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キーラ妃と第二王子メルビスの行方

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 キーラ妃は部屋にいた。すごくいやな予感がする。それはこの前ハビセル侯爵家に仕えている執事の手紙を侍女が持ってきたときから続いている。

 「側妃様、お手紙が届いております」

 いつものようにハビセル侯爵から届く荷物の中に、そっと忍ばせている手紙を受け取ったキーラは、その手紙を読んでびっくりした。

 「以前お父様が贈った手紙?何の事?」

 急いで侍女に、ハビセル侯爵家の執事のもとへと手紙を送らせた。そうしてその返事を今か今かと待っているうちに、何やら変な噂までキーラのもとに届くようになった。
 ハビセル侯爵家は違法な賭博場を開いているらしい。その証拠が見つかったらしいというものだった。はじめこそキーラ妃は一笑に付したが、今までキーラに媚びを売っていた者たちが、さっーと水が引くように周りからいなくなっていった。王宮でも今までキーラについていた侍女が一人また一人とやめていった。
 そこへ第二王子のメルビスが、何やら怒って部屋に入ってきた。

 「お母様、私は第二王子ではなくなるのですか。今まで私についていた者たちが急にやめていったんです。そして残っている者たちも皆私に言うんです。もうハビセル侯爵家はおしまいだと。だけど自分たちはハビセル侯爵家寄りの貴族だから、どこへも行くところがない。どうしてくれるんだって。本当ですか?」

 心配そうに言うメルビスに、キーラは大丈夫よ!というしかなかった。キーラには一人息子であり、第二王子という立場でもあるわが子をかわいがって育てた。少しわがままになったきらいはあるが、由緒あるハビセル侯爵家が後ろ盾としてついている。何も心配ないと思っていた。
 第二王子を生んでおり、側妃でありながらも後ろ盾がしっかりしているキーラにすり寄るものは多かった。たとえ王の寵愛がなくとも。王は王妃を愛している。ハビセル侯爵家が子飼いの貴族たちと圧力をかけ、半ば強引に側妃になった。そのため王は、第二王子メルビスをあまりかわいがっていない。それより王妃の産んだ第一王子を溺愛している。巷では第一王子は賢く王の素質充分だといわれているが、メルビスだってそれに勝るとも劣らないと思っている。ただ少し癇癪が過ぎて、ほんのちょっとだけわがままがある程度だ。第一王子より歳も一つ幼いし仕方がない。
 そういえば、この前ダイモック公爵にお会いしたわね。それを思い出したキーラは知らず知らず顔が緩んでいた。今まだあの時のスコット様そのものだったわ。本当なら私が公爵夫人だったのに。あんな噂さえ流れなければ。きっとあれはスコットの妻であるミシェルの差し金に違いない。あんな虫も殺さない顔をしておきながら、あんなにひどいことをして。許せないわ。そういえばあの時、スコット様の後ろにミシェルが産んだ娘がいたわね。本当にそっくりだったわ、あの顔。キーラは思い出すと、先ほどまでの笑顔が一転険しい表情になったのを自分では気づかなかった。

 なんとなく自分だけでなく、最近王宮もざわついているのを感じていたキーラだったが、気持ちを落ち着けようと侍女にお茶を運ばせて飲もうとした時だった。
 
 いきなり部屋のドアが開いた。キーラがびっくりする暇もなく、入ってきたのは王自身だった。
 キーラが久しぶりに見る王に笑顔を作った時だった。後ろにも何人か人がいるのがわかった。ダイモック公爵スコットまでいた。キーラが声を出そうとした時だ。
  
 「キーラ側妃様。あなたの父親ハビセル侯爵が捕まった。罪状は違法な賭博場運営と違法な金利での貸し付け、それと隣国ペジタ国への情報漏えい罪だ」

 王の側近の一人が、キーラに向かって一通の紙を見せる。それには国璽と王の署名がなされていた。

 「そんなことを父がやるはずがございません。何者かの陰謀です」

 キーラは必死に王に縋るように言ったが、王のまなざしは冷めたままだった。
 キーラはその場に崩れ落ちた。キーラも心のどこかではわかっていた。あの父ならやりかねないと。父は昔から言っていた。我がハビセル侯爵家こそ上に立つものにふさわしいと。王都の屋敷も王宮にあこがれていた父が、装飾や家具など似せていることもキーラは知っていた。それでもそこまでひどいことはしないだろうと思っていたのだが。やはりやってしまっていたのか。

 「キーラ様、あなたは側妃の身分でありハビセル侯爵家とは一応離れております。ゆえに離宮で心静かに過ごしていただきたいと王も願っております」

 ダイモック公爵が崩れ落ちたキーラ妃のもとに行き、自分もキーラ妃と視線が合う様に片膝をついていった。

 「メルビス、メルビスはどうなるのです!」

 その言葉は第二王子としてではなく、母としての息子を思う悲痛な叫びだった。

 「メルビス様は王位継承権がなくなりますが、子爵位として王の直轄地の一部を治めていただきます。それもこれも王のご配慮です」

 「ありがとうございます」

 キーラはほっとした。父親のしたことを思えば、よくて平民に悪ければキーラも息子メルビスもハビセル侯爵とともに断罪されて当たり前だったのだ。
 
 「ただしハビセル侯爵家はなくなります。メルビス様、キーラ妃様にも重い刑をと望む者たちもおりますが、王はキーラ妃様たちは守りたいとおっしゃっております。メルビス様はわたくしダイモック公爵家がお守りして、領地運営もお手伝いさせていただきます。どうぞご安心ください」

 「キーラ、そなたにも悪いことをした」

 王が言葉少なに言った。その言葉にキーラは涙がとめどなくあふれ出した。王は、自分や第二王子メルビスに心を寄せていなかったことをキーラにわびたのだ。ただダイモック公爵家が後ろ盾になってくれれば、メルビスも安心だろう。それもこれも王の配慮なのかもしれない。ダイモック公爵当主スコットは王の一番の側近なのだから。

 「本当にありがとうございます」

 キーラは、王やダイモック公爵スコット達に深々とお辞儀をしたのだった。

 
 
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