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キャスリンの作戦

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 キャスリンは魔法部屋でほしい魔法を手に入れた。
 
 -これならハビセル侯爵を追い詰めることができるかもしれない。今のままではまたあのキーラ妃が何をしてくるかわからない。あの手紙が届いていないことがばれたら、きっとハビセル侯爵はもっと身辺を警戒するだろう。そう考えてキャスリンはいいことを思い付いた。
 
 キャスリンはその日の疲れをしっかり取って、次の日から隣の国であるペジタ国の事を調べることにした。ダイモック公爵邸に所蔵されている本は、小さい図書館ぐらいの量になる。キャスリンはさっそく本が所蔵されている部屋に向かった。バーバラには、図書室で勉強するといっておいた。
 
 近隣の国の事が書かれている本を一冊手に取る。やはり気候や特産品などごく普通の事しか書かれていなかった。ただ建国の事を書かれているところで、キャスリンの目を引いたものがあった。
 -うん?ペジタ国が建国されたのは、ちょうどアシュイラ皇国が滅亡したころまでさかのぼるのね。何か関係あるのかしら?
 キャスリンはほかの本をいろいろ探してみたが、その辺の事は何も書かれていなかった。ただペジタ国で多くの国民が読まれているであろう建国秘話の本があった。
 ドンガという男がペジタ国を作ったらしい。その男は周りの部族を次々に支配していったようで、勇猛果敢な王として描かれていた。しかしその男がどういう生まれでどういう仕事をしていたのかは全く書かれていなかった。
 ーなんだか怪しいわね。それにあの謎の商会に本当に魔道具があったとしたら、どうやって手に入れたのかしら。
 キャスリンがひとり物思いにふけっていると、部屋のドアを誰かがたたく音がした。キャスリンがドアを開けると、執事のマークが立っていた。

 「お嬢様ちょっとよろしいですか?」

 「ええ、入って」

 キャスリンはマークを部屋に入れた。マークは部屋に入るとすぐに話し出した。

 「この前言われた王都のはずれにある商会を調べました」

 「どうだった?」

 キャスリンが前のめりになって聞いてきたのを見て、マークは苦笑を浮かべた。

 「実はその商会なんですが、もう誰もおりませんでした。ほかの商会を通じて調べたんですが、ほかの商会ともあまり付き合いはなかったようで、唯一関係があったのがハビセル侯爵家だったようです。ハビセル侯爵家の紹介で商売は成り立っていたようでした。しかしキャスリン様がいったと思われる日を境に、ぱったりと人の出入りがなくなったようです」

 「じゃあ、あの屋敷にはもう誰もいないのね」

 「ええ、もともとあの屋敷は借りていたものの様で、その貸していたものに屋敷を調べる許可を取って家の中を調べたんですが、屋敷の中はもぬけの殻でした。もともとあの屋敷には商会の商品はおいてなかったようです。あの屋敷の周りに住んでいるものに話を聞いたところ、どうやら人の出入りしかなかったようで、はじめあの屋敷が商会だというのも知らないものも多かったようです。商会だと知ってからも、皆ちょっと不審に思っていたようなんですよね」

 「何か不審に思う事でもあったの?」

 「ええ。あの屋敷に出入りしていた者たちは、商人というにはなんとなく違和感があったというんです」

 「そうなの?私が見た男も商人というにはちょっと違っていたのよね。かといって貴族という感じでもなかったの。それより目つきももっと鋭かったし。なんといっていいのかしら、騎士のほうがぴったりくるって感じ?かしら」

 「なるほど。聞き込みで聞いた話でも出ていたようです。まるで傭兵かなにかのような感じだって」

 「そうね、確かに。着るものは庶民の恰好なんだけど、しぐさが違っていたのよね。ありがとう。またわかったら教えてね。ねえマーク、私考えていることがあるの。お手伝いしてくれない?」

 キャスリンはなるべくかわいく言ったつもりだったのに、マークはその言葉を聞いてなぜか後ずさっていた。

 「マーク、どうして私から離れていくの?」

 「すみません。本能でしょうか?知らず知らず後ろにいっていました」

 「いやねえ、マークったら」

 そういったキャスリンにマークは、また後ずさりそうになるのを必死にこらえているようだった。

 「まあいいわ。それより協力してもらいたいのよ。まずハビセル侯爵に伝わるように噂を流してほしいの。賭博場の重大な証拠が見つかりそうだっていう噂を」

 「なるほど」

 マークは、キャスリンが考えがわかったようでニヤッと笑った。その笑いを見たキャスリンは思ったのだった。充分マークも怖いわと。

 「かしこまりました。直ぐに噂を流すよう手配します。これは旦那様がお得意な分野ですからね」

 「そうね、頼んだわ」

 マークが部屋を後にしようとしたので、キャスリンは聞いてみることにした。

 「ねえ、マーク。アシュイラ皇国が滅ぼされたのは、どこかの国が攻めてきたから?」

 「いえ、敵はもうアシュイラ皇国に潜入していました。商人や庶民の恰好をして。内と外から攻撃されたのです。敵はどこかの国のものではなく、小さい集団だったのでしょう」

 「そんなに簡単にやられてしまうものなの?」

 「はい。アシュイラ皇国は魔法もあり、長い間平和でした。今思えば平和過ぎて敵が攻めてくるなんてことを考えることもなかったのです。武器もなく、皇国の民自身も平和ボケしていましたので。もう少し危機感があればよかったと今は後悔しかありません」

 そういって部屋を出ていったマークの顔は悲しみに満ちていた。 
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