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学園編

古典的いじめ

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「何やってるの。全力で走ってるの見られたら怒られるよ」

図書館から出て全力疾走していた所にソフィがやってきた。笑顔ではあるが、圧がすごい。いや笑顔だからこそ圧がすごい。まるで般若のよう。

「ごめっ、ちょっと、色々あってっ……」

肩で息をすると言った状態の私とそれを冷たい目で見下ろすソフィ。

「見たところ図書館の方向から来たよね? あっちって図書館以外何もないよね? ……まさか行ってないやんな!?」

標準語にして話すのを忘れて関西弁で喋る彼女から相当焦っていることが感じられた。その後も聞き取れないくらいの猛スピードで何かを捲し立てていた。

「……ごめんなさい、行きました! そして攻略対象のアンリ・オスティーヴに出会いました」

イケメンな上に魔物手懐けてびっくりしました、かっこよかったです。という本音は怒られることを確信したので胸の内に仕舞っておく。

「……はい? 何やってるんよ! 図書館は行くなって言ったやろ! なんでちゃっかりフラグ回収しとんの!」

大声で叫ぶ彼女。近くに渡り廊下のようなところを歩いている先生の姿が見えたので彼女の口を急いで塞いだ。

「ちょっと静かにして。あそこに先生がいるの。騒いで見つかったら厄介だから」

ずっと藍色の瞳をカッと見開いて怒っていた彼女は口を塞いでそう言ったことで少し落ち着いたらしい。いつものような貴族的笑みを浮かべる。もう大丈夫だろうと思い、私はソフィから手を離して、少しばかり距離を取った。

「ごめんごめん。で、アンリ・オスティーヴはどんな様子だった?」

「シナリオが大分変わってた。ゲームではアンリと婚約者のリリーって仲悪かったでしょ? でも今は目に毒なレベルでラブラブだった。そしてリリーはめっちゃ可愛かった」

色々とシナリオが狂ってきている。多分私が色々とおかしな行動を取っているのが関係しているのだろうが。

「まじか。意味わからん……」

少し厄介かもしれない。攻略キャラがゲーム通りに動いてくれるなら、私はゲームクリア出来る選択肢と別のものを選べばいいだけ。でも、今はその返答をしたときの相手の反応が読めない。ソフィも同じことを考えたようで、大きく溜息をついた。

「……まあ考えても仕方ないか。……ああ、そういえばいい忘れてたや。講義前に教室入るときは気を付けてね」

その時の私には、ソフィの言葉の意味がよく分からなかった。――しかし、数時間後にその言葉の意味を私は思い知ることとなった。



「……そろそろ魔法学の授業が始まるんじゃない?」

四時間目が終わったらしい。鐘が鳴らされた。

「ん、行こうか」

花壇の前に置かれたベンチで紺の髪を弄っていたソフィが立ち上がる。何故だろうか、どこか憂鬱そうな表情をしていた。

 講義のある部屋まで歩いていき、ガラリと扉を開ける。途端に向かってくる水。

『シールド』

私とソフィ、二人分の魔力の壁でバチャ、と水が跳ね返る。……古典的いじめ。画鋲を上靴の中に入れたり、黒板消しをドアに挟んだりする昭和の時代からある単純で馬鹿馬鹿しいもの。

「あらごめんなさい。先程にしていた実験の時に使った水を誤って掛けてしまいましたわ。失礼」

いじめの元凶と思われし令嬢、ミルフィオル・サフィーレがオホホホホと笑って私達の前に立ちはだかった。ソフィはどうやらこういうことがとても苦手らしく、私の後ろで震えて固まっている。……美少女を困らせるとは。許さぬぞ。

「謝罪は? サフィーレ男爵家のミルフィオル・サフィーレさん」

私はあらんばかりの眼力を使って睨みつける。彼女は負けじと睨み返してきた。……まだ自分の置かれた状況を分かっていらっしゃらないようで。さあ、覚悟していなさい。というような柄にもない悪役令嬢のようなことを考えて、ああ、めっちゃかっこいいセリフだわ、なんて思っていた。


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