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転生6
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「でも反撃って、一体どうするんだよ」
ビルギットが机の上に座り、腕組みをしながら渋い表情をしている。その胸元は包帯が巻かれているが、随分と分厚く巻いたものだと、隣の席で項垂れて座る蘇芳エルザを見た。
「俺を狙っているのは今のところ、この世界に転生させられた黒尽くめの使者と、エルザの姉のロゼリアだ。送られた使者は何人か分かるか?」
「いえ。そもそも通常の刺客は一度転生すれば二度と転生できません。それほどに転生というのは魂の器に負荷がかかります。おそらく何人も送り込んだ末に生き残った者が刺客となり、信永さまの前に現れているのでしょう」
「それじゃあ自分たちの仲間も犠牲にしてるってことか?」
「ええ」
蘇芳エルザもビルギットも、共に表情を曇らせる。俺には彼女たちの王国内の事情というのものが全く分からないが、それでもロゼリアのやり方に反発する人たちだっているはずだ。いつだって上の人間の利益の為に犠牲になるのは、本来彼らを支えている下の者たちなのだ。
「それなら、彼らを送り込んでくる大元を断てばいい」
それぞれの刺客が勝手に転生してここにやってくるということはない。計画的だし、そもそもエルザは言っていた。転生というのは誰でも簡単にできるという類のものではない、と。それならば誰かが中心となり、使者を送り込んでいる。そこに対して先手を打てれば不意に出現する使者に怯えることはなくなるし、俺を守る際にもロゼリアたちだけに注意を割ける。
「大元というか、使者はそもそもがわたしたちの国の軍です。今やわたしたちの世界は小さくなり、メモワール以外は小国が小競り合いをしている程度です。しかも、日に日に世界は消えていき、国によっては維持するだけの人数も土地も足りずに他の国と合流せざるを得なくなっています。そんな中で、わたしたちの王国軍もまた人員が足りなくなっていました。これがわたしが転生する以前の状況ですから、今はもっと酷いでしょう。その上、姉さままでが転生してこられた。わたしが転生する以前に伺っていた話では、分刻みで使者が現れ、日に何度も信永さまが殺されているということでしたが、現実は違いましたね。わたしがこの世界にやって来られたのも奇跡と呼んで差し支えないくらい、異世界転生というのは、それも目的の異世界への転生というのは困難を極めます」
「それじゃあ、その偶然だか奇跡だかで目の前に突如現れる刺客に怯えつつ、俺は暮していかないといけないということなのか?」
それはそれで気が滅入る。死なない、と言われても転生するほどに自分の精神は壊れ、やがて廃人になるのだ。もういっそ殺してくれと普通なら考えるが、それすら叶わない。よく永遠の命を得た者の悲哀がフィクションで描かれるが、死なないのではなく死ねないということはそれはそれで別の苦しみがあるのだと気づいた。
「いいえ。わたしたち王室の中でも反対派は少数ながらいます。元々刺客といっても中には嫌々参加している兵もいるのです」
「だから、その計画を取り仕切っているのは誰なんだ? 君のお姉さんは直接ここに来たということは、別の誰かがいるんだろ?」
「わたしの姉は二人おります。その一番上の姉シルヴェリアが現在国王を務めています。元々の発案は、シルヴェリアでした」
「じゃあそのシルヴェリアさんを説得できれば、あるいは諦めさせればいいと、そういうことなんじゃないか?」
そうですが――と呟くように返事をしつつ、エルザは表情を陰らせる。
「何か問題が?」
「姉はもう、長くありません。病に倒れ、病床にあります。なので実権は次女ロゼリアが握っておりました。ですからわたしも何故姉が直接ここに来たのか、分かりません」
「もし何か問題があって直接ここに来ざるを得なかったのなら、それはこっちにとっては都合が良いかも知れない」
俺は眉根を寄せる二人に微笑みかけ、それからこう伝えた。
