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目の前にいるのは..

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 やっと母ミシェルの許可が下り、キャスリンは王宮にとどまっているアシュイラ皇国の使者と会うことになった。
 王宮に向かう。王宮に向かう馬車の中から見る王都は、活気づいているように見える。行き交う人達の顔も明るい。キャスリンは知らず知らず顔が緩んでいた。
 そうしているうちに馬車は王宮の中に入っていく。記憶にある王宮と変わらない。キャスリンは待っていた近衛兵に手を引かれ馬車から降りた。そして案内され荘厳で華やかな廊下を通り、キャスリンは格別きらびやかなドアの前に立った。
 扉を警備している左右にいる近衛兵が、こちらを見てうなずいてからドアを開けてくれた。この時ばかりは、毎回緊張する。前世を入れれば何度か経験済みなのだが、扉を開けたとたん、皆が一斉にこちらを見るのがキャスリンには少し苦手だ。
 それでもにこやかに平静を装いながら広間に入っていった。

 「よく来た、キャスリン」

 「よく来てくれたわね」

 王と王妃自らキャスリンに声をかけてくれた。キャスリンはまっすぐに進み王と王妃に挨拶をした。その横では第一王子ジョージとその婚約者の侯爵家令嬢サーシャが、そしてその少し後ろをキャスリンの兄クロードと婚約者であるケリーが立っていた。王たちの反対の横には、キャスリンの父であるスコットと母のミシェルがいる。そしてその後ろには主だった貴族たちがいた。
 
 キャスリンが主だった人々にも会釈をしていると、先ほどキャスリンが入ってきた扉が再び開いた。

 開いた扉から、今の人生でも何度も見たことのあるアシュイラ皇国のきらびやかな衣装を身にまとった使者たちが入ってきた。その後ろにもうひとり広間に入ってくるものがいた。
 
 アシュイラ皇国の使者たちは、広間の真ん中に来たとたん左右に分かれ、後ろを歩いていたものが堂々と前を歩いてきた。キャスリンがあれっと思う暇もなく、王と王妃が一段高いところから降りてきた。そしてその者がいる元へと向かう。ほかの者たちは皆一斉に頭を下げた。
 
 キャスリンはそれをあっけにとられて見ていた。するといつの間に来たのかキャスリンの目に、見たことのある衣装が目に飛び込んできた。白い生地に黄色のアクセントがあるどう見ても見覚えのある衣装を着ている。王と王妃はそちらに向かい挨拶をした。キャスリンはその姿を見て、慌てて口に手を当てて声を出すのをこらえた。

 「キャスリン、こちらへ」

 王がキャスリンにそばに来るように促してきた。キャスリンはマナーも忘れ、口に手を当てたままそちらにふらふらと向かった。

 「キャスリンは初めてかな。こちらはアシュイラ皇国の第二王子である」 

 「初めまして、スティーブです。お会いできて光栄です」

 目の前のスティーブと名乗ったアシュイラ皇国の第二王子は、キャスリンに挨拶を求めてきた。キャスリンは無意識に手を差し出した。その手を大きな手がしっかりと握る。

 その時だ。キャスリン達の体からまばゆいばかりの光があふれ出た。その場にいる皆があっけにとられている間に、広間全体にあふれ出した光が徐々に消えていった。と同時に今度は広間の天井からきらきらと金色に光るものが降ってきた。

 「わあ~」

 「きれい!」

 その様子を見た者たちは、自分たちがいるのは王たちのいる大広間だということも忘れて、目の前で繰り広げられている不思議な光景に見とれた。王と王妃も、キャスリン達をすっかり忘れたかのように上を向いてしきりに感心している。

 「キャス!」

 「スッ、スティーブなの?」

 皆が上を見上げている間に、アシュイラ皇国の第二王子と呼ばれたものはキャスリンを呼んだ。彼しか呼ばないキャスリンの愛称でキャスリンを呼んだのだ。キャスリンがその顔をよく見れば、目の前にいるのはどうみてもスティーブに見える。

 「本当?本当にスティーブなの?」

 「ああ、ほんとだよ。僕だよ、スティーブだよ」

 「ああ、スティーブ!!」

 キャスリンは、スティーブに抱き着いていった。スティーブも抱き着いてきたキャスリンを力強く抱きしめる。キャスリンの目の前にいるのは確かにスティーブだ。温かい。どれくらいそうしていただろう。

 気づけばどこからか何度も咳払いが聞こえてきた。キャスリンはその声で我に返る。スティーブも同じくここがどこか思い出したのだろう。二人は慌てて離れた。
 ものすごい視線を感じてキャスリンがあたりを見渡すと、皆が一斉にこちらを凝視していた。キャスリンが真赤になると、咳ばらいをした張本人であるキャスリンの父スコットが、キャスリンとスティーブの前に歩いてきて目の前に立った。

 「初めまして、わたくしはダイモック公爵家当主であるスコットと申します。ここにおりますキャスリンの父親になります」

 恭しくスティーブにお辞儀をしながらも、目は笑っていない。どう見ても先ほどのキャスリンとスティーブの行いにいい顔をしていないのが見て取れた。

 「ここにいる皆を代表してお聞きします。先ほどここで起きた出来事は、いったい何だったのでしょう」

 キャスリンがあたりを見ると、皆もしきりにうなづいている。王と王妃も興味津々の顔をしてスティーブとスコットのやり取りを見守っていた。

 「これは祝福です。天使の再来であるキャスリン様と、英雄であらせられたかの第一王子の再来であるスティーブ様に対して神からの祝福であったと思われます」

 アシュイラ皇国から来た使者のひとりが、キャスリンの父スコットの問いに答えた。

 「なるほど。それであの振ってきた金色のものに触れた時、すごく幸せな気持ちになったのか」

 「そうね、幸せな気持ちが体の中からあふれてきたわ」

 「やはりキャスリン様は本当に天使の再来だったのか!」

 「すごいわ!」

 「あの方は、アシュイラ皇国伝説の英雄の再来なの?」
 
 アシュイラ皇国の使者の言葉に、先ほどと同じぐらい広間がどよめいたのだった。



 
 
 
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