上 下
17 / 80

15 弟がきました

しおりを挟む
ここ最近、夢を見る。朝起きるときには、もう覚えていないのだが、なんだか悲しい気持ちが残っている。
今朝は、__帰りたい__という気持ちが、朝まで残っていた。

( 今週、実家に帰るからなのかなあ。帰る前からホームシック? )



木曜日には、会社の帰りに大きな駅によって、テレビ番組でもよく紹介されている有名なお土産品をいくつか買った。
実家に持って帰る予定なのだ。ミーハーな母が、喜ぶ顔が浮かぶ。

家に帰ると、実家に持っていくものを準備した。
明日は、弟が来るので、ばたばたしたらいやだなあと思ったのだ。
クローゼットを開けたら、この前玉山さんとのドライブに着ていった洋服が、目に入った。

( 洋服最近買ってないなあ。来週か再来週には、洋服でも見に行こうかな。いいのあったら買おうかな。 )

そう思った自分がなんだかすごく恥ずかしくなって、決して玉山さんには、関係ないと心に言い聞かせた。


金曜日の朝、会社の支度をしていると、インターホンが鳴った。

「 俺、俺。 」

玄関の戸を開けると、もう弟の聡が立っている。 

「 早かったねえ。 」

慌てて中に入れた。

「 ねえちゃんが、会社行く前にと思って急いできたんだ。大家さんに鍵借りてもよかったんだけど、悪いからさ。 」


さすが田舎住まいの弟である。朝早く起きるのは、苦にならないらしい。
とはいえ、朝というより、まだ夜の間に、家を出たというほうがいい時間だろうが。

「 道路もすいてるしね。 」

「 昨日の間に連絡してくれればよかったのに。朝ご飯まだ食べてないでしょ? 」

「 サービスエリアで食べてきたよ。それよりねえちゃん、仕事だろ。 」

「 そうよ、じゃあ合鍵おいていくわね。ねえ、今日の予定は? 」

「 友達に会いに行くから、帰りは夜の9時ぐらいかな。食べてくるよ。 」

「 そうなの。お昼は? 」

「 朝から出かける。久しぶりだから、有給とってくれたんだそいつも。楽しみだぜ。 」

「 よかったね。じゃあ行ってくる。 」

「 いってらっしゃい。 」

弟とはいえ、いつも一人暮らしなだけに、朝からあいさつされて、見送られるのは、なかなかうれしかった。

それにしても夜運転してきて、朝から出かけるとは、若いなあと思った敦子だった。


仕事が終わって、アパートに戻った、敦子の家には、弟はまだ帰っていなかった。
敦子が、お風呂に入り、寝ようとしたころ、弟の聡が戻ってきた。
夜の10時を回っていた。

「 ごめん、寝てた? 」

部屋に入ってきた聡を、部屋着で出迎えた敦子に、聡はそうわびた。

「 今寝るところ。お布団ひいといたから。」

「 ありがとう。お風呂に入ってくる。」

そういって、聡は、風呂場に入ろうとしたが、ふと敦子のほうを見ていった。

「 お隣の人って、男の人なんだね。 」

「 えっ、そうよ。 」

急に玉山さんのことを言われて、なんとなく焦ってしまった。

聡は、そんな敦子を気にした風でもなく、しかし何か思うところがあったのか、また言った。

「 ふ~ん、なんだか視線感じてさ。ねえちゃん、お隣さんとなんかトラブルはないよね。 」

「 そんなのないわよ。お隣さんは、大家さんの親戚の人よ。 」

「 へえ~、そうなんだ。 」

なんだか思案顔で、聡は風呂場に行ってしまった。

敦子は、さすがに一度ドライブしたり、ご飯をごちそうになったり、ご飯をごちそうしたわよなんて言えなかった。


次の日、寝起きのいい聡と朝食をとった。

「 ねえちゃんの料理の味、やっぱ母さんに似てるよね。 」

「 そお? まあかあさんに教わったからね。 」

「 うん、まさしく田舎料理って感じの味だね。 」

「 憎まれ口叩かずに、そこにあるバッグ、先に車に入れてきてね。お土産もあるし。 」

「 わかったよ。 」

お互い支度して、玄関を出た。

ちょうどそのとき隣からも物音がして、隣の玄関が開いた。

玉山だった。

「 おはようございます。 」

先に玄関に出ていた、聡が玉山に挨拶した。

「 おはようございます。 」

玉山も挨拶するが、なんだか声が低かった。

敦子は、その声を聴いて、昨日は仕事が忙しかったのかしらと思った。

敦子たちが先に行けるように譲るつもりなのか、玉山が、玄関前から動かないので、敦子も靴を履いて玄関を出た。

「 おはようございます。弟の聡です。 」

「 どうも、いつも姉がお世話になってます。 」

社会人になってから、急に大人びた聡も挨拶する。

「 おはようございます。玉山です。弟さんなんですか。そうか・・・ 」

玉山さんは、外に出て日の光を浴びて、すっかり目が覚めたのか、いつもの調子で明るく返事をしてくれた。

「 今日から姉と実家に帰るんです。三日ぐらい留守をしますので、よろしくお願いします。 」

聡が、役場で鍛えたであろう世間話をした。

「 はいっ、気を付けていますね。 」

玉山も笑顔で返してくれた。

敦子と聡は、玉山の前を歩き始めた。

一階の玄関先で、見送られて別れた。

先に車に乗り込んだ敦子は、つい玉山のほうを見てしまった。
玉山は、なぜか駐車場の前に立っていて、車が出るのを見送ってくれる。

敦子は、なんとなく恥ずかしくて、小さく手を振って、頭を下げた。

玉山も手を振ってくれていた。

車が、ずいぶん走ったところで、今まで横で、すべてを見ていた聡が、やけににやにやしながら言った。

「 ねえちゃん、玉山さんだっけ。イケメンだね。さすが都会だ。それにずいぶん親しいみたいだけど。 」

きっと敦子が、恥ずかしそうに手を振る姿を見ていたのだろう。
聡が、すごく聞きたそうな顔を敦子に向けた。

敦子は、仕方なく偶然が重なって、食事を招待したこと、食事をごちそうになったことだけを言った。



さすがに空を飛んで、それを見られたことは、弟とはいえ言えなかった敦子だった。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

拾った少年は、有能な家政夫だった

あさじなぎ@小説&漫画配信
恋愛
2年付き合った年上の彼氏に振られた琴美。 振られた腹いせに友達とやけ酒飲んだ帰り道、繁華街で高校生くらいの少年を拾う。 サラサラの黒い髪。二重の瞳に眼鏡をかけたその少年は、「家、泊めていただけますか?」なんてことを言って来た。 27歳のOLが、家事堪能な少年と過ごす数日間。 小説家になろうにも掲載しているものを転載。一部加筆あり。以前拍手にのせていたifエンドのお話をのせています。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

賭け場【完】

雑煮
恋愛
18禁。誘拐された少女達がオジサマ達の『賭け場』と呼ばれる会場で様々なプレイでかけの対象にされる。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

処理中です...