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第5章 宇都宮の陰謀 編
第56話 三つの罪
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宇都宮城内で対峙する天秀と正純。
幕府の重鎮の前でも、天秀は怯むことなく、会話の主導権を握った。
「それでは、皆さん。中庭に移動してもらってもいいですか?」
天秀がそう告げると、正純は不満そうな表情を見せる。思わぬ者からの反撃で、一瞬、たじろぎはしたものの、このような小娘に場を仕切られる不快感が勝り始めたのだ。
しかし、福が頑として譲らない。
「やましい事がないのであれば、この者の言うことを聞いて下さい」
「分かった。それでは、もしただの時間稼ぎであった場合、福殿も、ただでは済まぬと覚悟して頂きたい」
「無論、構いませぬ」
福の強い助け船があり、天秀の提案が通った。また、それほどまで、福が天秀のことを信頼していると、初めて知り意気に感じる。
天秀は、逸る気持ちを押さえながら、気持ちをもう一度、落ち着けるのだった。
全員が指定の中庭に揃うと、正純の前に天秀が立つ。
「釣り天井など、子供染みた仕掛けで本多さまを責めようとは思いません。ただ、私が申し上げたいのは三点。弁明できるのならば、お願いいたします」
「小娘。大きく出たな。私に三つも落ち度など、ある訳がなかろう」
「いえ、それがあるのです」
天秀が振り返ると、そこには津田算孝がいた。算孝は、懐から証文を取り出して天秀に渡す。
「これは、本多さまが堺の商人から鉄砲三千丁を購入したという証文でございます」
天秀は、その証文を正純ではなく老中・井上正就に手渡した。正就は、それを食い入るように眺める。
「確かに・・・これは」
「そんな物、私を陥れるための偽物だ」
「まぁ、本多さまでしたら、この後、堺の商人に圧力をかけて握り潰すことも可能でしょうね」
そんなことをする訳がないと正純は、憤慨するが、天秀は一切、相手にしない。
そして、次にやや離れたところにある櫓を指さすのだった。
「では、絶対に動かすことが出来ない証拠を一つ、お見せしましょう」
「あの櫓に何かあるのか?」
鉄砲の証文で、現金にも少し元気が出始めた正就が質問する。頷くと天秀は、瓢太を促した。
瓢太は駆け足で櫓の前に立つ。それを追うように皆、ゆっくりと移動するのだった。
そこで、瓢太は皆の到着を待たずに櫓の中へと入って行った。
すると、後から来た天秀たちが櫓の中を覗いても、先に入ったはずの瓢太の姿がどこにもないのである。
「これは、一体、どういうことだ?」
皆が騒ぐ中、正純だけが顔色を悪くし、黙り込んでしまう。何故なら、この真相を知っているからだ。
「俺なら、ここだぜ」
暫くすると、瓢太が城壁を飛び越えて現れた。勢いよく飛んで、正純の近くに着地する。
「あんた部下に厳しすぎるんじゃないかな?俺が逃げた時、信じてもらえないと思って、この櫓の中から消えたという報告を上げなかったんだろうさ」
「あの夜の賊とは、きさまのことか」
正純が瓢太を捕まえようと腕を伸ばすが、後方に飛び去り、余裕で躱す。
態勢を崩した正純は、その場につんのめって倒れてしまった。
息子の正勝がすぐに起こそうとするが、その上から瓢太が言い放つ。
「部下は大切にした方がいいぜ。きちんと報告が上がっていれば、隠し通路が見つかったことに気づいて、前もって塞ぐこともできただろうに」
瓢太の隠し通路という言葉に、正就も福も反応する。本来、宇都宮城にそんなものが存在するわけがなく、幕府に無断で造ったことは言うまでもない。
「正純殿、これは一体、どういうことか?」
「むむむ」
正純はぐうの音も出なくなる。福島正則の転封理由は台風の被害修繕を、幕府の承諾も得ずに行ったという厳しいもの。
その結果、五十万石から四万五千石への減封となる。では、理由もない隠し通路を勝手に造った場合は、どうなるのか?
