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転生3
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「それはどういうことでしょうか?」
「蘇芳さんが元いた場所を“異世界”だと言った人間が誰かいるということだろう? だからその人物に会って話す必要がある」
彼女の話をまるで信じていない、という訳ではない。けれども頭からまるっと信じてしまうほど、俺は優しくも単純でもない。彼女が異世界と信じるものがあるとして、それが本当に異世界なのかどうかはこの目で見てみないと確かめようがないし、そもそも「異世界」という言葉を用いて自分の居場所を説明するというのが、どうにも引っかかる。
「君は何度も異世界と言ったが、普通はこう言うんだよ。異国と。異なる国から来ましたと言われれば誰もが納得するだろう。しかし世界というのはそんな簡単に持ち出してきて相手に理解させるような言葉ではないんだ。だから君に異世界と教えた誰かに、何故その用語を使ったのかを聞く必要がある」
「わたしの言うことに半信半疑ということなのでしょうが、それは仕方ありません。突然異世界から来た、などと言われたところで到底信じるに値しませんからね。けれど、違和感は理解されているでしょう。それがいくらかの回答にはなり得ませんか?」
違和感。
夢。
いや、夢のような現実だったのだろうか。
最初に気づいたのは窓ガラスだ。割れていたけれど、誰も気づかなかった。あれもまた、夢の中で学校が爆破され、教室が破壊されていたというのが少し引っかかるものの、その関連性を考えるのは現実的ではないと思った。
それもまた違和感。
ショッピングモールで非常口から出た後に落ちてきた壁は、光を見た後でどこかに消えていた。その後、再会した蘇芳エルザの制服は汚れ、一部は千切れていた。
違和感だ。
言われれば違和感だらけだ。
けれどそれは俺の今までの人生で何度も経験したことだった。特別今日は多いけれども、蘇芳エルザと出会う前から、夢の中の出来事が現実に僅かに影響を与えたり、一部が現実に侵食していたりすることがあったが、それは俺の中の記憶の混線によって起こる現象だと思っていた。
もしもそれが全て現実だったとしたら?
それに対して俺が持つ知識では説明ができない。
「信永さまは何事も論理的に物事を考えるべきだ、と考えておられますね?」
「そうだな。なるべく冷静に、また客観的に判断し、行動するよう心がけている」
「では、そういった論理で組み立てられない事象に出会った時にはいかがされるのでしょうか」
俺はこの世の全てを説明できるとは考えていない。論理的、とは言うがその大半は科学的かどうかというだけで、その科学をもってしても解明できていない謎は山ほどある。寧ろ人間の解明した科学知識なんてものは全体から見れば一匹の蟻、あるいはミジンコ程度かも知れない。それくらい自然というのは不可解な現象が存在している。
だから今回起こったことも未だに科学では解明できていないという意味で「オカルト」あるいは「超常現象」といったブラックボックスに押し込んでしまうことも可能だ。事実、人類は幽霊や妖怪、魔法に錬金術、神や天使や悪魔といったものにそういう理解を超えた事象を担当させてきた。
そういう意味で彼女が「異世界」というのなら、それは異世界なのだろう。
「情報が出揃うまでは答えを急がない」
「それでも理解が及ばない出来事ならば」
「説明できない範囲は保留しておくよ。全てを理解する必要もないだろう」
そうは言ったものの、強がりでしかないと自分でも分かっていた。
「まず受け入れて下さい」
「何を、だ」
それは初めて夢の中で彼女と出会った時に、言われた文言だった。あれは確か、俺が――。
「あなたがこの世界の人間ではなく、わたしたちのマイロードであるということを」
そう。マイロード。彼女もビルギットも、俺のことをそう呼んでいた。
「マイロードとは何だ?」
「マイロードは、マイロードでございます。わたしたちのマイロードであり、世界を統べる者」
