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第3章 魔獣の棲家 編
第47話 流れ着いた女性
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ダネス砂漠での過酷な旅を終え、イグナシア王国の王都ロドスに戻ったレイヴン一行。
久しぶりの我が家で、ゆっくりとくつろごうにも、ある問題に直面するのだ。
以前は、レイヴンとクロウの二人暮らしであったため、大きさを気にした事がない住まい。
ところが、砂漠の民カーリィとメラ。森の民アンナと人が増えた事により、やや手狭に感じるようになったのだ。
空いている部屋は、まだあるのだが、やはり女性の割合が多くなってしまったため、何かと気を使う事が多くなる。
三人とも気にしなくていいとは言うものの、レイヴンからすると、そうはいかないのだ。
うっかり、悪いタイミングでバッティングしてしまった時を想像すると、気まずくて仕方ない。
こういった場合、『男の方が肝が据わっていないもんだな』などと思いながら、家の改築・増築へ踏み切る事にした。
ただ、造りを大きくするだけでは、芸がない。この際、三人に何かリクエストはないか尋ねると、全員が大浴場を希望した。
砂漠の旅で使用したコテージにあった浴室を、皆、気に入ったようである。
ならば、お気に召すままにと、レイヴンは増築リフォーム後のマイホームの形状を頭の中でイメージした。
おおよその設計図が浮かび上がると、住人に、一旦、外に出るよう指示を出す。
『制作』
この呪文で、あっという間に『低利貸屋 レイヴン』の看板が一階層高くなるのだった。
今まで、二階建ての物件が三階建てに早変わりしたのである。
「・・・こんな、簡単にですか?」
「あなたのスキルは、無茶苦茶ね」
そうは言うが、『旋律』と『無効』も相当チート級だと思うが、その二人に呆れられたのだ。
納得がいかないが、気を取り直して、新しくなった家の中を案内する。
一人一部屋、当たるようにしたのだが、カーリィとメラは部屋の中からも行き来できるように続き部屋にした。豪華客船で見かけたように、夜、あの薄着で廊下を行ったり来たりされては、レイヴンの精神衛生上、よろしくない。
アンナの部屋は、更にその隣。女性陣は、揃って二階に住んでもらう事にした。
そして、ご要望の大浴場をお披露目する。
四、五人で入ってもゆったりと出来るバスタブにシャワーを完備。岩盤浴ができるスペースのおまけまで付ける。
それを見た、三人からは黄色い歓声が上がるのだった。
「私、体の洗いっこに憧れていたのよね」
そう話すのはカーリィである。今まで自分のスキルのせいで、人と触れ合う事に躊躇いがあったのだが、『同期』を覚えたおかげで、その悩みも解消できた。
早速、入りたいとの申告があり、三人を置いてレイヴンは浴室を出る。
これから、冒険者ギルドにも顔を出さなければならないのだ。
レイヴンはクロウを肩に乗せて、隣の建物へと向かう。
一階の受付にいたエイミに挨拶をすると、隣には初めて見る職員がカウンターに座っていた。
「こちら、ソフィアよ」
そう言って紹介されたのは、エイミと同じ金髪の女性。
聞くとレイヴンが冒険者ギルドに預けたお金の管理を任せるために、臨時で雇ったのだという。
レイヴンは挨拶を交わしながら、頭をかいた。
「儲けの出ない変な仕事で、すいません」
「いえ、意外と楽しかったです。一応、帳簿の確認をお願いできますか?」
レイヴンとソフィアはお互いの黒い指輪を近づけた。魔法道具に金貸しの履歴を送信してもらったのである。
ざっと確認するが、おかしなところは一つもなかった。仕事はきちんとこなすタイプのようで、これならば安心して任せることができる。
よく、こんな人材を見つけてきたと感心していると、エイミは、「ちょっとね」と誤魔化した。
何か訳ありなのかもしれないが、女性の出自をあれこれ聞くことは野暮だろう。
