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「着いたぞ」
そう言われて顔を上げると、見知らぬ駐車場にいた。
どこだろうとあちこち見回しているうちに、三島さんはバイクを端に停めると、ヘルメットを外してバイクを降りた。
私もそれに続いてバイクを降りようとして、ふらりと倒れそうになる。
「大丈夫か?」
「えっと、たぶん……」
風が強かったから目がショボショボする。あと夜風に当たりすぎて身体が冷え切っていた。
ふらついたときに腕を掴んだ三島さんはそれに気付いたらしい。慌てた様子で上着を脱いで私の肩にかけた。
「この状況で遠慮してる場合か。嫌だろうがすぐ風呂入れ。用意はしてやるから」
「お風呂は嫌じゃないですけど……お風呂?」
私の家には戻れないだろう。だとしたらここは……と、そこでようやくここがどこなのか察した。
「俺の住んでるマンションの地下駐車場だ。一時的に隠れるだけならビジホでもよかったんだが、怪しまれても厄介だからな。あんたには悪いが、我慢してくれ」
「いえ、むしろすみません。ありがとうございます……」
本当に三島さんには助けられてばかりだ。
助けてもらっていなかったら、今頃どうなっていたんだろう。
想像しようとするだけで、身体が震える。
私は咄嗟に三島さんの腕を掴んだ。
「俺の考えも甘かった。まさかここまですぐ大事になるとはな。何があった?」
「えっと、私を手に入れたら蓮有楽会の次期会長って勘違いが広がってるみたいで……」
エレベーターを待つ間に、私は山本さんが言っていた事を伝えた。
それを聞いた三島さんは降りてきたエレベーターに乗り込みながら短く唸る。
「たかが女ひとりのために……と言いたいとこだが、そのたかがひとりをものにすれば次期組長なんて話になれば、目の色変えて狙ってくるのも当然か」
面倒なことになったな、と三島さんは呟く。
「親父は外堀を埋めにきてるんだろうな。本気であんたを取りにきてる。大方、わざと勘違いさせるような言い方をしたんだろ」
「わざと、ですか?」
「ああ。こうやって狙われりゃ、あんたが折れると考えたんだろ」
……悔しいけど、その通りだ。
気まぐれか何かだと思いたかったけど、実際に行動に移されてしまった。
さっきのは勘違いした一部の人たちの暴走だ。ただの勘違いで、あそこまでのことが起こる。
蓮有楽会の会長が「藤倉橙子を捕まえろ」とひと言命じれば、たかが小娘ひとり、容易く世の中から切り離せるのだろう。
それを見せつけられた。
「あんたには悪いが、早めに折れてくれ。長引かせるのはむしろ逆効果だ」
「わかりました」
「俺にできるのは時間稼ぎくらいで……は?」
私があっさり承諾を示したからか、三島さんは油が切れた機械みたいに固まった。
エレベーターが停止して扉が開いたけど、気付いていないようだった。
「本気で言ってるのか?」
「……折れてほしいのかどっちなんですか。いいんです、これは私の意志ですから」
とは言ったものの、自分の肩は震えていた。
ただ不運なだけの私が三島さんたちの世界に飛び込んで、無事でいられるだろうか。そんな不安と同じくらい、それ以上にこれから自分が口にしようとしている言葉が怖かった。
「でも、その……」
三島さんがいい。
私は三島さんのことが好きだ。恋愛的な意味かどうかはわからないけど、少なくとも人としては好きだし、三島さんと結婚するのはいいかもな、なんて思わなかったと言えば嘘になる。
好きな人と結婚できるのは幸運なことだ。そんな幸運を受け入れてしまって大丈夫だろうか。
私がよくても、三島さんはよくないかもしれない。私の不幸に三島さんを巻き込むかもしれない。
そう思うと言葉に出してはいけない気がした。
そう言われて顔を上げると、見知らぬ駐車場にいた。
どこだろうとあちこち見回しているうちに、三島さんはバイクを端に停めると、ヘルメットを外してバイクを降りた。
私もそれに続いてバイクを降りようとして、ふらりと倒れそうになる。
「大丈夫か?」
「えっと、たぶん……」
風が強かったから目がショボショボする。あと夜風に当たりすぎて身体が冷え切っていた。
ふらついたときに腕を掴んだ三島さんはそれに気付いたらしい。慌てた様子で上着を脱いで私の肩にかけた。
「この状況で遠慮してる場合か。嫌だろうがすぐ風呂入れ。用意はしてやるから」
「お風呂は嫌じゃないですけど……お風呂?」
私の家には戻れないだろう。だとしたらここは……と、そこでようやくここがどこなのか察した。
「俺の住んでるマンションの地下駐車場だ。一時的に隠れるだけならビジホでもよかったんだが、怪しまれても厄介だからな。あんたには悪いが、我慢してくれ」
「いえ、むしろすみません。ありがとうございます……」
本当に三島さんには助けられてばかりだ。
助けてもらっていなかったら、今頃どうなっていたんだろう。
想像しようとするだけで、身体が震える。
私は咄嗟に三島さんの腕を掴んだ。
「俺の考えも甘かった。まさかここまですぐ大事になるとはな。何があった?」
「えっと、私を手に入れたら蓮有楽会の次期会長って勘違いが広がってるみたいで……」
エレベーターを待つ間に、私は山本さんが言っていた事を伝えた。
それを聞いた三島さんは降りてきたエレベーターに乗り込みながら短く唸る。
「たかが女ひとりのために……と言いたいとこだが、そのたかがひとりをものにすれば次期組長なんて話になれば、目の色変えて狙ってくるのも当然か」
面倒なことになったな、と三島さんは呟く。
「親父は外堀を埋めにきてるんだろうな。本気であんたを取りにきてる。大方、わざと勘違いさせるような言い方をしたんだろ」
「わざと、ですか?」
「ああ。こうやって狙われりゃ、あんたが折れると考えたんだろ」
……悔しいけど、その通りだ。
気まぐれか何かだと思いたかったけど、実際に行動に移されてしまった。
さっきのは勘違いした一部の人たちの暴走だ。ただの勘違いで、あそこまでのことが起こる。
蓮有楽会の会長が「藤倉橙子を捕まえろ」とひと言命じれば、たかが小娘ひとり、容易く世の中から切り離せるのだろう。
それを見せつけられた。
「あんたには悪いが、早めに折れてくれ。長引かせるのはむしろ逆効果だ」
「わかりました」
「俺にできるのは時間稼ぎくらいで……は?」
私があっさり承諾を示したからか、三島さんは油が切れた機械みたいに固まった。
エレベーターが停止して扉が開いたけど、気付いていないようだった。
「本気で言ってるのか?」
「……折れてほしいのかどっちなんですか。いいんです、これは私の意志ですから」
とは言ったものの、自分の肩は震えていた。
ただ不運なだけの私が三島さんたちの世界に飛び込んで、無事でいられるだろうか。そんな不安と同じくらい、それ以上にこれから自分が口にしようとしている言葉が怖かった。
「でも、その……」
三島さんがいい。
私は三島さんのことが好きだ。恋愛的な意味かどうかはわからないけど、少なくとも人としては好きだし、三島さんと結婚するのはいいかもな、なんて思わなかったと言えば嘘になる。
好きな人と結婚できるのは幸運なことだ。そんな幸運を受け入れてしまって大丈夫だろうか。
私がよくても、三島さんはよくないかもしれない。私の不幸に三島さんを巻き込むかもしれない。
そう思うと言葉に出してはいけない気がした。
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