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4.彼女が笑った日

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orz 言っちゃったよ、俺。

『別に、自惚れているつもりはない。
 お前が俺に惚れるのは、ただの自然の法則だ。
 だからお前も全力で来い。
 この俺をお前に惚れさせてみろよ』

なんか自分で言ってて、悲しすぎてわらけてくるわ。

『お前が俺に惚れるのは、ただの自然の法則だ』

って、おいおい俺自慢じゃないけど、
10年間こいつに片思いしてるんだぜ?

自然の法則って何?

終わった……。
完全に終わった……。
グッバイ! 俺の初恋。

ウォルフは心の中で、とめどなく幻の涙を流した。
車内には重い沈黙の空気が流れる。

車はウォルフの屋敷の近くのショッピング街までやってきた。

「小物買うから、付き合え」

ウォルフはユウラにぶっきら棒にそう言って、車を停めさせた。
休日のショッピング街は、親子連れやカップルで賑わっている。
ウォルフはユウラの手を取った。

「お前はこっち側を歩け」

そういってウォルフはユウラを歩道側に誘導する。

ユウラはふと、あまりにもナチュラルに繋がれてしまった自分の手に視線をやった。

(この男、相当慣れていやがるっ!)

ウォルフのこの行動が、ユウラの闘争心に火をつけた。

「きゃ♡ あのマグカップ超かわいい」

そういってユウラは、ウォルフの腕にしがみついた。

(ぬぉぉぉぉ! この女の胸の弾力が、弾力がぁっ……、腕にぃぃぃぃ)

ウォルフは心の中で、断末魔の叫びを上げる。

「ん? なんだ? ユウラはこのマグカップが気に入ったのか?」

そういってウォルフは、ユウラが可愛いと言ったマグカップを手に取った。
ハートマークが斜めに入ったピンクとブルーのお揃いのマグカップだ。

(悪くないっ!)

ウォルフの瞳がカッと見開かれた。
速攻で支払を済ます。

「うふふ~♡ 捕まえてごらんなさ~い」

そう言ってユウラが、ひらりとウォルフを躱すと、

「あはは~待てよ~ハニー♡」

そう言ってウォルフがユウラを追いかける。

周りが見るとカップルの他愛ない触れ合いの様に見えるが、
二人の目は決して笑ってはいない。

しかも体力バカ二人の戯れなので、何気に全力疾走だ。

「ゼー、ゼー……。
 なかなかやるわね」

死相を浮かべたユウラが、ウォルフに言った。

「ショッピングモールで何気に全力疾走してるんじゃねぇよっ!
 他のお客に迷惑だろうがっ!」

そういってユウラは再びウォルフに手を繋がれた。

「ちゃんとはぐれないように、俺の隣にいろ」

そう言ってウォルフがユウラを引き寄せると、

「わ……わかったわよ」

ユウラは赤面した。
二人の間に微妙な沈黙が流れる。

「ねぇ、どうしてあなたは昔から私の手を繋ぐの?」

ユウラの質問に、ウォルフの目が半眼になった。

「お前、幼少期からさんざん人ごみで迷子になってきたという、
 自分の経歴を忘れたか?」

しかもユウラは極度の方向音痴だ。
自力では、まず戻れない。
その度に自分をはじめ、まわりの者たちがどれだけ心配してきたことか。

「うん、まあ、そうなんだけどさ。
 この年になると、世間一般の男女は恋人でない限り
 あんまり手は繋がないものなんだということを最近知ったっていうか」

ユウラが不思議そうに言った。

「なんだ? お前」

ウォルフは怪訝そうな顔をした。

「そもそも、ウォルフって私のこと好きなの? それとも嫌いなの?
 ときどき分からなくなるんだよね。
 いきなりキレるし、でもキレたらいきなりキスするし」

orz 死ぬほど好きですが、何か?

「好きか嫌いかで言ったら、まあ……好きなんじゃねぇの?」

ウォルフはソッポを向いて赤面してそう言った。

「そうなんだよね、私もウォルフのことは
 好きか嫌いかで言ったら、まぁ好きなんだと思う」

ユウラの言葉にウォルフの時が止まった。

エライこっちゃ! エライこっちゃ! エライこっちゃ!
脳内で自分の分身たちが踊り狂う。

「ただね、私騎士になりたいんだ」

ユウラが真剣な眼差しをウォルフに向けた。

「なればいいんじゃねぇの?」

ウォルフは反射的にそう言った。

「いいの?」

ユウラが目を瞬かせた。

「良いも悪いも……なりたいのなら、なればいいんじゃねぇの?」

ごく何でもないことのようにウォルフがそう言った。

「え? でも私はあなたの許嫁でこれから
 行儀見習いとしてあなたの屋敷に入らないといけないのでしょう?」

ユウラがキョトンとした顔をする。

「そんなもん、両立すればいいだけの話だろ?
 うちの屋敷からアカデミーに通えば?」

そう言ったウォルフの首に、ユウラが抱きついた。

「ウォルフ大好き」

そういって微笑んだユウラに、ウォルフは完全にノックアウトされてしまった。
ゆえにこの二人の一本勝負はつまり、相打ちだ。

ウォルフもぎこちなくユウラの背に腕を回す。

「機嫌直ったか?」

ウォルフがそう問うとユウラが頷いた。
ウォルフは愛おしそうに、ユウラの額に口付けた。

「そうか、それは良かった。
 じゃあ、帰ろうか」

空には一番星が輝き、日の入りと共に下弦の月が夜空に浮かぶ。
ウォルフはユウラの手を自身のコートのポケットに突っ込んだ。

信号待ちの交差点で、思わずウォルフはユウラに口付けた。

「ずっとお前のことが好きだった」
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