21 / 47
学園編
古典的いじめ
しおりを挟む
「何やってるの。全力で走ってるの見られたら怒られるよ」
図書館から出て全力疾走していた所にソフィがやってきた。笑顔ではあるが、圧がすごい。いや笑顔だからこそ圧がすごい。まるで般若のよう。
「ごめっ、ちょっと、色々あってっ……」
肩で息をすると言った状態の私とそれを冷たい目で見下ろすソフィ。
「見たところ図書館の方向から来たよね? あっちって図書館以外何もないよね? ……まさか行ってないやんな!?」
標準語にして話すのを忘れて関西弁で喋る彼女から相当焦っていることが感じられた。その後も聞き取れないくらいの猛スピードで何かを捲し立てていた。
「……ごめんなさい、行きました! そして攻略対象のアンリ・オスティーヴに出会いました」
イケメンな上に魔物手懐けてびっくりしました、かっこよかったです。という本音は怒られることを確信したので胸の内に仕舞っておく。
「……はい? 何やってるんよ! 図書館は行くなって言ったやろ! なんでちゃっかりフラグ回収しとんの!」
大声で叫ぶ彼女。近くに渡り廊下のようなところを歩いている先生の姿が見えたので彼女の口を急いで塞いだ。
「ちょっと静かにして。あそこに先生がいるの。騒いで見つかったら厄介だから」
ずっと藍色の瞳をカッと見開いて怒っていた彼女は口を塞いでそう言ったことで少し落ち着いたらしい。いつものような貴族的笑みを浮かべる。もう大丈夫だろうと思い、私はソフィから手を離して、少しばかり距離を取った。
「ごめんごめん。で、アンリ・オスティーヴはどんな様子だった?」
「シナリオが大分変わってた。ゲームではアンリと婚約者のリリーって仲悪かったでしょ? でも今は目に毒なレベルでラブラブだった。そしてリリーはめっちゃ可愛かった」
色々とシナリオが狂ってきている。多分私が色々とおかしな行動を取っているのが関係しているのだろうが。
「まじか。意味わからん……」
少し厄介かもしれない。攻略キャラがゲーム通りに動いてくれるなら、私はゲームクリア出来る選択肢と別のものを選べばいいだけ。でも、今はその返答をしたときの相手の反応が読めない。ソフィも同じことを考えたようで、大きく溜息をついた。
「……まあ考えても仕方ないか。……ああ、そういえばいい忘れてたや。講義前に教室入るときは気を付けてね」
その時の私には、ソフィの言葉の意味がよく分からなかった。――しかし、数時間後にその言葉の意味を私は思い知ることとなった。
「……そろそろ魔法学の授業が始まるんじゃない?」
四時間目が終わったらしい。鐘が鳴らされた。
「ん、行こうか」
花壇の前に置かれたベンチで紺の髪を弄っていたソフィが立ち上がる。何故だろうか、どこか憂鬱そうな表情をしていた。
講義のある部屋まで歩いていき、ガラリと扉を開ける。途端に向かってくる水。
『シールド』
私とソフィ、二人分の魔力の壁でバチャ、と水が跳ね返る。……古典的いじめ。画鋲を上靴の中に入れたり、黒板消しをドアに挟んだりする昭和の時代からある単純で馬鹿馬鹿しいもの。
「あらごめんなさい。先程にしていた実験の時に使った水を誤って掛けてしまいましたわ。失礼」
いじめの元凶と思われし令嬢、ミルフィオル・サフィーレがオホホホホと笑って私達の前に立ちはだかった。ソフィはどうやらこういうことがとても苦手らしく、私の後ろで震えて固まっている。……美少女を困らせるとは。許さぬぞ。
「謝罪は? サフィーレ男爵家のミルフィオル・サフィーレさん」
私はあらんばかりの眼力を使って睨みつける。彼女は負けじと睨み返してきた。……まだ自分の置かれた状況を分かっていらっしゃらないようで。さあ、覚悟していなさい。というような柄にもない悪役令嬢のようなことを考えて、ああ、めっちゃかっこいいセリフだわ、なんて思っていた。
図書館から出て全力疾走していた所にソフィがやってきた。笑顔ではあるが、圧がすごい。いや笑顔だからこそ圧がすごい。まるで般若のよう。
「ごめっ、ちょっと、色々あってっ……」
肩で息をすると言った状態の私とそれを冷たい目で見下ろすソフィ。
「見たところ図書館の方向から来たよね? あっちって図書館以外何もないよね? ……まさか行ってないやんな!?」
