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スティーブとダンスを...
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キャスリンは再び牢屋に行ってみた。あの未来のペジタ国で王になるはずだった男は、白目をむいてしばらく痙攣していたそうだがいつの間にか息を引き取っていたらしい。ほかの牢に入れられていた薬を売っていた者たちも皆、自分が誰だかわからなくなっているらしい。まるで心が壊れてしまっているように見える。きっとスティーブが何かしたのだろう。
取り調べた者たちは、薬で体を壊したり死んでしまった者たちを見ていたので、牢の中の者たちに誰一人微塵も同情を覚えるものはいなかった。
キャスリンは牢の中の者たちの行く末を見て、やっと終わったことを実感したのだった。
キャスリンは、王宮の中のダンスホールにやってきた。今はアシュイラ国の国花であるアシュイラの花をあしらった繊細なレースをふんだんに使った黄色のあでやかなドレスを着ている。腕にはめている腕輪の石と同じ色で、腕輪とドレスがよく合っている。それもそのはず、このドレスは、現王妃が王の婚約者になって初めてのお披露目で着たドレスなのだ。 キャスリンは王と王妃から感謝をされて、何か褒美をと言われたときにあるお願いをした。そして今日、王妃自ら用意をしてくれて今に至る。
扉が開いた。スティーブが入ってきた。スティーブも今日はおめかしをしている。よく見ると、キャスリンのドレスに対になるように作られた衣装だった。全体は白だがところどころ黄色のアクセントが入っており、スティーブがはめている腕輪にぴったりでまさしく王子らしい豪華な衣装だった。
「素敵よ」
キャスリンが感想を言うと、当のスティーブは少しはにかみながらも嬉しそうに返してくれた。
「キャスもとってもきれいだ」
「ありがとう。このドレス王妃様からお借りしたの。まるであつらえたみたいにぴったりだったわ。よかった!」
「実はこの衣装も父上からお借りしたものなんだ。今日突然仕事をしていたら、呼ばれてびっくりしたよ」
「そうなの。私がお願いしたの。スティーブと踊ってみたくて。今まで一度も踊ったことがなかったから」
「そうだな。キャスと踊ったことなかったよな。キャスがほかの人と踊っているのを見て、僕も一度でいいから一緒に踊ってみたいと思ってた」
スティーブは、キャスリンの護衛であり主従関係であるため、パーティでは一緒に踊ることはできなかった。しかし今は違う。キャスリンにはそれがすごくうれしかった。
「では踊っていただけますか」
キャスリンの前にスティーブが手を差し伸べた。キャスリンはスティーブの上に手をのせる。
スティーブに部屋の真ん中にいざなわれた。不意にどこからともなく音楽が流れてきた。自然にキャスリンの顔に笑みが広がる。
スティーブがキャスリンの背中に手をまわして二人は踊り始めた。華やかな音楽が部屋中に広がっている。まるでそこかしこからざわめきが聞こえてくるようだ。二人は何曲も踊った。全然疲れを感じない。スティーブが、キャスリンをうまくエスコートしてくれているからかもしれない。
永遠にこの時が続けばいいとキャスリンは思った。
どれくらい踊っただろう。少しのどが渇いてきたキャスリンをスティーブはすぐに察して、ホールからつながる庭へとキャスリンを連れ出した。ホールに来た時にはまだ日が高く昇っていたのだが、あたりはいつの間にか夕暮れになっていた。オレンジと紫色が混ざったようなきれいな夕暮れ空をしていた。庭にはいつの間にか椅子とテーブルが並べられており、テーブルの上にはおいしそうな料理や飲み物が用意されていた。
「さあ、どうぞ」
スティーブに椅子を引かれキャスリンは座った。スティーブも向かい合わせになって座る。スティーブがボトルから飲み物をグラスに注いでくれた。ふたりで気兼ねなくゆっくりとの配慮か、魔法でも使っているのかどの料理も温かかったが、給仕に来るものは誰もいなかった。
キャスリンは、そのおいしい料理をスティーブとふたり心ゆくまでゆっくりと楽しむことにした。
「ねえスティーブ、このお料理肉がとろけそうにやわらかいのね」
「そうだね。このワインも料理によくあってるね」
料理の感想を言いあったりと、キャスリンはスティーブと他愛ない話をした。料理をすべて終えるころにはテーブルの上の明かり以外、あたり一面きらきらと星が瞬く夜空が広がっていた。
ふたりは食事を終えて、庭を散歩した。庭が続く道にはぼんやりと明かりが瞬いており、離れたところには噴水があり青く光っていて噴水から落ちていく水がきらきらと輝いて見えた。
「きれいね。私、今日の日を絶対に忘れないわ」
「僕も、絶対に忘れない」
キャスリンはいつまでもこうしていたいと思った。いつの間にか涙があふれていたらしい。スティーブがその涙を指で拭ってくれた。そして気づけばキャスリンは、スティーブの腕に抱かれていた。
しばらく2人はお互いのぬくもりを感じていたが、キャスリンから体を離した。そしてまたふたりホールへと歩いていく。
スティーブは、キャスリンがアシュイラ皇国に来てから使っている王宮内の部屋の前まで送ってくれた。
「お休み」
「スティーブも。いい夢を見てね」
キャスリンは部屋に入っていった。部屋の扉が閉まる。スティーブはしばらくその扉の前でたたずんでいた。離れがたいとでもいう様に。
