お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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吉崎さんサイド(冷蔵庫)

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家主が帰ってきた。
いつもより少し早いなと思っていたら、頑張って終わらせて買い物をしてきたらしい。わざわざスーパーに買い物に行ったのかと驚いていたら、その上買ってきたものは野菜。
一昨日までの不摂生を考えれば大きすぎる進歩だ。いきなりすぎて理解が追い付かなくなったが。
まあ、その進歩に喜ぶ前に、大量の野菜で柄にもなく爆笑してしまったんだが。
この大量の野菜を買い込む時に気付かなかったんだろうか。明らかに他の客より量が多いだろ。何人家族だお前。
見た感じ、持って帰ってくるだけで疲れている。途中でおかしいと思わなかったんだろうか。大方、まとめ買いだから仕方ないとか思ってんだろうけど。
頑張って冷蔵庫に詰めて無理だとわかったときの顔ときたら……
飽きねぇな。こいつ見てると。
冷蔵庫からあふれた分の野菜を預かって自分の部屋の冷蔵庫に詰め込んでいる間も、自然と笑みがこぼれてくる。





しかしまあ、あの大量の野菜をどうするつもりなのか聞いてみたら、野菜炒めと鍋だと言う。あまりの計画性のなさにやはり彼女はアホだと確信した。
なんだ、嫁に来てくださいって……逆だろ、普通は。
加えて彼女ときたら、かぼちゃの煮付けを食べながら無言でこっちを見てくるのである。余計なお世話だと言いたいのかもしれないが、説得力がなさすぎるわ可愛いわで、再び爆笑してしまう。
何考えてんのかなんとなくわかるだけに、それが余計におかしかった。

「なんだこの生き物」

おっと、いかん。つい口に出してしまった。
睨まれてる気がするが、その程度じゃ何も怖くないな。むしろ……仔犬に睨まれてる感じだ。
食後のパイナップルを食べている間に、彼女は皿を洗うと言ってシンクの前に立つ。とりあえず見ていたが、その手つきも実に怪しい。油汚れの少ないものから洗うのが常識だろ。なぜ、先にフライパンにいった?
これは、いよいよ明日が怖くなってきた。

「……嬢ちゃん、冷蔵庫ん中確かめていいか?」
「あ、はい。どうぞ」

何をどれだけ買ってきたのか確認しておかないと、そもそも何を作るかが決められねぇ。ジャガイモを無残な姿にするレベルとなると、作れるモンがかなり限られるのでは。
少なくともキャベツと白菜とレタスがそれぞれ丸々1玉ずつあるんだよな。これだけでも結構量あるぞ。
一度それらの大物を退ける。
隙間に詰め込まれたもやし3袋も出し……ん?もやしって、俺の方の冷蔵庫にも入れたよな。

「なんでもやしばっかり5袋も買ってんだ」
「……安かったからです。こんなに買っても100円行かないんですよ!?」
「もやしは足が早ぇんだよ!」

冷蔵庫に入れといてもすぐ悪くなる。しかもご丁寧に、うち2袋は値引きシールの貼ってあるやつを選びやがって。
あとはシメジにほうれん草、長ネギ、ニラ、ズッキーニ……ズッキーニ!?なぜこれをチョイスした?最近わりと見かける野菜ではあるが、ナスでも玉ねぎでもなくなぜこれを選んだ?

「嬢ちゃん、念のために聞くが、これどうやって食うつもりだった?」

俺はズッキーニが3本(も)入った袋を手に取って尋ねる。

「え……キュウリみたいに生?」

……先が思いやられる。
確かに生でも食べられるが、この生活力皆無の女がそれを知って買ってきたとはとても思えない。
そもそもズッキーニはカボチャの仲間だと教えてやるべきだろうか。最近は常識になりつつあると思っていたが、この感じだと絶対知らねぇだろこいつ。
とりあえず無意味なズッキーニともやし5袋、これをどうにかする料理を考えるか。

「嬢ちゃんの旦那になるやつの気が知れねぇな」
「……何か言いました?」
「いや、別に」

絶対苦労する。重症だな、これは。
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