千文字小説百物騙

凪司工房

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第六乃段

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「また出たんすか」

 すっかり冷えた出前の牛丼を食べながら、後輩刑事の景山が言った。久慈は「ああ」とだけうなずき、テレビに目を向ける。
 久慈たちはこの一月ばかり、ずっと通り魔事件を追いかけていた。事件は全て日本刀によって行われ、現場に凶器が残されてはいなかったものの、何件かは監視カメラに犯人映像が収められている。そもそも通り魔事件と呼ばれてはいるが路上で行われたのは二件のみで、あとは住宅と宝石店が現場だった。この事件の特殊性は容疑者として手配されていた人物が次の被害者となっている、ということだ。それはまるで犯人がバトンリレーをしているようで、前例のない事件として捜査員の誰もが頭を悩ませていた。

「そういえば今回は被害者が普通のホームレスだったそうで」
「だからまだサムライ事件かどうか、捜査方針がまとまってない」

 久慈たちは十件目の現場となったスーパー前の駐車場に来ていた。

「そういえばここ、久慈さんの奥さんが勤めてるんじゃなかったですっけ」

 景山の言葉で妻が娘のことを相談したがっていたことを思い出した。
 久慈は景山に任せ、一人自宅に向かう。
 ローンを組んで購入した郊外の一軒家は大きくはなかったが、それでも家族の箱として機能するはずだった。ウッドデッキ付きの小さな庭でバーベキューをしたいと言っていたのに、結局一度もやらないまま、庭は雑草で埋まっている。
 鍵を差し込むと、玄関のドアが開いたままになっていた。妻が帰っているのだろうか。それにしても不用心だと思いながらドアを開ける。
 物音は奥の台所からだった。

「おう、帰ったぞ……麻里」

 おかえり、という声が随分ずいぶんと低い。
 ゆらり、と振り向いた彼女の手にはひと振りの日本刀が握られていて、その先は血に塗れていた。

「お前、まさか……」
「どうして、家に、帰ってこないのよ……ねえ、あなた」

 視点は定まっていない。
 彼女は大きく刀を振り上げ、久慈に襲いかかってきた。久慈は咄嗟に胸元から拳銃を取り出すと、刀を避けてから安全装置を外し、M360J SAKURA、通称サクラを構える。弾は五発全て装填済みだった。
 右足を、と狙いを定めたところで肩が壁にぶつかる。
 鈍い音がして、弾は彼女の胸部で血の花を咲かせた。そのまま床に崩れ落ちる。
 彼女の手を離れた日本刀は怪しい光を放っていた。それはとても抗いがたく、伸ばした手にぴたりと吸い付くと、久慈はそのまま倒れている彼女の背に思い切り突き立てた。
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