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39 お呼ばれしました

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ふたりは、いちど部屋に戻った。

お土産のケーキは、玉山が持って行ってくれることになった。

敦子は部屋に戻り、もう一度スカートを見たが、よく見ると小さなシミが付いている。

そこで着替えることにした。

大家さんの家に入るのは、初めてだ。

なんだか少し緊張してきたが、玉山がいてくれるということに安心もしている。

身支度を整えて、今度も敦子が玉山の部屋に向かった。

インターホンを押した。

玉山は、すぐ出てきた。

手にはお土産用のケーキの箱をしっかりと持っている。

「 じゃあ行こう。 」

ふたりで一階の親さんの家に向かった。

玉山がインターホンを押す。

大家さんの叔母さんが出てきた。

「 いらっしゃい。どうぞ上がって。 」

叔母さんは、主に敦子に玄関に入るよう促した。

先に敦子が、玄関に上がる。

なぜか玄関には、靴が多かった。

敦子は、あれっと思ったが、何も言われないので、部屋に入っていく。

「 こんにちは。 」

居間のドアを開けると、部屋の中には大家さんのご主人と、あとふたりソファに座っていた。

玉山も居間に入っていくと、びっくりした声を出した。

「 おやじとおふくろもいたの? 」

玉山も知らなかったらしく、本気でびっくりしている。
敦子は、まずソファに座っている人たちに挨拶をした。

「 こんにちは。滝村と申します。本日はお招きありがとうございます。 」

ソファの三人も立った。

大家さんの叔母さんも居間に入ってきて敦子に紹介してくれる。

「 この人は、滝村さんも知ってると思うけど私の主人ね。こっちは、私の妹で竜也の母親。こっちが竜也の父親。 」

敦子は、紹介されて次々にお辞儀をしていった。

相手もにこにことほほえみながらお辞儀を返してくれる。

「 さあ座って。びっくりしたでしょ。あの後ちょうど妹から電話が来て、話をしちゃったらきたいといったよ。ごめんなさいね。 」

叔母さんは、そう謝りながらも全然悪いとは思ってもいない顔で言ってきた。
もしかしたら昨日のワカメを持っていたことを、竜也の母親に話したからかもしれないと敦子は思ったのだった。

「 びっくりしたなあ。あっこれ、お土産のケーキ。 」

そういって竜也は、叔母さんにケーキの箱を渡した。

叔母さんは、ケーキの箱を受け取り、箱のラベルを見ていった。

「 このお店、聞いたことないわね。 」

「 今日の昼滝村さんと食事したとき、おいしかったから買ってきた。 」

先に反応したのは、竜也の母だった。

「 まあ、今日デートしてきたの? 竜也が?  」

そういってなぜかびっくりした様子で、竜也の父親と顔を見合わせていた。

「 昨日も一緒にお料理したのよね。作りすぎたってワカメとレタスもらったのよ。 」

「 すみません。あまりものみたいで。 」

敦子は、その話をされて、恐縮するばかりだった。

竜也の両親は、もうその話を聞いてはいたようだが、実際に敦子から話を聞いて、また2人顔を見合わせて驚いた風だった。

「 すごく助かったわよ。この人検診で中性脂肪にひっかかったの。海藻と野菜は、大事だそうだから、昨日から毎食サラダにして食べたのよ。ありがとう。 」

そういわれてますます恐縮してしまった敦子だった。

そして、隣の和室に促されていくと、もうテーブルいっぱいに料理が並べられていた。

お寿司に天ぷら、そしてオードブルと所狭しと並んでいる。

敦子は、なぜか玉山の隣で真ん中に座らされて、なぜか敦子の隣に大家さんの叔母さん。

対して向かい側に玉山の前を玉山の父親、母親そして大家さんのご主人さんという席の並びになった。

席に座ったとたん緊張して、目の前の料理が食べれるのかと思ったほどだった。

しかし宴は、和やかに進んだ。

竜也の母親とその姉である大家さん二人が、いろいろな話特に玉山の小さいころの話をしてくれて、思いがけず楽しい時間を過ごすことができた。

のどを通るか心配だったお料理もおいしくて、気が付けばパクパク食べていた。

そして食後のデザートということで、ケーキを出すときに、お皿など食器を片づける手伝いをしようかと席を立とうとしたが、先ほどの女性二人に強く言われて座っていることになった。

なんだかはじめ落ち着かなかったが、今度は大家さんのご主人と玉山の父親が、趣味の話を面白おかしくしてくれてあっという間に時間が過ぎた。

玉山はといえば、黙って敦子と同じように話を聞いているだけだったが。

そしてケーキとコーヒーを飲んでいると、竜也の母親が言った。

「 竜也、あなたの部屋に学生時代のアルバムなかった?前家から持っていったでしょ。滝村さんに見せてあげたら。滝村さんも見たいでしょ。 」

なぜか強くすすめてくるので、仕方なく敦子もうなづいた。

そして玉山が部屋に戻って、学生時代のアルバムを持ってくることになり席を立った。

玉山が席を立って、家から出てすぐ玉山の母親が言った。

「 竜也と仲良くしてくれてありがとう。あの子小さい時から、かわっているといわれていてね。
みんなと仲良くできるのはいいんだけど、執着というか自分からものをほしがることが一切ない子だったのよ。
子どもらしくなくてね。学生時代も会社に入ってからも、女性とのお付き合いもなくて。ちょっと心配していたの。だから今うれしくて。これからも竜也の事よろしくね。 」

気が付けば、そこにいる4人全員に頭を下げられていた。

「 いえっ、こちらこそよろしくお願いします。 」

そういって、みんなで顔を見合わせて笑っていたとき、竜也がアルバムをもって入ってきた。

「 さあさあ見せてあげて。 」

アルバムが、敦子の前に置かれた。

見ると高校卒業アルバムだった。

見せてもらうと玉山のいった学校は、中高一貫校の男子校で、男の子ばかり映っていた。

しかしこのころから玉山は、周りとは一線を画すほどオーラが出ていて、目立っていた。


ただ敦子は思ったのだった。

アルバムに映っている玉山の顔が、なぜか懐かしく感じたのだった。


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