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42 春雷でした
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俊介の声が聞こえた気がした。私は無意識に俊介の名前を呼んでいたのかもしれない。雷の音が大きすぎて、怖くて自分でもよく覚えていない。
不意に丸まっている自分の背中が急に温かくなった。
「こと、もう大丈夫だ!」
耳元で俊介の声がした。背中に感じる温かな感触で、さっきとは違いずいぶん気持ちが楽になった。とはいっても、まだまだ雷はなり続けている。どこか近くに落ちたのか、地響きが聞こえた。びくっとする。
背中に感じたぬくもりがさっきより強くなった。自分の前に俊介の腕が見える。
いつまでそうしていただろうか。さっきまで空が暗かったせいで、温室も暗かった。その温室が急にぱあっと明るくなった。気が付けばいつの間にか、背中のぬくもりが消えていた。私は、丸まっていた体を伸ばして立ち上がった。すぐそばに俊介がいた。
「雷いっちゃったな」
俊介は、私の方を見ずに温室の外を見ている。
「どうしてここにいるってわかったの?」
「電話したら誰も出なかったんだよ。そのうちに雷が鳴りだしただろ。こと、お前雷苦手じゃん。だからここにいるかと思ってきてみた」
「そっか、よかった。俊介のおかげで助かったよ」
私は俊介にお礼を言ったが、俊介はまだ温室の外を見ていてこちらを向かなかった。なんとなく顔が赤い気がする。
「ねえ、俊介。ここに来るとき雨に濡れたんじゃない?顔赤いよ。風邪ひいたんじゃないでしょうね」
私は顔の赤い俊介を心配していったのだが、当の俊介はこちらを向きもしない。黙って温室をすたすたと出ていった。私も慌てて追いかけた。
空は、あの雷が嘘だったかのようなきれいな青空が広がっていた。俊介は温室のすぐ外に立っていた。
「あっ、あれ虹じゃない?」
私も俊介の隣に立った。私が裏山のほうを指さすと、俊介も私が指さす方を見た。
「ほんとだ。はっきり見えてるな」
「そうだね」
私たちは黙って虹をしばらく見ていた。いつの間にか俊介の顔の赤みも収まっていた。
「ねえ、何の電話だったの?」
「ああ、明日教科書の代金と電子辞書の代金を忘れるなよって言おうと思ってさ。さっき言い忘れたから」
「さすがに覚えているよ~」
私はそういったが、確かに俊介に言われるまですっかりお金の事を忘れていた。あとでお母さんに言わないとと思っていると、俊介が私をじーと見ていた。
「お前、やっぱ忘れてただろう?」
「そっ、そんなことないよ」
少しうろたえてしまった私を見た俊介が、ニヤッと笑った。
「そういえばおばさん、どこに行ったんだ?」
「どこだろう?あれから温室でうとうとしちゃってて、まだ家に戻ってなかった」
「じゃあお昼まだなのか?早く食べろよ」
「うん、俊介風邪は大丈夫そうでよかったね」
「風邪?」
「うん、だってさっきまで顔赤かったじゃん」
「そっ、そうか?じゃあな、明日な」
そういってなぜか俊介は、逃げるように帰ってしまった。私は首をかしげながら家に戻った。
キッチンに行くと、テーブルにメモがあった。
『おばあちゃんを連れて、病院にお薬をもらいに行ってきます。お昼ご飯は、冷蔵庫の中にサンドイッチが入っています』
私は、ひとりゆっくりと遅いお昼を食べることにした。
お昼ご飯を食べ終えて、リビングでテレビを見ながらまったりしていると、母が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。おばあちゃん、また具合よくなかったの?」
「まあね、そんなに悪くはないけれど、お薬だけもらってきたのよ。おじいちゃんも行ってくれたから、帰りよかったわ。こっちも雷すごくなかった?」
「すごかったよ。でも俊介が来てくれて助かった」
「そう、よかったわね。ことちゃん、雷苦手だものね」
「うん」
不意に温室での出来事を思い出した。急に背中が温かくなってずいぶん安心したっけ。俊介の腕が見えたなあ。
あれっ、なんで俊介の腕が見えたんだろう?うん?う__ん?
「えっ____!」
「いきなり何?びっくりするじゃない!」
キッチンにいた母が、私が出した叫び声で慌てて飛んできた。
「どうしたの?やけに顔赤くない?風邪でも引いたの?」
母が何か言っているが、私はそれどころではなかった。よろけるようにリビングを出ると、自分の部屋に戻っていった。
「大丈夫?」
後ろから心配する母の声が聞こえたが、それどころではなかった。部屋に戻り、ベッドにずぼっと飛び込んだ。
どう見てもあのぬくもりは、俊介が私を抱きしめてくれていたおかげだ。腕が前に見えたよな。
そう確信したとたん、もう恥ずかしくて恥ずかしくてベッドを転げまわった。何度目かのごろごろで、とうとうベッドから落ちてしまった。
「痛っあぁ___」
体を強く床に打ち付けてやっと我に返った。さっきやけに俊介の顔が赤かったのは、そのせいだったのだ。よかった。あの時気づかなくて。でも明日どうしよう。普通にできるかなあ。俊介の顔がまともに見れるか心配になった私だった。
明日の事が心配で、絶対に眠れないと思っていたが、いつの間にかぐっすり眠っていて、気づけば朝になっていたのだった。
不意に丸まっている自分の背中が急に温かくなった。
「こと、もう大丈夫だ!」
耳元で俊介の声がした。背中に感じる温かな感触で、さっきとは違いずいぶん気持ちが楽になった。とはいっても、まだまだ雷はなり続けている。どこか近くに落ちたのか、地響きが聞こえた。びくっとする。
背中に感じたぬくもりがさっきより強くなった。自分の前に俊介の腕が見える。
いつまでそうしていただろうか。さっきまで空が暗かったせいで、温室も暗かった。その温室が急にぱあっと明るくなった。気が付けばいつの間にか、背中のぬくもりが消えていた。私は、丸まっていた体を伸ばして立ち上がった。すぐそばに俊介がいた。
「雷いっちゃったな」
俊介は、私の方を見ずに温室の外を見ている。
「どうしてここにいるってわかったの?」
「電話したら誰も出なかったんだよ。そのうちに雷が鳴りだしただろ。こと、お前雷苦手じゃん。だからここにいるかと思ってきてみた」
「そっか、よかった。俊介のおかげで助かったよ」
私は俊介にお礼を言ったが、俊介はまだ温室の外を見ていてこちらを向かなかった。なんとなく顔が赤い気がする。
「ねえ、俊介。ここに来るとき雨に濡れたんじゃない?顔赤いよ。風邪ひいたんじゃないでしょうね」
私は顔の赤い俊介を心配していったのだが、当の俊介はこちらを向きもしない。黙って温室をすたすたと出ていった。私も慌てて追いかけた。
空は、あの雷が嘘だったかのようなきれいな青空が広がっていた。俊介は温室のすぐ外に立っていた。
「あっ、あれ虹じゃない?」
私も俊介の隣に立った。私が裏山のほうを指さすと、俊介も私が指さす方を見た。
「ほんとだ。はっきり見えてるな」
「そうだね」
私たちは黙って虹をしばらく見ていた。いつの間にか俊介の顔の赤みも収まっていた。
「ねえ、何の電話だったの?」
「ああ、明日教科書の代金と電子辞書の代金を忘れるなよって言おうと思ってさ。さっき言い忘れたから」
「さすがに覚えているよ~」
私はそういったが、確かに俊介に言われるまですっかりお金の事を忘れていた。あとでお母さんに言わないとと思っていると、俊介が私をじーと見ていた。
「お前、やっぱ忘れてただろう?」
「そっ、そんなことないよ」
少しうろたえてしまった私を見た俊介が、ニヤッと笑った。
「そういえばおばさん、どこに行ったんだ?」
「どこだろう?あれから温室でうとうとしちゃってて、まだ家に戻ってなかった」
「じゃあお昼まだなのか?早く食べろよ」
「うん、俊介風邪は大丈夫そうでよかったね」
「風邪?」
「うん、だってさっきまで顔赤かったじゃん」
「そっ、そうか?じゃあな、明日な」
そういってなぜか俊介は、逃げるように帰ってしまった。私は首をかしげながら家に戻った。
キッチンに行くと、テーブルにメモがあった。
『おばあちゃんを連れて、病院にお薬をもらいに行ってきます。お昼ご飯は、冷蔵庫の中にサンドイッチが入っています』
私は、ひとりゆっくりと遅いお昼を食べることにした。
お昼ご飯を食べ終えて、リビングでテレビを見ながらまったりしていると、母が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。おばあちゃん、また具合よくなかったの?」
「まあね、そんなに悪くはないけれど、お薬だけもらってきたのよ。おじいちゃんも行ってくれたから、帰りよかったわ。こっちも雷すごくなかった?」
「すごかったよ。でも俊介が来てくれて助かった」
「そう、よかったわね。ことちゃん、雷苦手だものね」
「うん」
不意に温室での出来事を思い出した。急に背中が温かくなってずいぶん安心したっけ。俊介の腕が見えたなあ。
あれっ、なんで俊介の腕が見えたんだろう?うん?う__ん?
「えっ____!」
「いきなり何?びっくりするじゃない!」
キッチンにいた母が、私が出した叫び声で慌てて飛んできた。
「どうしたの?やけに顔赤くない?風邪でも引いたの?」
母が何か言っているが、私はそれどころではなかった。よろけるようにリビングを出ると、自分の部屋に戻っていった。
「大丈夫?」
後ろから心配する母の声が聞こえたが、それどころではなかった。部屋に戻り、ベッドにずぼっと飛び込んだ。
どう見てもあのぬくもりは、俊介が私を抱きしめてくれていたおかげだ。腕が前に見えたよな。
そう確信したとたん、もう恥ずかしくて恥ずかしくてベッドを転げまわった。何度目かのごろごろで、とうとうベッドから落ちてしまった。
「痛っあぁ___」
体を強く床に打ち付けてやっと我に返った。さっきやけに俊介の顔が赤かったのは、そのせいだったのだ。よかった。あの時気づかなくて。でも明日どうしよう。普通にできるかなあ。俊介の顔がまともに見れるか心配になった私だった。
明日の事が心配で、絶対に眠れないと思っていたが、いつの間にかぐっすり眠っていて、気づけば朝になっていたのだった。
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