あのエイミが信用して仕事を任せているのが、すでに答えになっていた。
レイヴンとしては、仕事さえ、きちんとこなしてくれればいいと割り切る。
「臨時みたいですけど、継続して頼めますか?」
「それは、私としては構いませんが・・・いいのかしら?」
ソフィアは承諾しつつも、気にしてエイミに確認を取った。おそらく彼女は短期の契約。これ以上は契約の更新が必要になるのだと思われる。
「もしかして、また、旅に出るの?」
それは、ソフィアが引き続きレイヴンの仕事を手伝わなければならない理由を考えた時、真っ先に思いつく事だ。
エイミの閃きは鋭く、レイヴンは素直に認める。
「ちょっと、面倒なことになっているんだよ。・・・その辺はグリュムとも相談したいんだけど・・・」
「そうなのね・・・ギルドマスターなら、今、自室にいるはずよ。」
エイミは、少し寂しそうな口調になるが、すぐに仕事の表情へと変わった。レイヴンは、グリュムへの取次ぎを頼む。
「それじゃあ、彼女の給与は俺が支払うよ」
「いや、そこは気にしなくてもいいと思うけど・・・そうね、その点も打合せをしましょう」
とりあえず、ソフィアには継続して業務を依頼し、エイミと一緒にグリュムの部屋を訪ねた。
そこでレイヴンは、『梟』という組織が、精霊の四大秘宝を狙っている話と、すでに『炎の宝石』と『風の宝石』が奪われている事を説明する。
予想以上に大きな話に驚きながらも、二人は事の重大さを理解した。
四大秘宝を全て集め、合成によって完成する『奇跡の宝石』を使って、何を企んでいるのか?まったく想像もつかないが、悪い予感しかしない。
「それじゃあ、お前は次に、海の民の元へ向かうのか?」
「ああ、奴らが次に狙うとしたら『水の宝石』だからな」
目的地は決まっているが、海の民は、現在、鎖国状態と聞いていた。無事に辿り着けるかどうかは分からない。
冒険者ギルドで、海の民について知っている情報がないか確認するが、グリュムは首を一旦、横に振った。
ただ、次の瞬間、ある事を思い出す。
「そう言えば、お前がロドスに戻ってくる数日前、西海岸のダールドって港町の砂浜に、一人の女性が流れ着いたらしい」
「それが、何か関係あるのか?」
「ああ、その女性の身なりから、もしかしたら海の民じゃないかって噂が上がっている」
海の民が住む国は、離れ島となっており、大陸とは文化圏が違った。そのため、服装が着物と呼ばれる衣服を着用していると聞いたことがある。
その女性の身なりが、エウベ大陸であまり見かけないものだとしたら、海の民だという可能性はかなり高い話だ。
さすが大陸を、またにかけて旅をする冒険者たちが集まるギルド。貴重な情報提供にレイヴンは、感謝する。
まずは、とっかかりとして、ダールドに向かう事に決めたレイヴンは、砂漠の民の族長ロンメルにもお願いした件をグリュムにも依頼した。
それは、『梟』に関する情報収集である。あの組織に関する事なら、何でも構わないので気にかけてほしいと頼んだのだ。
最後にソフィアについても、引き続き雇用してもらうよう正式に申し入れる。
給与は、こちらで持つと伝えたが、それくらいは冒険者ギルドに任せろとグリュムに突っぱねられた。
全ての打合せが終わり、レイヴンが部屋を出ようとするとエイミが呼び止める。不意に彼女が抱きついてきたのだ。クロウが肩から飛び降り、グリュムは、反射的に目を逸らす。
「えっ、どうしたんですか?」
「前もこれで、無事に帰って、来られたでしょ」
「ああ、ゲン担ぎね」
そういう事にしておくエイミは、離れた後も、改めて「無事に帰って来て」と念を押した。
続いて、クロウに対しても、「帰って来るのよ」と頭を撫でる。
兄弟そろって、約束を取り交わすと、今度こそ、部屋を出るためドアノブに手をかけた。これから、市場に出かけて、肉料理店『ロイン』のハンバーグを堪能する予定なのである。
だが、ある事を思い出して、立ち止まった。
「そうだ、もう派手な見送りは勘弁してくれよ」
