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第八乃段
脳が電子の涙を流すとき
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ナノレベルでプリントされた基盤の上を電子信号が走る。それが無数に繋がり、あちこちでそれぞれの思考が声を発していた。
「なあオオツカ。本当にこのBBSでは殺人は起こらないと思うか?」
「システムは完璧だ。脳だけを取り出し、仮想空間へと繋いでいる。物理的に死は訪れないよ。データが壊れることはあっても死ぬことはない」
ルークはその会話ログを何度も再生し、画面を見つめていた。
ブレイン・ベア・システムは科学者のオオツカが発案し、M研究チームにより開発された新しい仮想空間生命維持装置だった。オオツカ自身、下半身不随の事故に遭い、そういった人間でもより人生を楽しむ為の空間を生み出したいという彼と、脳をコンピュータに直結するシステムを模索していたドクターマキシマらとで共同研究の運びになり、一年前に試験運用が開始された。
当初はオオツカを含む二十名ほどの参加だったが、今では数百という脳がシステムに連結されている。
そのオオツカが昨夜亡くなった。
最初に疑ったのはシステムの異常だ。ハード的な面、ソフト的な面、双方から調査が行われたが、彼の死の直前のログからは「殺人」という言葉が相応しかった。
データ上、彼はナイフに胸を一突きされ絶命している。
仮想空間で刺された直後、異常な脳波が検出され、彼の脳機能は停止した。
システム運用以来初めての出来事で、仮想空間内の人間には内緒にしたままルークは聞き取り調査を行っている。だが何一つとして手がかりは見つかっていない。
ただ気になっていることが一つだけあった。
オオツカは殺される前日、自分の端末で一瞬外部にアクセスした形跡が残っていた。それはメンテナスの時刻を確認したものだったが、何故彼がそんなことをしたのか、その思考ログは残されていない。
謎が判明したのはメンテナンスが行われた一月ほど後のことだった。
BBSについては外部のネットとは繋がっていない独自回線を用いている。それによりウイルス等の攻撃を物理的に遮断し、安全性を高めていた。しかしメンテナンスに関しては機器が一般回線に繋がっており、その時に一緒に時計合わせも行われる。オオツカが利用したのはこのメンテナンスの回線が繋がる瞬間だった。彼は自分がかつて作ったプログラムをメンテナンスの回線を通して呼び込み、自殺をした。全ての機能を遮断するバックドア。それにより彼は自殺をしたのである。
「オオツカ……」
流れたのは、電子の涙か。
「なあオオツカ。本当にこのBBSでは殺人は起こらないと思うか?」
「システムは完璧だ。脳だけを取り出し、仮想空間へと繋いでいる。物理的に死は訪れないよ。データが壊れることはあっても死ぬことはない」
ルークはその会話ログを何度も再生し、画面を見つめていた。
ブレイン・ベア・システムは科学者のオオツカが発案し、M研究チームにより開発された新しい仮想空間生命維持装置だった。オオツカ自身、下半身不随の事故に遭い、そういった人間でもより人生を楽しむ為の空間を生み出したいという彼と、脳をコンピュータに直結するシステムを模索していたドクターマキシマらとで共同研究の運びになり、一年前に試験運用が開始された。
当初はオオツカを含む二十名ほどの参加だったが、今では数百という脳がシステムに連結されている。
そのオオツカが昨夜亡くなった。
最初に疑ったのはシステムの異常だ。ハード的な面、ソフト的な面、双方から調査が行われたが、彼の死の直前のログからは「殺人」という言葉が相応しかった。
データ上、彼はナイフに胸を一突きされ絶命している。
仮想空間で刺された直後、異常な脳波が検出され、彼の脳機能は停止した。
システム運用以来初めての出来事で、仮想空間内の人間には内緒にしたままルークは聞き取り調査を行っている。だが何一つとして手がかりは見つかっていない。
ただ気になっていることが一つだけあった。
オオツカは殺される前日、自分の端末で一瞬外部にアクセスした形跡が残っていた。それはメンテナスの時刻を確認したものだったが、何故彼がそんなことをしたのか、その思考ログは残されていない。
謎が判明したのはメンテナンスが行われた一月ほど後のことだった。
BBSについては外部のネットとは繋がっていない独自回線を用いている。それによりウイルス等の攻撃を物理的に遮断し、安全性を高めていた。しかしメンテナンスに関しては機器が一般回線に繋がっており、その時に一緒に時計合わせも行われる。オオツカが利用したのはこのメンテナンスの回線が繋がる瞬間だった。彼は自分がかつて作ったプログラムをメンテナンスの回線を通して呼び込み、自殺をした。全ての機能を遮断するバックドア。それにより彼は自殺をしたのである。
「オオツカ……」
流れたのは、電子の涙か。
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