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第2章 炎の砂漠 編

第43話 梟の襲撃

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『砂漠の神殿』。招かざる訪問者に、和やかな雰囲気が一変する。
手を叩く音が聞こえたため、そちらに注目すると、茶髪を短く刈り上げた男が、他の仲間、二人とともに広間の中へ入って来た。

それは、ミードル川を豪華客船で遡行そこうした際に知り合った、ウォルトである。
そして、その中には、今となっては二人の関係性が分からなくなったが、相方の女性。眼鏡をかけて知的な雰囲気を醸し出すパメラの姿もあった。

「いやぁ、千年の恋を成就させるとは・・・恐れ入った。久しぶりに、面白いものを見させてもらったぜ。さすがは、レイヴンだな」

口調はやけに馴れ馴れしいが、当然、親しくする間柄ではない。
ウォルトやパメラは、レイヴンが敵として追いかけるミューズ・キテラ。彼女が関りを持つ組織『アウル』のメンバーなのだ。

しかも、彼らがこの場に登場したという事は、『森の神殿』が被害にあった時と同様、狙いは神殿の秘宝『炎の宝石フレイムルビー』で間違いない。

何としても、その野望は阻止しなければならないのだ。

それにしても特別な方位磁石を持っているわけではない。よく『砂漠の神殿』に辿り着いたと、レイヴンは感心した。

「砂漠の民の案内もなく、よくここまで辿りつけたな?」
「ん?俺のスキルを忘れたのか?俺はお前らの匂いを辿って来ればいいだけ。案内、助かったぜ」

そう言うとウォルトは『獣人化アンスロ』のスキルを使って、狼男ウェアウルフの姿になって見せる。
確かにその常人離れした鼻の良さで、豪華客船で起きた事件を解決したのだが、まさかあの砂嵐の中でも鼻が利くとは思わなかった。

「それじゃあ、私のスキルも覚えていますよね」

そこに深緑のフードを被る森の民のアンナが、会話に割って入る。彼女は『森の神殿』を荒らされ、秘宝『風の宝石ブリーズエメラルド』を奪われた恨みを持っており、いつになく好戦的だ。

すぐに鉄笛を吹き、『旋律メロディー』のスキルを使用する。
狼男ウェアウルフにしか聞こえない高周波の音で、豪華客船の時と同じく、ウォルトにダメージを与えようとしたのだ。

「そんなの対策済みに決まっているでしょ」

風纏ウェアリング・ウインド

手の内を知るパメラが呪文を唱えると、ウォルトの周囲にだけ風が巻き起こり、音を遮断する。
これで、狼男ウェアウルフは音に苦しめられる事なく自由に動けるようになるのだ。

目にも止まらぬ速さで走ると、祭壇に置いてある『炎の宝石フレイムルビー』に手をかけようとする。
寸前のところで、レイヴンが壁を作り、貴重な宝石が盗まれるのを防いだ。

急停止し、立ち往生したところ、すかさずメラのシードルがウォルトを襲う。しかし、壁を蹴り、その反動で距離を取って、攻撃を躱すのだった。

「私がいるのも忘れないで」

派手な動きをするウォルトに注目が集まる中、カーリィが白い紐を伸ばし、パメラを捕らえようとする。彼女のスキルを抑え込めば、狼男ウェアウルフに対して、アンナのスキルが有効になるのだ。

旋風ワールウインド

だが、油断をしていなかったパメラは風を巻き起こして、カーリィの紐を自身に近づけさない。

「そう、確かにあなたのスキルは厄介よね。・・・生きているのは、本当に計算外だわ」

パメラの目算では、精鎮の儀式でカーリィが命を落とした後、『砂漠の神殿』の広間に突入するつもりだったのが、計算が狂ってしまったのである。
それほど、『無効インバルド』のスキルは強力なのだ。

「ちょっと、あなたも黙っていないで、少しは手伝ったら・・・ってどうしたの?」

パメラは、強敵を前にして、一緒に来たもう一人の仲間に参戦を促す。ところが、その肝心の男の体が震えているのを訝しんだ。
その長髪の男は、両手を広げると興奮したように大声で叫ぶ。

「な、なんて美しいんだ!!!」

その様子にウォルトは吹き出し、パメラは頭を抱えた。
この男、名をロイドというのだが、組織の中でも女性に惚れやすいというので有名。
今回、サラマンドラを相手にするため、この男のスキルが必要だと連れてきたのだが・・・

「僕の名はロイド。よければ、君の名を教えてほしい」

長髪をかき分けて、カーリィにウインクする。本人は決めているつもりなのかもしれないが、悪印象しか与えなかった。
この調子が狂う相手に、カーリィが攻撃を躊躇っていると、代わってメラがシードルを投げつける。

「残念ながら、姫さまは売約済みです」
「何だって!!・・・いや、そう言う君も美しい」
「なっ」

今度はメラにも求愛のポーズをするロイド。何とも節奏がないが、驚いたのは別のことだった。
ロイドに刺さったシードルが体の中に入り込んでいったのである。

「僕のスキルは『吸収アブゾーブ』。だから、君たち、二人の愛を受け止めることなど、訳ないよ」
「だから・・・の意味が分からないけど、遠慮しておくわ」
「私もです」

女性、二人に振られるロイドだが、少しもめげない。
不用意にも、そのまま近づいていくのだ。

「みんな初めは、そう言うのさ。でもね、僕の体の中に取り込まれると、考えが変わる」

そんなロイドに対して、メラはしつこくシードルを投げ込むが、やはり通用しない。それどこから、カーリィの白い紐すら吸収してしまうのだ。

紐を介した場合、『無効インバルド』が伝わるのに、僅かなタイムラグが生じる。
どうやら、ロイドはそのコンマ何秒の世界で、体内に吸収しているようだ。

「それ以上、近づいては駄目よ」

ここで、パメラがしっかりと釘を刺す。本人に捕まった場合はさすがにカーリィのスキルの能力が上回るからだ。

「いくら、あなたの能力でもカーリィに触れることはできないわ」
「ああ、そうか。本当に『無効インバルド』は面倒だね」

するとロイドは、標的を変えることにする。この女性たちの意中の男を始末すればいいと考えたのだ。
そして、それは、おそらくアイツ。

「ウォルト、その男、僕に譲ってくれないか?どうやら、恋敵のようだ」

勝手に恋敵にされてはたまらない。文句を言おうとするレイヴンだが、それより先にウォルトが大笑いして、承諾した。

「いいぜ。ただ、お前が思っている以上に手強いからな」
「なに、能力には驚くけど、戦闘向きとは思えない。楽勝だよ」

何か言いたげなウォルトだが、それ以上は口をふさぐ。ロイドの強さも十分に理解しているからだった。

「俺のスキルが戦闘に向かないって言うが、それはお前も同じじゃないか?」

吸収アブゾーブ』は防御が秀逸でも、攻撃の決め手に欠く。レイヴンが、そんな予想を立てたのだ。

「いいや、要は僕が君を捕まえれば、それでゲームセット。僕の体の中に永遠に閉じ込めておいてあげるよ」

なるほど。そう言われると、確かに驚異的なスキルだ。
ロイドは、なりふり構わず間合いを詰めればいいだけなのである。

「しかし、人間一人を吸収すれば、容量が一杯になるんじゃないか?」
「そんな事ないよ。『吸収アブゾーブ』の容量は、ほぼ無限。ぼくはどんな物でも永遠に取り込むことができるんだ」
「どんな物でも、永遠に?本当だな」

ロイドの言葉を受けて、レイヴンはニヤリと笑うのだった。
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