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54 幻想的でした
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私は、お風呂に入った後なにくわぬ顔で部屋に戻った。しかしどうしても気になって仕方がない。もうすぐ夏とはいえまだ6月だ。夜ともなるとまだ肌寒いので、長袖にズボンをはき込んで玄関に向かった。音を立てないように静かに外に出る。
玄関を出て数歩歩いた時だった。
「ことか?」
聞き覚えのある小さな声がした。ぎょっとしてそちらを見ると、俊介が道のところに立っていた。私が飛んでいくと、俊介が言った。
「親父から聞いた。今から裏山行くんだろ?俺も付き合うよ」
「知ってたの?」
「うん。親父が急に夕方はかまに着替えて出かけるっていうのを母親に言ってたんだ。耳をそばだてていたら、ことんちのおばあちゃんの話が出てさ。俺びっくりして親父に問い詰めたんだ。そしたら裏山の事を教えてもらったんだよ」
「そうなの?ねえ俊介知ってる?おじいちゃん一人で、裏山でおばあちゃんを火葬するんだって!」
「えっ___!」
さすがに俊介もそこまでは聞いていなかったらしい。目をまんまるにして私を見た。
「だから私も最後のお別れ言いたくて。でも入れないんだよ。柵の扉に鍵が付いてて」
「これだろ?」
俊介は、ポケットからひとつのカギを取り出した。
「どうしたの?」
「これ?いつも神棚の後ろに置いてあるやつなんだ。今まで何に使うんだろうって思っていたら、今日親父が持っていったからさ。こそっと拝借してきた。きっとことの事だから行くだろうと思って」
「よくわかったね」
「だって親父の奴、ことがずっと隠れて見てたっていったから」
「やっぱり見られてたんだ」
「そうらしいな」
「でも俊介、よく神棚に鍵あるの知ってたね」
「小学校の時、親父に前ことが変身した姿のこと聞いたって言っただろう?あの時は、こととは知らなかったけどさ。その時絵姿を見せてもらったんだ。この絵姿と似てるかってさ。あの神棚から絵姿を取り出してきたんだよ。だから俺、他に何かないかと思ってさ。誰もいないすきを狙って、神棚を探したんだ。そしたらこの鍵がきれいな箱に入れてあったんだ。その時は、何だろうって思っただけだったけど。今日親父が持っていったから、きっと裏山で何かに使う鍵だなあって思って、念のため持ってきた」
「すごいよ、俊介。じゃあ行けるね。早く行こう!」
「うん、でも暗いから気を付けろよ」
「わかった!」
私は、走って裏山に向かった。俊介も私の後をついてくる。正直私はほっとしていた。さすがに夜は暗くてちょっと怖かったのだ。ただ今日は満月だ。ときより月の前を雲が通り抜けているが、裏山に続く道を月明かりが照らしてくれている。
「今日は満月か。明るいな」
「そうだね。周りが暗いからいつもより明るく感じる」
ふたりでそういっているうちに柵の扉にだとりついた。鍵穴に俊介が持っている鍵を差し込むと、カチリと音がして鍵が開いた。
俊介はそおっと扉を開けて、私を中に入れてからまた鍵を閉めた。そしてふたり頂上へと続く道を登っていった。そこは、扉まで続く道と同様きちんと舗装されていた。ずいぶん整備されている。
どれくらい登っただろうか。急に道が開けた。目を凝らすと、頂上は広くて丸い台座のようになっていた。
その真ん中に、おばあちゃんが入っている箱とおじいちゃんが立っているのが見える。月明かりに照らされてまるで螺鈿の箱が光っているように見えた。
いや螺鈿の箱が光っているのではなかった。箱の中が光っていたのだ。私と俊介が見ている前で、その光は箱を覆い尽くすほど急に輝きだした。
私が唖然としている間にその光は金色に姿を変え、まるで月めがけるように一筋の光となって地上から月へと向かっていった。
私は無意識のうちに走り出していた。気づけば台座の上に立ってその一筋の光を眺めていた。光は一層輝きを増して、箱から月に向かって伸びている。
そのうちに何やらきらきら光る金色のものがぼおっと箱から現れた。それは、ヒト型に近い形をしていた。そして箱の横に立っているおじいちゃんに向かっていった。おじいちゃんは、手を大きく広げていく。その手に導かれるように、金色に光る人型のようなものはおじいちゃんの腕の中に納まったように見えた。
どれくらいの時間だっただろうか。それは永い時間の様でもあり一瞬の出来事だったのかもしれない。
「ふみさん」
おじいちゃんのつぶやきが聞こえた。その声に呼応するようにその金色の光は一層輝いたと思ったら、すうっと月に伸びている光の筋に向かっていった。そしてそれは、まるで渦のように巻きこまれながら月へ向かって昇っていった。
「ことちゃん、元気でね」
その時確かに声が聞こえた。おばあちゃんの声だった。その光の筋は、地上からだんだん消えていき最後にはすべて消えてしまった。
台座の上にはおじいちゃんと、いつの間にか台座に乗っていた私と俊介しかいなかった。あの螺鈿の箱はどこにも見当たらなかった。もちろん箱の中のおばあちゃんも。
玄関を出て数歩歩いた時だった。
「ことか?」
聞き覚えのある小さな声がした。ぎょっとしてそちらを見ると、俊介が道のところに立っていた。私が飛んでいくと、俊介が言った。
「親父から聞いた。今から裏山行くんだろ?俺も付き合うよ」
「知ってたの?」
「うん。親父が急に夕方はかまに着替えて出かけるっていうのを母親に言ってたんだ。耳をそばだてていたら、ことんちのおばあちゃんの話が出てさ。俺びっくりして親父に問い詰めたんだ。そしたら裏山の事を教えてもらったんだよ」
「そうなの?ねえ俊介知ってる?おじいちゃん一人で、裏山でおばあちゃんを火葬するんだって!」
「えっ___!」
さすがに俊介もそこまでは聞いていなかったらしい。目をまんまるにして私を見た。
「だから私も最後のお別れ言いたくて。でも入れないんだよ。柵の扉に鍵が付いてて」
「これだろ?」
俊介は、ポケットからひとつのカギを取り出した。
「どうしたの?」
「これ?いつも神棚の後ろに置いてあるやつなんだ。今まで何に使うんだろうって思っていたら、今日親父が持っていったからさ。こそっと拝借してきた。きっとことの事だから行くだろうと思って」
「よくわかったね」
「だって親父の奴、ことがずっと隠れて見てたっていったから」
「やっぱり見られてたんだ」
「そうらしいな」
「でも俊介、よく神棚に鍵あるの知ってたね」
「小学校の時、親父に前ことが変身した姿のこと聞いたって言っただろう?あの時は、こととは知らなかったけどさ。その時絵姿を見せてもらったんだ。この絵姿と似てるかってさ。あの神棚から絵姿を取り出してきたんだよ。だから俺、他に何かないかと思ってさ。誰もいないすきを狙って、神棚を探したんだ。そしたらこの鍵がきれいな箱に入れてあったんだ。その時は、何だろうって思っただけだったけど。今日親父が持っていったから、きっと裏山で何かに使う鍵だなあって思って、念のため持ってきた」
「すごいよ、俊介。じゃあ行けるね。早く行こう!」
「うん、でも暗いから気を付けろよ」
「わかった!」
私は、走って裏山に向かった。俊介も私の後をついてくる。正直私はほっとしていた。さすがに夜は暗くてちょっと怖かったのだ。ただ今日は満月だ。ときより月の前を雲が通り抜けているが、裏山に続く道を月明かりが照らしてくれている。
「今日は満月か。明るいな」
「そうだね。周りが暗いからいつもより明るく感じる」
ふたりでそういっているうちに柵の扉にだとりついた。鍵穴に俊介が持っている鍵を差し込むと、カチリと音がして鍵が開いた。
俊介はそおっと扉を開けて、私を中に入れてからまた鍵を閉めた。そしてふたり頂上へと続く道を登っていった。そこは、扉まで続く道と同様きちんと舗装されていた。ずいぶん整備されている。
どれくらい登っただろうか。急に道が開けた。目を凝らすと、頂上は広くて丸い台座のようになっていた。
その真ん中に、おばあちゃんが入っている箱とおじいちゃんが立っているのが見える。月明かりに照らされてまるで螺鈿の箱が光っているように見えた。
いや螺鈿の箱が光っているのではなかった。箱の中が光っていたのだ。私と俊介が見ている前で、その光は箱を覆い尽くすほど急に輝きだした。
私が唖然としている間にその光は金色に姿を変え、まるで月めがけるように一筋の光となって地上から月へと向かっていった。
私は無意識のうちに走り出していた。気づけば台座の上に立ってその一筋の光を眺めていた。光は一層輝きを増して、箱から月に向かって伸びている。
そのうちに何やらきらきら光る金色のものがぼおっと箱から現れた。それは、ヒト型に近い形をしていた。そして箱の横に立っているおじいちゃんに向かっていった。おじいちゃんは、手を大きく広げていく。その手に導かれるように、金色に光る人型のようなものはおじいちゃんの腕の中に納まったように見えた。
どれくらいの時間だっただろうか。それは永い時間の様でもあり一瞬の出来事だったのかもしれない。
「ふみさん」
おじいちゃんのつぶやきが聞こえた。その声に呼応するようにその金色の光は一層輝いたと思ったら、すうっと月に伸びている光の筋に向かっていった。そしてそれは、まるで渦のように巻きこまれながら月へ向かって昇っていった。
「ことちゃん、元気でね」
その時確かに声が聞こえた。おばあちゃんの声だった。その光の筋は、地上からだんだん消えていき最後にはすべて消えてしまった。
台座の上にはおじいちゃんと、いつの間にか台座に乗っていた私と俊介しかいなかった。あの螺鈿の箱はどこにも見当たらなかった。もちろん箱の中のおばあちゃんも。
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