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美人は怖い2
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まず思ったのは、仁さんって誰?ってことだった。
私がぽかーんとしていたからか、美人は雑に私の口のガムテープを剥がした。結構痛かったけど、美人の迫力を前にして何も言えなかった。
苛々してる美人、怖い。
それに周りにボディーガードっぽいガタイのいい黒服の人たちが控えてるし、その背景も見慣れない倉庫街だ。
「ぼーっとしちゃって、なんとか言いなさいよ」
そんなこと言われても、仁さんって聞き覚えないんだけどな。でも、この美人に関係してるといえば吉崎さん。下の名前は確か……
「知ってるんでしょ?仁さん、遠野組組長の吉崎仁よ!」
「あ、そうでした」
そうだ。吉崎さんって吉崎仁さんか。お世話になってるのにさすがに失礼すぎたかな。でも、下の名前で呼び合うような関係でもないし……ん?ということはこの美人は吉崎さんを下の名前で呼ぶような関係の人ってことか。
「まさかあんた、下の名前知らなかったわけ?」
「いえ、一度聞いてたんですけど、呼ばないので……」
「はぁ?」
これは、いくらアホな私でも気付くぞ。この人はきっと吉崎さんの恋人とかそういう関係の人だ。
そして私はさっき仁さんの女なのかとか言われてたから……うん。これは疑われてるね!
女の嫉妬の怖さは佐々木さんのこともあったし十分知ってるから、きっちりと否定しておこう。
「あの、私は吉崎さんとはそういう関係じゃありません」
「は?知ってるのよ、あんたが仁さんと同棲してるってことは!私が聞きたいのはあんたと仁さんの関係って言ってるでしょ!?」
ど、同棲!?
まあ、お隣さんとはいえ壁に穴が空いてるので空間的には一緒なのか?でも同棲って、カップルとかのことを言うんじゃ……
毎日美味しいご飯をいただいて、日々餌付けされて、結局両方食べてるんだけど……なんというか、それだけとると。
「……ペット?」
「はぁぁ!?」
美人が絶句してる。
……いや、当然の反応だこれ。何言ってんだ私。
微妙な沈黙が流れる。
「どういうことなの……」
お姉さん引いちゃってるよ?引いちゃって……る?
なんだあのなんとも言い難い表情。
ドン引かれると思ったのに、まさかの若干嬉しそうっ!?なぜ顔を赤らめる!
ええと、まあ性癖は人それぞれですから!別に批判とかそんなことしませんよ。あくまで個人の自由ですから!
「ち、違います。間違えましたお母さんです!」
「あんたが仁さんの親なの!?」
「え……いやそういうことではなく、私にとってです!」
「仁さんに娘が?」
美人が混乱している。それもそうか。
けどそれはいくらなんでも歳に無理がある。さすがに吉崎さんくらいの息子がいてもおかしくない顔に見られてたら凹む。
美人が取り乱しているからか、かえって冷静になっていく私の頭。
「意味がわかんないんだけど!だからあんたは仁さんの娘なの?ペットなの!?」
「ただのお隣さんです。隣人です。」
吉崎さんの娘、ヤクザさんのペット。響きがそこはかとなく不穏だ。いや、違うんだけど。
美人は今にも私の胸ぐらを掴みたそうにしている。周りの黒服の方々は神妙な顔を崩さないよう必死に堪えている感じがした。
「……お隣さん?」
やがて美人は若干震える声でそう聞き返してきた。
「はい。吉崎さんはお隣さんです」
「……同棲じゃないの?」
「ごはんを恵んで頂いてるだけです」
それ以外は何事もない、はず。黒いあれの退治とか料理教室は例外だよね。
「ど、どうして仁さんがあんたなんかに食べ物を恵むのよ!?」
「食生活を哀れに思われたので」
「それは絶対に間違ってるわ!」
え、違うの?だって吉崎さん本人がそんな感じのことを言ってたような……避難場所代わりにさせてもらってるお礼って言うのは言えないから言わないけど。
「あなた鈍感なの?アホなの!?」
こんな会ってすぐの美人にまでアホって言われた。というか鈍感……?それはつまり私が気付いていないと。吉崎さんが私を……私を!?
「嫌われてはいないと思いたいですけど……毎日美味しいですし」
「毎日なの!?」
「食費は払おうとしてるんですよ?お弁当箱を返すときに諭吉を付けて返しても、次の日のお弁当の中にわざわざラップできっちり包んで入れてあったり」
おかずの仕切りに擬態してたので気付かないフリして返却したら、翌日のお弁当でご飯の下に敷いてあった。お米を食べ進めるとじわじわとラップに包まれたお札が出てくるから面白かったな。
そう伝えたら吉崎さんは急に自分のしたことを後悔したのか『嬢ちゃんのアホがうつった』と言われた。失礼な。
「のろけ話はやめてくれる!?」
「私と吉崎さんは恋人じゃありませんってば」
「確かにそうね!そういう段階を色々とすっ飛ばしてる感じがするわ!」
美人はなぜかすごく怒りつつも疲れた顔をしていた。美人の後ろに立って私を見下ろしていた護衛の人は半分が呆れ顔、もう半分はなぜか俯いて笑いを堪えている。
俯いてても尻餅ついてる私からは見えてますからねー。というかなにがそんなに面白いんですか。
「あなた、好きでもない男に毎日手料理振る舞うの?しないでしょ?」
「まあそもそも料理はしたくないので……」
「そういうこと言ってるんじゃないのよ!」
美人は大きく息を吐く。苛々してる顔も美女だと絵になるなーなんて思っていたら、突然頬に痛みが走った。
私がぽかーんとしていたからか、美人は雑に私の口のガムテープを剥がした。結構痛かったけど、美人の迫力を前にして何も言えなかった。
苛々してる美人、怖い。
それに周りにボディーガードっぽいガタイのいい黒服の人たちが控えてるし、その背景も見慣れない倉庫街だ。
「ぼーっとしちゃって、なんとか言いなさいよ」
そんなこと言われても、仁さんって聞き覚えないんだけどな。でも、この美人に関係してるといえば吉崎さん。下の名前は確か……
「知ってるんでしょ?仁さん、遠野組組長の吉崎仁よ!」
「あ、そうでした」
そうだ。吉崎さんって吉崎仁さんか。お世話になってるのにさすがに失礼すぎたかな。でも、下の名前で呼び合うような関係でもないし……ん?ということはこの美人は吉崎さんを下の名前で呼ぶような関係の人ってことか。
「まさかあんた、下の名前知らなかったわけ?」
「いえ、一度聞いてたんですけど、呼ばないので……」
「はぁ?」
これは、いくらアホな私でも気付くぞ。この人はきっと吉崎さんの恋人とかそういう関係の人だ。
そして私はさっき仁さんの女なのかとか言われてたから……うん。これは疑われてるね!
女の嫉妬の怖さは佐々木さんのこともあったし十分知ってるから、きっちりと否定しておこう。
「あの、私は吉崎さんとはそういう関係じゃありません」
「は?知ってるのよ、あんたが仁さんと同棲してるってことは!私が聞きたいのはあんたと仁さんの関係って言ってるでしょ!?」
ど、同棲!?
まあ、お隣さんとはいえ壁に穴が空いてるので空間的には一緒なのか?でも同棲って、カップルとかのことを言うんじゃ……
毎日美味しいご飯をいただいて、日々餌付けされて、結局両方食べてるんだけど……なんというか、それだけとると。
「……ペット?」
「はぁぁ!?」
美人が絶句してる。
……いや、当然の反応だこれ。何言ってんだ私。
微妙な沈黙が流れる。
「どういうことなの……」
お姉さん引いちゃってるよ?引いちゃって……る?
なんだあのなんとも言い難い表情。
ドン引かれると思ったのに、まさかの若干嬉しそうっ!?なぜ顔を赤らめる!
ええと、まあ性癖は人それぞれですから!別に批判とかそんなことしませんよ。あくまで個人の自由ですから!
「ち、違います。間違えましたお母さんです!」
「あんたが仁さんの親なの!?」
「え……いやそういうことではなく、私にとってです!」
「仁さんに娘が?」
美人が混乱している。それもそうか。
けどそれはいくらなんでも歳に無理がある。さすがに吉崎さんくらいの息子がいてもおかしくない顔に見られてたら凹む。
美人が取り乱しているからか、かえって冷静になっていく私の頭。
「意味がわかんないんだけど!だからあんたは仁さんの娘なの?ペットなの!?」
「ただのお隣さんです。隣人です。」
吉崎さんの娘、ヤクザさんのペット。響きがそこはかとなく不穏だ。いや、違うんだけど。
美人は今にも私の胸ぐらを掴みたそうにしている。周りの黒服の方々は神妙な顔を崩さないよう必死に堪えている感じがした。
「……お隣さん?」
やがて美人は若干震える声でそう聞き返してきた。
「はい。吉崎さんはお隣さんです」
「……同棲じゃないの?」
「ごはんを恵んで頂いてるだけです」
それ以外は何事もない、はず。黒いあれの退治とか料理教室は例外だよね。
「ど、どうして仁さんがあんたなんかに食べ物を恵むのよ!?」
「食生活を哀れに思われたので」
「それは絶対に間違ってるわ!」
え、違うの?だって吉崎さん本人がそんな感じのことを言ってたような……避難場所代わりにさせてもらってるお礼って言うのは言えないから言わないけど。
「あなた鈍感なの?アホなの!?」
こんな会ってすぐの美人にまでアホって言われた。というか鈍感……?それはつまり私が気付いていないと。吉崎さんが私を……私を!?
「嫌われてはいないと思いたいですけど……毎日美味しいですし」
「毎日なの!?」
「食費は払おうとしてるんですよ?お弁当箱を返すときに諭吉を付けて返しても、次の日のお弁当の中にわざわざラップできっちり包んで入れてあったり」
おかずの仕切りに擬態してたので気付かないフリして返却したら、翌日のお弁当でご飯の下に敷いてあった。お米を食べ進めるとじわじわとラップに包まれたお札が出てくるから面白かったな。
そう伝えたら吉崎さんは急に自分のしたことを後悔したのか『嬢ちゃんのアホがうつった』と言われた。失礼な。
「のろけ話はやめてくれる!?」
「私と吉崎さんは恋人じゃありませんってば」
「確かにそうね!そういう段階を色々とすっ飛ばしてる感じがするわ!」
美人はなぜかすごく怒りつつも疲れた顔をしていた。美人の後ろに立って私を見下ろしていた護衛の人は半分が呆れ顔、もう半分はなぜか俯いて笑いを堪えている。
俯いてても尻餅ついてる私からは見えてますからねー。というかなにがそんなに面白いんですか。
「あなた、好きでもない男に毎日手料理振る舞うの?しないでしょ?」
「まあそもそも料理はしたくないので……」
「そういうこと言ってるんじゃないのよ!」
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