsゼノア』の試合を望むこえがあちこちから聞こえてきます。
もちろんそんなつもりは毛頭ありません。
墓穴掘ったか? 私……。
1
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる