82 / 91
目の前にいるのは..
しおりを挟む
やっと母ミシェルの許可が下り、キャスリンは王宮にとどまっているアシュイラ皇国の使者と会うことになった。
王宮に向かう。王宮に向かう馬車の中から見る王都は、活気づいているように見える。行き交う人達の顔も明るい。キャスリンは知らず知らず顔が緩んでいた。
そうしているうちに馬車は王宮の中に入っていく。記憶にある王宮と変わらない。キャスリンは待っていた近衛兵に手を引かれ馬車から降りた。そして案内され荘厳で華やかな廊下を通り、キャスリンは格別きらびやかなドアの前に立った。
扉を警備している左右にいる近衛兵が、こちらを見てうなずいてからドアを開けてくれた。この時ばかりは、毎回緊張する。前世を入れれば何度か経験済みなのだが、扉を開けたとたん、皆が一斉にこちらを見るのがキャスリンには少し苦手だ。
それでもにこやかに平静を装いながら広間に入っていった。
「よく来た、キャスリン」
「よく来てくれたわね」
王と王妃自らキャスリンに声をかけてくれた。キャスリンはまっすぐに進み王と王妃に挨拶をした。その横では第一王子ジョージとその婚約者の侯爵家令嬢サーシャが、そしてその少し後ろをキャスリンの兄クロードと婚約者であるケリーが立っていた。王たちの反対の横には、キャスリンの父であるスコットと母のミシェルがいる。そしてその後ろには主だった貴族たちがいた。
キャスリンが主だった人々にも会釈をしていると、先ほどキャスリンが入ってきた扉が再び開いた。
開いた扉から、今の人生でも何度も見たことのあるアシュイラ皇国のきらびやかな衣装を身にまとった使者たちが入ってきた。その後ろにもうひとり広間に入ってくるものがいた。
アシュイラ皇国の使者たちは、広間の真ん中に来たとたん左右に分かれ、後ろを歩いていたものが堂々と前を歩いてきた。キャスリンがあれっと思う暇もなく、王と王妃が一段高いところから降りてきた。そしてその者がいる元へと向かう。ほかの者たちは皆一斉に頭を下げた。
キャスリンはそれをあっけにとられて見ていた。するといつの間に来たのかキャスリンの目に、見たことのある衣装が目に飛び込んできた。白い生地に黄色のアクセントがあるどう見ても見覚えのある衣装を着ている。王と王妃はそちらに向かい挨拶をした。キャスリンはその姿を見て、慌てて口に手を当てて声を出すのをこらえた。
「キャスリン、こちらへ」
王がキャスリンにそばに来るように促してきた。キャスリンはマナーも忘れ、口に手を当てたままそちらにふらふらと向かった。
「キャスリンは初めてかな。こちらはアシュイラ皇国の第二王子である」
「初めまして、スティーブです。お会いできて光栄です」
目の前のスティーブと名乗ったアシュイラ皇国の第二王子は、キャスリンに挨拶を求めてきた。キャスリンは無意識に手を差し出した。その手を大きな手がしっかりと握る。
その時だ。キャスリン達の体からまばゆいばかりの光があふれ出た。その場にいる皆があっけにとられている間に、広間全体にあふれ出した光が徐々に消えていった。と同時に今度は広間の天井からきらきらと金色に光るものが降ってきた。
「わあ~」
「きれい!」
その様子を見た者たちは、自分たちがいるのは王たちのいる大広間だということも忘れて、目の前で繰り広げられている不思議な光景に見とれた。王と王妃も、キャスリン達をすっかり忘れたかのように上を向いてしきりに感心している。
「キャス!」
「スッ、スティーブなの?」
皆が上を見上げている間に、アシュイラ皇国の第二王子と呼ばれたものはキャスリンを呼んだ。彼しか呼ばないキャスリンの愛称でキャスリンを呼んだのだ。キャスリンがその顔をよく見れば、目の前にいるのはどうみてもスティーブに見える。
「本当?本当にスティーブなの?」
「ああ、ほんとだよ。僕だよ、スティーブだよ」
「ああ、スティーブ!!」
キャスリンは、スティーブに抱き着いていった。スティーブも抱き着いてきたキャスリンを力強く抱きしめる。キャスリンの目の前にいるのは確かにスティーブだ。温かい。どれくらいそうしていただろう。
気づけばどこからか何度も咳払いが聞こえてきた。キャスリンはその声で我に返る。スティーブも同じくここがどこか思い出したのだろう。二人は慌てて離れた。
ものすごい視線を感じてキャスリンがあたりを見渡すと、皆が一斉にこちらを凝視していた。キャスリンが真赤になると、咳ばらいをした張本人であるキャスリンの父スコットが、キャスリンとスティーブの前に歩いてきて目の前に立った。
「初めまして、わたくしはダイモック公爵家当主であるスコットと申します。ここにおりますキャスリンの父親になります」
恭しくスティーブにお辞儀をしながらも、目は笑っていない。どう見ても先ほどのキャスリンとスティーブの行いにいい顔をしていないのが見て取れた。
「ここにいる皆を代表してお聞きします。先ほどここで起きた出来事は、いったい何だったのでしょう」
キャスリンがあたりを見ると、皆もしきりにうなづいている。王と王妃も興味津々の顔をしてスティーブとスコットのやり取りを見守っていた。
「これは祝福です。天使の再来であるキャスリン様と、英雄であらせられたかの第一王子の再来であるスティーブ様に対して神からの祝福であったと思われます」
アシュイラ皇国から来た使者のひとりが、キャスリンの父スコットの問いに答えた。
「なるほど。それであの振ってきた金色のものに触れた時、すごく幸せな気持ちになったのか」
「そうね、幸せな気持ちが体の中からあふれてきたわ」
「やはりキャスリン様は本当に天使の再来だったのか!」
「すごいわ!」
「あの方は、アシュイラ皇国伝説の英雄の再来なの?」
アシュイラ皇国の使者の言葉に、先ほどと同じぐらい広間がどよめいたのだった。
王宮に向かう。王宮に向かう馬車の中から見る王都は、活気づいているように見える。行き交う人達の顔も明るい。キャスリンは知らず知らず顔が緩んでいた。
そうしているうちに馬車は王宮の中に入っていく。記憶にある王宮と変わらない。キャスリンは待っていた近衛兵に手を引かれ馬車から降りた。そして案内され荘厳で華やかな廊下を通り、キャスリンは格別きらびやかなドアの前に立った。
扉を警備している左右にいる近衛兵が、こちらを見てうなずいてからドアを開けてくれた。この時ばかりは、毎回緊張する。前世を入れれば何度か経験済みなのだが、扉を開けたとたん、皆が一斉にこちらを見るのがキャスリンには少し苦手だ。
それでもにこやかに平静を装いながら広間に入っていった。
「よく来た、キャスリン」
「よく来てくれたわね」
王と王妃自らキャスリンに声をかけてくれた。キャスリンはまっすぐに進み王と王妃に挨拶をした。その横では第一王子ジョージとその婚約者の侯爵家令嬢サーシャが、そしてその少し後ろをキャスリンの兄クロードと婚約者であるケリーが立っていた。王たちの反対の横には、キャスリンの父であるスコットと母のミシェルがいる。そしてその後ろには主だった貴族たちがいた。
キャスリンが主だった人々にも会釈をしていると、先ほどキャスリンが入ってきた扉が再び開いた。
開いた扉から、今の人生でも何度も見たことのあるアシュイラ皇国のきらびやかな衣装を身にまとった使者たちが入ってきた。その後ろにもうひとり広間に入ってくるものがいた。
アシュイラ皇国の使者たちは、広間の真ん中に来たとたん左右に分かれ、後ろを歩いていたものが堂々と前を歩いてきた。キャスリンがあれっと思う暇もなく、王と王妃が一段高いところから降りてきた。そしてその者がいる元へと向かう。ほかの者たちは皆一斉に頭を下げた。
キャスリンはそれをあっけにとられて見ていた。するといつの間に来たのかキャスリンの目に、見たことのある衣装が目に飛び込んできた。白い生地に黄色のアクセントがあるどう見ても見覚えのある衣装を着ている。王と王妃はそちらに向かい挨拶をした。キャスリンはその姿を見て、慌てて口に手を当てて声を出すのをこらえた。
「キャスリン、こちらへ」
王がキャスリンにそばに来るように促してきた。キャスリンはマナーも忘れ、口に手を当てたままそちらにふらふらと向かった。
「キャスリンは初めてかな。こちらはアシュイラ皇国の第二王子である」
「初めまして、スティーブです。お会いできて光栄です」
目の前のスティーブと名乗ったアシュイラ皇国の第二王子は、キャスリンに挨拶を求めてきた。キャスリンは無意識に手を差し出した。その手を大きな手がしっかりと握る。
その時だ。キャスリン達の体からまばゆいばかりの光があふれ出た。その場にいる皆があっけにとられている間に、広間全体にあふれ出した光が徐々に消えていった。と同時に今度は広間の天井からきらきらと金色に光るものが降ってきた。
「わあ~」
「きれい!」
その様子を見た者たちは、自分たちがいるのは王たちのいる大広間だということも忘れて、目の前で繰り広げられている不思議な光景に見とれた。王と王妃も、キャスリン達をすっかり忘れたかのように上を向いてしきりに感心している。
「キャス!」
「スッ、スティーブなの?」
皆が上を見上げている間に、アシュイラ皇国の第二王子と呼ばれたものはキャスリンを呼んだ。彼しか呼ばないキャスリンの愛称でキャスリンを呼んだのだ。キャスリンがその顔をよく見れば、目の前にいるのはどうみてもスティーブに見える。
「本当?本当にスティーブなの?」
「ああ、ほんとだよ。僕だよ、スティーブだよ」
「ああ、スティーブ!!」
キャスリンは、スティーブに抱き着いていった。スティーブも抱き着いてきたキャスリンを力強く抱きしめる。キャスリンの目の前にいるのは確かにスティーブだ。温かい。どれくらいそうしていただろう。
気づけばどこからか何度も咳払いが聞こえてきた。キャスリンはその声で我に返る。スティーブも同じくここがどこか思い出したのだろう。二人は慌てて離れた。
ものすごい視線を感じてキャスリンがあたりを見渡すと、皆が一斉にこちらを凝視していた。キャスリンが真赤になると、咳ばらいをした張本人であるキャスリンの父スコットが、キャスリンとスティーブの前に歩いてきて目の前に立った。
「初めまして、わたくしはダイモック公爵家当主であるスコットと申します。ここにおりますキャスリンの父親になります」
恭しくスティーブにお辞儀をしながらも、目は笑っていない。どう見ても先ほどのキャスリンとスティーブの行いにいい顔をしていないのが見て取れた。
「ここにいる皆を代表してお聞きします。先ほどここで起きた出来事は、いったい何だったのでしょう」
キャスリンがあたりを見ると、皆もしきりにうなづいている。王と王妃も興味津々の顔をしてスティーブとスコットのやり取りを見守っていた。
「これは祝福です。天使の再来であるキャスリン様と、英雄であらせられたかの第一王子の再来であるスティーブ様に対して神からの祝福であったと思われます」
アシュイラ皇国から来た使者のひとりが、キャスリンの父スコットの問いに答えた。
「なるほど。それであの振ってきた金色のものに触れた時、すごく幸せな気持ちになったのか」
「そうね、幸せな気持ちが体の中からあふれてきたわ」
「やはりキャスリン様は本当に天使の再来だったのか!」
「すごいわ!」
「あの方は、アシュイラ皇国伝説の英雄の再来なの?」
アシュイラ皇国の使者の言葉に、先ほどと同じぐらい広間がどよめいたのだった。
2
お気に入りに追加
2,292
あなたにおすすめの小説
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
【完結】嫉妬深いと婚約破棄されましたが私に惚れ薬を飲ませたのはそもそも王子貴方ですよね?
砂礫レキ
恋愛
「お前のような嫉妬深い蛇のような女を妻にできるものか。婚約破棄だアイリスフィア!僕は聖女レノアと結婚する!」
「そんな!ジルク様、貴男に捨てられるぐらいなら死んだ方がましです!」
「ならば今すぐ死ね!お前など目障りだ!」
公爵令嬢アイリスフィアは泣き崩れ、そして聖女レノアは冷たい目で告げた。
「でもアイリ様を薬で洗脳したのはジルク王子貴男ですよね?」
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる