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プロローグ
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今回の制裁について、会長にどう説明すべきか考えながら窓の外を眺める。気付けば月森の屋敷が見えてきた。
いかにもな純日本家屋、その無駄に大仰な門をくぐると、玄関に1人の女が立っているのが見えた。
両腕を腰に当てて、仁王立ちをする女。
月森の家の家政婦、八代彩葉だ。
「若様っ!出ていかれたと聞いて心配したんですよ!」
彩葉は俺が車を降りるなり、いかにも怒っていますよと言いたげな顔を作る。口を結んでいるところは頑張っているんだと思うが、無理しているのが丸わかりだ。元々の顔がのほほんとしてんだから。
「俺がどうしていようと勝手だろ」
「いけません!若様の身にもし何かあったら、私はどうすればいいんですか。こんな時間に、良い子はお風呂に入っている時間です!」
「だから、彩葉には関係ねぇよ」
あとヤクザの孫に向かって良い子とか言うな。
「だめです!大旦那様に若様のことをちゃんとお守りするようにと言われているんです!」
「じい様が言ったのは護衛じゃなくてお守りだ。どっちにせよ俺にはいらない」
「……そもそも若様が行くまでもなかったのに、付いて行ったと。早く寝ないと大きくなれませんよ!」
「1日くらいで大袈裟なんだよ!これから伸びるんだ」
「積み重ねが大事なんです。ですが……」
「なんだ」
「ご安心ください。若様のことは今の大きさのままでも大好きですから」
「バ……バカかっ!成長しねぇみたいに言うな!」
な、何が大好きだ。んなこと……じゃねぇ!俺はちゃんと成長するんだよ!中学生になれば嫌でも伸びる!
寝る子は育つ?成長ホルモン?それくらい調べて知ってるっての!
「……若にあそこまで言えるの彩葉ちゃんか会長くらいのもんだよな」
「身長関係、地雷なのにな」
「彩葉ちゃんけっこう背高いよな」
「若の場合、遺伝的にどうなんだろうな」
「抜かせるか微妙なとこだと思う」
聞こえてるぞ、藤沢と沢田。言い合ってて聞こえてねぇと思ったら大間違いだ。
ひと睨みしたら黙った。沢×2、お前らあとで覚えてろ。
「若様は寝る前のホットミルクも欠かさずお飲みになられています。給食の牛乳も残していないんですよね。男の子なんですから、よく食べて牛乳飲んで寝ればきっとすぐ私なんて追い抜かれちゃいますよ!」
お前も聞いてたのかよ。やめろ、慰めるな。
「そ、そうです。牛乳飲めばぐんぐん伸びますって」
「今度北海道物産展やるらしいんで、美味いの買ってきます!」
「そうです若様、骨も丈夫になって一石二鳥です!」
今さらフォローしても遅いからな?
というかお前ら牛乳を過信しすぎだろ。
「そういう彩葉は、牛乳飲んできたのかよ」
「いえ、牛乳はすぐ腐ってしまうので頂くこともありませんでした」
ここで否定すんなよ!というか腐りやすいからってなんだ。かなり田舎の村出身とは聞いてたが、どういう生活してきたんだこいつ。給食で出ないのか?
「でも、お魚はよく食べました。川に沢山いるので、自分で取って食べればタダです!ご存知ですか?お魚もカルシウム豊富なんです」
「知ってるに決まってるだろ!」
待て、自分で取って食べればタダって、それ単にサバイバルだろ。
「……彩葉ちゃん、今度一緒に寿司屋行こっか」
「ああ。回ってるやつだけど、俺ら奢るよ!」
「お寿司!?まさか、いなり寿司や玉子ですか?もしかして朴葉寿司も?回転してるのに食べられるんですか!?」
いなり寿司も玉子も魚関係ねぇだろ。あと朴葉寿司って、普通の寿司どこいった。彩葉の寿司に対する認識どうなってんだよ。
「朴葉寿司はちょっと違う……?でもお寿司ですよね。それが……くるくる回ってるんですか?」
説明してみたが、ちゃんと理解してねぇなこれ。たぶん彩葉の頭の中じゃ、米の上に刺身が乗ってコマみたいに回転してるんだろう。
「都会はすごいんですね。お刺身は日持ちしませんから、実用も兼ねて朴葉寿司は美味しいです」
「……色々と突っ込みたいが、もう疲れた」
「はっ!そうですね。若様はお疲れですよね!
夕飯とお風呂の用意はほとんど終わっているので、どうぞ!」
そう言って彩葉は玄関を開けると、ぺこりと頭を下げて一歩下がる。仕事モードに入ったようだった。
想像もつかないレベルの田舎出身で一部常識が欠落しているが、これでも一応月森家の家政婦だ。なぜか俺専属の。俺は認めてねぇけど
「お風呂上がりにはホットミルクをご用意いたしますね」
柔らかく微笑むその表情のせいで、色々とどうでも良くなる。
……まあ、寿司屋くらい今度俺が連れてってやるか。
だから沢×2、お前ら来るなよ?