「ああ、分かった。普通に見送るから、お前も当たり前にように帰って来い」
レイヴンは、サムズアップで返事を返す。グリュムとエイミも同じポーズを返し、黒髪緋眼の青年の背中を見送るのだった。
久しぶりの我が家で、ゆっくりとくつろごうにも、ある問題に直面するのだ。
以前は、レイヴンとクロウの二人暮らしであったため、大きさを気にした事がない住まい。
ところが、砂漠の民カーリィとメラ。森の民アンナと人が増えた事により、やや手狭に感じるようになったのだ。
空いている部屋は、まだあるのだが、やはり女性の割合が多くなってしまったため、何かと気を使う事が多くなる。
三人とも気にしなくていいとは言うものの、レイヴンからすると、そうはいかないのだ。
うっかり、悪いタイミングでバッティングしてしまった時を想像すると、気まずくて仕方ない。
こういった場合、『男の方が肝が据わっていないもんだな』などと思いながら、家の改築・増築へ踏み切る事にした。
ただ、造りを大きくするだけでは、芸がない。この際、三人に何かリクエストはないか尋ねると、全員が大浴場を希望した。
砂漠の旅で使用したコテージにあった浴室を、皆、気に入ったようである。
ならば、お気に召すままにと、レイヴンは増築リフォーム後のマイホームの形状を頭の中でイメージした。
おおよその設計図が浮かび上がると、住人に、一旦、外に出るよう指示を出す。
『制作』
この呪文で、あっという間に『低利貸屋 レイヴン』の看板が一階層高くなるのだった。
今まで、二階建ての物件が三階建てに早変わりしたのである。
「・・・こんな、簡単にですか?」
「あなたのスキルは、無茶苦茶ね」
そうは言うが、『旋律』と『無効』も相当チート級だと思うが、その二人に呆れられたのだ。
納得がいかないが、気を取り直して、新しくなった家の中を案内する。
一人一部屋、当たるようにしたのだが、カーリィとメラは部屋の中からも行き来できるように続き部屋にした。豪華客船で見かけたように、夜、あの薄着で廊下を行ったり来たりされては、レイヴンの精神衛生上、よろしくない。
アンナの部屋は、更にその隣。女性陣は、揃って二階に住んでもらう事にした。
そして、ご要望の大浴場をお披露目する。
四、五人で入ってもゆったりと出来るバスタブにシャワーを完備。岩盤浴ができるスペースのおまけまで付ける。
それを見た、三人からは黄色い歓声が上がるのだった。
「私、体の洗いっこに憧れていたのよね」
そう話すのはカーリィである。今まで自分のスキルのせいで、人と触れ合う事に躊躇いがあったのだが、『同期』を覚えたおかげで、その悩みも解消できた。
早速、入りたいとの申告があり、三人を置いてレイヴンは浴室を出る。
これから、冒険者ギルドにも顔を出さなければならないのだ。
レイヴンはクロウを肩に乗せて、隣の建物へと向かう。
一階の受付にいたエイミに挨拶をすると、隣には初めて見る職員がカウンターに座っていた。
「こちら、ソフィアよ」
そう言って紹介されたのは、エイミと同じ金髪の女性。
聞くとレイヴンが冒険者ギルドに預けたお金の管理を任せるために、臨時で雇ったのだという。
レイヴンは挨拶を交わしながら、頭をかいた。
「儲けの出ない変な仕事で、すいません」
「いえ、意外と楽しかったです。一応、帳簿の確認をお願いできますか?」
レイヴンとソフィアはお互いの黒い指輪を近づけた。魔法道具に金貸しの履歴を送信してもらったのである。
ざっと確認するが、おかしなところは一つもなかった。仕事はきちんとこなすタイプのようで、これならば安心して任せることができる。
よく、こんな人材を見つけてきたと感心していると、エイミは、「ちょっとね」と誤魔化した。
何か訳ありなのかもしれないが、女性の出自をあれこれ聞くことは野暮だろう。
あのエイミが信用して仕事を任せているのが、すでに答えになっていた。
レイヴンとしては、仕事さえ、きちんとこなしてくれればいいと割り切る。
「臨時みたいですけど、継続して頼めますか?」
