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第1章 王城の悪徳卿 編
第1話 金貸しレイヴン
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この世界にはスキルという不思議な能力がある。
そのスキルを使用して、ダンジョンと呼ばれるモンスターが蔓延る遺跡で荒稼ぎをする者がいれば、日常生活の補助として役立てている者もいた。
但し、先天的にスキルを得られる人間は、ごく僅か。大半の者はスキルの書などによって、後天的にスキルを取得しているのが現状だった。
人体に一つしかないスキルポケットに、自分の職業や適性にあったスキルを得ようと、命を賭けてダンジョンに挑む者、高額な取引によって望むスキルを得ようとする者など、人によってさまざま。
それだけ、人生において、スキルのありなし。または、使いこなせるかどうかは、重要な要素なのだ。
スキルを得た後、鍛え上げることで派生スキルが生まれることが、さらに拍車をかける。
しかし、いくら鍛錬しようが、スキルを数多く使用しょうが派生スキルを取得できるのは、限られた才能の人間のみだった。
そんな彼らのことを羨望も込めて、『スキルに愛されし者』と呼ぶ。
この物語は、そのスキルによって、運命を翻弄された青年のお話である。
ここは、エウベ大陸にある西の大国、イグナシア王国。
その国の王都ロドスの中にあるひと際、大きな建物、冒険者ギルドの隣には、対照的にこぢんまりとしながらも、頑健とした造りの店があった。
表通りに面して、その店に掲げられている看板には『低利貸屋レイヴン』とあり、おかげで、いわゆる金貸しを生業としている事が、一目で分かる。
店主の名は、そのものレイヴン。店の名前を考えるのが、煩わしかったようで、そのまま自分の名前をつけるほどの無精者。
本人のモットーは、「必要な時に必要なだけ働く」と、単なる横着者ではないと自負しているようだが、彼をよく知らない人にとっては、ただの昼行燈にしか見えない。
二十歳前後、黒髪緋眼が特徴的で、いつも店のカウンターの後ろにある、椅子の上でうたた寝をしていた。
建物の立地から想像できるように、主な客は冒険者である。
彼らはクエストと呼ばれる、時には命を賭けた仕事を請け負って、生計を立てていた。
当然、成功率を上げることは、冒険者にとって何よりも優先すべきこと。
そうなると装備の修繕や新調、アイテムの補充など何かと物入りになってくるのだ。
レイヴンは、そんな冒険者を相手に金貸しを行い、店を切り盛りしている。
しかもこの店を利用する顧客は意外と多い。何せ看板にあるように、ここの金貸しは低金利。
クエスト達成の翌日までに返金すれば、利子をつけないという大サービスのため、冒険者の間で利用する者が後を絶たないのだ。
そんなので本当に商売が成り立つのか?
誰もが不思議に思う事だが、それは彼の先天的なスキルのおかげ。
レイヴンのスキルは『基金』。
これは、黙っていてもお金が勝手に増えるという馬鹿げたスキル。
ゆえにお金なら腐るほど持っているレイヴンだからこそ、この商売が成り立っていた。
勿論、このスキルの詳細は誰にも告げたことはない。打ち出の小槌と利用されるのを嫌ったからだ。
それに誰かに誘拐でもされ、無限口座とされるのは願い下げだ。
もっとも、そんな輩、一蹴することなど訳ないのだが・・・
面倒なので贔屓の冒険者たちには、「実家が金持ちなんだよ」と言って、はぐらかすことにしている。
そんなレイヴンもただの道楽で、こんな商売をしている訳ではなかった。
彼にも求めるものは、きちんとある。それは、ある特殊な事についての情報だ。
冒険者を相手に商売するのも、そういった理由からである。
クエストや旅などで大陸を往来する冒険者だからこそ、知り得る情報というのがあった。
それらをレイヴンは、客との対話の中から、引き出している。
そのため、冒険者が多く集まる大国イグナシア王国に、わざわざ店を構えたのだった。
カウンターに背を向けて寝ていたレイヴンは、椅子を回転させて向き直す。
時間的に、そろそろ来客がありそうなのだ。
すると、案の定、店の扉が開く。
その勢いが激しかったのか、店内の止まり木にいた黒い鳥が羽ばたいて、レイヴンの肩に避難した。
「おい、ランド!いつも扉は、静かに開けろと言っているだろう」
「いや、すまん。クロウも驚かせて、すまないなぁ」
クロウというのは、この黒い鳥の名である。
