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96.ウエディングドレス
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シャルロットの館に戻ったウォルフとユウラを目にして、
スノーリアが驚きに声を失う。
「すぐに入浴の用意を! それと彼女の手当を!」
ウォルフがきつい声色でそう命じると、
女官たちが慌ただしく動き回る。
「痛むか?」
ウォルフがユウラの頬に触れた。
「大丈夫、平気」
そういってユウラが微笑む。
「平気なわけあるかっ! 俺は危うく憤死しかけたぞ」
ウォルフが吐き捨てるようにそう言った。
エントランスの姿見に自身の姿を映したユウラは、
さすがにへこんだ。
ウォルフの実母であるシャルロット王妃の王冠と
首飾りを身に着けたはいいものの、
純白だったローブデコルテのドレスは、
泥に塗れて、全身濡れネズミのその様は、
とてもひどいことになっている。
「ごめんね、ウォルフ。
こんなことになってしまって」
ユウラが悲し気にそう言うと、
ウォルフがユウラを抱きしめた。
「謝るな。お前が悪いわけではないし、
むしろお前をこんな目にあわせてしまった自分自身を
許せなくなってしまいそうだ」
ウォルフが苦悩に満ちた声色を絞り出した。
「っていうか、ウォルフのせいでもないから。
カルシア様が少し誤解をしてしまっただけで……」
ユウラが心配そうにウォルフの顔を窺った。
そのタイミングで女官が二人に近づいて、目礼する。
「入浴の用意が整いました。ユウラ様、こちらへ」
女官がそういって、ユウラの手を取った。
ウォルフはユウラの背を見送りながら、きつく唇を噛み締めた。
(俺は何をやっている?)
ウォルフが自問する。
(ユウラは自分がこの世で最も幸せにすべき女性だ。
踏みにじられて、
泥に這いつくばるのはもう自分ひとりで十分なんだ)
ウォルフの頬に涙が伝った。
◇◇◇
入浴を終えたウォルフとユウラはユニフォームこと、
お揃いのパジャマを身に着けている。
寝台の横に置かれた応接セットのガラステーブルの上には、
ウォルフ自らが淹れたハーブティーが、
耐熱ガラスのティーカップに注がれた。
「あっ、美味しい」
カップに口をつけたユウラが思わず呟いた。
「そうか、そうだろう。そうだろう。
なんせそれはアルフォードの母直伝のレシピだからな」
ウォルフがユウラの様子に満足気に頷いた。
「結構雨に濡れちまったからな、
風邪の予防を兼ねて……な」
ウォルフが言葉を切った。
そして気分を変えるように口調を変えた。
「ようやく国王陛下に俺たちの結婚の正式な許可ももらった事だし、
そろそろ本腰を入れて、
結婚式場とお前のドレスを選ばなきゃならんな」
そう言ってウォルフが、
ガラステーブルの上に結婚式場のパンフレットを置いた。
ユウラがきょとんとした表情をする
「この国の第一皇子としての身分はそれとして、
二次会のやつな。
アルフォードの両親やお前の父上、ルークや友人たちを招いて、
アットホームな感じにしたいなーなんて思っているんだけど、
お前はどう思う?」
パンフレットにはみっちりと付箋が張られており、
読み込んだ感がすごい。
無言の圧にユウラが目を瞬かせる。
「あっ、これか?
戦艦に乗ってる間、暇さえあったらこれ見てたからな」
そう言ってウォルフが、ハーブティーを啜った。
「お前をエルドレッド家に迎えに行った日、
『結婚に何青臭い夢見てんだ?』みたいなことを
勢いでお前に言っちゃったことがあったけど、
いっとくが俺、実は滅茶苦茶夢見てるからな?
引くなよ?」
そう白状したウォルフに、ユウラがぷっと噴き出した。
「いっぱい、いっぱい……
愛してくれてありがとう、ウォルフ」
そういってユウラがウォルフに微笑んだ。
頬を腫らし、その口の端が切れている。
ウォルフは一瞬泣きそうになった。
「感謝とか……すんなよな。
なんか不安になる。
お前は当たり前の顔をして、俺に愛されていればいいんだ。
お前が幸せそうに笑っていてくれたなら、
俺はそれだけで舞い上がっちまうくらいに幸せだから」
鼻の奥がツンとした。
そしてウォルフの掌がそっとユウラの頬に触れる。
(これは俺がお前を愛するがゆえに、負わせてしまった傷だ)
ウォルフの顔が苦痛に歪む。
そんなウォルフの頬を包み込んで、ユウラが口づける。
「ユウラ?」
ウォルフが目を見開いてユウラを見つめた。
「そんな悲しい顔をしないで。
私はあなたに愛されて、もう十分に幸せなんだから」
ウォルフは触れるだけのユウラの口づけに、暫しの間酔った。
◇◇◇
「はーい、では前撮りしま~す!
新郎さん、イケメンですね」
カメラマンのお兄さんが、ウォルフの緊張をほぐそうと、
軽口をきくが、気遣われるまでもなく、
ウォルフはモデル顔負けのポージングを披露する。
カメラのデータをチェックするお兄さんはすでに無言である。
「新郎さん、マジでこれ写真集にして売りませんか?」
真剣な顔をしてぽそっとウォルフに囁くが、
ウォルフは丁重に断った。
そこにユウラが入ってきた。
プリンセスラインの純白のドレスを身に纏うユウラは、
おとぎの国のお姫様のようだ。
ウォルフがユウラに見惚れている。
「ユウラ……綺麗だ」
ウォルフがユウラにそう声をかけると、ユウラが赤面した。
二人が前撮りを終えて、着替えを済まし、
応接室でお茶を飲んでいる時だった。
けたたましいサイレンの音が、響き渡り、
コロニーが攻撃を受けていることを告げた。
スノーリアが驚きに声を失う。
「すぐに入浴の用意を! それと彼女の手当を!」
ウォルフがきつい声色でそう命じると、
女官たちが慌ただしく動き回る。
「痛むか?」
ウォルフがユウラの頬に触れた。
「大丈夫、平気」
そういってユウラが微笑む。
「平気なわけあるかっ! 俺は危うく憤死しかけたぞ」
ウォルフが吐き捨てるようにそう言った。
エントランスの姿見に自身の姿を映したユウラは、
さすがにへこんだ。
ウォルフの実母であるシャルロット王妃の王冠と
首飾りを身に着けたはいいものの、
純白だったローブデコルテのドレスは、
泥に塗れて、全身濡れネズミのその様は、
とてもひどいことになっている。
「ごめんね、ウォルフ。
こんなことになってしまって」
ユウラが悲し気にそう言うと、
ウォルフがユウラを抱きしめた。
「謝るな。お前が悪いわけではないし、
むしろお前をこんな目にあわせてしまった自分自身を
許せなくなってしまいそうだ」
ウォルフが苦悩に満ちた声色を絞り出した。
「っていうか、ウォルフのせいでもないから。
カルシア様が少し誤解をしてしまっただけで……」
ユウラが心配そうにウォルフの顔を窺った。
そのタイミングで女官が二人に近づいて、目礼する。
「入浴の用意が整いました。ユウラ様、こちらへ」
女官がそういって、ユウラの手を取った。
ウォルフはユウラの背を見送りながら、きつく唇を噛み締めた。
(俺は何をやっている?)
ウォルフが自問する。
(ユウラは自分がこの世で最も幸せにすべき女性だ。
踏みにじられて、
泥に這いつくばるのはもう自分ひとりで十分なんだ)
ウォルフの頬に涙が伝った。
◇◇◇
入浴を終えたウォルフとユウラはユニフォームこと、
お揃いのパジャマを身に着けている。
寝台の横に置かれた応接セットのガラステーブルの上には、
ウォルフ自らが淹れたハーブティーが、
耐熱ガラスのティーカップに注がれた。
「あっ、美味しい」
カップに口をつけたユウラが思わず呟いた。
「そうか、そうだろう。そうだろう。
なんせそれはアルフォードの母直伝のレシピだからな」
ウォルフがユウラの様子に満足気に頷いた。
「結構雨に濡れちまったからな、
風邪の予防を兼ねて……な」
ウォルフが言葉を切った。
そして気分を変えるように口調を変えた。
「ようやく国王陛下に俺たちの結婚の正式な許可ももらった事だし、
そろそろ本腰を入れて、
結婚式場とお前のドレスを選ばなきゃならんな」
そう言ってウォルフが、
ガラステーブルの上に結婚式場のパンフレットを置いた。
ユウラがきょとんとした表情をする
「この国の第一皇子としての身分はそれとして、
二次会のやつな。
アルフォードの両親やお前の父上、ルークや友人たちを招いて、
アットホームな感じにしたいなーなんて思っているんだけど、
お前はどう思う?」
パンフレットにはみっちりと付箋が張られており、
読み込んだ感がすごい。
無言の圧にユウラが目を瞬かせる。
「あっ、これか?
戦艦に乗ってる間、暇さえあったらこれ見てたからな」
そう言ってウォルフが、ハーブティーを啜った。
「お前をエルドレッド家に迎えに行った日、
『結婚に何青臭い夢見てんだ?』みたいなことを
勢いでお前に言っちゃったことがあったけど、
いっとくが俺、実は滅茶苦茶夢見てるからな?
引くなよ?」
そう白状したウォルフに、ユウラがぷっと噴き出した。
「いっぱい、いっぱい……
愛してくれてありがとう、ウォルフ」
そういってユウラがウォルフに微笑んだ。
頬を腫らし、その口の端が切れている。
ウォルフは一瞬泣きそうになった。
「感謝とか……すんなよな。
なんか不安になる。
お前は当たり前の顔をして、俺に愛されていればいいんだ。
お前が幸せそうに笑っていてくれたなら、
俺はそれだけで舞い上がっちまうくらいに幸せだから」
鼻の奥がツンとした。
そしてウォルフの掌がそっとユウラの頬に触れる。
(これは俺がお前を愛するがゆえに、負わせてしまった傷だ)
ウォルフの顔が苦痛に歪む。
そんなウォルフの頬を包み込んで、ユウラが口づける。
「ユウラ?」
ウォルフが目を見開いてユウラを見つめた。
「そんな悲しい顔をしないで。
私はあなたに愛されて、もう十分に幸せなんだから」
ウォルフは触れるだけのユウラの口づけに、暫しの間酔った。
◇◇◇
「はーい、では前撮りしま~す!
新郎さん、イケメンですね」
カメラマンのお兄さんが、ウォルフの緊張をほぐそうと、
軽口をきくが、気遣われるまでもなく、
ウォルフはモデル顔負けのポージングを披露する。
カメラのデータをチェックするお兄さんはすでに無言である。
「新郎さん、マジでこれ写真集にして売りませんか?」
真剣な顔をしてぽそっとウォルフに囁くが、
ウォルフは丁重に断った。
そこにユウラが入ってきた。
プリンセスラインの純白のドレスを身に纏うユウラは、
おとぎの国のお姫様のようだ。
ウォルフがユウラに見惚れている。
「ユウラ……綺麗だ」
ウォルフがユウラにそう声をかけると、ユウラが赤面した。
二人が前撮りを終えて、着替えを済まし、
応接室でお茶を飲んでいる時だった。
けたたましいサイレンの音が、響き渡り、
コロニーが攻撃を受けていることを告げた。
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