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第三話 東雲くんは西枝くんの彼氏に死ぬほどなりたい。
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「おっ、唯人、その表情いいね」
東雲唯人は、某有名ブランドのスチール撮影に臨んでいる。
現在の季節は春だが、すでに秋冬の新作としてデザインされた衣服を
身に着けての撮影である。
秋を意識した憂いを帯びた表情、
また、カメラを前に一変して挑発的な視線を求められたり、
東雲唯人はそんなカメラマンの要求にひとつひとつ丁寧に応えていく。
デビュー当時から東雲唯人を撮り続けている専属カメラマンの扇田が、
満足そうに目を細めては、シャッターを切っていく。
◇◇◇
「お疲れ様~、唯人ほら、これ」
撮影を終えた東雲唯人に、扇田がスポーツドリングを差し出した。
「あっ、ありがとうございます。
いただきます。撮影お疲れ様でした」
東雲唯人も人懐っこい笑みを浮かべて、扇田に応じ、
手渡されたスポーツドリンクを口に含む。
「唯人お前さあ、なんか雰囲気変わった?」
唐突にそう問われて、
東雲唯人はきょとんとした表情をする。
「なんか変でした? 俺」
この撮影に臨むにあたり、
別段なにか特別なことをした覚えはない。
体重も厳重に管理しているし、メイクや髪形を変えたわけでもない。
「いや、悪い意味じゃないんだ。
なんていうか、こう……表情に艶があるっていうか、
妙に色っぽいっていうか」
扇田は東雲唯人の雰囲気の微妙な変化を、
どう表現したものかと、少し考え込んだ。
「唯人お前、今好きな人いるだろ!」
そして不意に発せられた扇田の爆弾発言に、
東雲唯人は盛大に咽た。
「ゲホっ! ゴッホッ! な……なんなんですか、いきなり」
動揺のために、声が妙な感じでひっくり返ってしまった。
「図星だな」
扇田はニヤリと笑みを浮かべる。
「いいねぇ、若いねぇ、青春だねぇ。色気があるっていうのは結構なことだ。
大いにやりなさい」
そう言って扇田はバンバンと東雲唯人の背中を叩いた。
「で? どこの事務所の子だ?」
冗談めかして探りを入れてくる。
「べっ……別にそんなんじゃ……俺、明日学校ありますんで、
これで失礼します」
図星をさされて、思わず赤面してしまいそうになるのを必死でこらえ、
東雲唯人は足早にスタジオを後にした。
◇◇◇
「はぁ~」
現在一人暮らしをしているタワーマンションに帰りつくと、
東雲唯人は盛大なため息を吐いた。
「ポーカーフェイスには自信があったんだけど、
そんなに顔に出ちゃってるのかな、俺」
そして何気に、自身の手を見つめる。
そうかもしれない。
今日初めて好きな人と、手を繋いだ。
そして自嘲する。
いや、あれは厳密には手を掴んだんだ。
自分よりも、随分華奢な手首だった。
その感触に東雲唯人は下を向く。
そうでもしなければ、塾に行くために
すぐにでも反対側のホームに走っていっちゃいそうだったから。
「西枝くん、元気になったかな?」
東雲唯人はスマホを取り出して、西枝時宗の番号を探す。
「電話してみるか? って今深夜だし」
そしてポンとベッドにスマホを放り出す。
「いや待て、LINEなら……って、
睡眠不足の西枝くんをもし着信音で起こしてしまったら……」
東雲唯人はひとりベッドの上でもんどりを打つ。
「うああ、ああああああ! でも声聞きてぇ~。
毎日西枝くんとおはよう、おやすみメールしてぇぇぇ!