いかにもな純日本家屋、その無駄に大仰な門をくぐると、玄関に1人の女が立っているのが見えた。
両腕を腰に当てて、仁王立ちをする女。
月森の家の家政婦、八代彩葉だ。
「若様っ!出ていかれたと聞いて心配したんですよ!」
彩葉は俺が車を降りるなり、いかにも怒っていますよと言いたげな顔を作る。口を結んでいるところは頑張っているんだと思うが、無理しているのが丸わかりだ。元々の顔がのほほんとしてんだから。
「俺がどうしていようと勝手だろ」
「いけません!若様の身にもし何かあったら、私はどうすればいいんですか。こんな時間に、良い子はお風呂に入っている時間です!」
「だから、彩葉には関係ねぇよ」
あとヤクザの孫に向かって良い子とか言うな。
「だめです!大旦那様に若様のことをちゃんとお守りするようにと言われているんです!」
「じい様が言ったのは護衛じゃなくてお守りだ。どっちにせよ俺にはいらない」
「……そもそも若様が行くまでもなかったのに、付いて行ったと。早く寝ないと大きくなれませんよ!」
「1日くらいで大袈裟なんだよ!これから伸びるんだ」
「積み重ねが大事なんです。ですが……」
「なんだ」
「ご安心ください。若様のことは今の大きさのままでも大好きですから」
「バ……バカかっ!成長しねぇみたいに言うな!」
な、何が大好きだ。んなこと……じゃねぇ!俺はちゃんと成長するんだよ!中学生になれば嫌でも伸びる!
寝る子は育つ?成長ホルモン?それくらい調べて知ってるっての!
「……若にあそこまで言えるの彩葉ちゃんか会長くらいのもんだよな」
「身長関係、地雷なのにな」
「彩葉ちゃんけっこう背高いよな」
「若の場合、遺伝的にどうなんだろうな」
「抜かせるか微妙なとこだと思う」
聞こえてるぞ、藤沢と沢田。言い合ってて聞こえてねぇと思ったら大間違いだ。
ひと睨みしたら黙った。沢×2、お前らあとで覚えてろ。
「若様は寝る前のホットミルクも欠かさずお飲みになられています。給食の牛乳も残していないんですよね。男の子なんですから、よく食べて牛乳飲んで寝ればきっとすぐ私なんて追い抜かれちゃいますよ!」
お前も聞いてたのかよ。やめろ、慰めるな。
「そ、そうです。牛乳飲めばぐんぐん伸びますって」
「今度北海道物産展やるらしいんで、美味いの買ってきます!」
「そうです若様、骨も丈夫になって一石二鳥です!」
今さらフォローしても遅いからな?
というかお前ら牛乳を過信しすぎだろ。
「そういう彩葉は、牛乳飲んできたのかよ」
「いえ、牛乳はすぐ腐ってしまうので頂くこともありませんでした」
ここで否定すんなよ!というか腐りやすいからってなんだ。かなり田舎の村出身とは聞いてたが、どういう生活してきたんだこいつ。給食で出ないのか?
「でも、お魚はよく食べました。川に沢山いるので、自分で取って食べればタダです!ご存知ですか?お魚もカルシウム豊富なんです」
「知ってるに決まってるだろ!」
待て、自分で取って食べればタダって、それ単にサバイバルだろ。
「……彩葉ちゃん、今度一緒に寿司屋行こっか」
「ああ。回ってるやつだけど、俺ら奢るよ!」
「お寿司!?まさか、いなり寿司や玉子ですか?もしかして朴葉寿司も?回転してるのに食べられるんですか!?」
いなり寿司も玉子も魚関係ねぇだろ。あと朴葉寿司って、普通の寿司どこいった。彩葉の寿司に対する認識どうなってんだよ。
「朴葉寿司はちょっと違う……?でもお寿司ですよね。それが……くるくる回ってるんですか?」
説明してみたが、ちゃんと理解してねぇなこれ。たぶん彩葉の頭の中じゃ、米の上に刺身が乗ってコマみたいに回転してるんだろう。
「都会はすごいんですね。お刺身は日持ちしませんから、実用も兼ねて朴葉寿司は美味しいです」
「……色々と突っ込みたいが、もう疲れた」
「はっ!そうですね。若様はお疲れですよね!
夕飯とお風呂の用意はほとんど終わっているので、どうぞ!」
そう言って彩葉は玄関を開けると、ぺこりと頭を下げて一歩下がる。仕事モードに入ったようだった。
想像もつかないレベルの田舎出身で一部常識が欠落しているが、これでも一応月森家の家政婦だ。なぜか俺専属の。俺は認めてねぇけど
「お風呂上がりにはホットミルクをご用意いたしますね」
柔らかく微笑むその表情のせいで、色々とどうでも良くなる。
……まあ、寿司屋くらい今度俺が連れてってやるか。
だから沢×2、お前ら来るなよ?
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