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第2段階③

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先を行く深田さんの後について通された部屋は、深田さんの自室らしい。
壁際に置かれた横長の卓にはパソコンと小難しそうな書籍、書類が整然と並んでいる。奥の棚には和人形や古そうな茶器が置かれていて、床の間には達筆な掛け軸。実に落ち着いた雰囲気の和室だ。
深田さんは押入れから座布団を出して自分はそれに座ると、私には卓の前にあった座椅子を勧めてくださったけど……逆では。私が座布団では。むしろ地べたで正座させられてもおかしくない気がする。
どうするべきか迷っていたら目を細められ、それが怖いと同時に非常に「らしい」顔付きだったので、変な意味でドキッとした。なぜ私は儚げな美少年じゃないんだろうか。もしくはヤンチャ系の高校生。

「どうした」

声に若干の苛立ちが混じる。さすがにまずいと思った私は慌てて座った。
深田さんは私が座ったのを見て、小さく息を吐く。
向かい合うこと数十秒、深田さんが懐からスマホを取り出した。

「どういうことだ?」

見せつけられたのは、ねこみやの作品一覧のページ。当然、そこには例の作品はない。

「不快かと思いまして……」

あ、いや、まだ消えていないものがある。

「つ、次は存在ごと抹消します」

そもそもアカウントがまだ残ってますね。お気に入りとかしてもらってたらサムネとか微妙に残ってるかもしれない。

「すみません。徹底的に消します」
「消せとは言ってねぇだろ」

いや、自分で投稿しといてアレですが、知り合いに見られたら困りますよね。この方、立場もある人のはず……ん?立ち上がった。
なんか怖い顔で……ひっ!こっちに……じゃなくて、なぜか襖を開けて廊下の方に。

「おい、何コソコソ聞き耳立ててんだ?」

どこから出るんだその低い声。え、怖……私じゃなくて廊下にいる誰かに言ったみたいだけど、怖……
確かにこんな話聞かれたら私も深田さんも困るけども。

「部外者と頭を2人きりにするわけには……いったい、どういったご関係で?」

それは私も気になる。深田さんが一瞬こちらを見たので目が合った。

「こいつは俺の客だ」
「え、ええ、頭が連れて来られたので客人ですが……」
「お前、俺と客の会話を盗み聞きする気か?」
「いっ、いえっ!失礼いたしました!」

それ以上踏み込んできたらどうなるかわかってんのか?という幻聴が私にも聞こえてきた。私が深田さんをモデルにBLなんて描いたばかりに……とばっちりですよねすみません。
幻聴を直接浴びた廊下の人に心の中で平謝りしていたら、深田さんがピシャリと襖を閉めた。

「あいつも悪気はねぇんだろうが……話の途中に悪かったな」
「イエ、オキニナサラズ……」

なぜか片言になってしまった。だってガチのヤクザっぽくて怖かったもんさっきの深田さん。実際そうなんだけど。
深田さんは大きなため息をついて座椅子に座り直した。

「あんたを呼んだのはこれについて聞きたいことがあったからだ」

これ……とは、私の作品についてだよね?問題作は消したのに、これ以上何かあるんだろうか。
深田さんは私の作品一覧をスクロールしながら言う。

「あれを消したのは続きを書く気が無くなったからってことでいいのか?」
「そ、そうですね。はい……」
「俺に作者だとバレたからか?」
「はい」
「俺が口を出さなきゃ、続きを描いたのか?」
「あれは元々勢いで描いたので、続きは考えていません」
「データごと消したのか?」
「はい、一応……」

なんでもう消した作品に対してここまで色々尋ねてくるんだろう。もう描きませんという意思の確認?それにしてはなんか、言葉の節々に違うを感じる。
深田さんは再び大きく息を吐いた。それは安堵の、というよりは、つまらなさそうな雰囲気で……
そこでようやく、私は違う可能性を見出した。一連の流れを思い返すと、今の状況にも合点がいく。
でも、まさかこの人が……?いやいや、これ以上の属性を付与してなるものか。これ以上増やしたら存在が妖精ファンタジーになってしまう。

「こっちについても聞きたいんだが……」

嘘だよね?冗談と言ってほしいけど、この人は冗談を言うタイプには見えない。変な汗が背中を伝う。
深田さんは何かの画像をタップすると、神妙な面持ちでスマホの画面をこちらに向けた。

「読んでたら知らねぇやつがいきなり出てきたんだよ。こいつ誰だ?原作には出てきてねぇだろ」

それは、私が描いた新宿リバイバーズの二次創作漫画。もしも某ランドに推しカプが行ったら……という、ただの私の幻覚なんですけど……え?食い付くのそこ?
いや、そこに食い付くかとかそういう話以前に、深田さんの口から「原作」という言葉が出てくるとは。確かに原作には出てこないキャラです。映画の特典の小冊子にしか出てこない敵キャラ。
でも推しの少年時代の知り合いという美味しい設定持ちなので、新リバ界隈では結構人気のある……って、今重要なのはそこじゃない!
もしや深田さんって……?

「腐ってます?」
「……は?」

気まずい沈黙。
聞き方間違えたと、冷や汗がダラダラ溢れる。
深田さんの反応は意味がわからないという感じで、腐るという動詞の一般的な用途しか知らない人のそれだった。

「俺が腐ってるってか?」

そうだと思うんですけど、そうじゃない!
人間として腐ってるのではなく、性癖が?いや、より失礼な感じになった。説明、なんとかいい感じの説明を……

「なんと言いますか、その……男女じゃなくて男同士に惹かれる人種?ほら、男の友情とか眺めてるとこう、グッとくるじゃないですが。それに心揺さぶられると言いますか、ロマンを感じるんです」

深田さんの表情は固い。怖い。

「でもあの、決しておかしいは思ってなくて、ギリシャ神話とかでもゼウスが美少年を愛でてたりするじゃないですか。男女も男同士も無論女同士も、それぞれも良さが古代からあるわけで……」

いかん、これ私の萌えと持論を早口で語ってるだけでは。なぜここでギリシャ神話が出てくるんだ。

「とにかく、古来から抗い難い魅力が人間関係というものから生じて、そこからしか得られない栄養があったりなかった……り」

視線が……つらい。

「腐女子、で調べてください……」

私は文明の利器を頼った。
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