「こちらの世界ではな、マイロードと言えば単純には主人のことだ。君主でもある。どこかの領主、あるいは国王、もっと小さく屋敷の主人でもいい。そういった人間に対し、従者や家臣が呼ぶ。蘇芳さんは確か姫だったね。なら、俺はひょっとして、君のフィアンセ、婚約者なのか?」
すぐに「はい」という返事が来ると思っていたが、蘇芳エルザは人差し指を頬に当て、思案顔になる。違う、ということだろうか。もし姫、つまり王女の結婚相手なら次期国王ということになる。だからマイロードと呼び、慕うというのも可能性としては考えられない訳ではない。
「わたしがマイロードと結婚する、などということは出来ません。してはなりません。あまりにも違いすぎる。わたしはただの亡国の姫です。いずれ失われる国の僅かばかりの生き残りです。ですがあなたは、信永さまは違います。世界全ての希望です。ですからわたしはあなたをお守りし、奴らの手に落ちないように……あ」
「その奴らというのが何度か襲ってきた黒尽くめの集団なんだな? あいつらは何者だ? 蘇芳さんたちと同じ異世界から来たとか言うのか?」
「同じ、ではありませんが、異世界からという意味でしたら、そうです」
――結局異世界か。
俺はそう言って溜息をつく。
「その異世界ってやつ、俺も行くことができるのか? もし可能なら、やはり目で見てみないことには君たちが異世界から来たというのはにわかに信じがたいんだ」
「異世界は、行くものではありません」
「でも君たちはそこから来たんだろう?」
「はい」
「なら戻ることもできる。そうじゃないか?」
彼女は口を噤む。
「まさか……戻れない、のか?」
「分かりません。けれど戻る方法はまだ見つかっていません」
「それじゃあ君は、俺を守る為だけに自分の世界を捨て、大切な人たちと別れ、ここにやってきたというのか?」
言葉なく、彼女は黙って頷いた。
「そんなにまでして俺を守る必要があるのか?」
自分ならどうだろう。誰かを守る為に、今この生活、環境を捨て、自分の全く知らない世界に行く。もう二度と元の世界には戻れないと分かっていながらその選択をする、ということができるだろうか。
「俺は……マイロードとは、何者なんだ」
その言葉を口にしたのとほぼ同時に、警報が鳴り響いた。
「蘇芳さんが元いた場所を“異世界”だと言った人間が誰かいるということだろう? だからその人物に会って話す必要がある」
彼女の話をまるで信じていない、という訳ではない。けれども頭からまるっと信じてしまうほど、俺は優しくも単純でもない。彼女が異世界と信じるものがあるとして、それが本当に異世界なのかどうかはこの目で見てみないと確かめようがないし、そもそも「異世界」という言葉を用いて自分の居場所を説明するというのが、どうにも引っかかる。
「君は何度も異世界と言ったが、普通はこう言うんだよ。異国と。異なる国から来ましたと言われれば誰もが納得するだろう。しかし世界というのはそんな簡単に持ち出してきて相手に理解させるような言葉ではないんだ。だから君に異世界と教えた誰かに、何故その用語を使ったのかを聞く必要がある」
「わたしの言うことに半信半疑ということなのでしょうが、それは仕方ありません。突然異世界から来た、などと言われたところで到底信じるに値しませんからね。けれど、違和感は理解されているでしょう。それがいくらかの回答にはなり得ませんか?」
違和感。
夢。
いや、夢のような現実だったのだろうか。
最初に気づいたのは窓ガラスだ。割れていたけれど、誰も気づかなかった。あれもまた、夢の中で学校が爆破され、教室が破壊されていたというのが少し引っかかるものの、その関連性を考えるのは現実的ではないと思った。
それもまた違和感。
ショッピングモールで非常口から出た後に落ちてきた壁は、光を見た後でどこかに消えていた。その後、再会した蘇芳エルザの制服は汚れ、一部は千切れていた。
違和感だ。
言われれば違和感だらけだ。
けれどそれは俺の今までの人生で何度も経験したことだった。特別今日は多いけれども、蘇芳エルザと出会う前から、夢の中の出来事が現実に僅かに影響を与えたり、一部が現実に侵食していたりすることがあったが、それは俺の中の記憶の混線によって起こる現象だと思っていた。
もしもそれが全て現実だったとしたら?