キャスリンはドアにもたれて、スティーブの去っていくかすかな足音を聞いていた。足音がどんどん遠ざかっていく。
「さようなら、スティーブ。元気でね」
そうつぶやいたキャスリンの顔は、ある決意に満ちていたのだった。
取り調べた者たちは、薬で体を壊したり死んでしまった者たちを見ていたので、牢の中の者たちに誰一人微塵も同情を覚えるものはいなかった。
キャスリンは牢の中の者たちの行く末を見て、やっと終わったことを実感したのだった。
キャスリンは、王宮の中のダンスホールにやってきた。今はアシュイラ国の国花であるアシュイラの花をあしらった繊細なレースをふんだんに使った黄色のあでやかなドレスを着ている。腕にはめている腕輪の石と同じ色で、腕輪とドレスがよく合っている。それもそのはず、このドレスは、現王妃が王の婚約者になって初めてのお披露目で着たドレスなのだ。 キャスリンは王と王妃から感謝をされて、何か褒美をと言われたときにあるお願いをした。そして今日、王妃自ら用意をしてくれて今に至る。
扉が開いた。スティーブが入ってきた。スティーブも今日はおめかしをしている。よく見ると、キャスリンのドレスに対になるように作られた衣装だった。全体は白だがところどころ黄色のアクセントが入っており、スティーブがはめている腕輪にぴったりでまさしく王子らしい豪華な衣装だった。
「素敵よ」
キャスリンが感想を言うと、当のスティーブは少しはにかみながらも嬉しそうに返してくれた。
「キャスもとってもきれいだ」
「ありがとう。このドレス王妃様からお借りしたの。まるであつらえたみたいにぴったりだったわ。よかった!」
「実はこの衣装も父上からお借りしたものなんだ。今日突然仕事をしていたら、呼ばれてびっくりしたよ」
「そうなの。私がお願いしたの。スティーブと踊ってみたくて。今まで一度も踊ったことがなかったから」
「そうだな。キャスと踊ったことなかったよな。キャスがほかの人と踊っているのを見て、僕も一度でいいから一緒に踊ってみたいと思ってた」
スティーブは、キャスリンの護衛であり主従関係であるため、パーティでは一緒に踊ることはできなかった。しかし今は違う。キャスリンにはそれがすごくうれしかった。
「では踊っていただけますか」
キャスリンの前にスティーブが手を差し伸べた。キャスリンはスティーブの上に手をのせる。
スティーブに部屋の真ん中にいざなわれた。不意にどこからともなく音楽が流れてきた。自然にキャスリンの顔に笑みが広がる。
スティーブがキャスリンの背中に手をまわして二人は踊り始めた。華やかな音楽が部屋中に広がっている。まるでそこかしこからざわめきが聞こえてくるようだ。二人は何曲も踊った。全然疲れを感じない。スティーブが、キャスリンをうまくエスコートしてくれているからかもしれない。
永遠にこの時が続けばいいとキャスリンは思った。
どれくらい踊っただろう。少しのどが渇いてきたキャスリンをスティーブはすぐに察して、ホールからつながる庭へとキャスリンを連れ出した。ホールに来た時にはまだ日が高く昇っていたのだが、あたりはいつの間にか夕暮れになっていた。オレンジと紫色が混ざったようなきれいな夕暮れ空をしていた。庭にはいつの間にか椅子とテーブルが並べられており、テーブルの上にはおいしそうな料理や飲み物が用意されていた。
「さあ、どうぞ」
スティーブに椅子を引かれキャスリンは座った。スティーブも向かい合わせになって座る。スティーブがボトルから飲み物をグラスに注いでくれた。ふたりで気兼ねなくゆっくりとの配慮か、魔法でも使っているのかどの料理も温かかったが、給仕に来るものは誰もいなかった。
キャスリンは、そのおいしい料理をスティーブとふたり心ゆくまでゆっくりと楽しむことにした。
「ねえスティーブ、このお料理肉がとろけそうにやわらかいのね」
「そうだね。このワインも料理によくあってるね」
料理の感想を言いあったりと、キャスリンはスティーブと他愛ない話をした。料理をすべて終えるころにはテーブルの上の明かり以外、あたり一面きらきらと星が瞬く夜空が広がっていた。
ふたりは食事を終えて、庭を散歩した。庭が続く道にはぼんやりと明かりが瞬いており、離れたところには噴水があり青く光っていて噴水から落ちていく水がきらきらと輝いて見えた。
「きれいね。私、今日の日を絶対に忘れないわ」
「僕も、絶対に忘れない」
キャスリンはいつまでもこうしていたいと思った。いつの間にか涙があふれていたらしい。スティーブがその涙を指で拭ってくれた。そして気づけばキャスリンは、スティーブの腕に抱かれていた。
しばらく2人はお互いのぬくもりを感じていたが、キャスリンから体を離した。そしてまたふたりホールへと歩いていく。
スティーブは、キャスリンがアシュイラ皇国に来てから使っている王宮内の部屋の前まで送ってくれた。
「お休み」
「スティーブも。いい夢を見てね」
キャスリンは部屋に入っていった。部屋の扉が閉まる。スティーブはしばらくその扉の前でたたずんでいた。離れがたいとでもいう様に。
キャスリンはドアにもたれて、スティーブの去っていくかすかな足音を聞いていた。足音がどんどん遠ざかっていく。
「さようなら、スティーブ。元気でね」
そうつぶやいたキャスリンの顔は、ある決意に満ちていたのだった。
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