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32 卒業恒例思い出作りです
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月曜からは、卒業式の練習やらお別れ遠足やら怒涛の行事が待っていた。それからみんなと別れるのを実感させるようにいろいろな子からノートが回ってきた。皆かわいいシールを張ったり、いろいろな色を使ったり思い思いに書いている。私はといえば一筆入魂の精神で、太文字用の筆ペンで『前進あるのみ』と回ってきたノートすべて平等に書くことにした。
「ことちゃんらしいね」
私の書いたものを見た子たちは皆同じ感想を言った。私は、結構評判がいいと自分で自負している。なぜなら後輩たちからも書いてほしいとノートをもってきてくれる子が多いからだ。そのことを美香ちゃんに言うと
「ちょっと違う気がするけど」
微妙な顔をされた。
学校が終わり帰るときの事だった。廊下にずらっと並んでいる子たちを見た。
「ねえ美香ちゃん、あの子達何やってるの?」
「あ~あ、あれね。ちょっと教室のぞいてみたら?」
私は教室をのぞいてみた。女の子達が俊介や岡本君のところにいって書いてもらっていた。
「まるでアイドルのサイン会みたいだね、でもあんなに書いたら疲れそうだね」
私が苦笑すると、美香ちゃんが言った。
「ことちゃんは書いてもらう?」
「えっ、いらないよ。美香ちゃんは書いてもらうの?」
「私もいらないかな」
私たちが廊下で話しているのが聞こえたのだろうか。ノートに書いていた俊介がこちらを見た。
「おいこと、お前のも書いてやろうか」
「いらない」
俊介はノートを持って並んでいた次の順番の子のノートをぱらぱらめくった。そして私の書いたものを見ると、なんと私の書いた横に自分も何やら書いている。そして私の名前と並んで自分の名前を書いた。
私と美香ちゃんは、その様子をあっけにとられて見ていたが、それを見た次の順番の子はなぜか私が書いたところを開いて俊介に渡していた。
私は、俊介のところに飛んでいった。
「ちょっと、私の横に書かないでよ」
「なんで?ちょっと俺字うまくない?ことの横に並べると余計うまく見えるぜ」
俊介はそういって次々に私の横に書いていった。確かに俊介は私よりかなり字がうまい。俊介の言う通り私の書いた文字の横に並べると、きれいな字が余計きれいに見える。並んでいる子の中には、私が書いてない子もいて、私に後で俊介が書いた横に書いてくれないかと聞いてくる子まで出てくる始末だった。
私はわざと俊介に聞こえるように「ふん!」と大きな声を出して、どかどか音を立てて部屋を出ていったが、自分でも負け犬の遠吠えのような気がしてしばらく歩くとガクッと肩をおとした。
「ことちゃんドンマイ!」
美香ちゃんの励ましがむなしく私の心に響いた。
「ねえ美香ちゃん、私が書いた『前進』という文字、初めてほめられた漢字なんだよ」
「そうなの?」
とぼとぼ歩いていく私がポロリとこぼした言葉に美香ちゃんが聞いてきた。
「うん、おじいちゃんの部屋に色紙があってね。そこに書いてあった字なんだ。なんか有名な人の色紙らしくてね、私が見よう見まねで書いたら、家族みんなすごくうまいってほめてくれたの。確か小学校の時にもみんなに書いたら、ほめてくれたよ。美香ちゃんも」
「そうだった?忘れてた、ごめんね」
私が恨めしい顔で見たせいで、美香ちゃんが申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。
「なのに、俊介の奴のせいで、私の唯一のうまく書けると自負していた文字がなくなった!」
「ねえことちゃん、今日ちょっと寄ってかない?」
「いいねえ!」
美香ちゃんは私がふてくされた顔をしていたので、可哀想に思ったのかある提案をしてくれた。
「美香ちゃん、おいしいねえ」
「うん、おいしい!」
私たちはといえば、コンビニで買ったお菓子を持って、前に夏祭りでいった神社の隅に置いてあるベンチに座って食べている。公園だと目立つが、ここはちょっと隅にあるので、道路から目立ちにくい位置にあるのだ。
「ねえ、これあたりじゃない?」
「ほんとだ、よかったねことちゃん!」
私たちが買ったのはグミで、中にたまに変わった形のグミが入っていて、それが入っているとあたりという気分になるのだ。美香ちゃんのおかげで、ちょっとざらついた気持ちが滑らかになった気がした。
しかし翌日、俊介が書いたところを開いて、書いてほしいといってくる子が多くなり、笑顔で書きながら裏で俊介の首を締めあげる空想をして気を紛らしたのだった。ただ別の子に見せてもらったものに、私が書いたページに俊介だけでなく岡本君まで書いてあるものもあって、笑顔で見ながら首を締めあげる空想に俊介だけでなく岡本君も加わったのだった。しかも岡本君の字も私よりはるかに上手で、余計怒りが増した。
そうしているうちにとうとう本命の青竹高校の合格発表の日がやってきた。まず自分たちで合格発表を見に行ってから学校へ報告に行くということになっている。
朝からさすがに落ち着かなくて、いつもは起こされなければ起きない私が、今日は朝4時から目がさえていた。時計とにらめっこをしていたぐらいだ。
美香ちゃんとは一緒に見に行く予定で、青竹高校の前で待ち合わせをしている。
「お母さん、行ってくるね」
「あら、ずいぶん早いのね」
ずいぶん早めだったが、落ち着かないので出かけようとした時だ。また玄関のチャイムが聞こえた。いやな予感がした。案の定先に玄関に言った母の声が聞こえた。
「ことちゃ~ん、俊介君が来てくれたわよ!」
来なくていいのに!私はプンプンしながら玄関に向かったのだった。
「ことちゃんらしいね」
私の書いたものを見た子たちは皆同じ感想を言った。私は、結構評判がいいと自分で自負している。なぜなら後輩たちからも書いてほしいとノートをもってきてくれる子が多いからだ。そのことを美香ちゃんに言うと
「ちょっと違う気がするけど」
微妙な顔をされた。
学校が終わり帰るときの事だった。廊下にずらっと並んでいる子たちを見た。
「ねえ美香ちゃん、あの子達何やってるの?」
「あ~あ、あれね。ちょっと教室のぞいてみたら?」
私は教室をのぞいてみた。女の子達が俊介や岡本君のところにいって書いてもらっていた。
「まるでアイドルのサイン会みたいだね、でもあんなに書いたら疲れそうだね」
私が苦笑すると、美香ちゃんが言った。
「ことちゃんは書いてもらう?」
「えっ、いらないよ。美香ちゃんは書いてもらうの?」
「私もいらないかな」
私たちが廊下で話しているのが聞こえたのだろうか。ノートに書いていた俊介がこちらを見た。
「おいこと、お前のも書いてやろうか」
「いらない」
俊介はノートを持って並んでいた次の順番の子のノートをぱらぱらめくった。そして私の書いたものを見ると、なんと私の書いた横に自分も何やら書いている。そして私の名前と並んで自分の名前を書いた。
私と美香ちゃんは、その様子をあっけにとられて見ていたが、それを見た次の順番の子はなぜか私が書いたところを開いて俊介に渡していた。
私は、俊介のところに飛んでいった。
「ちょっと、私の横に書かないでよ」
「なんで?ちょっと俺字うまくない?ことの横に並べると余計うまく見えるぜ」
俊介はそういって次々に私の横に書いていった。確かに俊介は私よりかなり字がうまい。俊介の言う通り私の書いた文字の横に並べると、きれいな字が余計きれいに見える。並んでいる子の中には、私が書いてない子もいて、私に後で俊介が書いた横に書いてくれないかと聞いてくる子まで出てくる始末だった。
私はわざと俊介に聞こえるように「ふん!」と大きな声を出して、どかどか音を立てて部屋を出ていったが、自分でも負け犬の遠吠えのような気がしてしばらく歩くとガクッと肩をおとした。
「ことちゃんドンマイ!」
美香ちゃんの励ましがむなしく私の心に響いた。
「ねえ美香ちゃん、私が書いた『前進』という文字、初めてほめられた漢字なんだよ」
「そうなの?」
とぼとぼ歩いていく私がポロリとこぼした言葉に美香ちゃんが聞いてきた。
「うん、おじいちゃんの部屋に色紙があってね。そこに書いてあった字なんだ。なんか有名な人の色紙らしくてね、私が見よう見まねで書いたら、家族みんなすごくうまいってほめてくれたの。確か小学校の時にもみんなに書いたら、ほめてくれたよ。美香ちゃんも」
「そうだった?忘れてた、ごめんね」
私が恨めしい顔で見たせいで、美香ちゃんが申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。
「なのに、俊介の奴のせいで、私の唯一のうまく書けると自負していた文字がなくなった!」
「ねえことちゃん、今日ちょっと寄ってかない?」
「いいねえ!」
美香ちゃんは私がふてくされた顔をしていたので、可哀想に思ったのかある提案をしてくれた。
「美香ちゃん、おいしいねえ」
「うん、おいしい!」
私たちはといえば、コンビニで買ったお菓子を持って、前に夏祭りでいった神社の隅に置いてあるベンチに座って食べている。公園だと目立つが、ここはちょっと隅にあるので、道路から目立ちにくい位置にあるのだ。
「ねえ、これあたりじゃない?」
「ほんとだ、よかったねことちゃん!」
私たちが買ったのはグミで、中にたまに変わった形のグミが入っていて、それが入っているとあたりという気分になるのだ。美香ちゃんのおかげで、ちょっとざらついた気持ちが滑らかになった気がした。
しかし翌日、俊介が書いたところを開いて、書いてほしいといってくる子が多くなり、笑顔で書きながら裏で俊介の首を締めあげる空想をして気を紛らしたのだった。ただ別の子に見せてもらったものに、私が書いたページに俊介だけでなく岡本君まで書いてあるものもあって、笑顔で見ながら首を締めあげる空想に俊介だけでなく岡本君も加わったのだった。しかも岡本君の字も私よりはるかに上手で、余計怒りが増した。
そうしているうちにとうとう本命の青竹高校の合格発表の日がやってきた。まず自分たちで合格発表を見に行ってから学校へ報告に行くということになっている。
朝からさすがに落ち着かなくて、いつもは起こされなければ起きない私が、今日は朝4時から目がさえていた。時計とにらめっこをしていたぐらいだ。
美香ちゃんとは一緒に見に行く予定で、青竹高校の前で待ち合わせをしている。
「お母さん、行ってくるね」
「あら、ずいぶん早いのね」
ずいぶん早めだったが、落ち着かないので出かけようとした時だ。また玄関のチャイムが聞こえた。いやな予感がした。案の定先に玄関に言った母の声が聞こえた。
「ことちゃ~ん、俊介君が来てくれたわよ!」
来なくていいのに!私はプンプンしながら玄関に向かったのだった。
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