お客様はヤのつくご職業

古亜

文字の大きさ
上 下
124 / 132
3章

43.こちらのお母様5

しおりを挟む
私は母と義理の母親予定の美女を交互に見る。
無言で見つめ合う両者。先に口を開いたのは母だった。

「あんたが楓の彼氏の母親なわけ?」
「……そうなるみたいねぇ」

そして再び無言になる。
2人とも知り合い……なんだよね?でもこの雰囲気は普通の知り合いが醸し出すものじゃないよね。むしろ、火花散ってない?

「あの、どういう知り合いなんですか……?」

静かさに耐え切れず私は口を開く。2人とも睨み合いのようなものをやめて私の方を見た。

「隣の高校の女狐」
「川高の下克上女番長」

返答はほとんど同時だった。
……うん、とりあえずお互いにやんちゃしていらっしゃったんですねー。それだけはわかった。

「楓ちゃん、知らなかったの?」
「少しやんちゃしてたとは聞いてます。授業サボってた、とか」

他はめちゃくちゃロングなスカートはいていたとか。
そう言うと、昌治さんのお母様はあからさまに呆れた顔をして母を見た。

「少し?あれが?」
「今は関係ないでしょ。家庭の事情に口出さないでくれる?」
「あらあら、残念でした。楓ちゃんは未来の娘だから、無関係じゃないのよね」

勝ち誇ったように昌治さんのお母様は言う。
その態度に不機嫌を隠す様子のない母のこめかみあたりがピクってした気がした瞬間、ガタッと音がして机が揺れた。
危うく料理がひっくり返るところだったけど、その辺りはわかっていたのか母は卓を抑えて、その逆の手で箸を持ってそれを昌治さんのお母様に突き付けていた。目の前スレスレで止まってる。

「か、母さん!?」

ぼーっと見てる場合じゃなかった。
私は慌てて母の腕を掴んで引きおろす。

「止めないで、楓」

母は昌治さんのお母様を睨んだまま私の手をそっと外した。

「そういえばあんたとは決着ついてなかったねぇ」
「44戦22勝22敗だったかしら。思い出したわ。ここでケリつけとく?」

目が、目がお互いに本気!

「やめようよ2人とも!ほら、せっかくの料理冷めちゃうよ?」
「楓は食べてなさい。私はちょっと表行ってくるから」
「あら、じゃあ私は楓ちゃんと夕飯食べようかしら。お一人でどうぞ?」
「そういう嫌味なとこは変わってないねぇ。あんたも行くんだよ、女狐」
「懐かしい呼び方ねぇ。ああ、楓ちゃん、そんなに驚かなくても、昔はこんな感じだったのよ。主婦の皮被ってる元鬼姫」
「ああ?」
「ほら、こんな感じで」
「……そう、だったんですね。知らなかったーあはは……」

2人のやりとりに若干引いていたら、あっさりと見抜かれて私はもう乾いた笑いをあげることしかできなかった。

「っていうか、誰が主婦だって?ちゃんと定職にも付いてますけど?むしろあんたはどうなの?旦那の収入で食ってるわけ?」
「そっちこそずいぶんな言い草ねぇ。私だって忙しいのよ。これでも極道の妻だもの」
「忙しい?その無理矢理な若作りする暇はあるくせに。化粧でシワ誤魔化してるのバレバレだけど?クレンジング恵んであげるから一回落としてきたら?」
「確かにあの鬼姫がここまで変わっちゃってるものね。最初はちょっとわかんなかったわぁ。確かあなた私より年下よね」
「この歳になって1歳差なんて誤差よ誤差。歳相応って言葉を教えてあげようか?」

めちゃくちゃ睨み合ってる。怖いのですが。
2人は気付いてないけど、さっき一瞬だけ大原さんが襖開けて中の様子伺ってた。引っ込んだ時の顔、突然キュウリがダンスを踊り始めた現場を目撃したみたいな、とにかく凄い顔だった。

「でもまあ、あの鬼姫がずいぶんと丸くなったものねぇ」
「あんたは変わってなさすぎで不気味なくらいだよ」
「まさかあなたが楓ちゃんの母だったなんてねぇ。あんまり似なかったのね。このがさつな部分が遺伝しなくてよかったわぁ」
「そこはお父さんの遺伝子に感謝してるわ。おかげさまでいい子に育ったんだから」
「そうねぇ。私もあなたの旦那様には感謝しないと。そうよねぇ、昌治があなたみたいな子に惚れたら困るわ」

私の話題に移った!?この状況で私は関係あるのかな?いや、私が今の状況を説明するために母をここに呼んだんだから関係者か。

「昌治って人があんたに似てないことを祈るしかなさそうだねぇ。どうなの?楓」

ついに私に回ってきた。
とりあえずこれは、昌治さんがどういう人か答えればいいんだよね?

「昌治さんは似て……いや、目とかは似てる気がするけど、性格とかは、よく存じ上げないけど、昌治さんはそんなに喋らないけど、不器用だけどいい人だよ。見た目怖いけど優しいし……」
「あんた、うるさいって言われてるけど?」
「娘の言葉の揚げ足取ってる場合じゃないでしょう。でもそうなのよねぇ。中身はあまり似てないわねぇ。鉄朗さん似よ」
「お互い、自分たちに似なくてよかったねぇ」
「その通りね」

そうして2人はふふっと笑い始める。
ピリピリした雰囲気はそのままだけど、一旦休戦したって考えていいのかな?
母は私をちらっと見てふぅと息をはくと、再び昌治さんのお母様に向き直った。

「とりあえず、楓の気持ちはわかった。こいつの息子ってのがどういうやつなのかわからないけど、母親がどうこうは関係ない……あんた、巻き込むからには、ウチの娘守らなかったら承知しないから」
「言われなくても元々そのつもりよ。楓ちゃんのことは単体で気に入ってるし、なにより息子が望むことですもの」
「言ったな?何かあったらそん時は覚悟しなよ」
「亭主捕まえてすっかり腑抜けたあなたに言われたくないわぁ」
「ああ?表出て頂けます?記念すべき23勝目だ」
「ふふっ、売られた喧嘩は買いますよ?23勝目の記念に、楓ちゃんの親権でも頂こうかしら」
「はぁ?じゃあ私が勝ったらあんたの息子貰って定職に就かせてやるけど、構わないよねぇ?」

いやいや、なんで私と昌治さんが賞品みたいになってるの!?外指差してる?表出ようとしないで2人ともっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お客様はヤの付くご職業・裏

古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。 もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。 今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。 分岐は 若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺) 美香による救出が失敗した場合 ヒーロー?はただのヤンデレ。 作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

幸薄女神は狙われる

古亜
恋愛
広告会社で働くOLの藤倉橙子は、自他共に認める不幸体質。 日常的に小さな不幸を浴び続ける彼女はある日、命を狙われていたヤクザを偶然守ってしまった。 お礼にとやたら高い鞄を送られ困惑していたが、その後は特に何もなく、普通の日々を過ごしていた彼女に突如見合い話が持ち上がる。 断りたい。でもいい方法がない。 そんな時に思い出したのは、あのヤクザのことだった。 ラブコメだと思って書いてます。ほっこり・じんわり大賞に間に合いませんでした。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...