これは、間違いなく正純の大きな罪となる。
「この隠し通路、どうして瓢太さんが知ることができたか分かりますか?」
「そんなの苦し紛れに逃げ込んだところに、運よくあったのであろう」
正純はどうでもいいという感じで言い放つ。だが、天秀は、そんな簡単に済ます気はなかった。
「この隠し通路。知り得る人物が、本多さま以外にもいたのではありませんか?」
「そんなのいる訳ないだろう。正勝にすら伝えておらぬことだ」
「いいえ、います。一昨年前に、この隠し通路を造らされた根来組同心の皆さんです」
根来組同心と聞いて、どよめきが起こった。彼らは将軍家直属の傭兵部隊なのだが、風の噂では内部分裂し、規模が小さくなったと聞いていたのである。
確かに宇都宮城普請に関して、応援要請があり幕府が彼らを貸し出したことはあった。
「正純殿、私も天秀殿に調べるよう言われるまで気づきませんでしたが、あなた根来組同心に不正工事を行わせた後、始末しましたね」
「そ、そんなことする訳がないだろう」
明らかに動揺する正純。
どうすれば、そのような大きな情報を、幕府に知れず握り潰すことが可能なのか。
改めて、正純の権力の大きさには驚かされる。だが、今回ばかりは、抗弁は不可能だ。
その理由は、その鍵を握る人物、与五郎が中庭に姿を現したからである。
話に夢中になっている隙に宮本三木之介が城内を探り、監禁されていた大工たちを開放したのだ。
「俺がその生き残りだ」
与五郎こそが、根来組同心にして、虐殺現場の生き証人。
この男の登場で、正純は更に追い詰められるのだった。
幕府の重鎮の前でも、天秀は怯むことなく、会話の主導権を握った。
「それでは、皆さん。中庭に移動してもらってもいいですか?」
天秀がそう告げると、正純は不満そうな表情を見せる。思わぬ者からの反撃で、一瞬、たじろぎはしたものの、このような小娘に場を仕切られる不快感が勝り始めたのだ。
しかし、福が頑として譲らない。
「やましい事がないのであれば、この者の言うことを聞いて下さい」
「分かった。それでは、もしただの時間稼ぎであった場合、福殿も、ただでは済まぬと覚悟して頂きたい」
「無論、構いませぬ」
福の強い助け船があり、天秀の提案が通った。また、それほどまで、福が天秀のことを信頼していると、初めて知り意気に感じる。
天秀は、逸る気持ちを押さえながら、気持ちをもう一度、落ち着けるのだった。
全員が指定の中庭に揃うと、正純の前に天秀が立つ。
「釣り天井など、子供染みた仕掛けで本多さまを責めようとは思いません。ただ、私が申し上げたいのは三点。弁明できるのならば、お願いいたします」
「小娘。大きく出たな。私に三つも落ち度など、ある訳がなかろう」
「いえ、それがあるのです」
天秀が振り返ると、そこには津田算孝がいた。算孝は、懐から証文を取り出して天秀に渡す。
「これは、本多さまが堺の商人から鉄砲三千丁を購入したという証文でございます」
天秀は、その証文を正純ではなく老中・井上正就に手渡した。正就は、それを食い入るように眺める。
「確かに・・・これは」
「そんな物、私を陥れるための偽物だ」
「まぁ、本多さまでしたら、この後、堺の商人に圧力をかけて握り潰すことも可能でしょうね」
そんなことをする訳がないと正純は、憤慨するが、天秀は一切、相手にしない。
そして、次にやや離れたところにある櫓を指さすのだった。
「では、絶対に動かすことが出来ない証拠を一つ、お見せしましょう」
「あの櫓に何かあるのか?」
鉄砲の証文で、現金にも少し元気が出始めた正就が質問する。頷くと天秀は、瓢太を促した。
瓢太は駆け足で櫓の前に立つ。それを追うように皆、ゆっくりと移動するのだった。
そこで、瓢太は皆の到着を待たずに櫓の中へと入って行った。
すると、後から来た天秀たちが櫓の中を覗いても、先に入ったはずの瓢太の姿がどこにもないのである。
「これは、一体、どういうことだ?」
皆が騒ぐ中、正純だけが顔色を悪くし、黙り込んでしまう。何故なら、この真相を知っているからだ。
「俺なら、ここだぜ」
暫くすると、瓢太が城壁を飛び越えて現れた。勢いよく飛んで、正純の近くに着地する。
「あんた部下に厳しすぎるんじゃないかな?俺が逃げた時、信じてもらえないと思って、この櫓の中から消えたという報告を上げなかったんだろうさ」
「あの夜の賊とは、きさまのことか」
正純が瓢太を捕まえようと腕を伸ばすが、後方に飛び去り、余裕で躱す。
態勢を崩した正純は、その場につんのめって倒れてしまった。
息子の正勝がすぐに起こそうとするが、その上から瓢太が言い放つ。
「部下は大切にした方がいいぜ。きちんと報告が上がっていれば、隠し通路が見つかったことに気づいて、前もって塞ぐこともできただろうに」
瓢太の隠し通路という言葉に、正就も福も反応する。本来、宇都宮城にそんなものが存在するわけがなく、幕府に無断で造ったことは言うまでもない。
「正純殿、これは一体、どういうことか?」
「むむむ」
正純はぐうの音も出なくなる。福島正則の転封理由は台風の被害修繕を、幕府の承諾も得ずに行ったという厳しいもの。
その結果、五十万石から四万五千石への減封となる。では、理由もない隠し通路を勝手に造った場合は、どうなるのか?
これは、間違いなく正純の大きな罪となる。
「この隠し通路、どうして瓢太さんが知ることができたか分かりますか?」
「そんなの苦し紛れに逃げ込んだところに、運よくあったのであろう」
正純はどうでもいいという感じで言い放つ。だが、天秀は、そんな簡単に済ます気はなかった。
「この隠し通路。知り得る人物が、本多さま以外にもいたのではありませんか?」
「そんなのいる訳ないだろう。正勝にすら伝えておらぬことだ」
「いいえ、います。一昨年前に、この隠し通路を造らされた根来組同心の皆さんです」
根来組同心と聞いて、どよめきが起こった。彼らは将軍家直属の傭兵部隊なのだが、風の噂では内部分裂し、規模が小さくなったと聞いていたのである。
確かに宇都宮城普請に関して、応援要請があり幕府が彼らを貸し出したことはあった。
「正純殿、私も天秀殿に調べるよう言われるまで気づきませんでしたが、あなた根来組同心に不正工事を行わせた後、始末しましたね」
「そ、そんなことする訳がないだろう」
明らかに動揺する正純。
どうすれば、そのような大きな情報を、幕府に知れず握り潰すことが可能なのか。
改めて、正純の権力の大きさには驚かされる。だが、今回ばかりは、抗弁は不可能だ。
その理由は、その鍵を握る人物、与五郎が中庭に姿を現したからである。
話に夢中になっている隙に宮本三木之介が城内を探り、監禁されていた大工たちを開放したのだ。
「俺がその生き残りだ」
与五郎こそが、根来組同心にして、虐殺現場の生き証人。
この男の登場で、正純は更に追い詰められるのだった。
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