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学園編

関西弁とソフィ

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 今日は初の授業がある日だ。もっとも私が出席しなければいけないのは一教科だけであるが。昨日私が驚かせることになってしまったレオニード・パッツィ先生による魔法学。授業ではネロに学んだことだけしか出てこないらしい。初めはステータスについてちょっと勉強するだけだから気負わずに受けてこいとのこと。

 ああ、そろそろ行かなくちゃいけない。……どうせ五時間目の魔法学しか出ないのだから一時間目から行く必要は無いと思うのだが。前世からのサボり癖がある私は出来るだけ授業も受けたくないし、何なら学校にも行きたくない。

「お嬢様、学園に行く時間です。遅れてはいけないので降りてきてください!」

「はーい、今行く」

私は階段を駆け降り、下に停めてある馬車に乗り込む。ああ、憂鬱。毎日のアンナの努力でサラサラになっている銀色の髪を私はくるくる弄って馬車の窓から外を見る。空は憎たらしく感じるほどの快晴だった。



「ではお嬢様。学園が終わり次第迎えに来ますので」

学園には教師以外の大人は入ってはいけない。子供だけで身分を気にせずのびのび生活するという指針が学園にある為である。身分を弁えてを既に教えられている十二歳の子供に「身分を気にせず」なんて無理な話であるが。そんなわけでアンナも中には入れない。

「ええ、行ってきます」

未だ慣れない学園の門をくぐる。既に学園には数多くの生徒が登校していて、どことなくわちゃわちゃがやがやとしていた。

「ミカエル!」

後ろから走ってきたのは紺の髪の美少女。――そう、ソフィだ。

「ソフィ、おはよう」

「おはよう。今日ミカエルが受ける講義は魔法学だけだっけ」

……標準語。そりゃ学園では他の人の目があるから関西弁を使ってはいけないけども。

「耳慣れない」

目の前でソフィがキョトンとする。……可愛い、見た目は美少女だから。中身は全く美少女ではないけれど。しばらくしてソフィも言っている意味が分かったようで、少し頬を膨らませて反論してくる。


「なんでよ。此処では関西弁使ったら駄目でしょう? それにソフィの見た目にマッチしてると思わない?」

確かにそっちの話し方のほうが紺髪美少女の見た目には合うけれど、普段の話し方に慣れてしまっていると違和感が拭えなかった。

「で、魔法学だけなの、今日受けるのは?」

「うん、魔法学だけ。他は満点だったからねー ソフィはあと数学もだっけ」

ソフィの成績は二位の王子に続いて三位。彼女はどうやら数学が苦手らしく大きく落としてしまったとのこと。それ以外は満点らしい。……転生者ってこうやって見たらチートなのでは? 三位より下、つまり四位とソフィでは百点ほどの差があったらしい。そして私とソフィは魔法の面においても非常によく出来る方だ、と思う。

「数学なんて滅んだらいいのに。ミカエルはそう思わないのー?」

「数学なんて計算して答えを出すまでの過程を示すだけでしょう? 慣れたら簡単だよ。覚えることなんてほとんどないし」

社会のように必死で覚えなくていいから私は個人的には数学が好きだ。この国の歴史と地理を覚えるのにどれだけ掛かったか。歴史は長くてややこしいし、地理は横文字ばかりで入ってこない。それも縁もゆかりもないことなのが覚えられないことに拍車をかける。数学なら前世とやっていることは同じな上に、覚えることは皆無と言ってもいいくらい。勉強しなくても出来るので非常に楽なのだ。

「それを言えるのは天才だからだって…… 一時間目が数学で受けなきゃだから二時間目から一緒にどこかでお喋りしよ」

「ん。じゃ、適当にどこかで時間を潰しておくね」

図書館にでも行って時間を潰しておこう、なんて考えながら私はゆったり歩き出した。――図書館が出会いイベントの発生する場所だということをすっかり忘れて。


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