俺は……俺は……西枝くんの彼氏に死ぬほどなりてぇぇぇぇぇ!」
そんなスーパーメンズモデルの深夜の雄たけびを、
西枝時宗は知るよしもない。
◇◇◇
翌日の六限目は物理だった。
東雲唯人は盛大に机の上で船を漕いでいた。
「あ~ここ、必ずテストに出るからな」
そんな東雲唯人を横目でチラ見した担当教諭が、
さらりとした口調でそういうのを、西枝時宗はハラハラしながら聞いていた。
「東雲くん……東雲くんってば……いい加減に起きなよ。
もうホームルーム終わっちゃったよ?」
西枝時宗は爆睡する東雲唯人の背中を
揺さぶった。
「ん? んんん……」
ようやくのことで東雲唯人が重い瞼を開けた。
「え? 西枝くん?」
目を開けて、視界に一番に飛び込んできた
その人物に動揺し、
東雲唯人の声が、やっぱり妙な感じでひっくり返ってしまう。
「大丈夫? 東雲くん、君も体調が悪いのかい?」
西枝時宗が心配そうに東雲唯人をうかがう。
「あっ、いや、全然大丈夫!
昨日撮影が少し長引いてしまっただけだから」
胸の前で東雲唯人が両手を振る。
すべての動作がオーバーリアクション気味である。
「もしかして昨日、僕のせいで撮影に遅れちゃったりとか……?」
申し訳なさそうに、西枝時宗が眉根を寄せた。
「違う違う、全然そんなんじゃないから。気にしないで」
東雲唯人がぎこちない笑みを浮かべる。
「昨日ごめんね、君のおかげで助かったよ。
体調も本調子じゃなくて、君のいうとおり塾を休んだのは正解だった。
それと、さっきの物理の授業で、先生が今度のテストに出る箇所を言ったんだけど、
君爆睡していただろ? 図書館で僕のノートをコピーするといいよ」
西枝時宗の申し出に、東雲唯人の顔がぱぁっと輝く。
「これが憧れの……図書館デート!」
まるで恋する乙女のように瞳を輝かせて、
東雲唯人は胸の前で手を組んだ。
そんな東雲唯人に、
「と……図書館デートって、君は独特の表現をするよね」
西枝時宗は面食らったように、目を瞬かせた。
東雲唯人は、某有名ブランドのスチール撮影に臨んでいる。
現在の季節は春だが、すでに秋冬の新作としてデザインされた衣服を
身に着けての撮影である。
秋を意識した憂いを帯びた表情、
また、カメラを前に一変して挑発的な視線を求められたり、
東雲唯人はそんなカメラマンの要求にひとつひとつ丁寧に応えていく。
デビュー当時から東雲唯人を撮り続けている専属カメラマンの扇田が、
満足そうに目を細めては、シャッターを切っていく。
◇◇◇
「お疲れ様~、唯人ほら、これ」
撮影を終えた東雲唯人に、扇田がスポーツドリングを差し出した。
「あっ、ありがとうございます。
いただきます。撮影お疲れ様でした」
東雲唯人も人懐っこい笑みを浮かべて、扇田に応じ、
手渡されたスポーツドリンクを口に含む。
「唯人お前さあ、なんか雰囲気変わった?」
唐突にそう問われて、
東雲唯人はきょとんとした表情をする。
「なんか変でした? 俺」
この撮影に臨むにあたり、
別段なにか特別なことをした覚えはない。
体重も厳重に管理しているし、メイクや髪形を変えたわけでもない。
「いや、悪い意味じゃないんだ。
なんていうか、こう……表情に艶があるっていうか、
妙に色っぽいっていうか」
扇田は東雲唯人の雰囲気の微妙な変化を、
どう表現したものかと、少し考え込んだ。
「唯人お前、今好きな人いるだろ!」
そして不意に発せられた扇田の爆弾発言に、
東雲唯人は盛大に咽た。
「ゲホっ! ゴッホッ! な……なんなんですか、いきなり」
動揺のために、声が妙な感じでひっくり返ってしまった。
「図星だな」
扇田はニヤリと笑みを浮かべる。
「いいねぇ、若いねぇ、青春だねぇ。色気があるっていうのは結構なことだ。
大いにやりなさい」
そう言って扇田はバンバンと東雲唯人の背中を叩いた。
「で? どこの事務所の子だ?」
冗談めかして探りを入れてくる。
「べっ……別にそんなんじゃ……俺、明日学校ありますんで、
これで失礼します」
図星をさされて、思わず赤面してしまいそうになるのを必死でこらえ、
東雲唯人は足早にスタジオを後にした。
◇◇◇
「はぁ~」
現在一人暮らしをしているタワーマンションに帰りつくと、
東雲唯人は盛大なため息を吐いた。
「ポーカーフェイスには自信があったんだけど、
そんなに顔に出ちゃってるのかな、俺」
そして何気に、自身の手を見つめる。
そうかもしれない。
今日初めて好きな人と、手を繋いだ。
そして自嘲する。
いや、あれは厳密には手を掴んだんだ。
自分よりも、随分華奢な手首だった。
その感触に東雲唯人は下を向く。
そうでもしなければ、塾に行くために
すぐにでも反対側のホームに走っていっちゃいそうだったから。
「西枝くん、元気になったかな?」
東雲唯人はスマホを取り出して、西枝時宗の番号を探す。
「電話してみるか? って今深夜だし」
そしてポンとベッドにスマホを放り出す。
「いや待て、LINEなら……って、
睡眠不足の西枝くんをもし着信音で起こしてしまったら……」
東雲唯人はひとりベッドの上でもんどりを打つ。
「うああ、ああああああ! でも声聞きてぇ~。
毎日西枝くんとおはよう、おやすみメールしてぇぇぇ!
俺は……俺は……西枝くんの彼氏に死ぬほどなりてぇぇぇぇぇ!」
そんなスーパーメンズモデルの深夜の雄たけびを、
西枝時宗は知るよしもない。
◇◇◇
翌日の六限目は物理だった。
東雲唯人は盛大に机の上で船を漕いでいた。
「あ~ここ、必ずテストに出るからな」
そんな東雲唯人を横目でチラ見した担当教諭が、
さらりとした口調でそういうのを、西枝時宗はハラハラしながら聞いていた。
「東雲くん……東雲くんってば……いい加減に起きなよ。
もうホームルーム終わっちゃったよ?」
西枝時宗は爆睡する東雲唯人の背中を
揺さぶった。
「ん? んんん……」
ようやくのことで東雲唯人が重い瞼を開けた。
「え? 西枝くん?」
目を開けて、視界に一番に飛び込んできた
その人物に動揺し、
東雲唯人の声が、やっぱり妙な感じでひっくり返ってしまう。
「大丈夫? 東雲くん、君も体調が悪いのかい?」
西枝時宗が心配そうに東雲唯人をうかがう。
「あっ、いや、全然大丈夫!
昨日撮影が少し長引いてしまっただけだから」
胸の前で東雲唯人が両手を振る。
すべての動作がオーバーリアクション気味である。
「もしかして昨日、僕のせいで撮影に遅れちゃったりとか……?」
申し訳なさそうに、西枝時宗が眉根を寄せた。
「違う違う、全然そんなんじゃないから。気にしないで」
東雲唯人がぎこちない笑みを浮かべる。
「昨日ごめんね、君のおかげで助かったよ。
体調も本調子じゃなくて、君のいうとおり塾を休んだのは正解だった。
それと、さっきの物理の授業で、先生が今度のテストに出る箇所を言ったんだけど、
君爆睡していただろ? 図書館で僕のノートをコピーするといいよ」
西枝時宗の申し出に、東雲唯人の顔がぱぁっと輝く。
「これが憧れの……図書館デート!」
まるで恋する乙女のように瞳を輝かせて、
東雲唯人は胸の前で手を組んだ。
そんな東雲唯人に、
「と……図書館デートって、君は独特の表現をするよね」
西枝時宗は面食らったように、目を瞬かせた。
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