それに対して俺が持つ知識では説明ができない。
「信永さまは何事も論理的に物事を考えるべきだ、と考えておられますね?」
「そうだな。なるべく冷静に、また客観的に判断し、行動するよう心がけている」
「では、そういった論理で組み立てられない事象に出会った時にはいかがされるのでしょうか」
俺はこの世の全てを説明できるとは考えていない。論理的、とは言うがその大半は科学的かどうかというだけで、その科学をもってしても解明できていない謎は山ほどある。寧ろ人間の解明した科学知識なんてものは全体から見れば一匹の蟻、あるいはミジンコ程度かも知れない。それくらい自然というのは不可解な現象が存在している。
だから今回起こったことも未だに科学では解明できていないという意味で「オカルト」あるいは「超常現象」といったブラックボックスに押し込んでしまうことも可能だ。事実、人類は幽霊や妖怪、魔法に錬金術、神や天使や悪魔といったものにそういう理解を超えた事象を担当させてきた。
そういう意味で彼女が「異世界」というのなら、それは異世界なのだろう。
「情報が出揃うまでは答えを急がない」
「それでも理解が及ばない出来事ならば」
「説明できない範囲は保留しておくよ。全てを理解する必要もないだろう」
そうは言ったものの、強がりでしかないと自分でも分かっていた。
「まず受け入れて下さい」
「何を、だ」
それは初めて夢の中で彼女と出会った時に、言われた文言だった。あれは確か、俺が――。
「あなたがこの世界の人間ではなく、わたしたちのマイロードであるということを」
そう。マイロード。彼女もビルギットも、俺のことをそう呼んでいた。
「マイロードとは何だ?」
「マイロードは、マイロードでございます。わたしたちのマイロードであり、世界を統べる者」
「こちらの世界ではな、マイロードと言えば単純には主人のことだ。君主でもある。どこかの領主、あるいは国王、もっと小さく屋敷の主人でもいい。そういった人間に対し、従者や家臣が呼ぶ。蘇芳さんは確か姫だったね。なら、俺はひょっとして、君のフィアンセ、婚約者なのか?」
すぐに「はい」という返事が来ると思っていたが、蘇芳エルザは人差し指を頬に当て、思案顔になる。違う、ということだろうか。もし姫、つまり王女の結婚相手なら次期国王ということになる。だからマイロードと呼び、慕うというのも可能性としては考えられない訳ではない。
「わたしがマイロードと結婚する、などということは出来ません。してはなりません。あまりにも違いすぎる。わたしはただの亡国の姫です。いずれ失われる国の僅かばかりの生き残りです。ですがあなたは、信永さまは違います。世界全ての希望です。ですからわたしはあなたをお守りし、奴らの手に落ちないように……あ」
「その奴らというのが何度か襲ってきた黒尽くめの集団なんだな? あいつらは何者だ? 蘇芳さんたちと同じ異世界から来たとか言うのか?」
「同じ、ではありませんが、異世界からという意味でしたら、そうです」
――結局異世界か。
俺はそう言って溜息をつく。
「その異世界ってやつ、俺も行くことができるのか? もし可能なら、やはり目で見てみないことには君たちが異世界から来たというのはにわかに信じがたいんだ」
「異世界は、行くものではありません」
「でも君たちはそこから来たんだろう?」
「はい」
「なら戻ることもできる。そうじゃないか?」
彼女は口を噤む。
「まさか……戻れない、のか?」
「分かりません。けれど戻る方法はまだ見つかっていません」
「それじゃあ君は、俺を守る為だけに自分の世界を捨て、大切な人たちと別れ、ここにやってきたというのか?」
言葉なく、彼女は黙って頷いた。
「そんなにまでして俺を守る必要があるのか?」
自分ならどうだろう。誰かを守る為に、今この生活、環境を捨て、自分の全く知らない世界に行く。もう二度と元の世界には戻れないと分かっていながらその選択をする、ということができるだろうか。
「俺は……マイロードとは、何者なんだ」
その言葉を口にしたのとほぼ同時に、警報が鳴り響いた。
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