千文字小説百物騙

凪司工房

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第八乃段

別の空

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 大きな音を立てて傾いたコンテナから大量のゴミがその広場へと滑落した。土煙が昇るがそれが収まるのを待つことなく、次のゴミが投入される。ここはゴミの分別施設だった。
 赤い回転灯が停止し、響いていた警報音が止むと、屋根付きの退避所に控えていた作業ロボットたちが一斉に湧いてくる。
 通称S型と呼ばれる作業用ロボットの一体は、カーキ色の作業着姿で山の下から一つずつ選別したゴミを緑色のカゴに放り込みながら、グレィに紫色が混ざったマーブル模様の空を見上げた。
 世界が汚染され、地表で行う作業の多くはロボットによって行われるようになった時代。そのロボットたちは製造後、一定期間学校により教育を受ける。その後適正に応じて各部署に振り分けられ、労働に当たることになっていた。

 彼は手にした人間の飲み残しがあるジュースの空きボトルを見ながら、最近仲間から聞いたある噂話を思い出していた。
 それは現場から突然、作業をしていたロボットが持ち場を放棄してどこかに消えてしまうというものだ。

 ある日のことだった。
 同じ現場で作業をしていたロボットの内の一体が急に作業の手を止め、空を見上げた。彼も釣られて上を見たが、そこには雲が浮かんでいる以外、何も見えない。
 何だったのだろうと視線を戻すと、そのロボットは手にしたゴミを捨て、施設の外に向かって歩き出した。

「おい、どうした?」

 そのロボットは一瞬だけ立ち止まって顔だけ向け、こう答えた――違う空を見てくる。
 結局そのまま戻ってこなかった。

 彼は夜、三段ベッドの一番上で近い天井を見ながら、今日の出来事について考えていた。
 空は世界中でつながっている。それは学校で教師から教わった話だ。平等であることを教える為に話したのだろうと理解したけれど、教師は「別の空」と表現した。
 同じ空。
 別の空。
 違う空とは何だろう。
 その日以来、彼の思考データに正体不明の奇妙な数字が紛れ込むようになった。

 それから何日か経ち、同僚がまた一体、姿を消した。
 だが会社は問題視せず、すぐに別のロボットを作業場に補充した。
 ロボットが消える現象が始まってから、半年ほど経ったある日のことだ。
 彼は空を見た。最近にしては珍しく雲がない澄み切った青空で、それを目にした時に頭の中で渦巻いていた数字が一気にゼロにそろった。

「別の空だ」

 彼は手にしていたゴミを放り出し、歩き出す。
 仲間の一体に呼び止められたが、振り返ってこう答えた。

「違う空を見てくらあ」
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