人懐っこい面があるため、常連客にはすっかり、その名前を覚えられていた。
大丈夫と言わんばかりに、今度はランドと呼ばれた冒険者の肩に止まる。
「それで、いくら必要なんだ?」
「金貨を10枚ばかり」
そう言うランドをレイヴンは値踏みした。その緋色の視線に萎縮して、ランドは、思わず冷や汗をかく。
「なんのクエストに行くつもりだ?」
「・・・グレイウルフを討伐に・・・」
問われたランドの声は小さい。彼が持つ注文書を見ると確かに申告の通りだった。
ここで、レイヴンは、大きな溜息をつく。
ランドの筋は認めるが、まだまだ駆け出しのDランク冒険者。グレイウルフはCランクのモンスターだ。
ギルドの規定上、ワンランク上のクエストが受けられることになってはいるのだが・・・
「駄目だ。お前には、まだ早い」
レイヴンはグレイウルフ討伐の注文書をランドへと突き返す。渡されたランドは、たちまち情けない表情に変わるのだ。
「大丈夫、出来るよ」
「駄目だ。そのクエストに行くってんなら、金は貸さない」
武器の新調はともかく、ポーションなどのアイテムの補充はしなければならない。
ここで、お金を借りられなければ、他の金融業者の所へ行く事になるのだが、そうなると高額の利子がついて実入りが減る。
しかも、レイヴンが示唆するように、万が一でもクエストに失敗したら・・・
そう考えた時のランドの答えは一つだった。
「分かったよ。この注文は取り消して、ホーンラビットの討伐にしてくる」
「ああ、そうして来い」
ランドは店を出て、そそくさと冒険者ギルドへと戻って行く。急いだためか、自分が座っていた椅子を倒して出て行くのに、レイヴンは、再び、溜息をついた。
「あいつも、ちょっとは落ち着けよ」
レイヴンが、そう言った後、椅子が一瞬消える。更に次の瞬間に倒れた椅子が元に戻されていた。
これは、彼の派生スキル『金庫』の応用だった。
お金が無限に増え続けるレイヴンにとって、保管管理する場所がなければ金貨の山に圧し潰されてしまう。
そこで、取得できたスキルがこの『金庫』。
このスキルの優れているところは、お金だけではなく自分の持ち物であれば、自由に出し入れできる収納ボックスの代わりとなるところ。
それで、出す時に座標指定すると、今のように椅子を元に戻すことが出来るのだ。
このようにレイヴンは、限られた人しかいないと言われている『スキルに愛されし者』なのである。
それにしても・・・
「まったく、最近のエイミさん、仕事が粗いぞ」
エイミとは冒険者ギルドにいる受付嬢の名前である。受付は彼女だけではないが、ランドが持っていた注文書には、しっかりと彼女の名前が書いてあった。
実は、今日のランドのように身の丈に合わないクエスト受注する冒険者が最近多い。
その度に、レイヴンが肝心のお金を貸すのを渋り、追い返していたのだ。
利益は求めていないが、回収できる見込みのないお金を貸すつもりはない。
この件、後で知ることになるが、どうやらレイヴンがクエストの見直しをさせることを込みで、ギルドでは受付をしているようだった。
ギルドの規定では、ワンランク上のクエストの受注が可能であるため、無理な可能性があっても、受付ではなかなか断りづらいとの事。
そこでレイヴンが最後の防波堤になってくれるのを、最初からあてにして受付をしているらしい。
そうとは知らないレイヴンは、今度、ギルドマスターに文句を言ってやろうと決め込むのだった。
程なくして、ホーンラビット討伐のクエストを受け直してきたランドが、今度は慎重に店の中に入る。
「金貨2枚でいいか?」
「ああ、今回はアイテムの補充だけにするよ」
「分かった」と頷く、レイヴンは、早速、契約の準備を始めた。
右の拳を前に突き出すと、中指に嵌められている黒い指輪が光る。
これから、主に金貸しが使う契約用の魔法道具を使用するのだ。
『契約』
すると、ランドの前の空間に画面が浮かぶ。そこには貸したお金、返済期限、返済できなかった場合の罰則などが書かれていた。
その画面に向かって、ランドは手をかざして、『受諾』と唱える。
これで、契約完了。レイヴンは『金庫』から、金貨2枚を取り出して渡した。
「それじゃあ、気をつけろよ」
「分かっている」
ランドは勇んで、店を出て行く。
一仕事を終えたレイヴンは肩を叩いた後、大きな伸びをした。
そして、相棒のクロウに話しかける。
「そろそろ昼にするか」
その言葉を待っていたかのようにクロウは、黒い羽根をはためかせて、レイヴンの肩に移動した。
店の外に出ると、まぶしい陽の光を遮るように手をかざす。
レイヴンは、隣に立つ冒険者ギルド。そして、はるか先に見える王城を見つめるのだった。
そのスキルを使用して、ダンジョンと呼ばれるモンスターが蔓延る遺跡で荒稼ぎをする者がいれば、日常生活の補助として役立てている者もいた。
但し、先天的にスキルを得られる人間は、ごく僅か。大半の者はスキルの書などによって、後天的にスキルを取得しているのが現状だった。
人体に一つしかないスキルポケットに、自分の職業や適性にあったスキルを得ようと、命を賭けてダンジョンに挑む者、高額な取引によって望むスキルを得ようとする者など、人によってさまざま。
それだけ、人生において、スキルのありなし。または、使いこなせるかどうかは、重要な要素なのだ。
スキルを得た後、鍛え上げることで派生スキルが生まれることが、さらに拍車をかける。
しかし、いくら鍛錬しようが、スキルを数多く使用しょうが派生スキルを取得できるのは、限られた才能の人間のみだった。
そんな彼らのことを羨望も込めて、『スキルに愛されし者』と呼ぶ。
この物語は、そのスキルによって、運命を翻弄された青年のお話である。
ここは、エウベ大陸にある西の大国、イグナシア王国。
その国の王都ロドスの中にあるひと際、大きな建物、冒険者ギルドの隣には、対照的にこぢんまりとしながらも、頑健とした造りの店があった。
表通りに面して、その店に掲げられている看板には『低利貸屋レイヴン』とあり、おかげで、いわゆる金貸しを生業としている事が、一目で分かる。
店主の名は、そのものレイヴン。店の名前を考えるのが、煩わしかったようで、そのまま自分の名前をつけるほどの無精者。
本人のモットーは、「必要な時に必要なだけ働く」と、単なる横着者ではないと自負しているようだが、彼をよく知らない人にとっては、ただの昼行燈にしか見えない。
二十歳前後、黒髪緋眼が特徴的で、いつも店のカウンターの後ろにある、椅子の上でうたた寝をしていた。
建物の立地から想像できるように、主な客は冒険者である。
彼らはクエストと呼ばれる、時には命を賭けた仕事を請け負って、生計を立てていた。
当然、成功率を上げることは、冒険者にとって何よりも優先すべきこと。
そうなると装備の修繕や新調、アイテムの補充など何かと物入りになってくるのだ。
レイヴンは、そんな冒険者を相手に金貸しを行い、店を切り盛りしている。
しかもこの店を利用する顧客は意外と多い。何せ看板にあるように、ここの金貸しは低金利。
クエスト達成の翌日までに返金すれば、利子をつけないという大サービスのため、冒険者の間で利用する者が後を絶たないのだ。
そんなので本当に商売が成り立つのか?
誰もが不思議に思う事だが、それは彼の先天的なスキルのおかげ。
レイヴンのスキルは『基金』。
これは、黙っていてもお金が勝手に増えるという馬鹿げたスキル。
ゆえにお金なら腐るほど持っているレイヴンだからこそ、この商売が成り立っていた。
勿論、このスキルの詳細は誰にも告げたことはない。打ち出の小槌と利用されるのを嫌ったからだ。
それに誰かに誘拐でもされ、無限口座とされるのは願い下げだ。
もっとも、そんな輩、一蹴することなど訳ないのだが・・・
面倒なので贔屓の冒険者たちには、「実家が金持ちなんだよ」と言って、はぐらかすことにしている。
そんなレイヴンもただの道楽で、こんな商売をしている訳ではなかった。
彼にも求めるものは、きちんとある。それは、ある特殊な事についての情報だ。
冒険者を相手に商売するのも、そういった理由からである。
クエストや旅などで大陸を往来する冒険者だからこそ、知り得る情報というのがあった。
それらをレイヴンは、客との対話の中から、引き出している。
そのため、冒険者が多く集まる大国イグナシア王国に、わざわざ店を構えたのだった。
カウンターに背を向けて寝ていたレイヴンは、椅子を回転させて向き直す。
時間的に、そろそろ来客がありそうなのだ。
すると、案の定、店の扉が開く。
その勢いが激しかったのか、店内の止まり木にいた黒い鳥が羽ばたいて、レイヴンの肩に避難した。
「おい、ランド!いつも扉は、静かに開けろと言っているだろう」
「いや、すまん。クロウも驚かせて、すまないなぁ」
クロウというのは、この黒い鳥の名である。
人懐っこい面があるため、常連客にはすっかり、その名前を覚えられていた。
大丈夫と言わんばかりに、今度はランドと呼ばれた冒険者の肩に止まる。
「それで、いくら必要なんだ?」
「金貨を10枚ばかり」
そう言うランドをレイヴンは値踏みした。その緋色の視線に萎縮して、ランドは、思わず冷や汗をかく。
「なんのクエストに行くつもりだ?」
「・・・グレイウルフを討伐に・・・」
問われたランドの声は小さい。彼が持つ注文書を見ると確かに申告の通りだった。
ここで、レイヴンは、大きな溜息をつく。
ランドの筋は認めるが、まだまだ駆け出しのDランク冒険者。グレイウルフはCランクのモンスターだ。
ギルドの規定上、ワンランク上のクエストが受けられることになってはいるのだが・・・
「駄目だ。お前には、まだ早い」
レイヴンはグレイウルフ討伐の注文書をランドへと突き返す。渡されたランドは、たちまち情けない表情に変わるのだ。
「大丈夫、出来るよ」
「駄目だ。そのクエストに行くってんなら、金は貸さない」
武器の新調はともかく、ポーションなどのアイテムの補充はしなければならない。
ここで、お金を借りられなければ、他の金融業者の所へ行く事になるのだが、そうなると高額の利子がついて実入りが減る。
しかも、レイヴンが示唆するように、万が一でもクエストに失敗したら・・・
そう考えた時のランドの答えは一つだった。
「分かったよ。この注文は取り消して、ホーンラビットの討伐にしてくる」
「ああ、そうして来い」
ランドは店を出て、そそくさと冒険者ギルドへと戻って行く。急いだためか、自分が座っていた椅子を倒して出て行くのに、レイヴンは、再び、溜息をついた。
「あいつも、ちょっとは落ち着けよ」
レイヴンが、そう言った後、椅子が一瞬消える。更に次の瞬間に倒れた椅子が元に戻されていた。
これは、彼の派生スキル『金庫』の応用だった。
お金が無限に増え続けるレイヴンにとって、保管管理する場所がなければ金貨の山に圧し潰されてしまう。
そこで、取得できたスキルがこの『金庫』。
このスキルの優れているところは、お金だけではなく自分の持ち物であれば、自由に出し入れできる収納ボックスの代わりとなるところ。
それで、出す時に座標指定すると、今のように椅子を元に戻すことが出来るのだ。
このようにレイヴンは、限られた人しかいないと言われている『スキルに愛されし者』なのである。
それにしても・・・
「まったく、最近のエイミさん、仕事が粗いぞ」
エイミとは冒険者ギルドにいる受付嬢の名前である。受付は彼女だけではないが、ランドが持っていた注文書には、しっかりと彼女の名前が書いてあった。
実は、今日のランドのように身の丈に合わないクエスト受注する冒険者が最近多い。
その度に、レイヴンが肝心のお金を貸すのを渋り、追い返していたのだ。
利益は求めていないが、回収できる見込みのないお金を貸すつもりはない。
この件、後で知ることになるが、どうやらレイヴンがクエストの見直しをさせることを込みで、ギルドでは受付をしているようだった。
ギルドの規定では、ワンランク上のクエストの受注が可能であるため、無理な可能性があっても、受付ではなかなか断りづらいとの事。
そこでレイヴンが最後の防波堤になってくれるのを、最初からあてにして受付をしているらしい。
そうとは知らないレイヴンは、今度、ギルドマスターに文句を言ってやろうと決め込むのだった。
程なくして、ホーンラビット討伐のクエストを受け直してきたランドが、今度は慎重に店の中に入る。
「金貨2枚でいいか?」
「ああ、今回はアイテムの補充だけにするよ」
「分かった」と頷く、レイヴンは、早速、契約の準備を始めた。
右の拳を前に突き出すと、中指に嵌められている黒い指輪が光る。
これから、主に金貸しが使う契約用の魔法道具を使用するのだ。
『契約』
すると、ランドの前の空間に画面が浮かぶ。そこには貸したお金、返済期限、返済できなかった場合の罰則などが書かれていた。
その画面に向かって、ランドは手をかざして、『受諾』と唱える。
これで、契約完了。レイヴンは『金庫』から、金貨2枚を取り出して渡した。
「それじゃあ、気をつけろよ」
「分かっている」
ランドは勇んで、店を出て行く。
一仕事を終えたレイヴンは肩を叩いた後、大きな伸びをした。
そして、相棒のクロウに話しかける。
「そろそろ昼にするか」
その言葉を待っていたかのようにクロウは、黒い羽根をはためかせて、レイヴンの肩に移動した。
店の外に出ると、まぶしい陽の光を遮るように手をかざす。
レイヴンは、隣に立つ冒険者ギルド。そして、はるか先に見える王城を見つめるのだった。
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