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第四話 初LINE
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「望月さくらさん、君はさぁ、
自分の立場ってものをちゃんと理解している?」
ふぁっさーという擬音語とともに、爽やかな空気を身に纏い、
突如目の前に現れた超絶イケメンに、
(出やがったな、妖怪ウザガラミ)
あたしは白目を剥く。
大学の講義室のあたしの席の前にわざとらしく陣取った妖怪、
もとい鳥羽さんがニヤリと含みのある笑みを浮かべた。
「君の心ない行動が、どれだけ僕を傷つけているかわかっているのかい?」
ダークグレイの鳥羽さんの瞳が切なげに揺れる。
くっさい三文芝居だってわかっているのに、
ついうっかりと持っていかれそうになる。
(はっ! いかんいかん、正気を取り戻せ、さくら)
あたしは軽く頭を横に振った。
「僕は別に構わないんだよ? 寛大な心の持ち主だし?
君の失礼極まりない行動に対しても、あくまで大人の対応をするつもりだよ?
だけど、僕のポルシェが……ポルシェがぁ……」
鳥羽さんは言葉を切って、
『ちらっ!』
必殺奥義『流し目』を炸裂させる。
「き……既読スルーの件は、大変申し訳ありませんでした」
あたしは軽く涙目になりながら、鳥羽さんに詫びた。
しかしである。
バイトのド修羅場中に
『月がきれいだ』
なんて送ってこられても、どない返せちゅうんじゃい!
(月見バーガーでも食べとけや!)
とでも送っとけばよかったんだろうか。
あたしは思案に暮れる。
「お前がさぁ、バイトで忙しいのは知ってる。
けど、だからこそこっちはすんげー心配してんだろ?
女の子なのに夜道平気なんだろうか、とか……さ」
鳥羽さんの声のトーンが少し変わった。
下を向いた拍子に薄茶のさら髪が、その表情を隠すけど、
「……」
なんか耳や項のあたりがめちゃくちゃ赤面している。
そしてクワッと顔を上げると。
「ああもう! なんだってお前の周りはこうも空気が薄いんだっ!
環境問題の早期改善が望まれるなぁっ!!!」
謎のキレ方である。
「とにかく、これは業務命令だ。
バイト終わりには必ず俺にLINE寄こせ、いいな」
鳥羽さんはあたしから顔を背けて、少し怒ったような口調でそう言った。
「わ……わかりました」
あたしが渋々頷くと、
鳥羽さんは無言で席を立って講義室を出て行った。
そして開け放たれたドアの向こうで、
「よっしゃー---!」
謎の雄たけびを上げている。
つくづくよくわかんない人だ。
◇◇◇
「よう! 総一郎、いやにご機嫌だな」
俺に声をかけてきたのは、悪友の相良煉である。
相良商事の跡取り息子で、うちの両親と相良ん家の両親が仲が良かったこともあって、
物心つくまえからお互いの家を行き来してって、間柄だ。
「わかる? ねぇ、わかる? やっぱ分かっちゃうかな。
この俺の全開の幸せオーラが」
ああ、いかん。
どうしても顔がにやけてしまう。
「恋をしなさい! 君たちも」
そう言って俺はバシバシと、煉の背中を叩いた。
「痛ってぇな! この馬鹿っ!!」
力の加減が上手くいかなかったのか、煉が軽く涙目になっている。
「恋ってお前、え?」
煉が目を見開いた。
「何?」
俺も煉を見つめて目を瞬かせた。
「いや、なんか意外だなって思って。
お前が女に告白されるのなんてしょっちゅうだったし、
そのうちの何人かと付き合ったのは知ってたけど、
お前、いっつも険しい顔して、長続きなんてした試しがねぇっつうか。
恋愛ごとでお前のそんな幸せそうな顔を見たのは初めて……っつうか」
煉は何か摩訶不思議なものでも見るような眼差しを俺に向けてきた。
確かにこれは俺にとって初めての経験だった。
ゆえにどう動いていいのかが、よくわからない。
彼女のことを考えるとそれだけで、頭がふわふわして幸せで、
だけど彼女の一挙手一投足で奈落の底に突き落とされたりもする。
本当に俺りゃあ、一体どうすりゃいいんだろう。
「きゃー、総一郎君に煉君じゃん」
同じサークルの女子が、偶然を装って声をかけてきやがった。
何が『キャー』だよ。
俺は猛獣かっての。
つぅか俺は、お前に名前で呼ばれる筋合いはない。
(あっちに行け!)
俺は眉間に皺を寄せて、不機嫌オーラを全開にする。
「ねぇ、今日ヒマ? この後クラブ行こうよ」
そう言って、彼女はさりげなく煉の腕に手を添える。
計算され尽くしたモテ女テクニックだな。
俺はそういうのがあまり得意ではない。
(もっとも、女性恐怖症で触れられたら蕁麻疹が出て、
ゲロを吐くんだけどねっ!)
それでも今まで俺のことを好きだと言ってくれた女はたくさんいた。
だけどその人たちはみんな俺の家柄だとかルックスとか、
そんな薄っぺらい外見だけを見て、それを好きだと言ったのだ。
誰も俺の本当の姿を知っちゃいない。
きっとそんなのはどうでもいいんだろう。
家が金持ちで、外見がよければそれでいいんだ。
「おっ! いいねぇ。行こう行こう」
煉は軽いなぁ。
なんか笑いが込み上げた。
とても乾いた笑いだった。
煉はそれでいいのかな。
ふとそう思った。
「もちろん総一郎も行くよな?」
そう言って煉はガシッと俺の肩に手を回した、
◇◇◇
爆音と光の洪水の中で盛り上がる人々を、
二階のボックス席から、俺はぼんやりと見つめた。
「心ここにあらず……って感じだな」
煉が俺を見ながらニヤニヤしてくる。
スマホの画面のデジタル時計が22時を示すと、
俺の精神状態はマイナススパイラルに飲み込まれていく。
(やっぱ今夜もまた、あいつはLINEくれないかもなぁ)
「はぁ~」
条件反射でため息が出る。
LINEを交換したはいいもんの、一度目はカバンの中でスマホの電源が落ちたって言ってた。
そして二度目は既読無視。
(地味にへこむよなぁ)
スマホを握りしめて俺が下を向きかけた瞬間に
LINEの通知音が響いた。
「うぉっ!」
心臓がバクバクいってやがる。
「な、なななななあ、煉、どっ……どうしよう?」
俺が死ぬほど挙動不審になっていると、
「はあ?」
煉が思いっきりひいている。
『22:05 生きてます。以上』望月さくら
これが、俺が生まれて初めて恋をした女の子から貰ったLINEだった。
「なんだこりゃ、生存確認かよ?」
興味本位で俺のスマホを覗き込んだ煉が引き攣っている。
「あのバカっ!」
それでも俺はその言葉とは裏腹に、
顔がにやけてしまうのをおさえられなかった。
自分の立場ってものをちゃんと理解している?」
ふぁっさーという擬音語とともに、爽やかな空気を身に纏い、
突如目の前に現れた超絶イケメンに、
(出やがったな、妖怪ウザガラミ)
あたしは白目を剥く。
大学の講義室のあたしの席の前にわざとらしく陣取った妖怪、
もとい鳥羽さんがニヤリと含みのある笑みを浮かべた。
「君の心ない行動が、どれだけ僕を傷つけているかわかっているのかい?」
ダークグレイの鳥羽さんの瞳が切なげに揺れる。
くっさい三文芝居だってわかっているのに、
ついうっかりと持っていかれそうになる。
(はっ! いかんいかん、正気を取り戻せ、さくら)
あたしは軽く頭を横に振った。
「僕は別に構わないんだよ? 寛大な心の持ち主だし?
君の失礼極まりない行動に対しても、あくまで大人の対応をするつもりだよ?
だけど、僕のポルシェが……ポルシェがぁ……」
鳥羽さんは言葉を切って、
『ちらっ!』
必殺奥義『流し目』を炸裂させる。
「き……既読スルーの件は、大変申し訳ありませんでした」
あたしは軽く涙目になりながら、鳥羽さんに詫びた。
しかしである。
バイトのド修羅場中に
『月がきれいだ』
なんて送ってこられても、どない返せちゅうんじゃい!
(月見バーガーでも食べとけや!)
とでも送っとけばよかったんだろうか。
あたしは思案に暮れる。
「お前がさぁ、バイトで忙しいのは知ってる。
けど、だからこそこっちはすんげー心配してんだろ?
女の子なのに夜道平気なんだろうか、とか……さ」
鳥羽さんの声のトーンが少し変わった。
下を向いた拍子に薄茶のさら髪が、その表情を隠すけど、
「……」
なんか耳や項のあたりがめちゃくちゃ赤面している。
そしてクワッと顔を上げると。
「ああもう! なんだってお前の周りはこうも空気が薄いんだっ!
環境問題の早期改善が望まれるなぁっ!!!」
謎のキレ方である。
「とにかく、これは業務命令だ。
バイト終わりには必ず俺にLINE寄こせ、いいな」
鳥羽さんはあたしから顔を背けて、少し怒ったような口調でそう言った。
「わ……わかりました」
あたしが渋々頷くと、
鳥羽さんは無言で席を立って講義室を出て行った。
そして開け放たれたドアの向こうで、
「よっしゃー---!」
謎の雄たけびを上げている。
つくづくよくわかんない人だ。
◇◇◇
「よう! 総一郎、いやにご機嫌だな」
俺に声をかけてきたのは、悪友の相良煉である。
相良商事の跡取り息子で、うちの両親と相良ん家の両親が仲が良かったこともあって、
物心つくまえからお互いの家を行き来してって、間柄だ。
「わかる? ねぇ、わかる? やっぱ分かっちゃうかな。
この俺の全開の幸せオーラが」
ああ、いかん。
どうしても顔がにやけてしまう。
「恋をしなさい! 君たちも」
そう言って俺はバシバシと、煉の背中を叩いた。
「痛ってぇな! この馬鹿っ!!」
力の加減が上手くいかなかったのか、煉が軽く涙目になっている。
「恋ってお前、え?」
煉が目を見開いた。
「何?」
俺も煉を見つめて目を瞬かせた。
「いや、なんか意外だなって思って。
お前が女に告白されるのなんてしょっちゅうだったし、
そのうちの何人かと付き合ったのは知ってたけど、
お前、いっつも険しい顔して、長続きなんてした試しがねぇっつうか。
恋愛ごとでお前のそんな幸せそうな顔を見たのは初めて……っつうか」
煉は何か摩訶不思議なものでも見るような眼差しを俺に向けてきた。
確かにこれは俺にとって初めての経験だった。
ゆえにどう動いていいのかが、よくわからない。
彼女のことを考えるとそれだけで、頭がふわふわして幸せで、
だけど彼女の一挙手一投足で奈落の底に突き落とされたりもする。
本当に俺りゃあ、一体どうすりゃいいんだろう。
「きゃー、総一郎君に煉君じゃん」
同じサークルの女子が、偶然を装って声をかけてきやがった。
何が『キャー』だよ。
俺は猛獣かっての。
つぅか俺は、お前に名前で呼ばれる筋合いはない。
(あっちに行け!)
俺は眉間に皺を寄せて、不機嫌オーラを全開にする。
「ねぇ、今日ヒマ? この後クラブ行こうよ」
そう言って、彼女はさりげなく煉の腕に手を添える。
計算され尽くしたモテ女テクニックだな。
俺はそういうのがあまり得意ではない。
(もっとも、女性恐怖症で触れられたら蕁麻疹が出て、
ゲロを吐くんだけどねっ!)
それでも今まで俺のことを好きだと言ってくれた女はたくさんいた。
だけどその人たちはみんな俺の家柄だとかルックスとか、
そんな薄っぺらい外見だけを見て、それを好きだと言ったのだ。
誰も俺の本当の姿を知っちゃいない。
きっとそんなのはどうでもいいんだろう。
家が金持ちで、外見がよければそれでいいんだ。
「おっ! いいねぇ。行こう行こう」
煉は軽いなぁ。
なんか笑いが込み上げた。
とても乾いた笑いだった。
煉はそれでいいのかな。
ふとそう思った。
「もちろん総一郎も行くよな?」
そう言って煉はガシッと俺の肩に手を回した、
◇◇◇
爆音と光の洪水の中で盛り上がる人々を、
二階のボックス席から、俺はぼんやりと見つめた。
「心ここにあらず……って感じだな」
煉が俺を見ながらニヤニヤしてくる。
スマホの画面のデジタル時計が22時を示すと、
俺の精神状態はマイナススパイラルに飲み込まれていく。
(やっぱ今夜もまた、あいつはLINEくれないかもなぁ)
「はぁ~」
条件反射でため息が出る。
LINEを交換したはいいもんの、一度目はカバンの中でスマホの電源が落ちたって言ってた。
そして二度目は既読無視。
(地味にへこむよなぁ)
スマホを握りしめて俺が下を向きかけた瞬間に
LINEの通知音が響いた。
「うぉっ!」
心臓がバクバクいってやがる。
「な、なななななあ、煉、どっ……どうしよう?」
俺が死ぬほど挙動不審になっていると、
「はあ?」
煉が思いっきりひいている。
『22:05 生きてます。以上』望月さくら
これが、俺が生まれて初めて恋をした女の子から貰ったLINEだった。
「なんだこりゃ、生存確認かよ?」
興味本位で俺のスマホを覗き込んだ煉が引き攣っている。
「あのバカっ!」
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