「ロゼリアを誘き出す。その為に知恵を貸してくれ」
ビルギットが机の上に座り、腕組みをしながら渋い表情をしている。その胸元は包帯が巻かれているが、随分と分厚く巻いたものだと、隣の席で項垂れて座る蘇芳エルザを見た。
「俺を狙っているのは今のところ、この世界に転生させられた黒尽くめの使者と、エルザの姉のロゼリアだ。送られた使者は何人か分かるか?」
「いえ。そもそも通常の刺客は一度転生すれば二度と転生できません。それほどに転生というのは魂の器に負荷がかかります。おそらく何人も送り込んだ末に生き残った者が刺客となり、信永さまの前に現れているのでしょう」
「それじゃあ自分たちの仲間も犠牲にしてるってことか?」
「ええ」
蘇芳エルザもビルギットも、共に表情を曇らせる。俺には彼女たちの王国内の事情というのものが全く分からないが、それでもロゼリアのやり方に反発する人たちだっているはずだ。いつだって上の人間の利益の為に犠牲になるのは、本来彼らを支えている下の者たちなのだ。
「それなら、彼らを送り込んでくる大元を断てばいい」
それぞれの刺客が勝手に転生してここにやってくるということはない。計画的だし、そもそもエルザは言っていた。転生というのは誰でも簡単にできるという類のものではない、と。それならば誰かが中心となり、使者を送り込んでいる。そこに対して先手を打てれば不意に出現する使者に怯えることはなくなるし、俺を守る際にもロゼリアたちだけに注意を割ける。
「大元というか、使者はそもそもがわたしたちの国の軍です。今やわたしたちの世界は小さくなり、メモワール以外は小国が小競り合いをしている程度です。しかも、日に日に世界は消えていき、国によっては維持するだけの人数も土地も足りずに他の国と合流せざるを得なくなっています。そんな中で、わたしたちの王国軍もまた人員が足りなくなっていました。これがわたしが転生する以前の状況ですから、今はもっと酷いでしょう。その上、姉さままでが転生してこられた。わたしが転生する以前に伺っていた話では、分刻みで使者が現れ、日に何度も信永さまが殺されているということでしたが、現実は違いましたね。わたしがこの世界にやって来られたのも奇跡と呼んで差し支えないくらい、異世界転生というのは、それも目的の異世界への転生というのは困難を極めます」
「それじゃあ、その偶然だか奇跡だかで目の前に突如現れる刺客に怯えつつ、俺は暮していかないといけないということなのか?」
それはそれで気が滅入る。死なない、と言われても転生するほどに自分の精神は壊れ、やがて廃人になるのだ。もういっそ殺してくれと普通なら考えるが、それすら叶わない。よく永遠の命を得た者の悲哀がフィクションで描かれるが、死なないのではなく死ねないということはそれはそれで別の苦しみがあるのだと気づいた。
「いいえ。わたしたち王室の中でも反対派は少数ながらいます。元々刺客といっても中には嫌々参加している兵もいるのです」
「だから、その計画を取り仕切っているのは誰なんだ? 君のお姉さんは直接ここに来たということは、別の誰かがいるんだろ?」
「わたしの姉は二人おります。その一番上の姉シルヴェリアが現在国王を務めています。元々の発案は、シルヴェリアでした」
「じゃあそのシルヴェリアさんを説得できれば、あるいは諦めさせればいいと、そういうことなんじゃないか?」
そうですが――と呟くように返事をしつつ、エルザは表情を陰らせる。
「何か問題が?」
「姉はもう、長くありません。病に倒れ、病床にあります。なので実権は次女ロゼリアが握っておりました。ですからわたしも何故姉が直接ここに来たのか、分かりません」
「もし何か問題があって直接ここに来ざるを得なかったのなら、それはこっちにとっては都合が良いかも知れない」
俺は眉根を寄せる二人に微笑みかけ、それからこう伝えた。
「ロゼリアを誘き出す。その為に知恵を貸してくれ」
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