じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん

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37.オリビア皇女の帰還

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レッドロラインの宇宙港に、
戦艦『Black Princess』が帰艦すると、

騎士服を身に纏うオリビア第一皇女が、
優雅な足取りでタラップを降りた。

オリビアの近衛隊がドックに控えており、
最敬礼をもってオリビアを出迎える。

「ご苦労様です」

オリビアは近衛隊員たちを見回して、
氷の微笑を浮かべる。

「どうしてこの場に、
 わたくしの専属騎士である
 ユウラ・エルドレッドがいないのかしら?」

顔こそは笑顔を絶やさぬ、
この絶世の美女のそこはかとない圧に、

その場にいる誰しもが凍り付いた。

「なんか、アカデミーで君の帰還パーティーを催すらしくて、
 その実行委員に選ばれたらしいよ?」

そう言って、
戦艦『White Wing』から降り立ったルーク・レイランドが
いつの間にかオリビアの隣に佇んでいる。

「ふぉ~ん、そりゃ、初耳だ」

オリビアの眉間に皺が寄る。

「そりゃあ、サプライズだもの。
 っていうか僕、今言っちゃって良かったのかな?」

ルークが慌てて口を覆った。

「いいんじゃねぇの? 
 っていうか、そういうことなら、
 まあ、仕方ないっていうか……」

オリビアは口を噤み、車に乗り込んだ。

◇◇◇

「う~ん、これはちょっとピンチかも……」

ユウラは軽く涙目になる。

「きゃあっ! ユウラさんっ!!!
 とにかく動かないで。
 すぐに梯子をもってくるからっ!」

エマが血相を変えて、校舎の中に走っていった。

「ちょっと、あれ、大丈夫か?」

士官候補生たちが、人だかりとなって、
心配そうにユウラを見つめている。

ユウラは今、校舎の三階から飛び移った、
木の上で身動きが取れなくなっている。

そもそもなぜ、
このようなことになってしまったのか。

回想とともにユウラは高速で目を瞬かせた。

アカデミーで士官候補生たちが中心になって、
オリビアの帰還祝いのパーティーを準備中に
アクシデントは起こった。

オリビアの到着後、在校生全員が風船を空に飛ばして
その帰還を祝おうと、準備していたのだが、
ユウラのクラスメートが
うっかりと風船を空に飛ばしてしまったのだ。

風船は校舎のすぐ近くに植えられていた、
メタセコイアの枝に引っかかってしまったのだが、

「私に任せて! 木登りは得意よ?」

友人たちが止めるのも構わず、自信満々で木に飛び移り、
風船を窓辺に立つ友人に渡したまでは良かった。

しかし刹那、足掛かりにしていた枝がぽっきりと折れ、現在に至る。

ぷら~ん。

咄嗟に掴んだ木の枝は、とても細い。

そんな状況の自分を、風が煽ると、
乾いた枝が、ミシミシという嫌な音を立てた。

「ふっ……ふぎゃああああああああ!!!」

ユウラが恐怖の絶叫を上げる。

◇◇◇

アカデミーに到着したオリビアは、
車のドアを開けた瞬間に、その悲鳴を聞いた。

人だかりの上で、
木にぶら下がる赤髪が揺れているのを見つけると、

理性で判断するよりも先に、細胞が動いた。
まさにそんな感じだった。

オリビアは跳躍し、落下するユウラを空中でキャッチし、
華麗に地面に着地したのである。

刹那、大歓声が沸き起こる。

風船が空に飛び、フラワーシャワーが二人に振ってくる。

「只今戻りました。
 お久しぶりね、ユウラ」

そう言って、
オリビアはユウラに大輪の薔薇の笑みを向ける。

「おっ……お帰りなさいませ、オリビア様」

ユウラは条件反射で言葉を紡ぐが、
分かりやすく固まる。

ユウラはオリビアの腕の中にすっぽりとおさまっており、
ちょうどお姫様抱っこの体制だ。

ルークが楽団のコンサートマスターの耳元で何事かを囁くと、
オリビアを迎えるためにと用意されていた楽曲が、

メンデルスゾーンの結婚行進曲に差し替えられて奏でられる。

周囲は笑いに包まれるが、
オリビアはまんざらでもない様子で、
上機嫌でユウラを抱えて、
中央に敷き詰められた赤い絨毯の上を悠々と歩く。

「あっ……あのっ……オリビア様?」

ユウラが恐る恐る、オリビアを窺うが、

「ああ、これ? 気になさらないで、ユウラ。
 これはただの新たなパワハラの一種なのですから」

オリビアが艶やかな笑みをユウラに向ける。

「怒っていらっしゃるのですね」

その微笑みにそこはかとない圧を感じ取ったユウラが、
恐れのあまり軽く涙目になる。

「ええ、もちろん。
 いくらわたくしを迎えるためとはいえ、
 どこの世界に空から降ってくる専属騎士がいるのです?」

オリビアは笑っている時が一番怖い。

ユウラは胃の腑のあたりが、
きゅっと縮こまるのを感じた。

「大変な不作法をいたしました。
 お許し下さい。
 土下座してお詫びいたしますので、
 もうそろそろ降ろしていただけませんでしょうか?」

泣きの入った詫びを入れるが、
オリビアは許さない。

「いいえ、わたくし許しませんことよ?
 このままあなたをわたくしの馬に乗せて、
 この後の凱旋パレードにも繰り出します。
 名付けて『お姫様抱っこで都大路一周の刑』よ。
 覚悟しなさい。ユウラ」

オリビアは喜々として、まるで恋人の睦言のように、
ユウラの耳元に甘く囁いてくる。

「そっ……そんなぁ」

ユウラが情けない声を上げると、
オリビアはふっと優しい笑みを浮かべて、
その頬に愛し気に口付けた。



 
















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