「それは、私としては構いませんが・・・いいのかしら?」
ソフィアは承諾しつつも、気にしてエイミに確認を取った。おそらく彼女は短期の契約。これ以上は契約の更新が必要になるのだと思われる。
「もしかして、また、旅に出るの?」
それは、ソフィアが引き続きレイヴンの仕事を手伝わなければならない理由を考えた時、真っ先に思いつく事だ。
エイミの閃きは鋭く、レイヴンは素直に認める。
「ちょっと、面倒なことになっているんだよ。・・・その辺はグリュムとも相談したいんだけど・・・」
「そうなのね・・・ギルドマスターなら、今、自室にいるはずよ。」
エイミは、少し寂しそうな口調になるが、すぐに仕事の表情へと変わった。レイヴンは、グリュムへの取次ぎを頼む。
「それじゃあ、彼女の給与は俺が支払うよ」
「いや、そこは気にしなくてもいいと思うけど・・・そうね、その点も打合せをしましょう」
とりあえず、ソフィアには継続して業務を依頼し、エイミと一緒にグリュムの部屋を訪ねた。
そこでレイヴンは、『梟』という組織が、精霊の四大秘宝を狙っている話と、すでに『炎の宝石』と『風の宝石』が奪われている事を説明する。
予想以上に大きな話に驚きながらも、二人は事の重大さを理解した。
四大秘宝を全て集め、合成によって完成する『奇跡の宝石』を使って、何を企んでいるのか?まったく想像もつかないが、悪い予感しかしない。
「それじゃあ、お前は次に、海の民の元へ向かうのか?」
「ああ、奴らが次に狙うとしたら『水の宝石』だからな」
目的地は決まっているが、海の民は、現在、鎖国状態と聞いていた。無事に辿り着けるかどうかは分からない。
冒険者ギルドで、海の民について知っている情報がないか確認するが、グリュムは首を一旦、横に振った。
ただ、次の瞬間、ある事を思い出す。
「そう言えば、お前がロドスに戻ってくる数日前、西海岸のダールドって港町の砂浜に、一人の女性が流れ着いたらしい」
「それが、何か関係あるのか?」
「ああ、その女性の身なりから、もしかしたら海の民じゃないかって噂が上がっている」
海の民が住む国は、離れ島となっており、大陸とは文化圏が違った。そのため、服装が着物と呼ばれる衣服を着用していると聞いたことがある。
その女性の身なりが、エウベ大陸であまり見かけないものだとしたら、海の民だという可能性はかなり高い話だ。
さすが大陸を、またにかけて旅をする冒険者たちが集まるギルド。貴重な情報提供にレイヴンは、感謝する。
まずは、とっかかりとして、ダールドに向かう事に決めたレイヴンは、砂漠の民の族長ロンメルにもお願いした件をグリュムにも依頼した。
それは、『梟』に関する情報収集である。あの組織に関する事なら、何でも構わないので気にかけてほしいと頼んだのだ。
最後にソフィアについても、引き続き雇用してもらうよう正式に申し入れる。
給与は、こちらで持つと伝えたが、それくらいは冒険者ギルドに任せろとグリュムに突っぱねられた。
全ての打合せが終わり、レイヴンが部屋を出ようとするとエイミが呼び止める。不意に彼女が抱きついてきたのだ。クロウが肩から飛び降り、グリュムは、反射的に目を逸らす。
「えっ、どうしたんですか?」
「前もこれで、無事に帰って、来られたでしょ」
「ああ、ゲン担ぎね」
そういう事にしておくエイミは、離れた後も、改めて「無事に帰って来て」と念を押した。
続いて、クロウに対しても、「帰って来るのよ」と頭を撫でる。
兄弟そろって、約束を取り交わすと、今度こそ、部屋を出るためドアノブに手をかけた。これから、市場に出かけて、肉料理店『ロイン』のハンバーグを堪能する予定なのである。
だが、ある事を思い出して、立ち止まった。
「そうだ、もう派手な見送りは勘弁してくれよ」
「ああ、分かった。普通に見送るから、お前も当たり前にように帰って来い」
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