標準語にして話すのを忘れて関西弁で喋る彼女から相当焦っていることが感じられた。その後も聞き取れないくらいの猛スピードで何かを捲し立てていた。
「……ごめんなさい、行きました! そして攻略対象のアンリ・オスティーヴに出会いました」
イケメンな上に魔物手懐けてびっくりしました、かっこよかったです。という本音は怒られることを確信したので胸の内に仕舞っておく。
「……はい? 何やってるんよ! 図書館は行くなって言ったやろ! なんでちゃっかりフラグ回収しとんの!」
大声で叫ぶ彼女。近くに渡り廊下のようなところを歩いている先生の姿が見えたので彼女の口を急いで塞いだ。
「ちょっと静かにして。あそこに先生がいるの。騒いで見つかったら厄介だから」
ずっと藍色の瞳をカッと見開いて怒っていた彼女は口を塞いでそう言ったことで少し落ち着いたらしい。いつものような貴族的笑みを浮かべる。もう大丈夫だろうと思い、私はソフィから手を離して、少しばかり距離を取った。
「ごめんごめん。で、アンリ・オスティーヴはどんな様子だった?」
「シナリオが大分変わってた。ゲームではアンリと婚約者のリリーって仲悪かったでしょ? でも今は目に毒なレベルでラブラブだった。そしてリリーはめっちゃ可愛かった」
色々とシナリオが狂ってきている。多分私が色々とおかしな行動を取っているのが関係しているのだろうが。
「まじか。意味わからん……」
少し厄介かもしれない。攻略キャラがゲーム通りに動いてくれるなら、私はゲームクリア出来る選択肢と別のものを選べばいいだけ。でも、今はその返答をしたときの相手の反応が読めない。ソフィも同じことを考えたようで、大きく溜息をついた。
「……まあ考えても仕方ないか。……ああ、そういえばいい忘れてたや。講義前に教室入るときは気を付けてね」
その時の私には、ソフィの言葉の意味がよく分からなかった。――しかし、数時間後にその言葉の意味を私は思い知ることとなった。
「……そろそろ魔法学の授業が始まるんじゃない?」
四時間目が終わったらしい。鐘が鳴らされた。
「ん、行こうか」
花壇の前に置かれたベンチで紺の髪を弄っていたソフィが立ち上がる。何故だろうか、どこか憂鬱そうな表情をしていた。
講義のある部屋まで歩いていき、ガラリと扉を開ける。途端に向かってくる水。
『シールド』
私とソフィ、二人分の魔力の壁でバチャ、と水が跳ね返る。……古典的いじめ。画鋲を上靴の中に入れたり、黒板消しをドアに挟んだりする昭和の時代からある単純で馬鹿馬鹿しいもの。
「あらごめんなさい。先程にしていた実験の時に使った水を誤って掛けてしまいましたわ。失礼」
いじめの元凶と思われし令嬢、ミルフィオル・サフィーレがオホホホホと笑って私達の前に立ちはだかった。ソフィはどうやらこういうことがとても苦手らしく、私の後ろで震えて固まっている。……美少女を困らせるとは。許さぬぞ。
「謝罪は? サフィーレ男爵家のミルフィオル・サフィーレさん」
私はあらんばかりの眼力を使って睨みつける。彼女は負けじと睨み返してきた。……まだ自分の置かれた状況を分かっていらっしゃらないようで。さあ、覚悟していなさい。というような柄にもない悪役令嬢のようなことを考えて、ああ、めっちゃかっこいいセリフだわ、なんて思っていた。
10
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
転生悪役令嬢の前途多難な没落計画
一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。
私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。
攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって?
私は、執事攻略に勤しみますわ!!
っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。
※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる